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  • 備考 長編,魔王と勇者


「ふははははは! よくぞここまで辿り着いた、光の勇者よ!」
「貴様が闇の魔王か!?」
「いかにも!」
おどろおどろしい輪郭の影が、朗々と声をあげた。謁見の間を思わせる大広間の
最上段、玉座と思しきものに、それは泰然と腰かけていた。

思しき―――というのは、椅子にしてはいやに幅が広いからだ。四方を幾重にも
垂れ幕が囲っている。正面だけが左右にかき分けられて、立派な飾り房で
止められていた。

影はゆったりと立ち上がる。勇者は改めて剣を構えた。
「……それが貴様の獲物か」
「そうだ! これこそ聖剣エクスカリバー! これをもって貴様を下す!」
「いいだろう、相手にとって不足はない! 人間とは前例のないことだが、
我が求愛者たちを残らず倒してみせたその意気やよし! 慣例に従い夫と認め、
見事貴様の子を孕んでみせよう!」

「…………」
「…………」

しばし見つめあう勇者と魔王。

「……おっと……?」
「そうだが? どうした、寝台はこれだ。早く来い」
「いやあの……え? なんで?」
「なんでも何も。今年は二百年に一度、我が婚姻が行われる年だ。次期魔王の
父となる者が脆弱では話にならん。腕に覚えのある者が命をかけて競い合い、
勝者が我が夫となる。古来よりの伝統だ」
「え……。それじゃその、魔物が人間襲ったり攫ったりは……」
「喰って力をつけるのだろう。男のことはよくわからんが。稀に献上品として
持ってくる者もいるな」

「つまり……」
勇者はぎこちない動きで魔王を指した。

「お……女ぁっ!?」
「見ればわかるだろう」
ちょっと不快げに魔王。
「魔物の性別なんかわかるかっ! こちとら人間だっ!!」
「む。しかし求愛レースに参加したのだろう」
「そ……それはたまたまっ」
「たまたま?」
魔王は傷ついたようだった。
「元より次代の魔王の父となることが目的で、我がことなど子を残すための
腹でしかないと見られる覚悟はしていたが……たまたま……そうか、たまたま……」
「ちょ、待て! お前そんなナリで本気で落ち込むなよ! 俺が悪いみたい
じゃねぇか!」
「悪い」
恨めしげに魔王。
「魔界一の美貌と讃えられたこの我が」
「え。そうなの?」
「~~~~っ! こんな者を夫にせねばならんとは―――っ!!」
「や、無理。頼むから別の奴探して」

「別のは貴様が殺したろうが!」
「……あー……ごめん」
気まずい沈黙。

ややあって、魔王が低く笑い出す。
「ふ……ふふふふふ、ふははははは! なんの、我が魔力を舐めるな!
こうなったら人間の女に化けてくれるわ! 貴様には何が何でも夫の務めを
果たしてもらうぞ! さぁ言え、どんな姿が好みだ!?」
「いや……そんなこと言われても……」
勇者は困ったように自分の姿を見下ろした。
「俺も、女だし」



その後魔王の婿取りがどうなったのか、いかなる古文書にも記されてはいない。







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最終更新:2008年02月14日 00:44