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私は貝になれない - (2015/07/04 (土) 21:48:33) の1つ前との変更点
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夜の月の光が冷たく冷えきった地面を照らしている。
普段の街の光の中では味わえない風景。
そういったのを少なくとも現代の我々は───どこか自分が異世界に迷い込んだかのように錯覚し、その情景に酔いしれる。
そういった情景にひゅぅと吹く冷たい風や季節を感じさせる虫の声があると、なおさら良い。我々が普段の生活で忌々しいと思うものでさえも、ここでは「風流」になる。
かつての文化人たちはこういった自然の産物を度々詩に綴っていた。今も昔もこういったのを好む気持ちは変わらない。今これを読んでいる読者諸氏や、著者でさえも、そんなこと分かっていることなのである。
だが、この状況下において情景に目をやる者など、いるはずもない。ある男は、この状況下で眼に炎を宿していた。
それでこそ月の光のように優しさを持ち合わせたような明るさではなく、激情的でかつすぐ燃え尽きてしまいそうなそんな明るさ。
埃一つすらついていない、真っ黒のスーツに蝶ネクタイ。綺麗にセットした髪、眼鏡の老人───この殺し合いという場においてはまったくもって不釣り合いといっても過言ではなかった。
そして何より彼の異質さを目立たせているのは、大きな車椅子である。黒を基調としたデザインで、材質は素人目からしても良い物だと分かる。車輪はまた大きく、回してこぐことはよほどの力がない限り不可能である。
わたし達が思い描くような車椅子ではなくあたかもそれは、小型戦車のようだった。
男は炎を消さないことは無い。
月に負けじとするかのように光を出すために炎を燃やし続ける。
彼のただ一つの目的のために。
================
「ほらこーた着いてきなさいっ!兄さんに言いつけるわよ!」
甲高い声が辺り一面に響いた。
A-2の森をとてとてと歩く小さな少女。髪は自分の母親にセットしてもらえたのであろう、綺麗な金髪を一本に結んでいる。服は黒を基調としたゴシック調。
そして、その瞳にはどこかしら余裕が見えた。
この少女、麻生嘘子はこの殺し合いに巻き込まれた参加者の一人である。
各参加者に渡された自分の身長の半分はあろうかというディパックを背負い、慣れない夜道を進んでいる。
そんな殺し合いの場に不釣り合いとも言えるような存在、嘘子は目の前の「こーた」に向かい苛立ちの視線を向ける。
「ははは、呼び捨てだなんてひどいなあ嘘子ちゃん…」
「うっさいわねえ!あんたは犬みたいなもんよ。犬の言葉はワンだけでしょっ!」「わんわん。これでいい?」
嘘子の目の前の「犬」───高校生山村幸太は苦笑いを浮かべながらも嘘子に優しく言った。
普通の高校生男子、それでこそ幸太程の年齢であれば知り合って間もない、年の離れた幼女にそう言われると黙ってはいない。もちろん彼の言う通り、幸太は犬ではない。何処にでも居そうなちょっとイケメンのサッカー部員である。
これも若い子のワガママだろう、と嘘子の頓珍漢な発言にため息を吐きながら幸太は背筋を伸ばす。
(このくらいの子はじゃじゃ馬って言うけどさ、じゃじゃ馬すぎるよ…)
幸太は学生服のネクタイを解き、上のボタンを一つ、二つ空けた。
(…なんか大変な事になったなあ…)
====================
彼女との出会いは数十分ほど前。
目を覚まし、ICレコーダーから流れた音声に呆然とし一人歩いていた幸太の目の前にいたのは、自分より幼い幼い子供であった。
幸太はそれを見て愕然とした。こんな幼い子どもまで参加させるなんて。この殺し合いは狂っている、と。
彼女を見捨ててはおけない。チーム戦だとは言っていたものの、放っておくワケにも行かず(合流した後、同じチームだと気づいたのだが)彼女を保護し、人が居そうな町に向かおうとしているのだが…どうも幸太には嘘子の対応はやりづらい。
どうやら麻生嘘子曰く。
彼女はあの鬼をも殺した伝説の男、麻生叫の妹だという。
あの麻生叫の姿とはまったく似つかない可愛らしい姿からは想像できない。だが、事実だと彼女は言い張る。
その姿は嘘とも言えないし、よもや嘘をつくメリットもないだろうと思い、幸太は信じることにした。
更に嘘子はもしかしたら自分の兄である叫がこの殺し合いに参加してるかもしれない、と幸太に告げた。確かに、その可能性はゼロではないだろうし。『あの』麻生叫を参加させない訳が無いはずである。
それを聞いた幸太は恐怖心を覚えた。恋人の咲によると自分の通う高校の空手部が活動停止になったのは麻生叫が『声がうるさかったから』壊滅させたからという事件が最近あったというからだ。普通ならばそんなこと嘘だと思うかもしれないが、麻生叫であるならばそれが平然とありえてしまう。
『長生きしたければ麻生叫とだけは関わるな』。それは幸太の通う学校の全学年の生徒、教師陣の常識であった。
幸太はそんな化け物が居る中で中で生き残れるのか不安にもなったし、尚且つもう一つの不安要素が出来た。
嘘子が自分のディパックの中に入っていたと述べながら叫の存在を示すために突き出してきた「参加者候補リスト」には、中村敦信や金本優、東雲駆に藤江桃子。以前同じクラスだった中野あざみといった自分の同じクラスの級友たちが名を連ねていたからだ。
ただそれも不安要素であったものの、そのリストの中で幸太が目を引いたのは自分の恋人花巻咲の名前があったことだった。
