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**瀬戸口まつり@宰相府藩国様からのご依頼品
彼女は、スケッチブックを開く。
その表紙には『えにっき』の文字。
左のページは先日の絵。
右のページはその日の日記。
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きょうは、なかにわのえをかいていました。
えのばしょへみんなででかけることになりました。
みんないっしょは、うれしいの。
おててつないでなかよしさん。
おきにいりのぼうしをかぶっておでかけ。
こんどはあきのそのにもいくんだって。
おべんとういっぱいたべたいな。
あと、ねこさんをかってもいいっておはなしになりました。
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彼女は、日記を見て手を止めた。
猫さんを飼ってもいいってお話。
でも、今はそんな状況じゃない。
彼女には聞こえてしまう。
一瞬のためらい、苛つき。
その後やってくる反省、後悔。
だれもわるくないの。
みんななかよくしたいだけなの。
でも、すぐに過ぎ去ってしまう負の感情を、彼女は理解してしまう。
感じ取ったときの、2人の顔、浮かぶ拒否。
気づかなかったふりをするには、彼女は幼すぎた。
おこらないで。
かなしまないで。
2人に伝えようとしては、相手の表情を見て押し黙る。
そんな日々。
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きょうからおじいちゃんのおてつだいです。
いっしょにおはなをそだてるの。
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いたたまれなくなって
『おえかきしてくる』との言葉を残しては、ここへ通う毎日。
「どうしたものかね」
おじいちゃんは、お庭の手入れをしながら彼女の話を聞いてくれる。
「なかよくしたいの、なかよくしてほしいの」
でも、彼女だけではどうにもならない。
「そうだな、まずはこちらを手伝ってくれるかい?」
しばらく前に、新しく植えた苗たち。
宰相府の中庭は、区画毎にいろいろな花が植えられていて。
彼女の心を少し癒してくれる。
「これは、どんなおはなですか?」
おじいちゃんは微笑むと
「きっと、役に立ってくれるお花だよ。
そうだ、一日手伝うと一輪、花が咲いたときにあげることにしよう。
毎日手伝ってくれたら、咲く頃には両手いっぱいの花束になるよ」
たくさんのお花。
家中に飾ったら、2人も綺麗だと言ってくれるだろうか。
そう、このお庭を散歩したときみたいに。
彼女は大きく何度もこくこくと頷いた。
何かが変わることを願いながら。
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きょうは、ねこさんがうちにやってきました。
ふたりとも、ねこさんをうちにいてもいいといってくれました。
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おじいちゃんのお手伝いを始めてから数日。
蕾が増えてきたね、との言葉に歌いながらの帰り道。
「ねこさん?」
日陰で気持ちよさげに寝転がっているのは、見たこともないようなおっきなねこさん。
宰相府には猫や猫士があちこちにいて、彼女は見慣れていたけれど。
その誰でもない、初めて見かけた猫。
「ねこさん、あつくないですか?」
猫は片目を開け、彼女を見る。
首を横に振ったようにみえた。
「そうなんだ」
彼女は猫の横にしゃがみこんだ。
「なでてもいいですか」
そう言いながら、猫にふわりと触れてみる。
あたたかでやわらかな手触り。
「うふふ、きもちいいのよ」
猫は仕方ない、と言った風にちらりと彼女を見て、再び目を閉じる。
なでなで、なでなで。
繰り返す内に彼女は思い出した。
猫を飼ってもいいというお話。
「ねこさんねこさん、うちにきてくれますか?」
猫は、にゃあと一声鳴くと、彼女にすりよった。
「まあよかろう、ですか」
彼女はにっこり微笑むと、猫を抱き上げ…ようとして、よろめいた。
「おぬしにはむりだろう?」
猫は頷くと、彼女の家を知っているかのように歩き出す。
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帰宅して、猫はまず彼女といっしょにお風呂に入れられた。
見かけたときと毛の色がずいぶんと違っていて。
彼女の家族がそろって「げげぇ」と叫んだのに、久しぶりに心の底から笑ってしまった。
「ねこさん」
彼女がやさしく呼ぶと、猫は寄ってきた。
「あしたはおじいちゃんにあいさつにいこうね」
猫は頷くと、彼女を守るようにすぐそばで丸くなった。
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少しずつ、少しずつ、みんなで歩み寄って。
お互いを許し合って。
そうして、みんな仲良くしていくんだよ。
おじいちゃん?
ねこさん?
それとも……ううん、きっとみんなのねがい。
だから、みんなでげんきにならなくちゃ。
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毎日のお手伝いで、その一画は綺麗な花が咲き誇ることとなった。
「よく咲かせることができたね。今日はこれをおうちに持ってかえりなさい」
彼女は、おじいちゃんが渡してくれた花束を抱える。
「これは、君が育ててくれたものだからね」
えっちらおっちらと歩いていると、いつものように猫が現れる。
「えへへ、きれいでしょう?」
猫は軽く頷き、すぐ前を歩きはじめた。
「よろこんでくれるといいな」
猫は振り返り、彼女を見つめる。
優しげな眼差しに微笑み返すと、歌いながら家路につく。
今日はたくさん、いいことがある予感。
おじいちゃんのお手伝いで育てたのは、真っ赤なカーネーション。
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ご発注元:瀬戸口まつり@宰相府藩国様
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=2526&type=2516&space=15&no=
製作:日向美弥@紅葉国
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=2427;id=UP_ita
引渡し日:2010/05/10
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