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  • 作者
  • 備考 長編,訳ありの女


「なんのつもりだ」
のしかかってくる女体に僅かに眉を顰め、だが男は醒めた声で問いかけた。
「女性にそれを言わせる気?」
ソファーに深々と腰掛けた男に跨りながら、曖昧に笑って女は言葉を返す。
長いスカートが捲れ上がって、真っ白な太腿がむき出しになる。
「正気か?」
「せめて本気と言ってちょうだい」
言いながら、ブラウスのボタンを細い指で一つずつ外していく。
ほどなくして繊細なレースが施された白いブラジャーに包まれた、大きく形の良い胸が現れた。
だがそれを見ても、男の冷静な態度は乱れない。
男の沈着冷静な態度はいつものことで、その反応に女が気分を害することはなかった。
あえて気にしないように努めているようにも見える。
「ねえ、……触って」
しかしその唇から吐息と共に吐き出された言葉は熱く、湿っている。
どこか思いつめたような瞳で、じっとりと男を見ている。
返事をせずに男は右手を動かした。

「あっ!」
直後、女が声を上げた。だがそれは快感から発せられたものではない。
男の手は、女が予測していなかった場所に潜り込んでいた。
「ちょっ……なんで、いきなりそこからなのよ」
「俺の勝手だ」
「あ、……っ」
下着越しに、男の中指が秘部の中心を擦りあげる。
女の腰が反射的に揺れた。

落ちてしまわぬように、彼女は慌てて男の両肩にしがみつく。
右の太腿を左手で掴んで押さえ、悠然と背もたれに背中を預けたまま、男は右手で女を嬲り始めた。
「……っ、んっ、ん」
揃えた中指と薬指が、布一枚を隔てた割れ目に押し付けられて、更に何度も往復する。
その度に、噛み締めるようなくぐもった声が女の口から漏れる。
思い出したように親指で核をぐり、と軽く押せば、息を呑むのと同時に腰が跳ねた。
男は女を見上げた。
快楽に身を任せて悶える女は美しかった。
切なげに眉を寄せ、閉じられた瞼が痙攣する度に長い睫が震える。
薔薇色に染まった頬が、吐息で塗れた唇が、切れ切れに耳に届く細い声が、欲望を刺激していく。
己の中心にも熱が集まっていくのを、男は自覚した。
だが、身体の熱とは裏腹に、彼の心の一部は依然として冷えたままだった。

与えられていた刺激が唐突に止んで、女は訝しんだ。
そっと目を開けると、男の醒めた目が自分を見据えていて、彼女は少しだけ怯んだ。
「ここまでだ」
感情の伴わない声で告げられる。
「な……」
「あとは自分でどうにかするんだな」
あまりと言えばあまりな、無体な事を続けざまに言われ、流石に女も怒りを覚える。
「……こんな状態にしておいて、放り出す気?」
押し殺した声で抗議する。

己の吐き出した蜜によって、女の下着は既にシミを作るほどに濡れていた。
離れた男の指を求めて、中心は今なおじんじんと疼き続けている。
声に震えが混じっていたのは、快感の余韻のためだ。
「あなただって、おさまりがつかないんじゃないの」
皮肉を込めた反撃に、鼻で笑って一蹴する。
「俺にもプライドがあるんでな」
醒めた視線の中に、僅かに熱が篭ったのを、女は気づいたかどうか。
男は更に決定的な一言を放つ。
「あいつの代わりはごめんだ」
途端、女の顔色がさっと変わった。
皮肉の倍返しを受けて罪悪感に歪んでいく女の表情を見る男の目は、元の醒めたものに戻っていた。
男は黙って女を押しのけた。
女は、何も言わなかった。
扉の前に立ったとき、背後から女が静かにすすり泣く声が聞こえたが、男は無視して部屋を後にした。

外に続く廊下を歩きながら、女が惨めに己を慰めればいいと、男は思った。
自分が与えた快感をなぞるように、自分の指の動きを思い出しながら。
自分のことを考えながら。
「不毛だな」
自嘲に口角が上がった。




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最終更新:2008年02月14日 00:24