「334イクSS」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「334イクSS」(2008/05/17 (土) 02:24:18) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
**イク@玄霧藩国様からのご依頼品
泪雨、という物がある。涙雨とはまた違う、叙情的な言葉の一つだ。
誰かの涙に呼応するかの様に降ると言われているその雨は、伝承か、はたまた幻想か。
それとも、真実なのか。
何はともあれ……その日の小笠原は黒い雲が立ちこめ、今にも雨が降りそうな、そんな日だった。
*****
知恵者は静かに海を見渡している。海は静かに、穏やかな様でもあるがその色は暗い。
空を見れば大きな雲がこの島に覆っており、そのために海が暗くしたのであろうと察することが出来る。
静かに、呼吸する。息を吸って、吐く。ただそれだけの動作を行い、彼は海に出た。
その身一つで海に飛び出すとまるでジョークか何かのように海を滑り出す。
その姿は風を受け、まるで冗談のような、悪夢のような光景であるにもかかわらず、どこか威風堂々とした物を感じさせる。
風を受け、海を走る。海の上では塩の香りと、そして遠くまで続く曇り空。ただそれだけの世界であり、だがその下にはさらなる闇と生命が息づく世界でもある。
世界はこうして、一面だけではない。目に見える物だけが世界ではない。
それは世界からさらにマクロなサイズの事象にも言えることである。往々にして人はそれを忘れ、目にした物だけに頼ることがある。
それが間違いだとは言わない。だが、それは悲劇ではないのだろうか?
目の前を見れば、灰色の海と黒い空。雨が降り、それが続けば荒れそうである。
これほどの悲しい目の前の世界風景に対して、足元の下の世界はその世界の住人なりに満足いく環境なのだろう。
そのように世界とは往々にして常に表裏一体、目に見えている事が事実ではないのである。
つくづくその世界を面白いと思いつつ、まだ見ぬ何かを求め知恵者は海を滑り……。
「こーんにーちわーーー!!さむくないですかーーーー!」
呼ばれた。なので行ってみることにした。
*****
ttp://blogiri.at.webry.info/200708/article_3.html
*****
話が終わり、静かにまた海を行く知恵者。土産としてもらった酒を軽くあおり、静かに思いを巡らせる。
海の上を滑りながらまるで寛ぐように酒をあおっているその姿は誰かが見れば新手の怪談になるかもしれない程不気味でユーモラスで、何よりもシュールである。
ゆっくりと寛ぎながら、知恵者はどこか遠くを見つめるようにして酒を飲んでいる。
知恵者というのはその本質が見えづらい。大言を用いる事もあるせいか、言葉の一つ一つに重みは感じられても、思いを感じることは難しい。
人間という尺度を使うと、本音を話すときまで大言を用いるという人物はそういないためであろう。
その為、静かに酒を飲むその様こそが知恵者の本質の一つ、と言えなくもない。
言葉ではなく、行動で己が本質を周囲に知らしめる、とも言えなくもない。
その知恵者の性分は非常に複雑である。
父親のような甘やかすだけではない、親の優しさを持ちながらもほとんどの状況において傍観者という立場を貫き続けるため、言動が乖離しているようにも見えるだろう。
知恵者はイクに対して話したことを喋りすぎた、とは思っていない。
ましてそれで悲しみが一つ消えるならば、何を言わんかや、である。
時間犯罪を考えた、とイクは言った。話をするうちに、イクは号泣した。
そこまで思っていたのか、そこまでの情があったのか、知恵者には判らない。
だから、優しい嘘をついた。その優しさがイクを苦しめようとも知恵者は優しい嘘をつくしかなかった。
それは大人が子供を落ち着ける時に言う為の方便。
自分には何も出来ないからこそ、気持ちだけは救おうとするための方便。
そう思うと、知恵者の胸には苦い物が込み上がってくる。
自身の腕が二本しかない。自身の娘を救うことだけで知恵者には他に関われる余裕がない。
それを恨めしく思うか、或いは仕方ないこと、として割り切れたかどうかは知恵者にしか判らない。
だが、どうしてだろう。
これほどいい酒をもらったのに、知恵者には、それが非常に苦い物としか思えなかったのだ。
吐息を漏らし空を見れば、真っ黒な雲がこの島全体を覆っている。
それは雨の兆しか、それとも次に来る晴天の兆しなのか。
知恵者は静かに、もう一度もらった酒を口に含むと、空を見続けた。
その日の小笠原は、曇り。大雨が来てもおかしくないほどの曇り、である。
涙雨は降るのか、降らないのか。それが、問題だ。
----
**作品への一言コメント
感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)
#comment(,disableurl)
----
ご発注元:イク@玄霧藩国様
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=576&type=518&space=15&no=
製作:癖毛爆男@アウトウェイ
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=1084;id=UP_ita
引渡し日:
----
|counter:|&counter()|
|yesterday:|&counter(yesterday)|
**イク@玄霧藩国様からのご依頼品
泪雨、という物がある。涙雨とはまた違う、叙情的な言葉の一つだ。
誰かの涙に呼応するかの様に降ると言われているその雨は、伝承か、はたまた幻想か。
それとも、真実なのか。
何はともあれ……その日の小笠原は黒い雲が立ちこめ、今にも雨が降りそうな、そんな日だった。
*****
知恵者は静かに海を見渡している。海は静かに、穏やかな様でもあるがその色は暗い。
空を見れば大きな雲がこの島に覆っており、そのために海が暗くしたのであろうと察することが出来る。
静かに、呼吸する。息を吸って、吐く。ただそれだけの動作を行い、彼は海に出た。
その身一つで海に飛び出すとまるでジョークか何かのように海を滑り出す。
その姿は風を受け、まるで冗談のような、悪夢のような光景であるにもかかわらず、どこか威風堂々とした物を感じさせる。
風を受け、海を走る。海の上では塩の香りと、そして遠くまで続く曇り空。ただそれだけの世界であり、だがその下にはさらなる闇と生命が息づく世界でもある。
世界はこうして、一面だけではない。目に見える物だけが世界ではない。
それは世界からさらにマクロなサイズの事象にも言えることである。往々にして人はそれを忘れ、目にした物だけに頼ることがある。
それが間違いだとは言わない。だが、それは悲劇ではないのだろうか?