もしこれが同姓同名の別人ではなく、本物の咲であったら………泣いてしまってるかもしれない。殺されてしまったら?その時は自分が発狂してしまうかもしれない。いや、してしまうだろう。
そうなる前に彼女を救わなくては。
───でもどうやって?自分に人を救う力なんて、無いとは知っているのに。そうやって悩む幸太を察したかの様に、嘘子は幸太に対してニヤリと口角を釣り上げて口を開く。
───兄さんはチームとか関係なく、参加者全員を素手で殺そうとするだろうし、それが出来る強さを持ってる。見たところ、あんたの大事な人もいるみたいなんでしょ?あたしを連れていったらいいよ。兄さんには『感情』はほぼないけど、あたしの話だけは聞いてくれるの。
ね、兄さんを止めることができることはあたしだけなんだよ?兄さんだって、妹を殺しはしないはずでしょ?見つけたら真っ先にあなたの彼女を守らせるから。だから───
「あたしをその間守ってよね!こーた!」
============
で、今に至ると。
嘘子の足取りは先程と比べてさらに軽くなっていた。
それは幸太に荷物を持たせたからである。幸太は仕方なく、はいはいと思いながらも嘘子の重かったディパックを持ち、歩みを進める。
「…兄さん…」
軽い歩調で足を進めていた嘘子が歩みを止めて、ぽつりと小さな声で呟いた。
幸太は先程までの嘘子の声の調子と違うのを疑問に思い、嘘子にその疑問を投げかけることにした。
「お兄ちゃんが、心配?」
「なっ…!!!!」
嘘子はその幸太の発言を聞いた瞬間、目を大きく見開いて、顔を真っ赤にしながら必死に否定する素振りを見せる。
「だっ、大丈夫に決まってるでしょ!あの兄さんよ?素手で熊をも倒す兄さんよ?色々犬が言うんじゃないわよ!」
───心配なんだろうなあ。年頃で素直になれないだけの子。
普通に生活していればきっと、幸せなはずだったろうに。
(…やっぱり間違ってるよな。こんなこと。なんとかしなくちゃ)
幸太はゆっくりと上を向く。空に輝く星が、不釣り合いな程に光っていた。
その不釣り合いさが、なおさら不気味に思えたけれど、きっと大丈夫なはずだ。
まさか本当に殺し合う人なんて、いないはずだと信じたい。
幸太は心の奥底で、そう考えていた。
その時である。
「HELLO,ボーイ&ガール。いきなりの質問ですまないが…君たちはChinese(中国人)かね?Korean(韓国人)かね?それとも…Japanese(日本人)かね?」
低い、しゃがれた声がした。二人の右斜め後ろの方面からであった。
二人が振り返ると、そこには老人がいた。
頭をしっかりとセットしていて、素人目に見ても高級だと分かるスーツに蝶ネクタイ。おおよそその格好はこの殺し合いには不釣り合いとも言えた。
そんな謎の老人は顔を下に向けながら二人に問いかける。その声色はまるで朝食のメニューを妻に尋ねるように軽い様子だった。
(…何を質問しているんだこの人は)
幸太は質問の意味がどうもわからなかった。いわゆる人種差別者なのか、ただ単なる疑問か。殺し合いにおいて必要な質問だとは感じなかった。
そもそも殺し合う気であれば遭遇した人物全員に殺意を向ける方がいいだろうからだ。
殺し合うつもりなどなく、ただ単純な疑問なのだろうか。よく見ればこの老人も鉄製の首輪をつけているから参加者なのは分かるが一体なんなのだろうか、と。
何より気になったのはその下半身だ。黒く光る車椅子に乗っている。
それだけでこの殺し合いに相応しいとは言えないだろう。それで人を殺すことなど、出来るはずもない。
「はーん!見て分かんないのかしらね!あたし達はじゃぱにーずよ!日本人!」
「そうかねそうかね。それはなんと《運がいい》」
目の前の老人に、嘘子が当然のようにやや小馬鹿にしたような表情で言い放つ。
それを聞いた老人は、安堵した様な声色で、しかしどこか怒気を含めたように、二人に返した。
その雰囲気は、平凡な世界であるアースRでは、感じることが出来ないモノ。
「嘘子ちゃん逃げよう」
「え?」
「逃げようっ!!!!」
幸太が叫ぶ。自分の第六感が体内に赤信号を知らせているからだ。
嘘子に対して先程までの優しい調子とは変わって強い口調で言い放つ。
だがそんな幸太に対し嘘子は驚き、その場に立ち尽くしてしまっている。
その二人を横目にしながら、目の前の老人はゆっくりと顔を上げた。
「私はフランクリン・デラノ・ルーズベルト。君たちの奴隷の国の大統領だよ」
その表情に憎しみと楽しみを灯らせながら。
アメリカ合衆国第32代大統領、フランクリン・ルーズベルトは二人の前にその顔を見せた。
そして車椅子の手すりの部分からゆっくりと、白銀に光る刃を出しながら、また軽い調子で二人に言った。
「ok.やっぱり最初は彼に限るね」
ルーズベルトはそれを右手に持つと、左手の方で膝のところにあったボタンを押した。
するとルーズベルトの車椅子からエンジン音がなり出す。
まるで原付のそれのような音である。
そして車椅子の速度とは思えない速さで、二人に迫った。
「くそっ!」
幸太はそれを確認すると嘘子を抱き抱え、横方向へと飛びよけた。
嘘子はまだなんのことか理解できないような顔をしている。先程と違ってはっきりと不安や焦りすら、伺えた。
ルーズベルトは避けられたことに舌打ちをするも、また二人の方を向き、口を上に歪ませながらも、またゆっくりと言い放った。
「yellow monkeys(エテ公ども)、逃げないでくれないか?どうもコイツの調子が今日は悪いみたいでね。気分が悪いんだ。早めに終わらせたい」
やばいやばいやばいやばいやばい。どうする。どうすればいい。体内のアドレナリンの大量放出によって、自分の鼓動が早くなり、汗がにじみ始めた。
そもそも、フランクリンルーズベルト?あのニューディール政策とかした?世界史の資料集にも居る、あの―――?
