- スレッド_レス番号 01_763-764
- 作者
- 備考 長編,01_748のキャラで甘々トーク2
美里の部屋の玄関ドアが開いたとき、恭介はちょうどフライパンを振るっている
ところだった。
時刻は日付が変わるまであと数分。かちゃりと安全チェーンまでかけた美里が、
へろへろと靴を脱ぐ。
「ただいま~。いらっしゃい恭介~」
「おかえり。お疲れさま。台所借りてるよ」
一瞬目を向けた先にいた彼女は、疲れた顔とこの時刻にもかかわらず、
きれいにメイクをしていた。恭介が訪ねることはメールしていたから、
帰り道のどこかで化粧を直してきたのだろう。どうせすぐ落とすものなのに、
いまだに小さな努力を重ね続ける美里がいじましく、可愛いなぁと思う恭介である。
「お腹すいてる?」
「ぺこぺこー」
情けない声をあげて、美里はぺたぺたと台所兼廊下を横切っていく。
「今日は現場離れられなかったの~。もーネズミン達がカリカリ食べてる
ペレットが羨ましかったぁ」
「……重症だね」
生物実験を行う現場は飲食禁止なのだそうで、デスクに戻る暇がないと
どうしても断食することになる。
美里は荷物を置いてジャケットを脱ぐと、テーブルを拭いていそいそと恭介の
そばに寄ってきた。嬉しそうな顔だ。
「ごめんね、ありがとう」
「ん」
美味しいご飯が嫌いな人間などいない。ましてや仕事で疲れて帰ってきた
ときに差し出されればなおさらだ。何かのアンケートで、夫婦円満のコツに
『胃袋を押さえること』とあったのも頷ける話である。しかも美里は美味しそうに
物を食べる人間なので、餌付けのし甲斐もあるというものだった。
二人揃って食卓を囲む。ジャコ炒飯と野菜スープ、それに苺のヨーグルト。
テレビがない部屋に、あれこれと美里のおしゃべりが満ちると、なんだか
ホッとする恭介である。
「……でね、この部長がわかってないの。『高い機械を入れたっていうのに
まだ結果が出ないのかね』て言うのよ。機械で大腸菌の分裂速度が上がったら
世話ないっての」
「30分だっけ?」
「うん。30分。……あ~早く年度末終われ~。なんで実験に年度が関係あんのよぅ」
「そうだね。店もお客さん少ないよ。みんな忙しいんだねぇ」
「春なのに~。恭介に髪切ってほしい~」
「うん。僕も触りたい」
正直に言うと、ぴた、と美里の動きが止まった。箸をくわえたまま上目使いで
視線をよこしてくる。
「……恭介、明日お休み?」
「うん。でも片付けたら帰るよ」
「……帰っちゃうの?」
うわぁ可愛い。
残念そうな不満顔がクリーンヒットだ。
「美里明日も仕事でしょう。ちゃんと寝なさい」
「……だって」
「一段落ついたら、髪切ってあげるから」
「春なのに~。猫ですら恋の季節なのに~」
「今日は美里の顔見にきただけだから」
「恭介淡白……」
違います。焦らして楽しんでるだけです。
心中でこっそり愛しい彼女のあれこれを楽しみつつ、
恭介は素知らぬ顔で「ご馳走様」と手を合わせた。
終わっちまえ
バグ・不具合を見つけたら? 要望がある場合は?
お手数ですが、メールでお問い合わせください。
最終更新:2008年02月14日 00:43