- スレッド_レス番号 01_301
- 作者
- 備考 短編,一族の縛り
「私はあなたを好きにならなければいけないの」
「無理すんなよ」
「あなたこそ、無理なんてしないで素直に抱きなさいよ」
「お前、本当は俺の弟の方が好きなんだろ?」
「黙って。そんなことはとうの昔にあなたはわかっているはずでしょう?」
「わかってるから言ってるんだ」
「わかってるなら言わないでよ・・・。私が、私たちが結ばれなければ、両家の和解は実現しないのよ?」
「そのために好きでもない男と結ばれても仕方ないってか」
「私一人の恋が成就しない代わりに、たくさんの人たちが幸せになれる。だから」
「うるせえ。俺はあんな一族がどうなろうとかまいやしない」
「・・・・・・本気で言ってるの?」
「半分な。今まで何十年も勝手な理由で争ってきて、んで今になって争いに疲れたから和解するだ?
馬鹿らしい。そんなら最初っからやるなって話だろ」
「自分たちの愚かさに気づいたのよ」
「違うな。単に戦を続けるだけの力がなくなってきただけの話だ。俺たちが結ばれて和解したところ
で、力が戻ったらまた争いになるに決まってる」
「そんなことわからないじゃない」
「こっちの方で、そういう密談があったんだよ」
「・・・・・・!」
「だから、俺たちが結ばれても、この和解にはほとんど意味がねえんだよ」
「私は・・・・・・」
「あん?」
「私は、あなたのようには考えられない。だって、たとえ一時的にでも平和になるんでしょ?それが
仮初めの平和だったとしても、和解している間にどうにかなるのかもしれないじゃない」
「・・・・・・・・・」
「自分の一族の子供たちの顔を思い出してみなさいよ。あの子たちにも争いの歴史を背負わせるの?
私は、それこそ私の勝手な理由であの子たちを争いに巻き込ませたくないの。わかってよ。ねえ・・・
わかってよ!」
「俺は」
「・・・・・・」
「俺は誰よりも、他の誰よりも、お前の未来が幸せになればいいと思ってる」
「何を・・・言ってるの?」
「これは俺のエゴだってことはわかってる。でも、お前が一族の幸せを望むのと同じくらいにそう
思ってるんだ」
「・・・・・・?」
「どうせお前と違って俺は名ばかりのうつけ当主だ。弟のほうが俺よりもよっぽど優秀で、あいつ
らも陰では弟に家を継がせたがってた」
「あなた、まさか・・・」
「堅苦しいことは嫌いな性分なんでな。色んなしがらみから解放された人生ってのは楽しそうだ」
「やめな・・・さいよ。無断で里を離れた者には、誰であろうと粛清が下る掟でしょう?過去に例外は
ないわ」
「知らねえよ。例外がいねえってんなら、俺がその第一号になってやる」
「そんなの、認めない・・・私は認めない!あなた一人が不幸になるなんて、絶対に!」
「さっきまでお前一人で不幸を背負う覚悟をしていたのにか?」
「・・・・・・!」
「心配なんていらねえよ。一応剣術とかじゃ100年に1人の逸材だって言われてんだぜ?やられる前に
さっさと外国にでも逃げてやるよ」
「私、は・・・!」
「既に弟に継がせるように手紙は書いてある。あいつは優秀で、どちらかと言えば平和主義者だ。人
心掌握の仕方もうまい。お前の言う平和は、俺よりもあいつの方が実現する可能性は高いぞ」
「待ちなさいよ!こんなことで、私が嬉しがるとでも思ってるの!?」
「だから言っただろう。これは俺のエゴだ・・・・・・じゃあな」
「待ちなさい!待って!待ってよ!」
後に、外国へ向かう船のある港で、惨殺されている男の遺体が発見された。
それがこの男であるのかは、不明である。
バグ・不具合を見つけたら? 要望がある場合は?
お手数ですが、メールでお問い合わせください。
最終更新:2008年02月14日 00:28