いやそれは置いておくとして、まさか、本当に殺し合う人間がいたなんて。内心多少嘘だと思ってたのに。夢だと思っていたのに。幸太の脳内がぐるぐるぐるぐると回り出す。
「こ、このクソジジイっ!兄さんに頼んだらあんたのその腹立つ顔を【自主規制】してやるんだからね!!!」
嘘子は伏していた地面から立ち上がると、震えながら捨て台詞の様にルーズベルトに言った。
完全に虚勢だと分かる。ただ嘘子も、この殺し合いに巻き込まれてしまったことへの戸惑いと、そして本当に乗る人物がいた事への不思議さ。なにより自分を殺そうとしたことに対しての怒りが、彼女を突き動かした。
「HAHAHA…元気がある事はいい事だよガール。ただ、年長者に使う言葉ではないね」
嘘子の言葉を受けてルーズベルトは剣を改めて持ち直し、左の手すりの下のレバーを引くと、二つの大きな車輪の軸からチェーンソーらしきものが出た。
金属音を上げながらチェーンソーが動き出す。ここまで来たらもはや車椅子とは言えなかった。
ルーズベルトはそれが出たのを確認すると年齢からは想像できない様な声色で、はっきりとした殺意を二人に向けながら叫ぶ。
「Remember pearl harbor!Remember Midway!(真珠湾を忘れるな!ミッドウェーを忘れるな!)」、と。
ルーズベルトが先程よりも更に速い速度で真っ直ぐ二人に迫る。
鬼のような形相で、何かにとりつかれたように間違いなく二人の命を奪うために。
「嘘子ちゃん!!」
体がいつの間にか動いていた。幸太はすぐに立ち上がり嘘子を突き飛ばす。
抱きかかえる時間もなかった。彼女を守るために、こうするしかなかった。それにもし抱きかかえていたら、あのチェーンソーの餌食になっていたかもしれない。
そう思いながら。
「suck my dick,Jap!(くたばれ!糞日本人!)」
さらに叫んだルーズベルトは持っていた剣を剣道の突きのように構えて、やがてその剣を前に突き出した。
狙うは、目の前の男の、この『日本人』の急所───心臓。
「…こーた?」
突き飛ばされて地面に伏しながら、顔を上げる。
その嘘子の目の前に飛び込んだのは、胸を貫かれている、山村幸太の姿。
ルーズベルトの剣から真っ赤な鮮血が垂れている、その姿だった。
「日本人とは本当に頭がpussy(かわいそう)だ。流石我々白人と比べて頭蓋骨が二千年遅れてるほどはある」
ルーズベルトはその剣を更に深く、深く幸太の胸に突き刺していく。
幸太の顔は苦痛に歪み、口からは血がこぼれ出した。
学生服は黒く染まっていき、顔は青白くなっている。
その姿はまさしく、死ぬ寸前の人間の姿であった。
「こーたあっ!」
嘘子が叫ぶ。幸太を心配して。助からないとは分かっているが、それでも叫ばずにはいられなかった。
幸太はそれを見ると、人生で体験したことのないような痛みを必死に堪えながら、振り絞るように嘘子に口を開いた。
「…逃げろ…僕は、もう、ダメみたいだから…君の兄さんに…麻生叫に…花巻咲を、守って、って…言ってくれ」
「でも…でも」
「…行け…早く行けえええええっっっ!!!!」
幸太の声にならないような声を聞き、嘘子は何かを感じ取ったのかその場から走り去った。
恐怖に怯えながら、これは嘘ではなかったと知りながら、嘘子は闇の中に消えていった。
自分の兄にさえ会えれば、自分の兄にさえ会えればきっと大丈夫なはず。
それだけを信じながら、嘘子は走るのであった。
(…咲、ごめんな。こんな彼氏で。守ってやれなくて…ごめんな)
そんな嘘子の姿を確認した幸太はゆっくりとその瞳を閉じた。
自分の愛する、心優しくて自分が誇りに思う大切な彼女に懺悔しながら。
そしてその優しさを兼ね備えた瞳が開かれる事はもうなかった。
【山村幸太@アースR 死亡確認】
=======================
「エンジンの調子が悪いな…追いつける距離だがまずはスコア1だね」
胸を貫いた目の前の男が息絶えたのを確認してから、ルーズベルトは手に持っていた刀を男の胸から引き抜いた。
男が糸の切れた人形のように崩れ落ちたのを見ず、ルーズベルトは視線を走っていった少女の方へやった。
あの走り去った少女を殺すのは容易かったが、車椅子の調子がどうも今日は悪い。
本当は対戦車ミサイルでも打ってさっさと殺したかったが、何故か押しても発射されなかった。
それにもっとこの車椅子の加速速度は早いはずであるし、まだまだ色々ある筈なのに、それが壊れたかのように使えなくなっている。
おそらくこの主催に「規制」されてしまったのだろう。
ルーズベルトの車椅子は冒頭で述べたかのような戦車、いや戦艦のような機能が多く搭載されている。それらをすべてそのままにしてしまうと、他の参加者と勝負にならないと考えたのだろう。
だがそれは許容範囲だ。それよりもルーズベルトには、一つの確固たる目的が存在していた。
「Axis Powers(枢軸国)に…Japに鉄槌を与えねばならんのだ」
アースAの世界軸における「第二次世界大戦」は、アースRの歴史で教わるような「第二次世界大戦」とは、大きく異なる。
アースRにおけるフランクリン・ルーズベルトは第二次世界大戦中のアメリカの大統領でアメリカを勝利に導き、おそらく読者諸氏も中学の歴史などで習った「ニューディール政策」を行ったりした、今もアメリカの誇る名大統領の一人として扱われる人物である。
しかし、アースAでのルーズベルトの境遇は違った。
