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  • 作者 17
  • 備考 短編,かつての…


月明りに蝋細工のような肌が透け
もつれた黒髪がそれを怪しく彩る。
前触れもなく開け放たれた窓から
彼女は一糸纏わぬ姿でするりと滑り込んできた。

「やっぱり、待っていてくれたのね。嬉しいわ」
青白い肌に不似合いな鮮血の色に染まった唇。
笑みに鋭い牙がこぼれて見える。
「…。」
暗い金色に輝く瞳に見据えられ
身動きひとつ、いや言葉を発することさえできない。
「迎えに来たのよ…亮も、こちら側にいらっしゃいな。」
シャツの上を細い指がなぞり、ボタンがひとつひとつ外されていく。
唇を重ねられ、舌が割り込んでくる。
くちゅくちゅと、かつてそうしていたように絡み合う舌。
しかし、彼女の舌も吐息も、今は氷のように冷たい。
「んふ…ああ、暖かいわ。
 亮の生命を私に頂戴。そして二人で、堕ちましょう?」
露にされた胸板を舌が這い
僕の下半身に伸ばされた手がくにくにと性器を弄び始める。
「…めだ…っ…。」
「ふふっ、抵抗するの?恋人の誘いを断るの?
 永遠の闇の中で、ずっと交わっていられるのよ?」
僕は竦んだ身に力を込め、大きく首を振る。
「君は…もう僕の恋人だった美央じゃない…
 僕まで堕ちてしまったら、誰が美央を救うんだ…っ」
「要らないわ、救いなんて。貴方と共に永遠を過ごせるんだから。」
赤い唇の奥で、舌が炎のようにちろちろと揺らめく。
もう一度絡められた舌は、僕の熱を吸ってほのかに暖かい。

許されるなら、僕も彼女と共に闇に身を委ねてしまいたい。
このまま彼女を抱いてしまえば。
でも。

「だから、ね、お願いよ、亮…」
ゆっくりと、のしかかってくる彼女。
僕は片手を彼女の背中に回す。
「…ごめん、美央。僕にはこれしか…できない!」
きつく彼女を抱き寄せ、そして。
ベッドに隠した白木の杭を、渾身の力で彼女の胸に突き立てる。
「……きゃあ、あああ…!!」
絹を引き裂くような悲鳴。
みるみるうちに砂と土くれに変わって行く彼女の体。
見開いた瞳から、僕の胸にぽたぽたと涙が落ちる。

朽ちてゆく彼女を胸に抱き、声を上げて泣いた。

悲鳴の後、彼女が言葉を発することはなかった。
ただ唇だけが
「ありがとう」
と動いた。動いた気がした。




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最終更新:2008年02月14日 00:15