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78風野緋璃SS」の最新版変更点

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 **№78 風野緋璃様からのご依頼品
 
 ■木陰のペンギン
 ・作: 3100590 伏見@伏見藩国
 
 
 
 
 その鳥類、固茹でにつき――
 
 
 
 /*/
 
 陽光きらめく深い青。
 どこまでも続く海を眺め、煙草を火もつけず咥える一匹の雄。
 椅子に浅く座り、決して体重を預けぬようにして、その鳥類はそこに佇んでいた。
 
 「こんにちは」
 
 遠くより、女来る。
 灰色の長い髪。西国人の特徴。エキゾチックな魅力。
 柔らかい。そんな風情のする女だった。
 
 「ハードボイルドペンギンさんですよね」
 
 目深に帽子を被りなおし、無言。
 興味がないのか、あるいは答えるまでもないのか。
 彼のような雄は、二匹といない。
 
 「隣、いいでしょうか?」 
 
 美女の誘い。並の男なら、くらりと来る言葉。
 口から出る言葉は、イエス。
 
 「俺の先が開いたところだ。座ってくれ」  
 
 くちばしから放つと同時に、立ち上がる鳥類。
 足取りは早くもなく、遅くもなく。
 距離を置くように、遠くへ、遠くへと去る。
 
 
 「迷宮にいくんですか?」
 
 
 その背に投げかけられる問い。
 鋭い、刃のような質問。
 シンプルにして、単刀直入。
 
 「いいや。それとお嬢さん。貴方の国がどうかはしらないが、この国では先回りして話さないことだ」  
 
 鳥類の釘刺し。
 あくまでも紳士然とした態度、声、姿勢。
 
- 「嫁の貰い手がなくなる」  
+「嫁の貰い手がなくなる」  
 
 渋い男の声でささやかれた忠告。
 ジョークのつもりか。
 だが、その一言が予想外の効果を発揮する。
 ぎくりとした表情。
 ついでうろたえ、沈んだ声で「すみません」と女が言う。
 あるい、拗ねていたのかもしれない。
 
 顔を上げれば、ハードボイルドは木陰で煙を揺らしていた。
 ただ、煙草が吸いたかった。
 無言のうちに発散される雄の願望。女を意に介さず。
 
 小走りに女が駆け寄った。
 
 「すみません、FEGの風野緋璃といいます」
 
 緋璃と名乗った女が、小さく頭を下げた。
 長い髪が揺れた。
 
 「今日は、ここ数ヶ月間お世話になったお礼がいいたかったんです」  
 
 煙草を揉み消すハードボイルド。
 当然のしぐさ。それがあたりまえというように。
 マナーの良さというよりは、男の美学。
 
 「礼は要らない」  
 
 短い言葉。これで十分だとでもいうかのように。
 その雄は長い言葉を語らなかった。
 
 「あ、お気遣いなく。私は煙草だいじょうぶです」  
 
 ペンギン、無言。
 かわりに発散されるダンディズム。
 己のルールに従っただけだと、そう気配で語る。
 
 「誰かと話すのが苦手なようだな」  
 
 帽子を被りなおし、瞑目。
 眠りの世界へと旅立とうとする。
 
 「あはは、よく言われます。つきあわせちゃってすみません」  
 
 女の照れ笑い。
 困ったような笑みは、美しいというよりは、どこか愛らしい。
 
- 「ずっと一緒に戦っていただいた人の事をよく知らないのも変な話ですし、是空さんのお師匠さんってどんな方なのか気になっていたので、一度お話したかったんですけど」 
+「ずっと一緒に戦っていただいた人の事をよく知らないのも変な話ですし、是空さんのお師匠さんってどんな方なのか気になっていたので、一度お話したかったんですけど」 
 小さく苦笑。
  
 「なんて話していいのかよくわからないのが正直なところです」  
 
 うっすらと眼を開くハードボイルド。
 鋭く言い放つ。
 
- 「それは嘘だな」  
+「それは嘘だな」  
 
 少し驚いたように緋璃は問い返す。
 
- 「嘘、ですか?」  
- 「他人を気にする奴は早いタイミングで挨拶に来る。お前は他人を気にしていない」  
+「嘘、ですか?」  
+「他人を気にする奴は早いタイミングで挨拶に来る。お前は他人を気にしていない」  
 