勝利が確実と思われた日本とのミッドウェー海戦において、それまで劣勢であった日本が突如現れたロシアの援軍により息を吹き返し、アメリカ海軍は壊滅的被害を受けたのだ。
それをきっかけにしてアメリカの各地の諸拠点は奪われ、やがて日本軍の攻撃は本土にも迫ることになった。
日本軍が本土に上陸するようになり、アメリカ各地は戦場となった。
多くの国民が死んだ。
多くの罪なき国民が死んだのだ。
愛していた土地は奪われ、かつてアメリカンスピリットを持ち開拓をしていった誇り高きアメリカ人は奴隷のような生活を送ることになっていた。
ルーズベルトは、それをどうしようもできず、まるで植民地化を受け容れるような講和条件を飲み、責任を取るために大統領を辞任した。
しかし、ルーズベルトはまだ諦めていなかった。元から強かった日本への嫌悪感は更に増し、それはいつからか彼の性格を更に歪めていくようになっていった。
まずこの状況を打開するためにフリーメイソンなる秘密結社に協力を求め、車椅子の改造とそれに耐えれるような体に手術を受けた。
将来ルーズベルトが目指すのはアメリカ全土の国民の身体能力の向上化、国民皆兵である。
その身体能力強化のための手術を、身を持って体験したのだった。
手術は難航し、何日にも及んだ。
なんとか最終的には手術には成功したが、その後数週間もの間体内をムカデが蠢き続けるような激痛に襲われた。
しかしルーズベルトはそれに耐えた。
日本を、ロシアを、イタリアを、ドイツを。あの憎き枢軸国を倒すために、という執念だけで耐えきった。
老体に鞭を打っているようなものだとは分かる。だが、それでもやらねばならなかった。
彼はあのミッドウェーの敗戦を聞いたあの日から。
あんな下劣な講和条件を受け入れた日から。
ただ枢軸国、特にあの日本を倒し、アメリカの独立を果たすということだけを目標に生きてきているのだ。
「チーム戦なぞ知らん。私の味方は連合国だけなのでね」
ただでさえ老齢であったのに手術で改造された自分の命は長くないだろう。
だがこの命尽きるまで、戦い続け、そしてアメリカに帰らなくてはならない。
「私は貝になるために生まれてきたのではないのだ。それを分からせてやらねばなるまい」
貝のように引きこもったままでは何も変わらない。
人間は殻を破り、自分から行動する動物なのだ。
それは地獄を見てきたルーズベルトにとっての、一種のポリシーに近い物であった。
そしてアメリカを始めとする連合国の人間と協力し、この殺し合いを撃破することが、ルーズベルトの目的。
日本人、ロシア人、ドイツ人、イタリア人は皆殺しで、自分の理想とするメンバーだけでこの主催に打倒するのだ。
「…しばらく待っていたまえ1システム。アメリカの底力とやらを君にお見せしよう…!」
決意を決めた大統領は、手すりに手をかけて赤色のボタンを押し、逆方向へ大きく旋回すると、そのままゆっくりと進み始めるのだった。
【A-2/森/一日目/深夜】
【フランクリン・ルーズベルト@アースA】
[状態]:いたって健康、高揚
[服装]:スーツ、ネクタイなどなど
[装備]:フランクリン・ルーズベルトの車椅子@アースA
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1
[思考]
基本:連合国の人間と協力し、この殺し合いを終わらせる
1:枢軸国は皆殺し。容赦はしない
[備考]
※名簿を見ていません。
※ルーズベルトの車椅子には制御がかけられています。まだ何が使えて何が使えないか確認していません。
※一応ルーズベルトの車椅子は支給品扱いです。
※「貝になるために生まれてきたのではない」と「日本人の頭蓋骨は二千年遅れてる」は実際のルーズベルトの台詞と言われています。
参考サイトht tp://meigennooukoku.net/b log-entry-853.html(規制避けのためにスペース入れました)
【麻生嘘子@アースR】
[状態]:恐怖
[服装]:ゴシック調の服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:他人の力を借りて生き残りたい。兄と合流したい。
1:兄さんに会いたい。
2:ひながいることに驚き
3:こーた…
[備考]※支給品は確認してます。
※A-2の森に山村幸太の死体が放置されています。ディパックもそのままです。
|006.[[秘密を持つ二人]]|投下順で読む|008.[[スマイル全開で明日を目指そうよ]]|
||時系列順で読む||
|&color(blue){GAME START}|[[フランクリン・ルーズベルト]]||
|&color(blue){GAME START}|[[山村幸太]]|&color(red){GAME OVER}|
|&color(blue){GAME START}|[[麻生嘘子]]||
夜の月の光が冷たく冷えきった地面を照らしている。
普段の街の光の中では味わえない風景。
そういったのを少なくとも現代の我々は───どこか自分が異世界に迷い込んだかのように錯覚し、その情景に酔いしれる。
そういった情景にひゅぅと吹く冷たい風や季節を感じさせる虫の声があると、なおさら良い。我々が普段の生活で忌々しいと思うものでさえも、ここでは「風流」になる。
