• スレッド_レス番号 02_153-156
  • 作者 319 ◆lHiWUhvoBo
  • 備考 長編,小隊長シリーズその6 自宅編


 (踏んだり蹴ったりとはこの事だな…)

 人の言うマンション、本来荘園を意味する名称から程遠い外観であるだろう集合住宅――アパートメント――の自室の
ドアの前に立ちながら、男は溜息を吐く。その後ファミリーレストランで多分薙刀(ナギナタ)の心得えがあるだろう、モップを
持った少女に襲撃され、急いで両掌で受け止めたのは良いが、水滴でスーツを台無しにされてしまった。下のウェイトレスに
水滴が掛からないよう、完璧を帰して庇(かば)った御蔭であった。そうでなければしっかり避けている。

 (世の中は狭い、と言うが…)

 ウェイトレスを組み敷いていたのは事実だったが、強姦魔と言われるのは心外なので事情を話そうとすると、血相を変えた
ウェイトレスがいきなり少女を平手で殴り、『店長は、先輩は勝手なんですから!』と激怒してしまったため、宥(なだ)めざるを
得なかった。喧嘩を始めた二人を急いで停め、休憩から戻ってきた従業員に聞いて奥の店長室に案内して貰い、事情を聞いて
仲裁し、解決したのが休憩時間が終わる16時。会社の上司に遅れる旨を報告している最中、いきなり笑顔の少女に携帯電話を
ひったくられて『かすみん? ひっさしぶりぃ~! 』などと会話され、何だかウヤムヤのうちに「外回り」扱いに為ってしまった。

 『ゆきぽんは後輩でぇ、かすみんはタメ。おんなじ女子校なんだ、テヘっ☆』

 と言われても、少女のカタチをしたその女性はどう見ても18より下には見えなかった。横で自分を思い遣るようにウェイトレスが
『…真実です』と言っていたが、これこそ嘘だろうと言いたくも為る。ウェイトレスが実はレストランのマネージャーだったと聞かされ、
スーツ姿で平謝りに謝られても、だ。スーツを即日クリーニングに出すと言われ、目の前で脱いだらやけに驚かれてしまったのは
愉快だった。元の職業は【着せ替え人形】と呼ばれる程に着替えが多く、また周囲もほとんど同性のため、隠す事とは無縁だった。
熱い視線が痛いほど突き刺さっていた気もするが、多分気のせいだろう。…女ならともかく、男の裸など見せ物にもならないはずだ。

 『済みません…着替えがこれしかないんです…』

 マネージャーにおずおずと差し出された男性用ウェイターの制服を渡され、着て見ると溜息を吐かれたのは、きっと板について
居なかったからだろう。その割には店長が『ゆきぽん! これは使える、使えるぞぉ~!』と熱っぽく語っていたのは不思議だが。

 『…笑ってくださいね。はい、いいですよ。あ、お写真ですが…私…ずっと大事にしますから』

 取り合えず肖像権云々の店長の質問には構いませんからご自由に、と答えた。クリーニングが20時には終わると聞き、その間は
暇になるので、忙しくなるようだったら手伝いたいとウェイターの真似事をしてみたが、中々面白かった。マネージャーから『貴方は
絶対に女性客のオーダーを取らなくていい、むしろ近づかないで下さい』と厳命されたが、呼び出しが忙しくて守れなかったのを本当に
申し訳なく思ったが、仕方ない。…店長から『いっけぇ~! 対女性客最終兵器! 常連ゲットだお☆!』と突っ込まされたのだから。

 『あの、よろしければここに…転職…しませんか』

 とマネージャーに言われたのは多分過分なリップサービスだろう。様子を見に来た上司に『ウチの会社、アルバイト禁止でばれたら
クビなんだけどな』とニヤニヤされた時、矢の様に早く傍に来て、自分を上記の言葉で庇ってくれたのは有り難かった。静かに交差する
二人の鋭い視線にうすら寒いものを感じたが、気のせいに違いない。ウェイトレス姿の店長が『あ、かすみん、きてくれたんだぁ☆』と
上司の隣に座ってあんなに親しそうに三人で会話していたのだから。三人の交渉の末、直帰扱いになったのも有り難かった。

