"ファウスト博士"

対訳(ボーモント版)

対訳(ヤルナッハ版)




あらすじ

  • 半ば図書室、半ば錬金術の実験室のような部屋で、人生の盛りを過ぎたファウスト博士は、求めても求めても辿り着けない世界に倦んでいる。
  • 助手のワーグナーが来客を告げると、最初、ファウスト博士は断るが、客人が、ファウスト自身も学んだ、懐かしいクラカウから来た、しかも「アスタルテの魔法の鍵」と呼ばれる稀少な本を渡したがっていると聞いて会うことにし、その黒魔術の本を受け取る。学生たちはファウスト博士に本を渡すと、姿を消す。

訳者より

  • フェルッチョ・ブゾーニ(1866〜1924)はイタリア出身だが、ドイツを中心に世界中で活躍した。オペラの作曲家としてより、超絶技巧のピアニストとして知られ、オペラ作品は多くない。その中でも一番有名なのがこの『ファウスト博士』で、1916年に着手したが未完のままに終わり、死後、1925年に、弟子のヤルナッハによって完成された。その後、ヤルナッハの解釈がブゾーニの意図に忠実でないとの見方から、1982年にボーモントによる新版が作られた。
  • 『ファウスト』というと、ゲーテの作品が余りにも有名だし、オペラで『ファウスト』と言うと、ゲーテの『ファウスト第1部』を題材に作曲したグノーのオペラ『ファウスト(マルガレーテ)』が知られているので、ついゲーテの『ファウスト』を思い浮かべてしまう。しかし、魔術師ファウストの物語は、まず人形芝居として普及し、16世紀に民衆本にまとめられた。ゲーテも民衆本の影響を受け、ゲーテの生きていた時代に、当時、事件となった嬰児殺しの話を巧みに入れて、自身の『ファウスト第1部』の中でマルガレーテ(通称グレートヒェン)というヒロインを生み出したのである。
  • ブゾーニはオペラ『ファウスト博士』の台本を自分で書いており、勿論ゲーテの影響は受けてはいるが、開幕前に“詩人”に語らせている通り、ゲーテ以上に人形芝居の影響を受けているといっていいだろう。
  • 終幕に登場する夜警は、ワーグナーの『ニュルンベルクのマイスタージンガー』に登場する夜警と同じような口調で歌うので、ワーグナーを真似したように思われるが、実は中世の人形芝居の中にすでに登場しており、民衆本の資料の中にも載っている。恐らくワーグナーがそれをオペラに用いたものと思われる。あるいは人形芝居だけでなく、昔の生活の中にまさにそのように夜警がいたのかもしれない。
  • ボーモント版でも、台本はだいたい同じだが、ファウストが死んだ後に合唱が続き、“詩人”によってエピローグが語られる。確かに、“詩人”の語りから始まったこのオペラは、エピローグがあるほうが、形が整っているように見える。だが、実際の上演では“詩人”の語りがカットされることも多い。

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@ Aiko Oshio

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最終更新:2017年12月17日 12:57