かつての文化人たちはこういった自然の産物を度々詩に綴っていた。今も昔もこういったのを好む気持ちは変わらない。今これを読んでいる読者諸氏や、著者でさえも、そんなこと分かっていることなのである。
だが、この状況下において情景に目をやる者など、いるはずもない。ある男は、この状況下で眼に炎を宿していた。
それでこそ月の光のように優しさを持ち合わせたような明るさではなく、激情的でかつすぐ燃え尽きてしまいそうなそんな明るさ。
埃一つすらついていない、真っ黒のスーツに蝶ネクタイ。綺麗にセットした髪、眼鏡の老人───この殺し合いという場においてはまったくもって不釣り合いといっても過言ではなかった。
そして何より彼の異質さを目立たせているのは、大きな車椅子である。黒を基調としたデザインで、材質は素人目からしても良い物だと分かる。車輪はまた大きく、回してこぐことはよほどの力がない限り不可能である。
わたし達が思い描くような車椅子ではなくあたかもそれは、小型戦車のようだった。
男は炎を消さないことは無い。
月に負けじとするかのように光を出すために炎を燃やし続ける。
彼のただ一つの目的のために。
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「ほらこーた着いてきなさいっ!兄さんに言いつけるわよ!」
甲高い声が辺り一面に響いた。
A-2の森をとてとてと歩く小さな少女。髪は自分の母親にセットしてもらえたのであろう、綺麗な金髪を一本に結んでいる。服は黒を基調としたゴシック調。
そして、その瞳にはどこかしら余裕が見えた。
この少女、麻生嘘子はこの殺し合いに巻き込まれた参加者の一人である。
各参加者に渡された自分の身長の半分はあろうかというディパックを背負い、慣れない夜道を進んでいる。
そんな殺し合いの場に不釣り合いとも言えるような存在、嘘子は目の前の「こーた」に向かい苛立ちの視線を向ける。
「ははは、呼び捨てだなんてひどいなあ嘘子ちゃん…」
「うっさいわねえ!あんたは犬みたいなもんよ。犬の言葉はワンだけでしょっ!」「わんわん。これでいい?」
嘘子の目の前の「犬」───高校生山村幸太は苦笑いを浮かべながらも嘘子に優しく言った。
普通の高校生男子、それでこそ幸太程の年齢であれば知り合って間もない、年の離れた幼女にそう言われると黙ってはいない。もちろん彼の言う通り、幸太は犬ではない。何処にでも居そうなちょっとイケメンのサッカー部員である。
これも若い子のワガママだろう、と嘘子の頓珍漢な発言にため息を吐きながら幸太は背筋を伸ばす。
(このくらいの子はじゃじゃ馬って言うけどさ、じゃじゃ馬すぎるよ…)
幸太は学生服のネクタイを解き、上のボタンを一つ、二つ空けた。
(…なんか大変な事になったなあ…)
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彼女との出会いは数十分ほど前。
目を覚まし、ICレコーダーから流れた音声に呆然とし一人歩いていた幸太の目の前にいたのは、自分より幼い幼い子供であった。
幸太はそれを見て愕然とした。こんな幼い子どもまで参加させるなんて。この殺し合いは狂っている、と。
彼女を見捨ててはおけない。チーム戦だとは言っていたものの、放っておくワケにも行かず(合流した後、同じチームだと気づいたのだが)彼女を保護し、人が居そうな町に向かおうとしているのだが…どうも幸太には嘘子の対応はやりづらい。
どうやら麻生嘘子曰く。
彼女はあの鬼をも殺した伝説の男、麻生叫の妹だという。
あの麻生叫の姿とはまったく似つかない可愛らしい姿からは想像できない。だが、事実だと彼女は言い張る。
その姿は嘘とも言えないし、よもや嘘をつくメリットもないだろうと思い、幸太は信じることにした。
更に嘘子はもしかしたら自分の兄である叫がこの殺し合いに参加してるかもしれない、と幸太に告げた。確かに、その可能性はゼロではないだろうし。『あの』麻生叫を参加させない訳が無いはずである。
それを聞いた幸太は恐怖心を覚えた。恋人の咲によると自分の通う高校の空手部が活動停止になったのは麻生叫が『声がうるさかったから』壊滅させたからという事件が最近あったというからだ。普通ならばそんなこと嘘だと思うかもしれないが、麻生叫であるならばそれが平然とありえてしまう。
『長生きしたければ麻生叫とだけは関わるな』。それは幸太の通う学校の全学年の生徒、教師陣の常識であった。
幸太はそんな化け物が居る中で中で生き残れるのか不安にもなったし、尚且つもう一つの不安要素が出来た。
嘘子が自分のディパックの中に入っていたと述べながら叫の存在を示すために突き出してきた「参加者候補リスト」には、中村敦信や金本優、東雲駆に藤江桃子。以前同じクラスだった中野あざみといった自分の同じクラスの級友たちが名を連ねていたからだ。
ただそれも不安要素であったものの、そのリストの中で幸太が目を引いたのは自分の恋人花巻咲の名前があったことだった。
もしこれが同姓同名の別人ではなく、本物の咲であったら………泣いてしまってるかもしれない。殺されてしまったら?その時は自分が発狂してしまうかもしれない。いや、してしまうだろう。
そうなる前に彼女を救わなくては。
───でもどうやって?自分に人を救う力なんて、無いとは知っているのに。そうやって悩む幸太を察したかの様に、嘘子は幸太に対してニヤリと口角を釣り上げて口を開く。
