• スレッド_レス番号 01_151-153
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  • 備考 長編,01_124から触発されてシリーズその2


「ねえねえ!なんで行っちゃうのよう!!」
「っせーな、人の部屋勝手に上がり込んでさわぐなっつの」
 部屋の中に場違いな声が響く。
 ベッドと机以外何もない質素な部屋の中で、少女の姿はなおさら際立って見えた。
「いーじゃん、お姉ちゃんには私から謝っとくからさぁ」
「そーいう問題じゃねーの。王の前で自分の剣を折るってのは、つまり自分を首にしてくれってことなんだよ」
 男はこの国一番の剣豪。最も多くの敵を葬り、最も多くの血を浴びた“英雄”である。
 女はこの国の第二女王、つまり女王陛下の実の妹である。だがその見目麗しい容姿とは違い、性格はまさにおてんば。
 冷静で博識な姉と違い、むしろどこか庶民的な感じすらある。仮にも女王なのか疑いたくなるが、だが国民からの人気は高かった。
 男は女の護衛者だった。常に誰よりも女の近くにいる女の護り手。女にとって、男はまさに勝利を約束された騎士であった。
 だが、男は今国を去ろうとしていた。彼女に何を言うわけでもなく、何の相談もなく、である。彼女が戸惑うのも当然だ。
「なんでいきなりそんな…いくらなんでも急すぎるよ!?」
「前から気に食わなかったんだよ。この国の連中は俺を英雄だとかはやし立てるくせに、その実何よりも煩わしく思ってる。
ウンザリだ。こんな奴ら守ることが、いい加減馬鹿馬鹿しく思えてな」
「…ウソツキー」
「誰が嘘なんて」
「いーや嘘だね。アンタ嘘つく時いつも右耳がピクピク動くんだ。私の目はごまかせないよーだ」
「ッチ、変なとこばっかり鋭くなりやがって…ほれ、荷造りの邪魔だ。はよ出てけ」
「ねーねーならさー、私も一緒に連れてってよ!」
「バカかお前は。軍を勝手に抜けてその上第二女王をかっさらったなんて話になったら、それこそ俺は殺されちまうよ」
「ん、それもそうか…なら、最後に一夜の思い出を体に刻み込んでって?なんちゃってー!」
「バカだ、お前は。それに俺は18のガキなんざ抱くような趣味はないの」
「ガキっていうな!自分だって大差ないくせに!!」
「俺は22、もう立派に成人してんの」
 鬱陶しそうに女をあしらう男。邪魔だと言わんばかりにシッシッと手を振る。

「いーじゃんよー。どうせお姉ちゃんもあの黒っちいのとお楽しみだろうし?私達も楽しもうよー」
「あのなぁ、冗談もそこまで行くとタチわりぃぞ?いい加減出てけ、いつまでたっても終わりゃしねぇ」
 そう言った途端、女は少し悲しげに俯く。やっと静かになった、と男は壁にかかった鎧に手を掛けた。だが、その時。
「…だもん」
「あん?」
「私、本気だもん」
「何言って、オイ待て止めろ、服を脱ぐなコラ!?」
 男が振り返った先には、ベッドの上で身に纏った布地を脱ぎ捨て、生まれたままの姿になった女がいた。
 その瞳は潤んでいて、しかし確固たる決意が奥で燻っているような、そんな眼をしている。
「私アンタと離れたくない!ずっとずっと好きだったんだもん、離れるなんて絶対に出来ない!!
 だからお願い、一緒に連れていって…私を…抱いてよ…」
 最後のほうは、かすれてよく聞き取ることが出来ない。だが、眼からこぼれる雫が、全てを物語っていた。
 彼女の想いも、彼女の心も、それを見ればすぐにわかる。女は、どこまでも男を愛していたのだ。
「…ったく、しゃーねーな。泣くんじゃねーよバカ」
「…グスッ、うるさい…バカって言うんむ!?」
 最後まで喋ることを許さず、男は女と口づけを交わす。
 舌で口内を蹂躙しつくし、互いに互いの舌を絡めあいながら、男は女の喉の奥へカプセルを流し込む。
「…んちゅ、くちゅっぷは、ん…く、ハァハァ…今、何、飲ませた、の…?」
「気持ちよくなる薬。初めては痛いって聞くからな」
「…エッチ」
「知らなかったのか?」
 口と口をつなぐ銀の橋。それが途切れた先の女の顔は赤く、眼は蕩け、息は荒く、淫猥な雰囲気が漂っている。
 男が女をベッドに寝かし、その上に覆いかぶさるように男もベッドに入る。
「…一つだけ、教えて?本当はなんで国を捨てるの?」
 潤んだままの瞳で問いかける女。沈鬱な顔をしながら、男は少し思考し、そして言葉を放つ。

「…なぁ、この国の兵士のうち、何人が魔王とまともにやり合えると思う?」
「何人って…そんな奴アンタ以外いるはずないじゃない」
「ああ、だろうな。だから、俺は国を捨てるんだよ」
「どういう、こと?まさ、か、そんな」
「…どうせ誰か死ぬなら、被害は少ない方がいい。なおかつそれが一人で済むってんなら、方法はそれっきゃないだろう?」
「そんな…っ!自分が犠牲になるって言うの!?みんなの為に、自分一人だけ死ぬつもりなの!?」
「あー、耳元でうるせーな。だから言いたくなかったんだよ。ところで…」
 ニヤリ、とニヒルな笑みを漏らして、男は女の耳元で囁いた。
「そろそろいいか?覚悟しろよ、初めては死ぬほど痛いらしいからな。だから―――」
 トサ…。女の頭が枕へと沈む。いつの間にか、女は静かに寝息をたてて、安らかな夢の世界へと旅立っていた。
「―――その初めては、他の誰かのためにとっとくんだな」
 そう。男が仕込んだ“気持ちよくなる薬”。それは、強力な睡眠薬だったのだ。
 女を起こさぬように男はそっと立ち上がると、今度こそ壁に掛けた鎧を身に纏い、振り返って女を見る。
 その姿を瞳に焼き付けると、男は魔王の城へと視線を向けた。
「さて、と。いくぜ“黒っちいの”。互いに惚れた女を賭けて―――てか?へっ柄じゃねぇや」

 数日後、国王軍が魔王軍に総攻撃をかけた。
 黒衣の魔王は国王軍の一人の前に破れ、その命を落とした…
 だが、彼らは気づいただろうか?国王軍が総攻撃をかける前から、魔王がすでに傷ついていたことを。
 魔王の台座のその奥に、一人の男が横たわっていたことを―――

 FIN




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最終更新:2008年02月14日 00:20