(17)447 『コードネーム「pepper」-ガイノイドは父の夢を見るか?-2 』

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(17)447 『コードネーム「pepper」-ガイノイドは父の夢を見るか?-2 』 - (2012/11/25 (日) 21:40:30) のソース

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第6話 : One for all  all for one

ここは、入り口のドアに「本日休業」の札が掛けられた喫茶店「リゾナント」の中。 
リーダーの愛が、珍しく里沙を除き全員集合したリゾナンター達を前にしていた。 
「どうしても全員なんですかぁ~? 小春、これから仕事なんだけど~」 
小春が不機嫌そうに言う。 
「今回の任務はリゾナンターの総力、全員でいきます。」愛が答える。 
「日本の誇るロボット工学の権威、阿久悠博士が、警察庁、科学技術局の手により拘束されています。」「その所在を突き止め、我々の手で奪還します!」 

「えええええ~!!」 
メンバー全員が一斉にどよめく。 
「ほえ~?それって、警察庁の総本山を敵にまわすって事ですか~?」 
「でも、そもそもそれって誘拐だと思うの…。」 
「ミッションインポッシボーてやっちゃね!まともに考えたら無理ったい!」 
「無理ですよ、無理無理!小春仕事もあるし!」 
「リーダー、大丈夫なんですか?そんな事しても…。」 
「阿久博士、知っテル! 中国にも来た事アルヨ!すごい警備だったデスよ!」 
「スミマセン、バナナどこにイキマシタカ…?」 
 …みんな口々に騒ぎ出し、収拾がつかない。 

ざわつくメンバー達を見ながら、ゆっくりと愛は窓に向かって歩いた。窓に向かい、小さな声でつぶやく。 
「ガキさんの電話、最初の言葉は “お願い” やったなあ…。」 
ピクッ…。 …メンバー達の耳がピクつくかのように、リーダーに注意が向けられるのがわかる。 
「二言目には “助けて” って言うてた…。」 
 …メンバー達は完全に静まり返り、愛の次の言葉を待っている。 
「ガキさん、泣いてたみたいやよ…。」 

 …さらに静まり返るメンバー達… 

急に小春の甘ったれた声が響く。 
「あ、小春です~。お疲れ様です~。すみませんちょっと今日どうしても体調悪くて…。ええ、すみません、 
気をつけます…。あ、日程ズラせます? ああ、ありがとうございます!それじゃあ、宜しくお願いします!」 
 …チョロイもんだ、とでも言いたげな顔で携帯をとじる小春。 
「相手は強い方がわくわくしよる!腕がなるっちゃ!」 
「ま、まあ、新垣さんの頼みですから、ねえ?」 
「…やるしかないと思うの・・・。」 
「阿久博士に会えるデスか? 楽しみデ~ス!」 
「あ、バナナありました~! これで大丈夫デス!」 

「よ~し、みんなやる気充分やね!? さっそく作戦会議に入るよっ!!」 
愛がメンバーを見渡しながら言う。 
「今回の作戦の絶対条件は、“誰も傷つけない事”。そして、できれば我々リゾナンターの仕業だと気付か 
れないのが理想だけど…。」 
「時間はありません。最速での奪還を目指します。最悪の場合、警察庁との全面対立も覚悟の上です。 
奪還を最優先してください!!」 

 …作戦会議が続く「リゾナント」の外には、紫色の黄昏が迫ってきていた。

第7話 :  Romance 

同じ頃、里沙はリサとアイカの埋葬に立ち会っていた。 
この都会のTokyoCityでは奇跡のような、森に囲まれた小高い丘の上で、粗末な墓標をしつらえ、残さ 
れたメンバー達が祈りを捧げていた。 
いたたまれない気持ちの里沙は、その輪にはいることが出来ず、ただ唇を噛み立ち尽くしていた。 
自分の不甲斐なさを思うと、涙を止める事が出来ない…里沙は泣き崩れるのをこらえるのがやっとだった。 
アイがそんな里沙にゆっくりと歩み寄り、肩を抱いて言う。 
「泣かないで…。アイカの最後の心はみんなに伝わってきたの…。あの子は恨んでなんかいない。あなた 
の手のぬくもりの中で、とても幸せな、やさしい気持ちを感じていたわ…。」 
里沙は声をあげて泣いた。 
「そして、あの子は最後に自分を人間だと信じて逝った… あなたのおかげで…。みんな、あなたに感謝 
しているの。」 