 (さて、現在22時…異常は…)

 男は自室ドアの合わせ目に2セロテープで貼って置いた髪の毛の存在を確認する。セロテープに指紋が付いていた。張るときは
ラテックスの手袋をするため、男の指紋では無い。つい最近「拾って」きた「子猫」のものでも無い。外には出ないよう厳命していて、
「子猫」もそれを承諾し、むしろ出たくないと言っていた程だ。可能性は一つ。「招かれざる侵入者」だ。心当たりは二人存在する。
男は深呼吸し、ドアに手を掛け、勢いよく引いた。

 男がドアを開けると、【子猫】が座って待っていた。…【子猫】は、いや、もう【子猫】と呼ぶ事は出来ないだろう女性は
得も言われぬ艶やかな雰囲気を醸し出していた。敢えて形容するならば、大人に為りきれぬ少女だけが持つ、未成熟で
アンバランスな色気だ。男は目を瞬いた。昼間の事がまだ頭に残っていたかと激しく頭も振って見た。…目の前の光景が
完全なる現実だと言う事を、残酷にも認識させられただけだった。

 「お帰りなさい…。御飯にします? それともお風呂? それとも…」

 長い翠の黒髪を蒼いリボンで纏めているのはわかる。リボンは近日中に誕生日を迎える幼馴染みに贈るために買って
置いたものを、また買うので使っても良いと渡したものだ。フリル付きの白いエプロン。これは『いつかわたしの手料理を
小隊長にご馳走するんです』といつも自分の作る料理を食べるだけの『元部下』が嫌がる自分を無視して置いて行ったものだ。
だがそれ以外には…

 「…なさいます? 」

 何も身に着けていない生まれたままの姿の娘が、実りきらない尻を向け、右手の人差し指と中指で薄桃色の陰裂を開き、
誘惑している。健康かつ健全で清純な少女の生硬さを感じさせる肉体美と、全く似つかわしくない淫靡な「お誘い」のインパクト。
男が目を閉じてもしっかりと脳裏に焼き付いてしまった今、吹き付ける強い春風にも似た凄絶な情欲衝動が男を苛(さいな)んでいた。
歯を噛み締め冷静になろうと努力する男の目に、陰裂から滴る透明な粘液が映った。亀頭が痛い。――駄目だ。解放しろ。――駄目だ。
獣欲に従え。――断る! 男の自問自答が続く中、獣性がついに甘言を弄(ろう)した。我慢するな、ほら見ろ…

 「貴方が…欲しいの…」

 何故そこで尻を左右に煽情的に振る! 何故だ! と、男は内心叫び、歯軋りを漏らす。理性が屈するのも、もう限界に近かった。
何故なら彼女は余りにも「男がまだ幸せな結婚を夢見ていた少年の日の幼馴染みの姿」に生き写しだったのだ。医師の残酷な
宣告が無ければ、少年はとっくの昔に父親に為っていただろう相手だ。冷たく燃える光が滲んだ、冬の星空を思う。あの日に
涙ながらに別れを告げて…俺は…! 男は気付かずジッパーを降ろし、少女に圧し掛かっていた。

 「あッ…」

 男がついに少女の身体に触れた時、幽かな震えに気が付いた。…脅えている? 男の理性が復権を訴えた。違う。待て。罠だと。
少女の耳に口を付ける。くすぐったさからか、それとも恐怖からか、少女が体を強張らせる。その初々しい反応から涌き上がる征服欲に
負けまいと、ついに男は口内の肉を噛み切った。鋭い痛みと血の味が、男を「獣」ではなく「理性的な人間」に留めさせる。そして男は
静かに囁いた。

 「誰か、居るんだな」

 こくん、と少女は頷いた。やっぱりだ。「少女」が無断で家捜しする性根を持っていないのは確認済みだ。となると想像される事態は
一つしかない。無断で自分の中学・高校の卒業アルバムを見て『この小隊長といつも一緒に写ってる子、塗り潰したくなりますね』と
言ってのけるくらいにいい根性をしている『元部下』しかいない。エプロンを見て最初に気付くべきだった。あいつだ。間違い無い。

