*第二話 「混濁の中で」 薄暗い部屋のなかで、少女はうっすらと目を覚ました。 「ここは・・・どこ?」 ぼんやりした脳で必死に思考回路をめぐらせた結果、どうやらここは病室だと分かった。 しかしなぜここにいるのかは、まだ分からなかった。 今日は何日なのだろう・・・ そう少女は思い、がばっと起き上がると病室においてある棚の上にあった卓上カレンダーを見た。 「今日は4月5日か・・・」 そう。あの悪夢から1日経っていたのだ。 「昨日はなにをしたっけ・・・」少女の頭の中がはっきりし始めると、昨日のことがだんだん映像化し始めた。 (たしか私は、血にまみれた部屋の上に立っていて・・・そして・・・) 少女はついに一番受け入れがたい真実を思い出してしまった。 あの血の海の中にいたのは大好きな父と母だということを・・・どんどんあの家で感じたあの恐怖が脳裏によみがえってくる。 それを思い出した瞬間、少女は突然孤独に襲われた。 そしていっきに絶望の淵へたたき落とされた。 「ああぁぁ・・・」 少女は絶望の中で声にならないうめき声をあげた。 そしてもうこれが夢ではなく現実だということを悟ると、堰を切った様に大声で 「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」 と絶望の叫び声をあげた。 ---- その声を聞いて、慌てて担当の医師が少女の元へ飛んで来た。 そして、「どこか痛いところは無いか?」 ときいてきた。しかし少女は聞かれても何も反応しない。 試しに医師がその華奢な体を揺さぶってみても、虚ろな目でこちらを見つめ返してくるだけだ。 その瞬間、医師は背中にぞわっと寒気が走った。 慌てて少女の肩をつかんでいた手を離す。 その手も至るところに鳥肌が立っていた。 その理由が医師には分かった。 少女の目の奥を見ようとした瞬間、その目の奥の真っ暗な闇の中に吸い込まれてしまうような気がしたからだ。 医師はこの子は自分の手に負えない、と悟り、慌てて別の医師を探しに行った。もしかしたら同姓ならその冷えきった心を開いてくれるかもしれない。そういうかすかな希望を抱いて急いで病院の廊下を走り抜けていった。その背後で少女はまたぱたんとベットに倒れた。