───兄さんはチームとか関係なく、参加者全員を素手で殺そうとするだろうし、それが出来る強さを持ってる。見たところ、あんたの大事な人もいるみたいなんでしょ?あたしを連れていったらいいよ。兄さんには『感情』はほぼないけど、あたしの話だけは聞いてくれるの。
ね、兄さんを止めることができることはあたしだけなんだよ?兄さんだって、妹を殺しはしないはずでしょ?見つけたら真っ先にあなたの彼女を守らせるから。だから───
「あたしをその間守ってよね!こーた!」
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で、今に至ると。
嘘子の足取りは先程と比べてさらに軽くなっていた。
それは幸太に荷物を持たせたからである。幸太は仕方なく、はいはいと思いながらも嘘子の重かったディパックを持ち、歩みを進める。
「…兄さん…」
軽い歩調で足を進めていた嘘子が歩みを止めて、ぽつりと小さな声で呟いた。
幸太は先程までの嘘子の声の調子と違うのを疑問に思い、嘘子にその疑問を投げかけることにした。
「お兄ちゃんが、心配?」
「なっ…!!!!」
嘘子はその幸太の発言を聞いた瞬間、目を大きく見開いて、顔を真っ赤にしながら必死に否定する素振りを見せる。
「だっ、大丈夫に決まってるでしょ!あの兄さんよ?素手で熊をも倒す兄さんよ?色々犬が言うんじゃないわよ!」
───心配なんだろうなあ。年頃で素直になれないだけの子。
普通に生活していればきっと、幸せなはずだったろうに。
(…やっぱり間違ってるよな。こんなこと。なんとかしなくちゃ)
幸太はゆっくりと上を向く。空に輝く星が、不釣り合いな程に光っていた。
その不釣り合いさが、なおさら不気味に思えたけれど、きっと大丈夫なはずだ。
まさか本当に殺し合う人なんて、いないはずだと信じたい。
幸太は心の奥底で、そう考えていた。
その時である。
「HELLO,ボーイ&ガール。いきなりの質問ですまないが…君たちはChinese(中国人)かね?Korean(韓国人)かね?それとも…Japanese(日本人)かね?」
低い、しゃがれた声がした。二人の右斜め後ろの方面からであった。
二人が振り返ると、そこには老人がいた。
頭をしっかりとセットしていて、素人目に見ても高級だと分かるスーツに蝶ネクタイ。おおよそその格好はこの殺し合いには不釣り合いとも言えた。
そんな謎の老人は顔を下に向けながら二人に問いかける。その声色はまるで朝食のメニューを妻に尋ねるように軽い様子だった。
(…何を質問しているんだこの人は)
幸太は質問の意味がどうもわからなかった。いわゆる人種差別者なのか、ただ単なる疑問か。殺し合いにおいて必要な質問だとは感じなかった。
そもそも殺し合う気であれば遭遇した人物全員に殺意を向ける方がいいだろうからだ。
殺し合うつもりなどなく、ただ単純な疑問なのだろうか。よく見ればこの老人も鉄製の首輪をつけているから参加者なのは分かるが一体なんなのだろうか、と。
何より気になったのはその下半身だ。黒く光る車椅子に乗っている。
それだけでこの殺し合いに相応しいとは言えないだろう。それで人を殺すことなど、出来るはずもない。
「はーん!見て分かんないのかしらね!あたし達はじゃぱにーずよ!日本人!」
「そうかねそうかね。それはなんと《運がいい》」
目の前の老人に、嘘子が当然のようにやや小馬鹿にしたような表情で言い放つ。
それを聞いた老人は、安堵した様な声色で、しかしどこか怒気を含めたように、二人に返した。
その雰囲気は、平凡な世界であるアースRでは、感じることが出来ないモノ。
「嘘子ちゃん逃げよう」
「え?」
「逃げようっ!!!!」
幸太が叫ぶ。自分の第六感が体内に赤信号を知らせているからだ。
嘘子に対して先程までの優しい調子とは変わって強い口調で言い放つ。
だがそんな幸太に対し嘘子は驚き、その場に立ち尽くしてしまっている。
その二人を横目にしながら、目の前の老人はゆっくりと顔を上げた。
「私はフランクリン・デラノ・ルーズベルト。君たちの奴隷の国の大統領だよ」
その表情に憎しみと楽しみを灯らせながら。
アメリカ合衆国第32代大統領、フランクリン・ルーズベルトは二人の前にその顔を見せた。
そして車椅子の手すりの部分からゆっくりと、白銀に光る刃を出しながら、また軽い調子で二人に言った。
「ok.やっぱり最初は彼に限るね」
ルーズベルトはそれを右手に持つと、左手の方で膝のところにあったボタンを押した。
するとルーズベルトの車椅子からエンジン音がなり出す。
まるで原付のそれのような音である。
そして車椅子の速度とは思えない速さで、二人に迫った。
「くそっ!」
幸太はそれを確認すると嘘子を抱き抱え、横方向へと飛びよけた。
嘘子はまだなんのことか理解できないような顔をしている。先程と違ってはっきりと不安や焦りすら、伺えた。
ルーズベルトは避けられたことに舌打ちをするも、また二人の方を向き、口を上に歪ませながらも、またゆっくりと言い放った。
「yellow monkeys(エテ公ども)、逃げないでくれないか?どうもコイツの調子が今日は悪いみたいでね。気分が悪いんだ。早めに終わらせたい」
やばいやばいやばいやばいやばい。どうする。どうすればいい。体内のアドレナリンの大量放出によって、自分の鼓動が早くなり、汗がにじみ始めた。
そもそも、フランクリンルーズベルト?あのニューディール政策とかした?世界史の資料集にも居る、あの―――?