「アイちゃんは…」思わず愛を呼ぶ時のように里沙は言う。 
「アイちゃんたちは…人間じゃないの? こんなに…、こんなに人間らしいのに…?」 
「アイカは幼かったから…。すぐに知らせることは出来なかったけど…。私達はあなたがたリゾナンターを 
模して作られたガイノイド…、らしいわね。」アイはこともなげに言う。 
「私達の脱走にあたって、研究所には私達に好意的な人たちもいたの。その人達が教えてくれた…。でも、 
その人たちも、やはり私達には"心がある”と言ってくれたわ…。」 
「私達は心のある人間として生きてきた。…だから、これからも人間として生きる。…そう決めたの。」 
「そして、もし今の私達に父と呼べる人がいるのなら…会いたい。一目でも。…それが今の私達の願い。」 

「きっと会えるよ!今、リゾナンターの仲間達もお父さんを探してくれてる!みんなのお父さんは…、きっと 
阿久悠博士だよ!博士も、みんなのこと、ロボットじゃないって言ってた…。すごい人なんだよ!」 
「阿久博士…。そうなのかも知れないね…。でも、博士は今どこに拘束されているのか…。」 
「うん、でもみんながきっと見つけてくれる!」 
「…ありがとう。でも、私達には時間が無い…。私達も、今も感じるこの父の思念を頼りに、父の居所をさがしていくわ。」 
「なにか具体的なあてがあるの?」 
「私達の感じる方向を総合すると、TukubaCity方面じゃないかというの。これは、研究所の協力者にも 
相談してみたんだけど…。」 

TukubaCity。「研究都市」として、警察庁、文部科学省、防衛省等の研究機関が立ち並ぶ。確かに、阿久 
博士を拘束する場所としてはふさわしいとも思えた。 
しかし、「研究所の協力者」と言う言葉に里沙は引っかかった。 
「研究所の協力者って? …大丈夫なの?みんなの居場所が知られたりはしないの?」 
「LINLIN! 大丈夫よね!?」とアイが微笑みながら言う。 
「ハイ!土居さんはステキな人デス!」とLINLINが真面目な顔で答える。 
メンバー達の顔に、ひさしぶりの笑顔がひろがった。 
「…え…? ステキ…って…? どういう意味…?」里沙が訝る。 
「協力者の土居さんというのは、私達の戦闘技術の指導者だった人で…、LINLINの…恋人なの。」 
「ええ~っ!!」と驚きながらも、里沙は驚いた自分を恥じた。 
本当に普通の女の子達なんだ…。ガイノイドが恋をするなんて…と驚いた自分は、心底から彼女達を人間 
だとは思っていなかったのかも知れない…。こんな「ロマンス」があったなんて…。 
聞けば、事件の発端となった「支給品ではない携帯」も、「彼」との連絡用だったらしい。 
「今も、連絡取り合ってるの?」 
「ハイ!」 
「そうか…。お父さんに会えたら、今度はお父さんにも紹介できたら良いね!」 
「ハイ!」 
LINLINは、顔を赤らめながら答えた。再び、メンバー達に暖かい微笑がひろがった。 

同じ頃、周辺の森の中では、警察庁の誇る特殊科学急襲部隊(SSAT)が、「pepper」達の居場所を察知 
し、襲撃の準備を整えようとしていた。 


第8話  :Killing field 


「バシュ!バシュ!バシュ!」未明の空に破裂音が響き、「pepper」達が束の間の休息を取る森が、 
突然明るい光に照らされる。 

「照明弾!?」里沙が仮眠から跳ね起きる。 
「始まったわね…」 
既にアイたちは立ち上がり、臨戦体勢にあった。 
「どうしてここが!? アタシ、つけられてた?」 
「違うわ。私達は先の戦闘からずっと追跡されてた。…なぜか包囲するだけで攻撃はしてこなかったけど。」 
「そうか…。秋元の意識が回復したんだわ…。たぶん。」 
もっと意識を混乱させておけば良かった、と里沙は今更ながら後悔したが、脱出の際に、アイカと自分の 
記憶を注意深く秋元の意識から抜き出してはいたものの、それ以上の操作は現実的には危険すぎた。 

「ざっと200体…2個中隊ってとこちゃね」森の奥をうかがいながらレイナが言う。 
「この前の倍ですね…。 ま、どうってことないですよ!」とコハル。 
「そうはいかなそうよ…。 今回は大物が1体いるみたいね…。」アイの目は、照明弾に照らされた森の奥 
に未だ残る暗闇を見つめていた。 

森の奥で動き始めていたのは、秋元が開発した、警察庁特殊科学急襲部隊(SSAT)の大規模テロ制圧 
用装甲ロボット、AK-B8であった。12門の大型電子砲から、超小型の地対地ホーミングミサイルまで 
も備えたその姿は、ロボットと言うより「動く要塞」と呼ぶのがふさわしかった。 
そのあまりにも強力な攻撃力は、防衛省自衛部隊1個大隊にも匹敵すると言われ、その必要性を疑問視 
する声があがった程であり、実戦での出動は今回が初めてであった。 

