Dクラッカーズ

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*Dクラッカーズ |作者|あざの耕平| |イラスト|村崎久都| |レーベル|富士見ファンタジア文庫&br()(富士見ミステリー文庫からの復刊)| |分類|禁止図書(最危険指定)| |巻数|7巻+短編2巻+特別編1巻(完結)&br()(富士ミス版は8巻+短編2巻)| |ジャンル|現代異能者アクション| &size(20){&bold(){「景ちゃんは健気でいじらしい萌ヒロイン」}} ***&u(){登場する幼馴染} **姫木梓(ひめき あずさ) |年齢|16歳 高校二年 ※作中で三年に進級| |幼馴染タイプ|再会系| |属性|勝気、格闘系、ポニーテール、ツンデレ(幼少期)、腹黒(幼少期)| |出会った時期|小学校低学年の頃|  小学生の頃、景と心を通わせあった幼馴染。両親の都合でアメリカに引っ越し、景と離れ離れになったが、七年ぶりに帰国、葛根東高校に編入し景と再会する。自分に冷たい態度を取る景に落胆していたが、彼が周りで起こるドラッグ絡みの事件に関係していることを知り、事件を調べるうちに葛根市を舞台にしたカプセルを巡る戦いに巻き込まれていく。  活発で健康美溢れる少女で、ポニーテイルがトレードマーク。子供の頃は、我がままで攻撃的な性格だったが、現在は人に合わせられる分別がついている。一方、負けん気が強く、面倒見の良いところは変わっておらず、考えるより行動する思いっきりの良さがある。しかし、幼少期の経験からか、やや人と仲良くなることに罪悪感を感じるナイーブなところもある。事件を追ううちにコンビを組むことになる千絵とは、頭脳労働担当の彼女に対して、フォワードとして荒事を担当する。実際、アメリカで護身術を学んでおり、並みのチンピラなら簡単に伸してしまうくらいの格闘能力を持っている。また、鉄アレイを仕込んだバッグを持ち歩き奇襲を仕掛けたり、不利な場面では即座に脱出経路を確認したりと、有事の際の判断力も高い。  景のことを本当に大切に思っており、彼と再び関係を戻したいと考え、カプセルの世界に足を突っ込んでいくことになる。最初は七年前、景を一人残して日本を去ったことへの償いの気持ちという後ろめたさがあったが、事件を通して景の心に触れていくうちに、景への恋愛感情を確信していくようになる。景のことになると、普段の思いっきりの良さがなりを潜め、景との関係をからかわれてあたふたしだしたり、優柔不断になったりと乙女らしいところを見せる。  小学生の頃、不仲の両親の間で、鬱屈した思いを抱え込んでいた所に、いじめられっ子だった景を助けたことから仲良くなる。以来、互いを唯一信頼できる存在として行動を共にする。景を我がままで振り回していたが、それでも健気に笑顔を見せる景の存在に安心感を覚えていた。同時に景がより自分に依存し続けるように、いじめを助長するような行為を裏で行う歪んだ感情も抱いていた。そのことを、再会した今でも罪悪感として引きずっている。  景の家の離れの小屋が二人の秘密基地で、そこで二人だけの王国と称したごっこ遊びを繰り返していた。そこでは梓は絶対無二の女王で、景は王子であり騎士であり、女王に恋焦がれる悪い魔法使いであった。実は、そのごっこ遊びが物語の根幹に深く関わっている。 **物部景(もののべ けい) 年齢:16歳 高校二年 ※作中で三年に進級  この作品の主人公。葛根東高校の生徒。華奢な体型で、少女のように整った美貌の少年だが、他人を寄せ付けない冷たい雰囲気を纏い、性格も根暗で無愛想ため、校内でも浮いた存在となっている。いつも図書室にこもっていることから、「図書室の住人」と揶揄されている。  その正体は『ウィザード』の名で呼ばれる悪魔使い。自身も重度のカプセル中毒者で、青いウインドブレーカーを纏い、正体を隠しながら、葛根市の裏でカプセルの力を濫用する悪魔使いを狩り続けている。名の知れた強力な悪魔使いを打ち負かしてきたことから、カプセルユーザーの間で最強の悪魔使い候補の一人として勇名を馳せている。操るのは『影』の悪魔で、ワイヤーで拘束された巨大な甲冑のようなシルエットをしている。影を自在に伸ばして相手を攻撃することができ、罠を仕掛け、誘い込み、相手を仕留めるトリッキーな戦い方を得意とする。ただし、光源の下、影ができる場所でないと召喚できないという特徴がある。  冷静沈着を心掛け感情を露にせず、相手を突き放すような皮肉めいた喋り方をする。しかし、本来は心優しい少年で、再会した当初は梓にも冷たい態度を取るが、これも梓をカプセルの世界に巻き込まないための配慮で、裏で梓を護るために手を尽くしていた。梓のことは本当に大切に想っており、彼女のことが絡むと普段の冷静さを忘れて、怒りを露にしたり、梓に不意を突かれると、生来の素直な少年の顔を覗かせたりする。  子供の頃は、泣き虫のいじめられっ子で、いじめから助けてくれた梓に懐き、行動を共にするようになる。梓の我がままに振り回され、散々な目に遭っていたが、何があっても笑顔で付き従っていた。