「はぁ!?殺し合い!?なんでまた私が!」 先ほどハイタッチを決めたブルックリンはサラからこのバトルロワイアルの説明を一通り聞いたあと大袈裟に驚いた。 あらかじめ配られたICレコーダーに入っていたあの音声をまた再生することは不可能である。ゆえに大まかなモノになってしまったのは確かだが───ブルックリンの頭脳で理解するのには不自由はなかった。 説明していたサラとしては、理解してくれてよかったと安堵すると同時に、ブルックリンがアリゾナ州立大の院生であることを知り、驚きと同時に彼女と協力することの意義を見出していた。 ブルックリンの科学力は確かだ。説明をする中で詳しくブルックリンのことを聞いていると、一般教養として様々なことを身につけたサラでは理解できない用語が出るわ出るわで大慌て。彼女が居てよかったと同時に、ブルックリンが物事に対して感情的になりすぎないようにセーブをかけなくては、ともサラは考えていた。 すべては元の世界に帰るため。それにはブルックリンの力が必要だ。 そんな思考を巡らせていたサラを差し置き、ブルックリンは相変わらず不機嫌そうに不満をぶつくさ言い放つ。 「それにさ、何これ。私の研究対象ちゃん達がたくさん居るじゃないのふざけてんの!」 サラが改めて見せた参加者候補と思われる人々にはブルックリンの研究対象としている人々が多く存在していた。 三ヶ月前、アジア圏で初の両性具有となった日本人、キョウコ・タニヤマに緊張で性別が変わるという特異体質を持つフタバ・タジミ。ブルックリンの研究において真っ先に調査を行ってきた人物たちだ。 彼女(?)らを失うのは研究において痛い。見つけたら保護する必要があるだろうとブルックリンは考えていた。 それと、彼女の旧友であるリカルド・オーライリーも保護対象とすべきだろう。 心優しい青年で、大学のサークル仲間だった彼女と結婚寸前まで言っていたらしいが、『ハッピージャンキー』であるマリナ・エンドルフィンに彼女を誘拐され廃人にされた挙句性転換の実験体として体の至る所に男の面影と女の面影を持つクリーチャーにされてしまったという。 リカルドは心を痛めていたようだし、もしかしたら精神を病んで殺し合いに乗っているかもしれない。注意をしておくべきだろう。 「えーと…知り合いの方が居らっしゃるんですか?」 「そーよ。それに、私の敵たちもたーくさん。薬物で違法な性転換者を増やしてる『ハッピージャンキー』、マリナ・エンドルフィンに、『オトコノコスレイヤー』のケンイチ・フジキ。そんぐらいかなー。まーあと、個人的に嫌いな頭のかったい馬鹿親父のレイ・ジョーンズ!しかも2人!マジかよって話よね…」 「ジョーンズ警部の知り合いなんですか!」 サラが食いつく。 よもやここであのジョーンズ警部の名前を聞くとは思ってはいなかった。確かに二人も居るのには疑問に思ったが、共通の知人がいるかもというところに驚きを隠せなかった。 「警部?うちのジョーンズは大学教授よ!バリバリの。生命倫理を研究しててね、『人間はゾンビになってしまっている!』…って意味わかんないことやってる馬鹿よ」 「あ…そうでしたか」 勘違いしてしまった、とサラは少し恥ずかしそうにブルックリンから目を逸らした。 確かにレイ・ジョーンズ警部は通称『ゾンビ・ポリスマン』と呼ばれているほど不死身で何処にでも現れる男だが、大学教授ではない。 おそらく二人とも同姓同名の別人であろう。 サラもまさかこんな早とちりをするとは、と少し悔やんだあとこほん、と一息ついて会話を続ける。 「あと私の知人は…MrクロダとMrsニシザキですね。それに先ほど申したジョーンズ警部。あとは以前あるじさまをご来訪なさった方々がちらほら…皆さま悪い方では無いかと…」 「ほうほうなるほどね。まーそこんとこ覚えとくわ」 そう言うとブルックリンはサラの方から目を逸らして線路の方へと向かい始めた。 南北に渡り伸びている線路───だが、その線路はずっと続いているという訳ではなく、数百mほど先のトンネルの中で途切れてしまっている。 疑問に思っていたが、これはどういう事だろうかとブルックリンは考える。 この駅はあくまでもただのオブジェなのだろうか。だとしたらただの道楽目的で自分たちは連れてこられてしまったのだろうか、と。 「ブルックリンさん危ないですよ!電車が来たら、白線に入らないと…」 「細かいことは抜き抜き」 「でも…」 「chinga!(あーもう!)『こういう場所』でしょ?今更ルールなんて通用しないっての」 …順応早すぎやしないか?とサラは考えていたが今頃思っても仕方ない。 ブルックリンはサラの言葉に耳を貸すこともなく周りを見渡し続ける。 何をしているのだろう。またブルックリンが気になる電子機器でも見つけたのだろうか。 サラは素人目線からそう考察していたが、しばらくしたあとにサラを呼び出した。 「…はぁ。なんですか?」 「いや、これジャパンの駅よね?形式的に」 「んーまぁ少なくとも私の母国ではこんな駅ではありませんね」 「え、サラ生まれどこ?」 