いやそれは置いておくとして、まさか、本当に殺し合う人間がいたなんて。内心多少嘘だと思ってたのに。夢だと思っていたのに。幸太の脳内がぐるぐるぐるぐると回り出す。
「こ、このクソジジイっ!兄さんに頼んだらあんたのその腹立つ顔を【自主規制】してやるんだからね!!!」
嘘子は伏していた地面から立ち上がると、震えながら捨て台詞の様にルーズベルトに言った。
完全に虚勢だと分かる。ただ嘘子も、この殺し合いに巻き込まれてしまったことへの戸惑いと、そして本当に乗る人物がいた事への不思議さ。なにより自分を殺そうとしたことに対しての怒りが、彼女を突き動かした。
「HAHAHA…元気がある事はいい事だよガール。ただ、年長者に使う言葉ではないね」
嘘子の言葉を受けてルーズベルトは剣を改めて持ち直し、左の手すりの下のレバーを引くと、二つの大きな車輪の軸からチェーンソーらしきものが出た。
金属音を上げながらチェーンソーが動き出す。ここまで来たらもはや車椅子とは言えなかった。
ルーズベルトはそれが出たのを確認すると年齢からは想像できない様な声色で、はっきりとした殺意を二人に向けながら叫ぶ。
「Remember pearl harbor!Remember Midway!(真珠湾を忘れるな!ミッドウェーを忘れるな!)」、と。
ルーズベルトが先程よりも更に速い速度で真っ直ぐ二人に迫る。
鬼のような形相で、何かにとりつかれたように間違いなく二人の命を奪うために。
「嘘子ちゃん!!」
体がいつの間にか動いていた。幸太はすぐに立ち上がり嘘子を突き飛ばす。
抱きかかえる時間もなかった。彼女を守るために、こうするしかなかった。それにもし抱きかかえていたら、あのチェーンソーの餌食になっていたかもしれない。
そう思いながら。
「suck my dick,Jap!(くたばれ!糞日本人!)」
さらに叫んだルーズベルトは持っていた剣を剣道の突きのように構えて、やがてその剣を前に突き出した。
狙うは、目の前の男の、この『日本人』の急所───心臓。
「…こーた?」
突き飛ばされて地面に伏しながら、顔を上げる。
その嘘子の目の前に飛び込んだのは、胸を貫かれている、山村幸太の姿。
ルーズベルトの剣から真っ赤な鮮血が垂れている、その姿だった。
「日本人とは本当に頭がpussy(かわいそう)だ。流石我々白人と比べて頭蓋骨が二千年遅れてるほどはある」
ルーズベルトはその剣を更に深く、深く幸太の胸に突き刺していく。
幸太の顔は苦痛に歪み、口からは血がこぼれ出した。
学生服は黒く染まっていき、顔は青白くなっている。
その姿はまさしく、死ぬ寸前の人間の姿であった。
「こーたあっ!」
嘘子が叫ぶ。幸太を心配して。助からないとは分かっているが、それでも叫ばずにはいられなかった。
幸太はそれを見ると、人生で体験したことのないような痛みを必死に堪えながら、振り絞るように嘘子に口を開いた。
「…逃げろ…僕は、もう、ダメみたいだから…君の兄さんに…麻生叫に…花巻咲を、守って、って…言ってくれ」
「でも…でも」
「…行け…早く行けえええええっっっ!!!!」
幸太の声にならないような声を聞き、嘘子は何かを感じ取ったのかその場から走り去った。
恐怖に怯えながら、これは嘘ではなかったと知りながら、嘘子は闇の中に消えていった。
自分の兄にさえ会えれば、自分の兄にさえ会えればきっと大丈夫なはず。
それだけを信じながら、嘘子は走るのであった。
(…咲、ごめんな。こんな彼氏で。守ってやれなくて…ごめんな)
そんな嘘子の姿を確認した幸太はゆっくりとその瞳を閉じた。
自分の愛する、心優しくて自分が誇りに思う大切な彼女に懺悔しながら。
そしてその優しさを兼ね備えた瞳が開かれる事はもうなかった。
【山村幸太@アースR 死亡確認】
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「エンジンの調子が悪いな…追いつける距離だがまずはスコア1だね」
胸を貫いた目の前の男が息絶えたのを確認してから、ルーズベルトは手に持っていた刀を男の胸から引き抜いた。
男が糸の切れた人形のように崩れ落ちたのを見ず、ルーズベルトは視線を走っていった少女の方へやった。
あの走り去った少女を殺すのは容易かったが、車椅子の調子がどうも今日は悪い。
本当は対戦車ミサイルでも打ってさっさと殺したかったが、何故か押しても発射されなかった。
それにもっとこの車椅子の加速速度は早いはずであるし、まだまだ色々ある筈なのに、それが壊れたかのように使えなくなっている。
おそらくこの主催に「規制」されてしまったのだろう。
ルーズベルトの車椅子は冒頭で述べたかのような戦車、いや戦艦のような機能が多く搭載されている。それらをすべてそのままにしてしまうと、他の参加者と勝負にならないと考えたのだろう。
だがそれは許容範囲だ。それよりもルーズベルトには、一つの確固たる目的が存在していた。
「Axis Powers(枢軸国)に…Japに鉄槌を与えねばならんのだ」