彼の梓への想いは、非常に健気でいじらしく、今でも二人の秘密基地を維持し、梓との思い出を大切に保管している。 &bold(){&u(){その他関係の深いキャラ}} **海野千絵(うみの ちえ)  年齢:16歳 高校二年 ※作中で三年に進級  梓のクラスの委員長で、葛根東高校実践捜査研究会会長。自称探偵の行動的(やや暴走気味)な少女で、独自にカプセル絡みの事件の捜査を行っていた所、梓と行動を共にするようになり、良き相棒となる。 **水原勇司(みずはら ゆうじ) 年齢:16歳 高校二年 ※作中で三年に進級  景たちの同級生で、女好きで軽薄な印象の少年。カプセル関連の裏事情に詳しく、情報収集力に長けており、『ウィザード』として戦う景の戦いをサポートしてきた。 ***&u(){梓と景の思い出と、景ちゃんの健気すぎる台詞とエピソード} &bold(){&u(){梓サイド}} -戦いの後、景に負ぶわれて家路に着く梓 --昔は私が負ぶってあげた。苛められて怪我した景ちゃんを、わたしが家まで負ぶっていった。 --景ちゃんが恥ずかしがっても、怪我してるんだからと強引におんぶした。わたしが負ぶっている限り、この可愛らしくて優しい同胞は、わたしのものでいてくれた。 --景ちゃんは黙々と町を歩いた。わたしは夢うつつのまま、じっとして身を任せていた。 --この感触を胸に刻み込んでおこう。 --噂や幻なんかじゃなく、この感触を信じよう。 --二人の接触した、この手触りを。 -事件の後、景の家の離れに久々に立ち寄った梓。人の手が入り整頓されている小屋の中の様子に、景が自分との思い出を大切にしていてくれていることに気付き、上機嫌になる梓 --梓は元気よく請け負うと、箱を開け、中からクッキーの缶を取り出して千絵に放り投げた。 --「食べよう」 ---勝手にまずいわよと慌てる千絵に --「よい、わらわが許す!」 -カイムとの戦いで、襲われた梓を救い出した景 --「あの女は、君を喰おうとしやがったんだぞ! ユーザーですらない君を、奴は――」 --――景ちゃんは、 --景は自分を襲ったからカイムに怒っているのではない。梓を傷つけたから怒っているのだ。そうと知って、梓は、いまさっき景に感じたばかりの恐怖と違和感が風化するのを感じた。 --――なんて馬鹿な、単純な女。 --二人でいる。隣に景がいる。景と触れ合っている。それが梓の、恐怖に打ち勝つ十分条件だった。 -引き返せないところまでカプセルに関わってしまった梓に、声をかける景 --「何かあったら連絡してほしい。僕は自分の目的を諦めることはできないけど――君のことは、絶対に守ってみせる」 --真剣な、そして真摯な表情だった。 --梓はぼうっとしたまま景の背中を見送った。 --それからも、しばらくぼうっとしたままだった。 --二十分後、千絵と水原が店を出て、驚いて梓に声をかけるまで、ずっとそのままだった。 -一つだけ絶対に間違いないことがある。 --それは景のことを諦めてはいけないということだ。 --たとえ景自身が自らのことを諦めても、梓は最後まで彼のために全力を尽くしてみせる。 --昨日の景の表情を思い出す。自分に手を引かれて、どう対応すればいいのか困惑を隠しきれない表情だった。景が命を投げ出しても、梓が手を引いたとき、彼はまたあのような表情を見せてくれるかもしれない。 -敵の魔の手が近づき、電話で梓に注意を促す景の言葉に --ムキになって心配する景が、おかしくて嬉しくて堪らなかった。それに景は気づいてもいなかっただろうが、あのとき確かに言ったのだ。 --――「梓ちゃん」って言った。「姫木さん」じゃなくて。 -「わたしが褒めてるのは、ウィザードじゃなくて、景ちゃんだもん」 --「僕は『ウィザード』だ」 --「ううん」 --「あなたは『物部景』だよ。景ちゃん」 --――わたしの大事な幼なじみだ。 -「気にしないで。もし景ちゃんが間違えてるなら、わたしがきちんと、責任を持って、その間違いを正させるから。だから――」 --「景ちゃんに会わせなさい」 -「わかってないわね」 --「わたしが選んだのは、『王国』なんかじゃない。『景ちゃん』よ」 &bold(){&u(){景サイド}} -クリスマスの夜、街中で発作を起こしたところを梓に助けられる景。礼を言った後、冷たく追い払おうとするが、一緒に夕食をしないかと必死に誘う梓に、 --何でもない口調を必死に心がけているようだが、成果は上がっていなかった。少し気をつけて聞けば、梓の鼓動の音まで伝わってきそうな声だ。 --手に取るようにわかった。手に取るようにわかる自分に驚いた。 --「……ああ」と景は思わず返事をした。直後に後悔したが、もう遅い。とたんに梓の声が軽くなり、「シチューだよ」と弾むような返事が返ってきた。そうなるともう、景には反駁の余地がない。 --――なんて様だ。 --根暗で冷血漢で無愛想な物部景が聞いて呆れる。 -クリスマスツリーのライトアップの光を受けた梓を見て、 --明滅する幾多の明かりを受けて、十七歳の少女のシルエットが逆光に浮かぶ。 --「きれいだね」 --景は離れた位置に立ち尽くし、光の下にいる彼女に見とれた。 --不覚にも、見とれてしまった。 --――まったく。なんて様だ。 -離れの小屋で、クッキー缶を開ける景 --中身はない。空だ。代わりに小さな紙切れが一枚入っている。紙切れの裏側にはサインペンで一言、「苦しゅうない」。 --フードの奥に隠れた景の唇が掠れるように笑った。 --このカードは、最初の事件が終わったあと、何者かによってクッキーとすり替えられていたものだ。 --たぶん犯人は、お腹が減ってクッキーを食べたのだろう。いや、お召しになったのだ。 -梓への書置きについてからかわれた景 --「あの書き置きは僕の本心だよ」 --「僕は彼女を護りたい。心から護りたいと思っている。だからいまは、それ以外のことを考えないようにしているんだ。さっき、彼女のことが気にならないって言ったのは、そういうことなのさ」 -離れの小屋で梓との記憶に思いを馳せる景 --自制の弛んだ脳裏に、古い思い出が次々と浮かび上がってきた。そうした思い出のすべてに、懐かしい少女の笑顔があった。 --七年前、景はクラスでいじめを受けていた。しかし、少女だけが、いついかなるときも、彼の側にいてくれた。 --乱暴で、自分勝手で、喧嘩っ早くて、でも寂しがり屋で。 --大好きだった。 -再会した当初の景の内心 --廊下を反対側から向かってくる女子グループ。その中に、梓がいた。 --景にとって同級生の女子――女子に限らないのだが――など、個人個人の識別すら必要としない「他人」に過ぎない。それが、曇天の薄暗い廊下で、これだけの距離があるというのに、梓だけ一瞬で、「彼女だ」と察知できてしまった。 --しかも、察知した瞬間に脳裏が梓のことで占められる始末だ。 --――おいおい、なんて様だ。 --振り向いて彼女の反応を確かめたい。 --その欲求は、自制心には絶対の自信を持つ景ですら、危うく押さえきれないほど衝動的で強かった。 --――冗談じゃないぞ、物部景。いや、ウィザード。彼女と関わる必要も資格も、お前には、まったくないんだ。 &bold(){&u(){子供の頃}} -景のお気に入りのクッキーの思い出 --あのころの景はこのクッキーが大のお気に入りで、月に一缶だけ小遣いをはたき、一日一個ずつ大切に食べていた。それを知っている梓は、わざとクッキーをほしがった。景がハラハラ見守る前で、クッキーを手づかみに食べたり、缶を隠して知らんぷりをした。「梓ちゃん」と景が泣きついてくるのが楽しくて、わがままな女王様は、ことあるごとに悪戯をしたのだ。 -周囲を敵視し、二人で寄り添っていた梓と景 --わたしと景ちゃんの二人にとって、そこは戦場以外の何ものでもなかった。 --あそこは空気が腐っている。あそこでじっとしていたら腐って死んでしまう。 --わたしはそう言って、何度も景ちゃんを外に連れ出した。景ちゃんは一度も反対しないで、わたしの言うことに従った。 --そんなときに行くのは、決まって景ちゃんの家の離れだった。そこはいつしか、わたしと景ちゃんの聖域になっていた。 --わたしと景ちゃんはそこで二人の王国を作った。それは素晴らしい王国で、そこにいるときだけ、わたしと景ちゃんも心から笑い合えた。ずっとそこに隠れていたかった。 --「まるでハンザイシャみたいだね」 --わたしが言うと、景ちゃんも嬉しそうに頷いた。 -梓の景への歪んだ仕打ちの思い出 --いままで幾度となく繰り返されてきた光景だった。わたしはいつだってこうやって見て見ぬ振りをしていた。景ちゃんが充分酷い目に遭うのを待って、それから助けてあげるのだ。そして慰めてあげるのだ。 --初めのうちは胸が痛んだ。景ちゃんの泣き声を聞く度に、自分の残酷さに身震いした。 --こうすれば景ちゃんは、わたしに懐く。 --こうしてさえおけば、この子はわたしの側にいる。 -景の離れの中で、景が子供の頃に書いた藁半紙を見つけた梓 --『女王。あなたはわたしの太陽です。どうかわたしを照らしてください――×』 --『優しい方よ。わたくしを哀れむなら、その笑顔を見せたまえ――×』 --『たとえ我が身が朽ちようとも、心は汝のそばに仕えん――×』 --『側にいてくれるだけでいい。他には何も望まない。見返りはそなたの思うままだ――×』 --『好きだなのです、女王よ。結婚してください――×』 --いくつかの台詞に覚えがあった。それは全部、景がゴッコ遊びの中で梓の演じる女王に贈った言葉だった。 --孤独でひねくれた魔法使いが、初めて女王に思いを伝える場面。景はいつも違う台詞を口にした。その場その場で適当に言っているのだとばかり思っていた。だが藁半紙の書き込まれた台詞は、実際に贈られた言葉の何倍も書き込まれていた。幼い景が頭を絞って推敲した跡だ。 --どうして景は、こんな形式的な場面の台詞に力を注いでいたのだろうか。これではまるで、本気で女王に恋焦がれていたようではないか。 ---そして藁半紙の中に、最近梓が「くるしゅうない」と書き置きしたカードが混じっており、その裏面に、 --『あなたを護らせてください』 -戦いが佳境に近づく中での二人の想い --『わたしは景ちゃんが好きっ』 --『一秒以内に答えなさい、物部景! あなたはわたしのことが嫌いになのっ!?』 --「す、好きだっ」 --0.5秒だった。 --『嘘じゃないわよね?』 --「……嘘じゃないよ」 --『わたしのことが好き?』 --「大好きだ。ずっと……ずっと好きだった」 --『これからも好き?』 --「誓う。たとえ僕がこのあとどうなろうと――最後の瞬間まで、僕は、君が好きだ」 --少しだけ、 --心の蓋を開けるような時間をおいて、梓の返事が返った。 --『わたしもよ……』 ***&u(){概要}  『カプセル』――飲めば、天使や悪魔が現れ、願いを叶えてくれる。そんな噂が実しやかに語られるドラッグが若者たちの間で密かに出回っている葛根市。七年ぶりに日本へと帰国した姫木梓は、再会した幼馴染物部景が、『カプセル』に関わっていることを知り、事件の調査を始める。カプセルに隠された真実は、景と梓をカプセルより生み出された『悪魔』たちの戦いへと巻き込んでいく。  十傑集あざの耕平の初の長編シリーズで、作者の以降のヒットの土台となった作品。禁止スレ的にも、物語の完成度の高さと、魅力的に描かれた再会系幼馴染の姿から最危険指定され、あざの耕平の名を禁止委員の間に深く刻み込んだ。  ドラッグとジャンキーいう倫理的にアウトローなものを取り扱った作品で、特殊なドラッグを服用して、悪魔と呼ばれる化身を召喚して戦う能力アクションもの。元々、富士見ミステリー文庫で刊行されていた(※)ことから、ややミステリー的な要素も含まれている。公式によるジャンルは「ネオ・サスペンス・アクション」。  梓と景と、二人を取り巻く仲間たちを魅力的に描いた人物描写。個性的なライバルたちとの悪魔を駆使した臨場感溢れるバトル描写。梓と景の幼馴染の強い絆と思い出、そしてそれが全ての真相へとつながって行く物語構成の巧さなどが光り、迷作揃いと言われている富士見ミステリー文庫の中にあって、文句なしの名作と評価されている。特に物語が大きく動き出した2巻後半(富士ミス版3巻)から大きく評価が高まり、あざの耕平=スロースターターを印象付けた。  幼馴染要素としては梓と景、鬱屈したものを抱えていた幼少時代、互いだけが唯一信頼できる同胞として心を通わせた二人。家の事情で長らく離れ離れになっていた二人が高校生になって再会するところから物語が動き出し、景と寄りを戻したい梓と、そんな梓に冷たく接する景。二人の関係が物語の中心として描かれていく。  さて、まず女馴染みの梓であるが、昔と変わってしまった幼馴染との仲を取り戻したいと危険に飛び込んでいき、景を振り向かせる行動力は非常に漢らしく、特に終盤、景を救い出すため、景への想いをストレートにぶつける姿にはヒーローとも言える格好良さがある。一方、景のことになると普段の男前ななりを潜め、女の子らしくあたふたし出す姿や、ふと見せる景の昔と変わらない心優しい少年の顔に安心感を覚える姿は非常に可愛らしい。  また、時折挟まれる幼少期の姿も秀逸で、女王様ぶりを発揮して景を振り回す梓の奔放さとツンデレさ、景を独占するために見せる梓の黒い感情。微笑ましさと歪みが同居した幼い思い出は、二人の絆を彩ると同時に、物語のキーワードである「王国」の根幹をとして深みを与えている。  一方、男馴染みの景であるが、通常女馴染みの方が注目されるのに対して、この作品に関しては彼の方が幼馴染という点で梓よりも注目度が高い。もちろん梓も魅力的なヒロインであるのだが、景のヒロイン力の方が高く評価されている。まず普段、他人に無関心で冷徹な少年が、幼馴染のことになるとペースを乱し、素の感情を見るというのがまず大きなポイントである。そして、物語が進むにつれ、彼の表面上の冷たい態度に隠された真意が明らかになって行く中で、いかに彼が梓との思い出を大切にし、梓に焦がれ、梓を護るためにどれだけ苦心していたかが描かれていき、そのあまりの健気さに、彼こそが物語の真のヒロイン、最高の萌キャラと称された。特に、二人の王国でのごっこ遊びにおいて、女王役である梓に対して、魔法使い役の景が囁いていた口説き文句が全て本気であったことが判明する過程は、悶絶ものの破壊力を誇る。  梓と景、幼馴染である二人を魅力溢れる姿で描ききったキャラクター面での秀逸さ。幼馴染という設定を、物語の始点と終点に位置づけ、二人の関係が深まっていくごとに、謎が明らかになっていく過程は、再会系幼馴染という設定を最大限活かしつくしていると言え、最危険指定に相応しい出来栄えである。   ※作者の次作「BLACK BLOOD BROTHERS」のアニメ化の流れを受けて、富士見ファンタジア文庫で復刊。その際に、書き下ろしの後日談が収録された特別編「Dクラッカーズ+」が併せて刊行される。富士ミス版の1~3巻を2冊にまとめているため、ファンタジア版の本編は全7巻となっている。  余談だが、ファンタジア、富士ミス両方で、続刊中にレーベルの装丁変更のタイミングと重なったため、装丁が計5バージョン存在する。
