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  • 備考 短編,異種間恋愛


お願いします、と彼女は思い切ったように箱を差し出して、それから微動だにしない。
肩口で切りそろえられた髪から覗く耳や首元が仄赤く染まっていたが、
これはもちろん寒さのせいではないだろう。
「あの……、オレに?」
恐る恐る確認すると、小さな頭がこくんと揺れた。この状況で他の可能性など
あるはずもない。マヌケなことを訊いてしまった、と彼は内心身悶えした。
受け取ってもらえませんか、と黒目がちの大きな瞳が上目づかいに彼を見上げる。
―――2月14日。聖バレンタインデー。
これはもうどう考えても紛うことなく、

……新手の拷問?

彼は遠い目をした。
嫌がらせか。イジメか。はたまた精神修行の一環か。
差し出された物体は緑色をしていた。
一部は紫だった。
何とも言えない発色の本体はマーブル模様を描いて、うごうごと自律的運動を
行っている。
さながら未開の島で発見された、超稀少種のナマコ(足つき)のようであった。
彼女の脳内認識における『チョコレート』の定義を小一時間(ry

しばし悩んで、彼は覚悟を決めた。
「……あのさ、これ……何?」
彼女は頬を染める。
「私の子株です」
「コカブ?」
彼女は恥ずかしそうに俯いた。
「あの……今まで黙っていましたが、私、実は地球人ではないんです」
「いやそんなこたわかってるけど」
つーかバレてないと思ってたんですかお嬢さん?
「それで……この付近の風習では、今日は好きな人に自分を食べてもらって
交尾を行う日だと聞き及びまして」
彼女はもじもじと子株ナマコを差し出した。
「生憎と私の体ではそのような生殖方法ができませんので……代わりに、これを」
「……あー、そう」
彼が得た生涯初めての彼女は、色んな意味で普通でない。
彼は天を仰いだ。
「……それじゃ、まずは一緒にスーパー行こうな」
「え。な、何か付け合わせが必要でした?」
「んー、とりあえずそいつしまって」
カルチャーギャップを乗り越えて彼が彼女と結ばれるのは、もう少し先のことに
なりそうだ。
不満がない、と言えば嘘になる。
だが、たとえ常識ぶっとんでようが実は宇宙人だろうが子株が緑紫ナマコだろうが、
惚れちまったんだから仕方ないよなぁ、とチョコレートの説明から始める
彼であった。

とほ。




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最終更新:2008年02月14日 00:42