アースAの世界軸における「第二次世界大戦」は、アースRの歴史で教わるような「第二次世界大戦」とは、大きく異なる。
アースRにおけるフランクリン・ルーズベルトは第二次世界大戦中のアメリカの大統領でアメリカを勝利に導き、おそらく読者諸氏も中学の歴史などで習った「ニューディール政策」を行ったりした、今もアメリカの誇る名大統領の一人として扱われる人物である。
しかし、アースAでのルーズベルトの境遇は違った。
勝利が確実と思われた日本とのミッドウェー海戦において、それまで劣勢であった日本が突如現れたロシアの援軍により息を吹き返し、アメリカ海軍は壊滅的被害を受けたのだ。
それをきっかけにしてアメリカの各地の諸拠点は奪われ、やがて日本軍の攻撃は本土にも迫ることになった。
日本軍が本土に上陸するようになり、アメリカ各地は戦場となった。
多くの国民が死んだ。
多くの罪なき国民が死んだのだ。
愛していた土地は奪われ、かつてアメリカンスピリットを持ち開拓をしていった誇り高きアメリカ人は奴隷のような生活を送ることになっていた。
ルーズベルトは、それをどうしようもできず、まるで植民地化を受け容れるような講和条件を飲み、責任を取るために大統領を辞任した。
しかし、ルーズベルトはまだ諦めていなかった。元から強かった日本への嫌悪感は更に増し、それはいつからか彼の性格を更に歪めていくようになっていった。
まずこの状況を打開するためにフリーメイソンなる秘密結社に協力を求め、車椅子の改造とそれに耐えれるような体に手術を受けた。
将来ルーズベルトが目指すのはアメリカ全土の国民の身体能力の向上化、国民皆兵である。
その身体能力強化のための手術を、身を持って体験したのだった。
手術は難航し、何日にも及んだ。
なんとか最終的には手術には成功したが、その後数週間もの間体内をムカデが蠢き続けるような激痛に襲われた。
しかしルーズベルトはそれに耐えた。
日本を、ロシアを、イタリアを、ドイツを。あの憎き枢軸国を倒すために、という執念だけで耐えきった。
老体に鞭を打っているようなものだとは分かる。だが、それでもやらねばならなかった。
彼はあのミッドウェーの敗戦を聞いたあの日から。
あんな下劣な講和条件を受け入れた日から。
ただ枢軸国、特にあの日本を倒し、アメリカの独立を果たすということだけを目標に生きてきているのだ。
「チーム戦なぞ知らん。私の味方は連合国だけなのでね」
ただでさえ老齢であったのに手術で改造された自分の命は長くないだろう。
だがこの命尽きるまで、戦い続け、そしてアメリカに帰らなくてはならない。
「私は貝になるために生まれてきたのではないのだ。それを分からせてやらねばなるまい」
貝のように引きこもったままでは何も変わらない。
人間は殻を破り、自分から行動する動物なのだ。
それは地獄を見てきたルーズベルトにとっての、一種のポリシーに近い物であった。
そしてアメリカを始めとする連合国の人間と協力し、この殺し合いを撃破することが、ルーズベルトの目的。
日本人、ロシア人、ドイツ人、イタリア人は皆殺しで、自分の理想とするメンバーだけでこの主催に打倒するのだ。
「…しばらく待っていたまえ1システム。アメリカの底力とやらを君にお見せしよう…!」
決意を決めた大統領は、手すりに手をかけて赤色のボタンを押し、逆方向へ大きく旋回すると、そのままゆっくりと進み始めるのだった。
【A-2/森/一日目/深夜】
【フランクリン・ルーズベルト@アースA】
[状態]:いたって健康、高揚
[服装]:スーツ、ネクタイなどなど
[装備]:フランクリン・ルーズベルトの車椅子@アースA
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1
[思考]
基本:連合国の人間と協力し、この殺し合いを終わらせる
1:枢軸国は皆殺し。容赦はしない
[備考]
※名簿を見ていません。
※ルーズベルトの車椅子には制御がかけられています。まだ何が使えて何が使えないか確認していません。
※一応ルーズベルトの車椅子は支給品扱いです。
※「貝になるために生まれてきたのではない」と「日本人の頭蓋骨は二千年遅れてる」は実際のルーズベルトの台詞と言われています。
参考サイトht tp://meigennooukoku.net/b log-entry-853.html(規制避けのためにスペース入れました)
【麻生嘘子@アースR】
[状態]:恐怖
[服装]:ゴシック調の服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:他人の力を借りて生き残りたい。兄と合流したい。
1:兄さんに会いたい。
2:ひながいることに驚き
3:こーた…
[備考]※支給品は確認してます。
※A-2の森に山村幸太の死体が放置されています。ディパックもそのままです。
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