「イギリス生まれです」 「なるほどっ。どーりで言葉遣いが丁寧な訳か」 「英国人が皆様美しい英語を話すのは固定概念ですよ…」 せいぜいあんな丁寧な英語を喋るのは皇族たちだけ、と付け加えようとしたが、確かにこの駅の姿はサラの知っている駅ではなかった。 でかでかとプラットフォームのベンチの近くに設置されている『時刻表』には、すべてにおいて出発時刻の隣に『特急』と書かれている。 イギリスにおいて『普通』、『快速』、『特急』列車は存在していない。黒田と西崎が屋敷にきた際に、イギリスで戸惑った事として鉄道の駅の事について述べていたが、その知識が今役に立つとは。 心の中であの二人組に感謝をしながら、サラは頭の中を巡らせる。 やはり日本式の駅、ということになるとこの会場(地図を見る限り島なのかもしれないが)は日本ということになるのだろうか。と、なるとこれだけ大勢の人数を呼び寄せるために誘拐したのならば、優秀な探偵か誰かが場所を引き当ててくれるのではないか、とも考えられる。 しかし、まだ助けが来ない、来る気配がないということは単純に誰も気づいていないのか、この場所は特定されないような位置に存在している島なのか。 では、一体なぜそんな目的で自分たちを集めたのだろうか…? 「!サラ!いま何時?」 唐突な声。ブルックリンの声だった。 腕に巻かれていた、自分の主が誕生日に買ってくれた銀でできた腕時計を見る。深夜2時59分。夜中ではあるが、駅のライトが明るいためか、周囲はよく見えた。 先程の時刻表を見直す。この『前』に電車が止まるのは一番近い時で深夜3時。それ以降は4時間おきに来るようだ。 つまりのところこの時刻表が正しければ、電車が来る筈である。 「3時です。電車、来るんでしょうか」 短針が『3』を指す。 もし時間通り、この駅がレプリカでなかったらトンネルの向こうから電車が来るはずだが─── 「どうだろうねー…あ!来た!」 プァーンという音を立てながら、トンネルの闇の中から電車が突如として現れた。 トンネルの先は見えないので、まるでワープでもしてきたようにも見えたが、そんなことはありえないとサラは少し考えた。 一方のブルックリンは止まった列車をベタベタ触りながら子供のようにはしゃぎながらサラに話しかけた。 「OH!結構キレイじゃない!」 「旅客列車キングトレーサー…ですか。まさか旅客列車が来るとは…」 『旅客列車キングトレーサー』。二人の前に来たドアの上の方にそう書いてあった。 奇しくもサラの知人の黒田が以前知人を訪ねに乗った旅客列車であり、二人の犠牲者を出すことになった事件、そして黒田翔琉のシリーズの6巻『殺しの汽笛が鳴る』の舞台にもなった旅客列車である。 勿論そこまで黒田のことには詳しくないサラは気づくことはなかったのだが。 「んじゃとりあえず乗ってみるわよ!」 ブルックリンがそう言うとドアの取っ手を引いて、中に入ろうとする。 電車では珍しい引き手のドア。あっさりと入ろうとするブルックリンにサラは一瞬あっけに取られながら、用心のために止めようとする。 「ブルックリンさん、もしかしたら中に何かあるかもしれないです。用心して進みましょう」 「大丈夫大丈夫!女は度胸、なんでも試してみるもんだって、ジャパンのことわざにもあるわよ!ほら!」 「ちょ、ちょっと!」 ずかずかと入っていくブルックリンに、サラははぁ、と一つため息をついた。 この自由人を止めようとするのは難しい。だが、彼女は間違いなく脱出の鍵となる人物になりうるのは違いないはず。 (あるじ様…サラは、サラはうまくやれてますでしょうか…) 自分の主人の顔を思いだしながらちょっと恋しくなったが、一度決めた道だ。仕方が無い。ブルックリンの名前を呼びながら、サラもその列車の中に肩を落としながら入っていくのであった。 【H-1/旅客列車キングトレーサー車内/一日目/黎明】 【サラ・エドワーズ@アースD】 [状態]:健康 [服装]:メイド服 [装備]:S&W M29(6/6) [道具]:基本支給品、コスモスティック@アースM [思考] 基本:首輪を取って、あるじ様の元へ帰る 1:ブルックリンと協力 2:いざというときは応戦しなきゃ… 3:この殺し合いの目的は? [備考] ※作中の三人以外にもあったことがある人物、または平行世界の同参加者がいるかもしれません。 少なくともブルックリンのことは知らなかったようです。 【ブルックリン・トゥルージロ@アースP】 [状態]:怒り [服装]:白衣 [装備]:サラのICレコーダー [道具]:基本支給品、不明支給品1~3 [思考] 基本:首輪をさっさと取って、サラの煎れたコーヒーを飲む 1:研究対象(TS、両性具有など)は保護したい 2:サラと協力 3:マリナとフジキドには要注意ね [備考] ※名簿を見ました。 ※列車は駅のトンネルとトンネルをワープしてきます。なのでバトルロワイアルの会場に線路は無く、乗ってる間の列車内はずっと真っ黒で、長いトンネルに居るような視覚です。 次の行き先がどこなのかは次の書き手様にお任せします。