*Dクラッカーズ |作者|あざの耕平| |イラスト|村崎久都| |レーベル|富士見ファンタジア文庫&br()(富士見ミステリー文庫からの復刊)| |分類|禁止図書(最危険指定)| |巻数|7巻+短編2巻+特別編1巻(完結)&br()(富士ミス版は8巻+短編2巻)| |ジャンル|現代異能者アクション| &size(20){&bold(){「景ちゃんは健気でいじらしい萌ヒロイン」}} ***&u(){登場する幼馴染} **姫木梓(ひめき あずさ) |年齢|16歳 高校二年 ※作中で三年に進級| |幼馴染タイプ|再会系| |属性|勝気、格闘系、ポニーテール、ツンデレ(幼少期)、腹黒(幼少期)| |出会った時期|小学校低学年の頃|  小学生の頃、景と心を通わせあった幼馴染。両親の都合でアメリカに引っ越し、景と離れ離れになったが、七年ぶりに帰国、葛根東高校に編入し景と再会する。自分に冷たい態度を取る景に落胆していたが、彼が周りで起こるドラッグ絡みの事件に関係していることを知り、事件を調べるうちに葛根市を舞台にしたカプセルを巡る戦いに巻き込まれていく。  活発で健康美溢れる少女で、ポニーテイルがトレードマーク。子供の頃は、我がままで攻撃的な性格だったが、現在は人に合わせられる分別がついている。一方、負けん気が強く、面倒見の良いところは変わっておらず、考えるより行動する思いっきりの良さがある。しかし、幼少期の経験からか、やや人と仲良くなることに罪悪感を感じるナイーブなところもある。事件を追ううちにコンビを組むことになる千絵とは、頭脳労働担当の彼女に対して、フォワードとして荒事を担当する。実際、アメリカで護身術を学んでおり、並みのチンピラなら簡単に伸してしまうくらいの格闘能力を持っている。また、鉄アレイを仕込んだバッグを持ち歩き奇襲を仕掛けたり、不利な場面では即座に脱出経路を確認したりと、有事の際の判断力も高い。  景のことを本当に大切に思っており、彼と再び関係を戻したいと考え、カプセルの世界に足を突っ込んでいくことになる。最初は七年前、景を一人残して日本を去ったことへの償いの気持ちという後ろめたさがあったが、事件を通して景の心に触れていくうちに、景への恋愛感情を確信していくようになる。景のことになると、普段の思いっきりの良さがなりを潜め、景との関係をからかわれてあたふたしだしたり、優柔不断になったりと乙女らしいところを見せる。景のことは再会当初は遠慮がちに「景くん」と呼んでいたが、次第に子供の頃のように「景ちゃん」と呼ぶようになる。  小学生の頃、不仲の両親の間で、鬱屈した思いを抱え込んでいた所に、いじめられっ子だった景を助けたことから仲良くなる。以来、互いを唯一信頼できる存在として行動を共にする。景を我がままで振り回していたが、それでも健気に笑顔を見せる景の存在に安心感を覚えていた。同時に景がより自分に依存し続けるように、いじめを助長するような行為を裏で行う歪んだ感情も抱いていた。そのことを、再会した今でも罪悪感として引きずっている。  景の家の離れの小屋が二人の秘密基地で、そこで二人だけの王国と称したごっこ遊びを繰り返していた。そこでは梓は絶対無二の女王で、景は王子であり騎士であり、女王に恋焦がれる悪い魔法使いであった。実は、そのごっこ遊びが物語の根幹に深く関わっている。 **物部景(もののべ けい) 年齢:16歳 高校二年 ※作中で三年に進級  この作品の主人公。葛根東高校の生徒。華奢な体型で、少女のように整った美貌の少年だが、他人を寄せ付けない冷たい雰囲気を纏い、性格も根暗で無愛想ため、校内でも浮いた存在となっている。いつも図書室にこもっていることから、「図書室の住人」と揶揄されている。  その正体は『ウィザード』の名で呼ばれる悪魔使い。自身も重度のカプセル中毒者で、青いウインドブレーカーを纏い、正体を隠しながら、葛根市の裏でカプセルの力を濫用する悪魔使いを狩り続けている。名の知れた強力な悪魔使いを打ち負かしてきたことから、カプセルユーザーの間で最強の悪魔使い候補の一人として勇名を馳せている。操るのは『影』の悪魔で、ワイヤーで拘束された巨大な甲冑のようなシルエットをしている。影を自在に伸ばして相手を攻撃することができ、罠を仕掛け、誘い込み、相手を仕留めるトリッキーな戦い方を得意とする。ただし、光源の下、影ができる場所でないと召喚できないという特徴がある。  冷静沈着を心掛け感情を露にせず、相手を突き放すような皮肉めいた喋り方をする。しかし、本来は心優しい少年で、再会した当初は梓にも冷たい態度を取るが、これも梓をカプセルの世界に巻き込まないための配慮で、裏で梓を護るために手を尽くしていた。梓のことは本当に大切に想っており、彼女のことが絡むと普段の冷静さを忘れて、怒りを露にしたり、梓に不意を突かれると、生来の素直な少年の顔を覗かせたりする。梓のことは再会当初は他人行儀に「姫木さん」と呼んでいたが、次第に子供の頃のように「梓ちゃん」と呼ぶようになる。  子供の頃は、泣き虫のいじめられっ子で、いじめから助けてくれた梓に懐き、行動を共にするようになる。梓の我がままに振り回され、散々な目に遭っていたが、何があっても笑顔で付き従っていた。