• スレッド_レス番号 01_155-156
  • 作者
  • 備考 長編,シスター


ここは、町の外れにある礼拝堂。
ところどころ穴の開いた天井からは、
まるでスポットライトのように月の光が差し込んでいた。
女はその場所に相応しく純白の聖衣に身を包み、
男は月光さえも拒むかのような黒いコートで全身を覆っている。
「行って…しまわれるのですね?」
「はい。契約は、全て履行いたしましたから」
分かっていたことだけれど…、その返答にシスターは俯いた。
「…では」
小さく会釈をして、男は身を返す。
もう一度見つめられれば、決意が鈍りそうだったから。
「待ってください!」
悲鳴のような懇願の声に続き、ふぁさりと布の落ちる音。
その声に振り向いた男が見た者は、ケープとロザリオだけの姿となったシスター。
雪よりもなお白い肌に豊かな曲線を描く魅惑的な肢体…
しかし何よりも男の目を引付けたのは。
「…何を、泣いておられるのです」
「あなたが、愛しくて仕方が無いのです!」
叫ぶようにそう言って、シスターは愛してしまった男の胸に飛び込んだ。

最初に会ったときは、冷酷でなんて嫌な人だろうと思った。
でも、本当は違っていた。
気が付けばどうしようもない位に、彼のことが好きだった。
「私は、賞金稼ぎです。血の匂いを嗅ぎ回る汚らわしいモノです」
「違います…わたくしは知っています。あなたは本当は優しい方だって」
身を引き剥がそうとする男の腕に縋りつく。
「わたくしが何を言っても、あなたは行ってしまわれるのでしょう…ならば」
顔を上げて男の瞳を見つめる。その大きな青い瞳から大粒の涙が溢れた。
「今宵一夜で構いません…わたくしを」
「何を仰っているのです、神の御前で」
「この町を救って下さったのはか、神ではありません!」
ロザリオを外そうとした白い手を、男は包んで押し止める。
「お止めなさい、シスター…貴女に神は、捨てさせられない。
 貴女は心のうつくしい方だ。
 たった一度でも過ちを犯せば…、神に背いた自分が許せなくなるでしょう」
神を愛し、純潔を誓ったシスターの信仰の深さは、
男には痛いほどよく分かっていたから。
「これからのこの町に必要なのは、神の愛に疑いなく包まれた貴女の笑顔です」
男の手が、シスターの涙をぎこちなく拭う。
「…では」
男は再び身を返す。そして二度と振り向かなかった。




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最終更新:2008年02月14日 00:20