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1幕 地獄 - (2007/06/02 (土) 18:52:51) の編集履歴(バックアップ)


 私は、今日も涙を流す。
 己の穢れを取り除くかのように。
 私は、今日も寝る前に祈る。
 このまま起きることが無いようにと。
 私がこんなに悩んでいるのに、今日は当たり前のように過ぎて行き、明日が当たり前のようにやってくる。
『明日って何のために来るの?』
 そう幼心に母に聞いてみたことがある。すると母は
『明日は、皆に希望を持ってくるのよ。今日できなかったこと、後悔した事やくやしいことにリベンジするため、そして幸せや嬉しさを与えてくれるの。瑞希もそういう子に育ってくれると母さん嬉しいわ。といってももう瑞希は太陽みたいに元気いっぱいだけどね。母さんは瑞希のことがだーいすきよ。母さんに元気をくれるもの。』
『じゃあ瑞希、ずっとおかーさんのそばにいて、ずっとおかーさんを元気イッパイにしてあげる!』
 そう私がいうと、母さんは微笑んで私のほっぺたを大きな暖かい手で包みこんでさとすように言った。
「お母さんはもう十分に瑞希に元気をもらってるわ。だから今度は、その元気をお友達や他の人に幸せを分けてあげてね。瑞希が笑っていてくれれば、母さんそれだけで幸せなのよ。」
「分かった!瑞希、みんな幸せいーっぱいにしてあげる!」
 そう誓ったのは12年前。私はお母さんの笑顔が大好きだった。お母さんの笑顔は名前の通り、木陰に咲くスミレみたいだから。
 私には父がいない。だからお母さんと私はいつも一緒だった。一度、父の事を母に訪ねたことがあるが、母は寂しそうな顔をして黙り込んでしまったから、それ以来、父のことは一度も聞いたことがない。お母さんの悲しむ顔を見たくなかった。 いつもいつも、傍で笑っていてほしかった。
そんな、幸せの時間は、空想だったかのように失われた。