• スレッド_レス番号 01_406-409
  • 作者
  • 備考 長編,兄妹


私はいつも、めぐる一年間の中でこの日を楽しみにしている。
いや、この日しか私は“楽しい”ということ実感できなくなっていた。
この日のためだけに、私は、もう、誰も居ない昔の実家に帰ってくる。
―…そろそろだ、少し、心臓の音が高鳴る。
玄関が開く音がした。あぁ、今すぐに気持ちの向くままに玄関に走りだし抱きつきたい。
でもダメ、私はそんな女の子じゃないんだから。
廊下を歩く音が、近づいてくる。もう少し、もう少しで会える。
襖が開いたら始めに、おかえり、だ。
そう心に何度も復唱しつづける。
襖が開く。
「お、おきゃうぇり兄さん」
「ただいま~、て……」
しまった、痛恨のミスだ。こうなることなら一回、口に出して言うべきだった…

夕飯を終えて、一息つく。
「どう?私の料理美味しかったでしょ」
「美味かった、お前上達したなぁ」
「でしょ~」
「うん、あ~俺ちょっと、食ったら眠くなってきた、自分の部屋いくわぁ」
「え」
「心配すんなって、まだ二日もあるんだから」
ふぁ~、と口を広げる兄さんはホントに眠そうだった。
兄さんはまだ二日って、いってたけど私にとっては後二日なのだ、後二日で兄さんはまた“アッチ”に帰ってしまう。
我慢できない、兄さんはもっと自覚してほしい。
兄さんが帰ったら、私はまた独りぼっちだ。
また、来年まで兄さんに会えない。
「はぁ…」
考えるだけでため息が出る。

「お?どした」
気付いたら兄さんの部屋に来ていた。兄さんの声を無視してとなりに座る。
「お、おい」
床をついていた兄さんの手に手を重ねる。
「…兄さん」
そう呟くだけで、体が熱くなる。
「抱いて」


「抱いて」
甘い声で、そう囁かれただけで思考が一気に削られる。
胸の奥が締め付けられて、少しだけ、昔の記憶がフラッシュバックする。
高ニの時に、妹の初恋の相手が自分だったと気付いたとき
兄妹でしてはいけないという背徳感を感じながら初めてしたとき
「兄さん」
重ねていた手が持ち上げられ引き寄せられ、柔らかい胸に押しあてられる。
「ん」
触れると同時に甘い声が漏れてくる。
それが引き金になったのか無意識のうちに指が力を加える。
「ん…、あっ」
気持ちいい、しかし、それとは別の小さな疑問を感じた。
胸から手を離して、それを口にする。
「兄…さん?」
「お前…、彼氏とかいねぇのか」
目を丸くしてコイツは質問の意味をかんがえる素振りを見せると、すぐさま笑顔になって答える。
「大丈夫!絶対に浮気なんかしないよ、私には兄さんがいるんだから」
コイツ…、本気で言ってんのか、まだ俺が彼氏と思ってんのか
コイツも18だ、もう五年も経ってるんだぞ。
いくらなんでも引きずりすぎだ。俺が帰ってくるたびに笑顔で迎えてくれていた、でもそれは家族として、兄妹としての関係として迎えてくれていたと思ってた。
だけどコイツの彼氏はまだ俺、俺のことがまだ男として好きなのか?
「兄さん」
絶対ダメだ、年に三日しか帰ってこれない奴だぞ、そんなの幸せになれっこない、このままじゃ妹の人生がダメになる。
「兄さん!」
「な!?」
「兄さん、どうしたの?…続き、しようよ」
妹の唇が近づく、それを俺は肩を掴んで止めた。
「兄…さん?」
「ダメだ、俺といっしょに居ちゃダメだ」
「え」
「お前、わかってんのか、俺が死人だって、わかってんのか?、」
「違うよ?兄さんは生きてるよ、現に私の目の前にいるじゃない」
「…それは違う、この日が特別なだけだ。俺はもう死人だ。この三日だけしか俺は現界できない」
「………」
「それをまだ俺が彼氏なんて、おかしいだろ、だから―」
「っおかしくなんてない!!兄さんは私の彼氏だ、ううん、私の彼氏は兄さんだけ。」

兄さんに抱きついて、胸に顔を埋める。
兄さんの匂い、兄さん兄さん
「やめろ」
「やだ」
兄さんはやさしい、本当に嫌なら突き放せばいい。
そうしないのは嫌じゃないからだ。
それなら
「ん」
「なっ…」
キス、兄さんは私をからかってるだけだ。こんな冗談は迷惑だ。
「今度は…兄さんからだよ」
「……」
「…え?」
体が離される、なんで?兄さんは私のことが好きじゃないの
兄さんは私をじっと見て、口を開いた。
「なんで、俺が帰ってこれたかわかった」
そんなの簡単だ、私と会うためだ。
「お前がずっと俺のことをずっと、死んでからも想っていたから、俺は帰ってこれた」
ほら、やっぱり
「だから言う、こんなことならもっと、前から言っておくべきだった」

「別れよう」

「え?」
おかしいよ、なんで
なんで別れるの、だってまだ好きあってるじゃない。
そんなのヤダ、やだやだやだやだやだやだ
「嫌だ、兄さんは私のこと嫌いなの…?」
声が震える、兄さんは目を伏せて答える。
「好きだ」
「ちゃんとこっちみて言ってよ…」
兄さんは答えない
「――ねぇっ!」
兄さんの手を掴もうとした、けど、霧を掴むように手が通り抜ける。
「え…?」
兄さんも驚いた顔をしていた。なんで
「…未練がなくなったから」
「未練…?」
「…今分かった。お前が想っていたんじゃなくて、俺が想っていたからだ、死んでからずっと、自分でも気付かないくらい」
兄さんの体が透ける、向うの壁が見えるくらいに
私も兄さんもしゃべらない、もう時間がないのに、くちが開かない
「楽しかった」
そのことばに顔を上げた時、兄さんはいなかった。




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最終更新:2008年02月14日 00:32