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  • 備考 短編,「君が泣ける場所になる(by郷ひろみ)」から触発されて


下らない意地と、笑い飛ばすのは簡単だ。
だが、意地を通すのは困難だ。
男は、十分に意地を張り通してきた。
女は、それをわかっていた。
だからこそ、自分が相手を愛するようになった今こそ、
相手にもう意地を張らせなくて済むようになると思った。
だが、認識が甘かった。
「そんな……何でよ!? 私の事、好きだって言ってくれたじゃない!」
「……いつの話だ、馬鹿」
「そりゃ……もう、二年以上も前だけどっ! でも……」
男は、あくまで表面上は飄々とせせら笑い、女の懇願を寄せ付けなかった。
その笑顔は、どこまでも悲しげだった。
「私の事……嫌いになったの?」
女は、そうではないかと思いつつも、怖くて今まで聞けなかった質問を投げかけた。
「そうだよね……一杯、迷惑かけたもんね……
 一度はフっておきながら、中途半端に引き止めるような態度とったりなんかして、
 私があの人と付き合い始めてからも、あなたに彼の事を相談したり、愚痴をこぼしたり……
 もういい加減、愛想も尽きたよね……」
女には、思い当たる節が多過ぎた。
男の、限度の無い優しさに、甘え過ぎていた。
それでも、男は女の支えであり続けた。
自分以外の男の前で女が笑っていられるためだけに、愚痴を聞き、助言をして、安心させてやった。
例えそのお陰で女が笑えたとしても、その笑顔を見られるのは、自分ではないにも関わらず。

「お願い、謝るから……私、やっと気付いたの。
 誰が私の事を一番愛してくれていたのか、って。
 誰のお陰で、私は笑えていたのか、って……」
下唇を噛み締めながら、女は滲んだ瞳で男を見上げた。
だが、男は相手を小馬鹿にしたような、それでいて悲しげな、
そんな歪な笑顔を絶やす事無く、儚げな目で女に答えた。
「勘違いすんな。お前を笑わせてたのは、俺じゃなくてお前の彼氏だ。
 俺には、お前を『泣かせない』事は出来ても、お前を『笑わせる』事は出来ないんだよ」
男はそう言うと、握り締めていた片手から指輪を取り出した。
「それはっ……拾ったの!? あの川から!?」
「お陰で体冷えちまったよ馬鹿野郎……二度と捨てんじゃねぇぞ」
それは、彼氏を振り切るために女が川に投げ捨てた、彼氏とのペアリングだった。
「誰がお前を一番愛してるかなんて、計ったり比べられるもんじゃねぇ。
 大事なのは、お前が誰を愛してるか、だ。
 一時の同情に流されるんじゃねぇよ、馬ぁ鹿」
そう言うと、縋る女を振り切って、男は去って行った。




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最終更新:2008年02月14日 00:39