 「…怖かったろう。…こんな真似をさせて、済まなかった」
 「あンッ! 」

 男の心を怒りが支配する。さぞや荒れた事だろう。多分こんな真似を少女にさせたのも、男の理性を試したつもりなのだろう。
少女が否定しても、抱かれていたと決め付け、抱かれてないなら出来るはずだ、と無理矢理に少女に強制したに違いないのだ。
だったらあいつの妄想通り、少女に嬌声を上げさせ、我慢出来ずに姿を表わしたところにキツいお仕置きか灸を据えるしかない。

 「あいつが出てくるまで、悪いがお芝居に付き合ってくれ」

 豊かに実りつつある胸を掬(すく)い上げるようにしてエプロンの上から柔らかく揉みほぐしながら、男は少女の耳にそっと囁く。
含羞の表情を浮かべる少女の心中を思うと痛々しさに胸が張り裂けそうになるが…一瞬少女が嬉しそうに微笑んで見えたのは
きっと気のせいだろうと男は思った。そして奥に聞こえるように声を大きくする。

 「ずっと我慢していたが、もう限界だ! するぞ! もうするぞ! 処女だろうが構うものか! 」

 そして片手を少女の太腿の付け根に伸ばし、触る。…不衛生な手で少女の陰部を触っては、後々感染症の元となるからだ。
だが、少女はその手を自分の秘唇へと導く。素早く少女は身体を入れ替え、男の上に跨り、男が先刻したように耳に可憐な唇を
付け、熱っぽく囁いた。

 「…復讐するは我にあり。遠慮していると、お芝居だとすぐばれちゃいますよ」
 「しかし…」

 少女は目尻に浮いた涙を拭きながらも、目元を染めて気丈にも男に微笑んだ。男の勃起した陰茎をおずおずと、しかし愛しげに
さすりながら奥の部屋に聞こえるように喜色に溢れた声を上げる。…きっと本格的に演劇を学んだに違いないと男は思った。

 「やっと、やっと抱いてくれるんですね! わたし、わたしずっと待ってたんですよ…? これ…入れちゃいますから」
 「ま、待ってくれ! そこまでしなくていい! ストップ、ストップだって! きっともっと君にふさわしい男が現われるから!」
 「欲しいんです…本当に…。それに…貴方じゃなきゃ…嫌なの…」

 芝居だと思い少女に愛撫を続けたが、亀頭が陰裂を割り拡げるに至ったとき、男は己の間違いにやっと気付いた。どうやら
少女は本気で自分の「モノ」になる気なのだ、と。急いで腰を振り、少女の手から逃れようとするも、ガッチリホールドされていた。
無理に振り解くと、少女に怪我をさせてしまう! 亀頭からの快感に耐えつつ、重力に従おうとする少女の腰を腕で支える男を
救ったのは…!

 「そんなの、そんなの駄目ェェェェェェ! 小隊長は私の、私だけの小隊長なのぉ! 」

 泣きながら少女を力任せに引き剥がし、間髪入れずに武者振りついて唇を奪ってきた『元部下』、音無郁子3等陸曹だった。
我慢し切れずに出てきたのだろう。大きな目を真っ赤に腫らして泣いていたあとが痛々しい。だが甘やかすとこの通りだ。
男は唇を求め続ける『元部下』のショートボブの黒髪を掴んで有無を言わさず引き剥がし、鋭い視線で射抜いた。

 「…わかってます…。ゴメンなさいすればいいんですよね、この子に…」
 「それと俺にも、だ。『音無3曹』。いくら大家さんの妹とは言え、無断で入るなと何回言えば解る? 」
 「わかりたく…ありません…。『小隊長』…」

 それでもしがみ付いてまだ甘えようとする音無3曹を無理矢理引き剥がしたのは、何故か恥ずかしい格好のままでいる
少女だった。それから何故か口喧嘩が始まり、平手の応酬が2度実施された。少女が手刀をかざし、音無3曹が拳を構えて
部屋でキャットファイトの火蓋が切られようとする前に、男は

 「やるのはいいが、やったら俺は即、二人とも縁を切るからな」

と一言、怒りを湛(たた)え静かに言い放ち、ようやく我に還って捨てないでと泣き出した2人を停める事に成功したのだった。




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最終更新:2008年02月14日 00:50