 帽子で顔を隠したままのペンギン。
 聞きようによっては、心をえぐる様な言葉を放つ。
 このペンギンは、やさしくは、ない。
 
 「他の人のように強い想いはもってないとおもいます。でも私は私なりに、気にはしますよ」  
 
 女の説明、弁明。
 断定されたことへの不満と、そうではないという真摯さ。
 
 「全く気にしないで生きていけるほど、強くはないですから」  
 
 しかし、鳥にとってはただの言い訳。
 無言の応答。それとも聞いていないのか。
   
 「――そうですね。お礼というのはこじ付けかもしれません。でも、あなたと話してみたかったのは本当だと思います」  
 
 こぼれ出る本音。
 それに対して、ようやく反応する。
 固茹では、煮えるまでに時間が掛かる。
 
 「強いて言えば、そういう動機、というところだろうな。お前と話をしていると、一人の作家を思い出す」  
 
 遠い眼。
 一人の弟子を思い出す。だが、思い出すだけだった。
 
 「どんな方ですか?」  
 「どこかで読んだような意見ばかりを言うが、なにも理解してなさそうな人間だ。上辺は良く出来ている」  
 「随分はっきりいいますね」
 
 肩をすくめ、苦笑。
 この鳥類の言葉を全て真正面から受け止められる人間は少ない。
 やさしい言葉は、少ない。
 
 「はっきり言わなければ、分からないんじゃないのか」  
 
 あきれたように、再び断定。
 
 「まあ、だが、そんなことはどうでもいい。どんな生き方をしたいか分からんが、俺はこういうペンギンだ」  
 
 柔らかくない。温くもない。熱い、ハードボイルド。
 それが彼のスタイル。
 微塵も頼りなさげなところのない、頼れる男の背中。
 
 「ええ。付き合ってくださってありがとうございます」  
 
 応えない。だが、無視では決してない。
 女の独白は続く。
 
 「うーん、戦いとかそういったこととは関係のないこともたまにはしてみたかったんですけど、やっぱり私には向かないみたいです」  
 「向いていないことなんか、この世にはありはしない。本気になれないことがあるだけだ」
 
 即座に否定。
 断絶とは異なる、とてもとても遠まわしな風野緋璃という存在の肯定。
 それに対して女は苦笑。自然体な笑み。
 肩の力が抜けた。
 
 「お話ついでと言っては何ですが、いくつかお聞きしてもかまいませんか?」  
 「聞くのは自由だ。答えないのも自由だが」  
 
 意地の悪い言葉。
 易しくない。だが、優しくないわけではない。
 こういうペンギンなのだ。
 
 「そうですね。まぁ結局私は、こういったことよりもっと好きなことがあるってことなんでしょう」  
 
 すっきりとした笑み。
 自分を知った人間の見せる、等身大の、身の丈にあった清々しい顔。
 
 「――気になっていることが二点あります。両方、私の友人に関することです。出来れば力になりたく思います。まぁ気が向いたら答えて下さい」  
 
 ペンギンはくちばしの端を動かした。  
 肯定とも否定ともつかない態度。
 早く喋れと、急かすようにも見えた。
 
 「一つは是空さんのことです。藩王のことだから私がほっといても自分でなんとかしちゃうでしょうけど」  
 
 絶大の信頼。
 それに添える、ちょっとした手伝い。
 国民と藩王の間の絆、思いやり。
 
 「原さんについて、ご存じないですか?」  
 「時間跳躍をしている」  
 「この前、私たちはニューワールドから青森に移動しました。ああいったものでしょうか?」  
 「そうだな。あの先の跳躍をしていない」  
 
 意外なヒント。この鳥類は何でも知っている。
 それを知るために使った労力を決して見せはしないが。
 苦労をあたりまえと思える男の、鮮やかな答え。
 あっさりと、口にだす。
 
 「時間跳躍には特別な技術やエネルギーを必要すると、都さんたちから聞きました。
  どうやって私たちはゲートを開いて、そしてその先に移動することが出来たんでしょう?
  そして原さんを追えないのはなんでなんでしょう?」
 「すでに世界は崩壊局面に入っている。世界が墜落するときに時間は逆流する」  
 