目の前を見れば、灰色の海と黒い空。雨が降り、それが続けば荒れそうである。
これほどの悲しい目の前の世界風景に対して、足元の下の世界はその世界の住人なりに満足いく環境なのだろう。
そのように世界とは往々にして常に表裏一体、目に見えている事が事実ではないのである。
つくづくその世界を面白いと思いつつ、まだ見ぬ何かを求め知恵者は海を滑り……。
「こーんにーちわーーー!!さむくないですかーーーー!」
呼ばれた。なので行ってみることにした。
*****
ttp://blogiri.at.webry.info/200708/article_3.html
*****
話が終わり、静かにまた海を行く知恵者。土産としてもらった酒を軽くあおり、静かに思いを巡らせる。
海の上を滑りながらまるで寛ぐように酒をあおっているその姿は誰かが見れば新手の怪談になるかもしれない程不気味でユーモラスで、何よりもシュールである。
ゆっくりと寛ぎながら、知恵者はどこか遠くを見つめるようにして酒を飲んでいる。
知恵者というのはその本質が見えづらい。大言を用いる事もあるせいか、言葉の一つ一つに重みは感じられても、思いを感じることは難しい。
人間という尺度を使うと、本音を話すときまで大言を用いるという人物はそういないためであろう。
その為、静かに酒を飲むその様こそが知恵者の本質の一つ、と言えなくもない。
言葉ではなく、行動で己が本質を周囲に知らしめる、とも言えなくもない。
その知恵者の性分は非常に複雑である。
父親のような甘やかすだけではない、親の優しさを持ちながらもほとんどの状況において傍観者という立場を貫き続けるため、言動が乖離しているようにも見えるだろう。
知恵者はイクに対して話したことを喋りすぎた、とは思っていない。
ましてそれで悲しみが一つ消えるならば、何を言わんかや、である。
時間犯罪を考えた、とイクは言った。話をするうちに、イクは号泣した。
そこまで思っていたのか、そこまでの情があったのか、知恵者には判らない。
だから、優しい嘘をついた。その優しさがイクを苦しめようとも知恵者は優しい嘘をつくしかなかった。
それは大人が子供を落ち着ける時に言う為の方便。
自分には何も出来ないからこそ、気持ちだけは救おうとするための方便。
そう思うと、知恵者の胸には苦い物が込み上がってくる。
自身の腕が二本しかない。自身の娘を救うことだけで知恵者には他に関われる余裕がない。
それを恨めしく思うか、或いは仕方ないこと、として割り切れたかどうかは知恵者にしか判らない。
だが、どうしてだろう。
これほどいい酒をもらったのに、知恵者には、それが非常に苦い物としか思えなかったのだ。
吐息を漏らし空を見れば、真っ黒な雲がこの島全体を覆っている。
それは雨の兆しか、それとも次に来る晴天の兆しなのか。
知恵者は静かに、もう一度もらった酒を口に含むと、空を見続けた。
その日の小笠原は、曇り。大雨が来てもおかしくないほどの曇り、である。
涙雨は降るのか、降らないのか。それが、問題だ。
----
**作品への一言コメント
感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)
- 癖毛爆男さん、本当に本当にありがとうございました。世界の広さを雄大に感じれて、同じく知恵者の人の広さも感じれる・・・・読んでいて、この広くて深いお話にとっぷり漬かるようです。いつか、おいしいお酒を飲んでいただけるようにがんばりますっ 本当にありがとうございました!!! -- イク@玄霧藩国 (2008-05-17 02:24:18)
#comment(,disableurl)
----
ご発注元:イク@玄霧藩国様
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=576&type=518&space=15&no=
製作:癖毛爆男@アウトウェイ
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=1084;id=UP_ita
引渡し日:
----
|counter:|&counter()|
|yesterday:|&counter(yesterday)|