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  • 備考 長編,サラリーマンと姫


 燃えさかる炎、吹き上がる黒煙の只中でひょろりと背ばかり高い若いサラリーマンは、
がくがく震える膝を両手で力いっぱい握り締めて無理やりに立ち上がった。

 「ひ…め………姫さ…ん……」

 こめかみを生温いものが流れる。血よりも熱い空気の中で薄れそうな意識の中にあるのは
この騒動の元であり、ここしばらく道行きをともにしてきた女性だった。

 走馬灯のように駆け巡る今までの道行きを振り払って、その姿を探しもとめ、よろばい歩
き出した。

 そう遠くはないはず、と、瓦礫の影に隠れ人影を見つけた。
 歩くような速度で駆け寄り、上半身を抱き起こそうとして腕が強張った。

 「ぐぅっ」

 その若い女は上半身だけだった。流れ出た血は煽り来る炎に煮えたぎって見たことも無い
赤に泡だっていた。

 脳がそれを認めた瞬間、胃がひっくりかえって口から胃液が吹き出した。
 自分でも判っていない無意識の反応で、かつて人だったモノを汚さぬように。
 いや、単にソレを目にとめないようにする防御反応の中で、四つんばいになって嘔吐を繰
り返した。

 ありったけの力で目を閉ざし、記憶をまさぐり確認した。

 ひめさんじゃなかったひめさんじゃかったいやもういち度見て
 駄目だでもちくしょう何でこんなことにおれはただの日本人でサラリーマンで
 ちくしょう施設の案内役だっただけで姫さんが来て俺は臆病なライオンで

 「…どこですか?」

 炎、銃声、爆音、悲鳴、自らの呼吸、それが渾然となった轟音を貫いてかすれ声が聞こえ
た。今まで味わったことのない感情にパニくりながら叫んだ。

 「姫さん!?姫さん!!」

 声の主を背後に認めると、震える膝を励まして立ち上がった。
 あちこち焦げて煤けてもなお、遠くベルベル人の血を引く神秘的なまでの美貌は、炎の光
と黒煙の影に彩られこの世のものとは思えなかった。
 背が伸びる。膝の振るえも止まった。姫さんに文字どおり駆け寄ることが出来た。
 姫さんが、姫さんがいる、姫さん姫さん。

 「もう、此処まで…ですね。」

 姫さんは、奇妙に平静な顔で告げた。が、もう聞いちゃいなかった。
 何か…そう車を探して……あるじゃねーかビックアップ、T○Y○TA!!ビンゴ!

 残ってる全力で駆け寄った。
姫さんの腕をつかんで、ドアを開けウインドウをぶちまけた車内に乗り込む。

 嗚呼
 こんな中東の紛争地帯に車を売る日本万歳!
 こんな糞頑丈な車作った日本メーカー万歳!!

 ついでに、ドアロックぶち壊した盗人もキー付けっぱなしの間抜け野郎にも万歳だ!!!

 「なにを…えっ?えっ!?」膝上から強引に助手席に姫さんを投げ出して、宣言した。

 「約束したろ?俺は、姫さんを、イスタンブールまで、送り届ける。」

 アラー様!
 イエス様!!
 南無八幡大菩薩!!!

 もう艱難辛苦は腹いっぱいだ!俺に幸運をくれ!!
 祈りながらキーを捻る、何度か咳き込みながらエンジンが轟音を発した。

 「姫さん!行くぞ!!どっかにつかまってろ!!」

 もどかしくクラッチを繋いで、アクセルを踏みこむ。ビックアップは瓦礫の上でベリー
ダンスを踊り終えると、急加速し爆炎の中に飛び込んだ。

 ぽっかりと空いたフロントウィンドウからは、炎と陽射しに炙られた熱風が吹き込んで
一瞬二人を焼いた。

 割れたウインドウから煙を溢れさせながら、ビックアップは炎を潜り抜けた。と正面の
T字路に装甲車と、戦闘服の男達が銃を構えていた。

 「日本人を―――なぁ―――めんな――――――――――――!!!」
 「きゃ!ひっ!」

 伊達に(えこのみっく)野獣(あにまる)と呼ばれてるわけじゃねーぞ。

 銃弾が火花を散らしてボディを削った。咄嗟にハンドルを切る、タイヤを軋ませ車体を
レンガの壁に擦つけながら左の路地に滑り込む。薄暗い路地が火花で照らし出された。
 気が付くと姫さんが左腕にしがみついていた。

 あーもー戦争でも姫さんでも何でも来やがれ。
 道に散らばる瓦礫はよけろよけられなきゃ乗り越えろ。
 今なら銃弾だってよけてやらぁ。

 路地を恐ろしいスピードで駆け抜けるピックアップ、その破れたフロントから吹き込む
風にもぎ取られまいと声を張り上げた。

 「姫さん!でかい道は?こっくぐげ!  国境のは橋はどっちだ?」

 「大きい 道は駄目、見張っ  てるから。右!」

 舌噛んだ。
 姫さんは俺の腕にしがみついて、道端に積み上げた籠だの樽だのを跳ね飛ばすたびに
身を竦ませて言葉を途切れさせた。
 姫さんの支持に従い狭い路地を右に左に。そのたびに姫さんの胸が腕にあたる。

 あー胸が姫さん胸柔らけー汗で透けてたり。げふ!また舌噛んだ。
 前見ないとやばいってでもあーでも














 俺、勃起してる。




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最終更新:2008年02月14日 00:39