 そこまで言って、間が空く。
 一呼吸。苦虫を噛み潰したような顔。
 
 「原は追えるさ、是空が追わないだけだ」  
 
 詰まらなさそうに言う。
 不肖の弟子のやり方に、不満の様子。
 
 「奴は度胸のないサルだ。鳥類じゃない」  
 「チキンではなくてサルですか」
 
 面白そうに笑う。チャーミングな笑み。
 そんなに面白かったか、くすくすと笑い続ける。
 脳裏に尊敬する藩王の猿面が浮いた。
 
 「たまには国とかそう言ったことを全て忘れてほしいんですけどね」  
 「話はそれだけか」  
 
 心底詰まらなさそうなペンギン。
 弟子のことなど喋りたくないとでもいうようなそぶり、照れ。
 しばしの笑いの後、緋璃の表情が瞬時に締まる。
 まっすぐな瞳。
 
 「二点目は、崩壊とも関係すると思うんですが、迷宮の話です」  
 
 しっかりとした口調。
 世界の命運をかけた問いをはじめる。
 
- 「迷宮に多くの方が向かっています。私の友人の大切な人たちも」
+「迷宮に多くの方が向かっています。私の友人の大切な人たちも」
 
 誰も彼もがそこへと進んでいった。
 誰も彼もが地の底へと向かっていった。
 何かに誘われるように、何かに導かれるかのように。
 
 「迷宮と世界の崩壊が関係しているという話は耳にします。迷宮を壊せば世界の崩壊を遅らせることも出来ると」  
 「それは嘘だ」  
 「まぁここでぐだぐだ考えてないで、迷宮にもぐってみればわかるような気もするんですけど」  
 
 肩をすくめる。
 意外と行動的なスタンス。
 ペンギンの否定を肯定する緋璃。
 
 「迷宮を壊しても世界の崩壊は遅くならない。世界の再生が遅くなるだけだ」  
 「では何故、宰相は迷宮を壊そうとするのでしょうか? 世界が再生しない方がいいことがあるんでしょうか?」  
 「迷宮を壊せば、次の迷宮が生まれる。世界の崩壊はそれとは関係ないが、その間に”お前達は”時間を稼げる」  
 
 息を吸う。
 それは世界を救うための仕組み。あるいは世界を創るための仕組み。
 最後の手段。残された希望。
 
 「今この時期で、一番乗りできる自信がなければ、一番乗りする奴の性格に信がおけなければ、迷宮を爆破するだろう。次のチャンスを待つ」  
 「一番乗りするひとによって、世界の再生の様子が変わるわけですか?」  
 「そうだ」  
 「迷宮にいくACEと呼ばれる方々はみな、その事を知っていて、世界の再生に関与したいが為に最奥を目指すのでしょうか?」  
 「さあな」  
 
 短い言葉の乱発と興味のないそぶり。
 
 「誰も彼もが同じ事を考えているとは思わない」  
 
 緋璃の苦笑。
 突き放しているわけではないんだなと、なんとなくこの鳥類を理解し始めた。
 
 「それもそうですね。そんな世界があったら怖いや」  
 
 ふふ、と笑い、指を唇に当てて考えをまとめる。
 つまり――
 
 「えーっと――迷宮を壊すのは時間稼ぎ。失敗したゲームをやりなおすようなもの。迷宮の奥地に信頼できる誰かがたどりつけばいい、と」  
 
 それに対する回答。
 
 「俺は寝る」  
 
 答えにもならない答え。
 だが、NOではない。YESと言わない――簡単に褒めない男の厳しさ。
 それ故に「NOではないこと」は、ハードボイルドなりの褒め方。
 
 “自分が訂正するまでもない答え”
 
 つまりはそういうこと。
 
 「最後に一つだけ。世界の崩壊と再生は止められないのでしょうか?」  
 「そいつは俺にもわからない」  
 
 偽らざる本音。
 見栄を張らない、知ったかぶりはしない。
 ありのままの己の実力、知識の披露。
 
 「それともそもそも止める必要のないこと、なのかな」  
 「世界が崩壊すれば、全てのACEは死ぬ」  
 
 純然たる事実。
 いつか来る絶望。
 誰も彼もが躍起になって否定する未来。
 
 「こうしてここにいる貴方の前で言うのも申し訳ないんですけれど」
 
 だが、それを女は――
 
 「同じ人がたくさん居たり、別の時代の同じ人が居たりするこの現状がいいことなのか、時々、考えてしまうんです」  
 
 ――肯定した。
 
 「だからって死んでいいことなんてあるわけないですけど」  
 
 微笑。
 それは女の強さ。
 魅力的な表情、態度、意思、生き様。
 外見ではない、風野緋璃という女の引力の発揮。
 
 ハードボイルドの苦笑。
 初めての笑い。
 引力に引かれた男の見せる顔。
 そして、その言葉は肯定/YES。 
 
 
 「世界もそう思ってるんだろう」  
 
 
 
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 **作品への一言コメント
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 ご発注元:風野緋璃@FEG様 
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 製作:伏見@伏見藩国
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 引渡し日:2007/11/1
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