- スレッド_レス番号 01_293-294
- 作者
- 備考 長編,更に別作者による01_276のアフター
「だが……そのままってわけにもいかねぇよなぁ」
ぬらり、と男の目が光る。本能的な恐怖に、女がじりじりと後ずさった。
ぱんっ、と空気の破裂する音―――そして、悲鳴。
ずたずたに服を切り裂かれた女に、男の体が襲い掛かる。
嗚呼この憎むべき世界、すべて破壊しつくしてあの女と同じ顔のおまえと
ただ2人。
身も焦げるような憎しみに渾然とする。それはいっそ愛しさにすら似た陶酔。
女の白い裸体を組み伏せて、首筋に噛みついた―――その刹那。
「……可哀想に」
嘆きが耳を打った。
悲しみの声は、最早苦痛しか伴わなかったはずの記憶を呼び覚ます。
名前を呼んで、呼ばれたあの頃。
おまえの白いドレスを夢見た。
「…………ッ!」
振り切るように身を起こす。
「おまえが悪いんだ! 俺は……っ! 俺はおまえと幸せになりたかったのに、
幸せにしてやりたかったのに!! 俺の気持ちを踏みにじって、おまえは……っ!!」
血を吐くような叫びに、女は、ただ静かな眼差しを向けた。
白い頬を、つぅっと涙が滑る。
「……ごめんなさい……」
「―――何謝ってんだ、おまえはあの女じゃないだろう!! 俺を裏切った、
おまえの……っ!!」
支離滅裂な怒鳴り声。返らない日々、戻らない時間。
帰る場所のない現実に、憤ることしかできない。
ああ憎いおまえが憎い。
おまえが、おまえが、おまえが!!
沸騰するような思考に頭を抱えた男を、白い腕が抱きこんだ。
「あなたの知る女性(ひと)は……自分の血筋に呪いをかけたの。代々生まれ
てくる女子は皆、その呪いを受けてきた。……私はあなたの知る女性じゃない
けれど、私はあなたを知っている。記憶が私の中にある……ずっと、嫌で嫌で
しかたなかった。私は私なのにって。でも……もう、どうでもいいわ。長いこと
独りにして本当にごめんなさい……」
「……そんな、まさか……っ」
ルキアと呼んだ。ケイと呼ばれた。
同じ声が今、確かに彼の名前を呼ぶ。
「私はあなたの知るルキアじゃない。でも同時にルキアなの。私を恨んであなた
が楽になるのなら……それで気が済むのなら」
抱けばいいわ。
耳元で囁かれた言葉に目の前がくらんだ。
どれほどに永く時が過ぎようとも、忘れられなかったあの日々と。
忘れられなかったが故に育まれた憎悪と。
挟まれて動けなくなる。その深い色の瞳。見つめるだけで呼吸がつまる。
なぁ頼むそれ以上何か言わないでくれ。
愛しているなんて間違っても。
言わないでくれ殺してしまう!
開かれかけた唇の動きを見てとって女の体を突き飛ばす。
背を向けて走り出した。
走って、走って、走って。
夕陽が沈む頃になってようやく煤けた瓦礫の町に出る。
焼き尽くされた―――その、残骸。逃げる暇すらなかったのか、親をなくした
子供の泣き声も聞こえない、死の静寂。
黒い地面を拳で叩いた。たぎるようなあの憎悪は曖昧にぼけて汗になる。
そうして、残った感情に―――
彼は、ただ、泣いた。
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最終更新:2008年02月14日 00:28