彼の梓への想いは、非常に健気でいじらしく、今でも二人の秘密基地を維持し、梓との思い出を大切に保管している。 &bold(){&u(){その他関係の深いキャラ}} **海野千絵(うみの ちえ)  年齢:16歳 高校二年 ※作中で三年に進級  梓のクラスの委員長で、葛根東高校実践捜査研究会会長。自称探偵の行動的(やや暴走気味)な少女で、独自にカプセル絡みの事件の捜査を行っていた所、梓と行動を共にするようになり、良き相棒となる。 **水原勇司(みずはら ゆうじ) 年齢:16歳 高校二年 ※作中で三年に進級  景たちの同級生で、女好きで軽薄な印象の少年。カプセル関連の裏事情に詳しく、情報収集力に長けており、『ウィザード』として戦う景の戦いをサポートしてきた。 ***&u(){梓と景の思い出と、景ちゃんの健気すぎる台詞とエピソード} &bold(){&u(){梓サイド}} -戦いの後、景に負ぶわれて家路に着く梓 --昔は私が負ぶってあげた。苛められて怪我した景ちゃんを、わたしが家まで負ぶっていった。 --景ちゃんが恥ずかしがっても、怪我してるんだからと強引におんぶした。わたしが負ぶっている限り、この可愛らしくて優しい同胞は、わたしのものでいてくれた。 --景ちゃんは黙々と町を歩いた。わたしは夢うつつのまま、じっとして身を任せていた。 --この感触を胸に刻み込んでおこう。 --噂や幻なんかじゃなく、この感触を信じよう。 --二人の接触した、この手触りを。 -事件の後、景の家の離れに久々に立ち寄った梓。人の手が入り整頓されている小屋の中の様子に、景が自分との思い出を大切にしていてくれていることに気付き、上機嫌になる梓 --梓は元気よく請け負うと、箱を開け、中からクッキーの缶を取り出して千絵に放り投げた。 --「食べよう」 ---勝手にまずいわよと慌てる千絵に --「よい、わらわが許す!」 -カイムとの戦いで、襲われた梓を救い出した景 --「あの女は、君を喰おうとしやがったんだぞ! ユーザーですらない君を、奴は――」 --――景ちゃんは、 --景は自分を襲ったからカイムに怒っているのではない。梓を傷つけたから怒っているのだ。そうと知って、梓は、いまさっき景に感じたばかりの恐怖と違和感が風化するのを感じた。 --――なんて馬鹿な、単純な女。 --二人でいる。隣に景がいる。景と触れ合っている。それが梓の、恐怖に打ち勝つ十分条件だった。 -引き返せないところまでカプセルに関わってしまった梓に、声をかける景 --「何かあったら連絡してほしい。僕は自分の目的を諦めることはできないけど――君のことは、絶対に守ってみせる」 --真剣な、そして真摯な表情だった。 --梓はぼうっとしたまま景の背中を見送った。 --それからも、しばらくぼうっとしたままだった。 --二十分後、千絵と水原が店を出て、驚いて梓に声をかけるまで、ずっとそのままだった。 -一つだけ絶対に間違いないことがある。 --それは景のことを諦めてはいけないということだ。 --たとえ景自身が自らのことを諦めても、梓は最後まで彼のために全力を尽くしてみせる。 --昨日の景の表情を思い出す。自分に手を引かれて、どう対応すればいいのか困惑を隠しきれない表情だった。景が命を投げ出しても、梓が手を引いたとき、彼はまたあのような表情を見せてくれるかもしれない。 -敵の魔の手が近づき、電話で梓に注意を促す景の言葉に --ムキになって心配する景が、おかしくて嬉しくて堪らなかった。それに景は気づいてもいなかっただろうが、あのとき確かに言ったのだ。 --――「梓ちゃん」って言った。「姫木さん」じゃなくて。 -「わたしが褒めてるのは、ウィザードじゃなくて、景ちゃんだもん」 --「僕は『ウィザード』だ」 --「ううん」 --「あなたは『物部景』だよ。景ちゃん」 --――わたしの大事な幼なじみだ。 -「気にしないで。もし景ちゃんが間違えてるなら、わたしがきちんと、責任を持って、その間違いを正させるから。だから――」 --「景ちゃんに会わせなさい」 -「わかってないわね」 --「わたしが選んだのは、『王国』なんかじゃない。『景ちゃん』よ」 &bold(){&u(){景サイド}} -クリスマスの夜、街中で発作を起こしたところを梓に助けられる景。礼を言った後、冷たく追い払おうとするが、一緒に夕食をしないかと必死に誘う梓に、 --何でもない口調を必死に心がけているようだが、成果は上がっていなかった。少し気をつけて聞けば、梓の鼓動の音まで伝わってきそうな声だ。 --手に取るようにわかった。手に取るようにわかる自分に驚いた。 --「……ああ」と景は思わず返事をした。直後に後悔したが、もう遅い。とたんに梓の声が軽くなり、「シチューだよ」と弾むような返事が返ってきた。そうなるともう、景には反駁の余地がない。 --――なんて様だ。 --根暗で冷血漢で無愛想な物部景が聞いて呆れる。 -クリスマスツリーのライトアップの光を受けた梓を見て、 --明滅する幾多の明かりを受けて、十七歳の少女のシルエットが逆光に浮かぶ。 --「きれいだね」 --景は離れた位置に立ち尽くし、光の下にいる彼女に見とれた。 --不覚にも、見とれてしまった。 --――まったく。なんて様だ。 -離れの小屋で、クッキー缶を開ける景 --中身はない。空だ。代わりに小さな紙切れが一枚入っている。紙切れの裏側にはサインペンで一言、「苦しゅうない」。 --フードの奥に隠れた景の唇が掠れるように笑った。 --このカードは、最初の事件が終わったあと、何者かによってクッキーとすり替えられていたものだ。 --たぶん犯人は、お腹が減ってクッキーを食べたのだろう。いや、お召しになったのだ。 -梓への書置きについてからかわれた景 --「あの書き置きは僕の本心だよ」 --「僕は彼女を護りたい。心から護りたいと思っている。だからいまは、それ以外のことを考えないようにしているんだ。さっき、彼女のことが気にならないって言ったのは、そういうことなのさ」 -離れの小屋で梓との記憶に思いを馳せる景 --自制の弛んだ脳裏に、古い思い出が次々と浮かび上がってきた。そうした思い出のすべてに、懐かしい少女の笑顔があった。 --七年前、景はクラスでいじめを受けていた。しかし、少女だけが、いついかなるときも、彼の側にいてくれた。 --乱暴で、自分勝手で、喧嘩っ早くて、でも寂しがり屋で。 --大好きだった。 -再会した当初の景の内心 --廊下を反対側から向かってくる女子グループ。その中に、梓がいた。 --景にとって同級生の女子――女子に限らないのだが――など、個人個人の識別すら必要としない「他人」に過ぎない。それが、曇天の薄暗い廊下で、これだけの距離があるというのに、梓だけ一瞬で、「彼女だ」と察知できてしまった。 --しかも、察知した瞬間に脳裏が梓のことで占められる始末だ。 --――おいおい、なんて様だ。 --振り向いて彼女の反応を確かめたい。 --その欲求は、自制心には絶対の自信を持つ景ですら、危うく押さえきれないほど衝動的で強かった。 --――冗談じゃないぞ、物部景。いや、ウィザード。彼女と関わる必要も資格も、お前には、まったくないんだ。 &bold(){&u(){子供の頃}} -景のお気に入りのクッキーの思い出 --あのころの景はこのクッキーが大のお気に入りで、月に一缶だけ小遣いをはたき、一日一個ずつ大切に食べていた。それを知っている梓は、わざとクッキーをほしがった。景がハラハラ見守る前で、クッキーを手づかみに食べたり、缶を隠して知らんぷりをした。「梓ちゃん」と景が泣きついてくるのが楽しくて、わがままな女王様は、ことあるごとに悪戯をしたのだ。 -周囲を敵視し、二人で寄り添っていた梓と景 --わたしと景ちゃんの二人にとって、そこは戦場以外の何ものでもなかった。 --あそこは空気が腐っている。あそこでじっとしていたら腐って死んでしまう。 --わたしはそう言って、何度も景ちゃんを外に連れ出した。景ちゃんは一度も反対しないで、わたしの言うことに従った。 --そんなときに行くのは、決まって景ちゃんの家の離れだった。そこはいつしか、わたしと景ちゃんの聖域になっていた。 --わたしと景ちゃんはそこで二人の王国を作った。それは素晴らしい王国で、そこにいるときだけ、わたしと景ちゃんも心から笑い合えた。ずっとそこに隠れていたかった。 --「まるでハンザイシャみたいだね」 --わたしが言うと、景ちゃんも嬉しそうに頷いた。 -梓の景への歪んだ仕打ちの思い出 --いままで幾度となく繰り返されてきた光景だった。わたしはいつだってこうやって見て見ぬ振りをしていた。景ちゃんが充分酷い目に遭うのを待って、それから助けてあげるのだ。そして慰めてあげるのだ。 --初めのうちは胸が痛んだ。景ちゃんの泣き声を聞く度に、自分の残酷さに身震いした。 --こうすれば景ちゃんは、わたしに懐く。 --こうしてさえおけば、この子はわたしの側にいる。 -景の離れの中で、景が子供の頃に書いた藁半紙を見つけた梓 --『女王。あなたはわたしの太陽です。どうかわたしを照らしてください――×』 --『優しい方よ。わたくしを哀れむなら、その笑顔を見せたまえ――×』 --『たとえ我が身が朽ちようとも、心は汝のそばに仕えん――×』 --『側にいてくれるだけでいい。他には何も望まない。見返りはそなたの思うままだ――×』 --『好きだなのです、女王よ。結婚してください――×』 --いくつかの台詞に覚えがあった。それは全部、景がゴッコ遊びの中で梓の演じる女王に贈った言葉だった。 --孤独でひねくれた魔法使いが、初めて女王に思いを伝える場面。景はいつも違う台詞を口にした。その場その場で適当に言っているのだとばかり思っていた。だが藁半紙の書き込まれた台詞は、実際に贈られた言葉の何倍も書き込まれていた。幼い景が頭を絞って推敲した跡だ。 --どうして景は、こんな形式的な場面の台詞に力を注いでいたのだろうか。これではまるで、本気で女王に恋焦がれていたようではないか。 ---そして藁半紙の中に、最近梓が「くるしゅうない」と書き置きしたカードが混じっており、その裏面に、 --『あなたを護らせてください』 -戦いが佳境に近づく中での二人の想い --『わたしは景ちゃんが好きっ』 --『一秒以内に答えなさい、物部景! あなたはわたしのことが嫌いになのっ!?』 --「す、好きだっ」 --0.5秒だった。 --『嘘じゃないわよね?』 --「……嘘じゃないよ」 --『わたしのことが好き?』 --「大好きだ。ずっと……ずっと好きだった」 --『これからも好き?』 --「誓う。たとえ僕がこのあとどうなろうと――最後の瞬間まで、僕は、君が好きだ」 --少しだけ、 --心の蓋を開けるような時間をおいて、梓の返事が返った。 --『わたしもよ……』 ***&u(){概要}  『カプセル』――飲めば、天使や悪魔が現れ、願いを叶えてくれる。そんな噂が実しやかに語られるドラッグが若者たちの間で密かに出回っている葛根市。七年ぶりに日本へと帰国した姫木梓は、再会した幼馴染物部景が、『カプセル』に関わっていることを知り、事件の調査を始める。カプセルに隠された真実は、景と梓をカプセルより生み出された『悪魔』たちの戦いへと巻き込んでいく。  十傑集あざの耕平の初の長編シリーズで、作者の以降のヒットの土台となった作品。禁止スレ的にも、物語の完成度の高さと、魅力的に描かれた再会系幼馴染の姿から最危険指定され、あざの耕平の名を禁止委員の間に深く刻み込んだ。  ドラッグとジャンキーいう倫理的にアウトローなものを取り扱った作品で、特殊なドラッグを服用して、悪魔と呼ばれる化身を召喚して戦う能力アクションもの。元々、富士見ミステリー文庫で刊行されていた(※)ことから、ややミステリー的な要素も含まれている。公式によるジャンルは「ネオ・サスペンス・アクション」。  梓と景と、二人を取り巻く仲間たちを魅力的に描いた人物描写。個性的なライバルたちとの悪魔を駆使した臨場感溢れるバトル描写。梓と景の幼馴染の強い絆と思い出、そしてそれが全ての真相へとつながって行く物語構成の巧さなどが光り、迷作揃いと言われている富士見ミステリー文庫の中にあって、文句なしの名作と評価されている。特に物語が大きく動き出した2巻後半(富士ミス版3巻)から大きく評価が高まり、あざの耕平=スロースターターを印象付けた。  幼馴染要素としては梓と景、鬱屈したものを抱えていた幼少時代、互いだけが唯一信頼できる同胞として心を通わせた二人。家の事情で長らく離れ離れになっていた二人が高校生になって再会するところから物語が動き出し、景と寄りを戻したい梓と、そんな梓に冷たく接する景。二人の関係が物語の中心として描かれていく。  さて、まず女馴染みの梓であるが、昔と変わってしまった幼馴染との仲を取り戻したいと危険に飛び込んでいき、景を振り向かせる行動力は非常に漢らしく、特に終盤、景を救い出すため、景への想いをストレートにぶつける姿にはヒーローとも言える格好良さがある。一方、景のことになると普段の男前ななりを潜め、女の子らしくあたふたし出す姿や、ふと見せる景の昔と変わらない心優しい少年の顔に安心感を覚える姿は非常に可愛らしい。  また、時折挟まれる幼少期の姿も秀逸で、女王様ぶりを発揮して景を振り回す梓の奔放さとツンデレさ、景を独占するために見せる梓の黒い感情。微笑ましさと歪みが同居した幼い思い出は、二人の絆を彩ると同時に、物語のキーワードである「王国」の根幹をとして深みを与えている。  一方、男馴染みの景であるが、通常女馴染みの方が注目されるのに対して、この作品に関しては彼の方が幼馴染という点で梓よりも注目度が高い。もちろん梓も魅力的なヒロインであるのだが、景のヒロイン力の方が高く評価されている。まず普段、他人に無関心で冷徹な少年が、幼馴染のことになるとペースを乱し、素の感情を見るというのがまず大きなポイントである。そして、物語が進むにつれ、彼の表面上の冷たい態度に隠された真意が明らかになって行く中で、いかに彼が梓との思い出を大切にし、梓に焦がれ、梓を護るためにどれだけ苦心していたかが描かれていき、そのあまりの健気さに、彼こそが物語の真のヒロイン、最高の萌キャラと称された。特に、二人の王国でのごっこ遊びにおいて、女王役である梓に対して、魔法使い役の景が囁いていた口説き文句が全て本気であったことが判明する過程は、悶絶ものの破壊力を誇る。  梓と景、幼馴染である二人を魅力溢れる姿で描ききったキャラクター面での秀逸さ。幼馴染という設定を、物語の始点と終点に位置づけ、二人の関係が深まっていくごとに、謎が明らかになっていく過程は、再会系幼馴染という設定を最大限活かしつくしていると言え、最危険指定に相応しい出来栄えである。   ※作者の次作「BLACK BLOOD BROTHERS」のアニメ化の流れを受けて、富士見ファンタジア文庫で復刊。その際に、書き下ろしの後日談が収録された特別編「Dクラッカーズ+」が併せて刊行される。富士ミス版の1~3巻を2冊にまとめているため、ファンタジア版の本編は全7巻となっている。  余談だが、ファンタジア、富士ミス両方で、続刊中にレーベルの装丁変更のタイミングと重なったため、装丁が計5バージョン存在する。

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