森の奥から光の尾を引いて、2つの光が放たれる。 
「サユ!エリ! シールド!」アイが叫ぶ。 
「ハイ!!」二人が同時に叫び、エネルギーシールドが周囲を包む。 
2発の地対地ミサイルがシールドに炸裂する。一瞬昼間のように明るくなる森の中を、まるで空でも飛ぶ 
かのようなスピードで突っ込んでいくアイ、レイナ、コハルの後姿が見えた。 

先回の戦いと同様、単体の人型装甲ロボット、AK-B40はアイ達の脅威ではなかった。ある意味直感的 
ともいえる動きを見せる彼女等の動きに、AK-B40は全くついていけていない。しかし、前回とは違い、 
要塞にも見えるAK-B8の電子砲が、常に援護射撃を行う。高精度の射撃をかわしながらの戦いは困難 
を極め、1体のAK-B40を仕留めるにも、先回の数倍の時間を要していた。 

突然、AK-B8からアイに向けて超小型ミサイルが発射された。難なくそれを避けて見せるアイだが、 
ミサイルは空中でUターンし、さらにアイを襲う。高精度のホーミング(自動追尾)ミサイルである。 
右へ、左へ、AK-B40の中をすり抜けるようにかわし続けるアイ。だが、そのミサイルとの距離は徐々に 
せばまっていく。そしてミサイルがアイの眼前に迫り、里沙が「危ない!!」と声をあげた時、爆音と共に 
吹き飛んだのは、身代わりとされたAK-B40の1体であった。しかし、超小型ミサイルにもかかわらず、 
その爆発は大きく、アイは白い喉を見せ、弓なりにのけぞって宙を舞う。 
くるりと身をひるがえして着地するアイの姿にはさしたるダメージは感じられず、爆発による衝撃回避の為 
のジャンプとは思われたが、見ている里沙としては気が気ではなかった。 

再びミサイルが放たれた。標的はコハル。一瞬目を見開き、ぎょっとした表情を見せたコハルは、なんと 
一直線に里沙達のいる場所めがけて突っ走ってくる。「え? …え?」と皆が驚いていると、コハルは 
「カメイさ~ん!! ミチシゲさ~ん!! 開けて!! シールド開けて!!」と叫ぶ。 
意図を理解したエリとサユミが一瞬シールドを一部解除すると、コハルは頭から飛び込んでくる。 
「閉めて!!閉めて!!」 
「言われなくても!!」と二人がシールドを再び閉めた瞬間、ミサイルはシールドに激突し爆裂する。 
シールドはビクともしないが、肝を冷やす瞬間である。 
「コ~ハ~ル~! かんべんしてよね~!!」エリが叫ぶ。 
「も~う、ドキドキしたの~!!」とサユミが続ける。「普通の人もいるんだからね!」 
「ふ~う、助かっちゃった!」コハルは悪びれた様子もなく、再び飛び出していく。

コハルの様子を「…ムチャしようね~。」とつぶやいて見ていたレイナを、次のミサイルが襲う。フン…と 
鼻を鳴らし、「よう見とき!!」と叫んだレイナはミサイルを紙一重でかわすと、一直線にAK-B8の方 
へ突っ込んでいく。立ち並ぶAK-B40の間をすり抜け、AK-B8の電子砲をかわしながら、巨大な 
ロボット要塞にたどり着くと、自慢の右手の電磁カッターを閃かせ、装甲に思い切り叩きつける。 
一瞬の閃光。しかし、装甲自体に裂け目は出来るものの、大きなダメージは見えない。 
「ふ~ん…、じゃあ、これはどうね!?」と小さく叫ぶと、背後から追ってきたホーミングミサイルをギリ 
ギリでかわし、逆にAKーB8に叩きつける。轟音と閃光が走り、爆炎がAK-B8を包む。 
しかし、装甲に傷がつき、一時的に動きは止まるものの、山のような装甲ロボットの姿にはやはりさしたる 
ダメージは伺えなかった。 

その様子を見ながら、レイナが報告する。 
「装甲は割と一般的なチタン系合金とセラミックの組み合わせっちゃねー。…でも厚い。よっぽどカッター 
の出力上げんとどうもならんちゃね。」 
「コハルもシャイニング・レボリューション使う隙がないです…。地道に1体1体片付けていかないとダメ 
ですね。」 
「救いは、秋元とやらが自分のプライドの為か、あくまでもロボット部隊だけで攻撃してきてる事ね…。 
誰かを傷つける事を恐れずに戦う事が出来る…。」 

しかし、夜明けが近づく頃、「pepper」の3人の戦士たちの姿には、疲労と共に、焦りの色が色濃く浮かん 
でいた。AK-B40の部隊は一向に減る気配を見せず、逆にジワジワと包囲網を狭めてきている。 
AK-B8も徐々に前進し、3人だけでなく、他のメンバーを包むシールドへの直接攻撃も断続的に仕掛け 
始めていた。 
このままではダメだ…、何とかしなくては…。そう感じながらも、何も出来ない自分に、里沙は唇を噛む。 


第9話  : Craftiness 


AK-B8の電子砲の一斉射撃を切り抜け、一時シールドの中に退避したアイが、ふと里沙に向かって 
つぶやく。その口調は、それまでの冷静なアイのものとは違っていた。 
「…あーしが居なくなったら、次のリーダーはガキさんのはずやったのになあ…。」 
「アイちゃん…? 何言ってるの? 変な事…。」 
「…ふふ。そんなとこもそっくりやね。 …さて、と…」と笑みを浮かべ、アイが再び出撃しようとした時…。 
いつのまにかアイの背後に立っていたのはレイナとコハル。 
「アイちゃん、リーダーやめると? それならレイナが臨時リーダーやるっちゃ!」 
「…え…?」 
「コハル! あんた臨時サブリーダーに任命するったい! ついてき!」 
「ハイ!」 
あっけに取られる里沙とアイを尻目に、レイナとコハルはシールドから飛び出して行く。 

シールドから飛び出たレイナは、いきなり超人的な跳躍を見せ、取り囲むロボット軍団のはるか上空へと 
舞い上がった。そしてレイナは上空から一直線にロボット要塞、AK-B8へと向かって飛び込んでいく。 
無数の電子砲が一斉にレイナを狙って動く。そして幾筋もの光線が夜空に糸を引き、リサの命を一発で 
奪った光線が、何本もレイナを貫く。 
「レイナ!!」アイが悲鳴にも似た声をあげた。 
さらには十数発のホーミングミサイルがレイナをめがけて発射される。 
しかしレイナは達人の「見切り」にも似た極少の体捌きでミサイルをかわし、身体を貫く光線にもかまわず、右手の電磁カッターを限界を超えて加熱させ、灼熱の光を放ちながら山の様な要塞に飛び込んで行った。 
凄まじい閃光。そして炸裂音が響き、真っ黒に見える要塞に光の亀裂が広がる。 
皆が息を飲む中、レイナの後を追うミサイルが、亀裂の中へ次々と吸い込まれるように飛び込んでゆく。 
昼間のような光を放ち、AK-B8は内部から爆発、炎上する。爆風がエネルギーシールドをビリビリと 
揺さぶる。 
「レイナァァァ!!」「タナカさん…!!」爆音の中、皆の叫び声がかすれる。 


炎上する炎の中、あまりにも強烈な爆風に炎が消されたのか、中心部にはポッカリと大地が覗いていた。 
そこにフワリと、まるで羽を持った天使の様に舞い降りたのはコハル。 
レイナの消えた大地にスッと右手を当てると、 
「タナカさん、お疲れです…。 …コハルもッ! …いきますッ!!」 小さく叫ぶと、 
「シャイニング・レボリューションッ!!」 
先日も見せた、コハルのみが可能とする攻撃である。しかし、今回は全身からの放電の量が先回の 
数十倍にも見えた。 
そしてさらに放電はジワジワと量を増し、しまいには巨大な球状の発光体となってAK-B40達を包み 
込んでゆく。 
「コハル…! ダメ!」崩壊の予感にアイが叫ぶ。 
光の中心にあったコハルの影は徐々に輪郭を失い…、巨大な光球が四方に飛び散るように消え去った 
時、コハルの姿は既にどこにもなかった。 
そして、放電を浴びたAK-B40達は連鎖するかのように次々と爆発、炎上を繰り返し、周囲は火の海 
に包まれていく。 

壊滅。 
実にたった2人の捨て身の攻撃により、警察庁特殊科学急襲部隊の誇るロボット軍団はそのおよそ8割 
が壊滅的打撃を受け、残る2割も、炎上する炎に阻まれ思うように身動きが出来ないでいた。 

「レイナ…! コハル…! なんて馬鹿な事を…!」アイは叫ぶ。 
だが、里沙は気付いていた。ほんの数十秒前には、アイ自身が、自分を犠牲にする事により血路を開く 
決意を固めていた事を。 
そして、彼女達が持つ独自の「共鳴」作用によりそれを感じ取ったレイナ、そしてコハルがそれに先駆け 
て飛び出していったのだと言う事を。 
アイを、そして他のメンバー皆を救う為に。 

「エリ!サユ!シールドを強化して!」アイが叫ぶ。 
「このままあの炎の中を突っ切ります! レイナとコハルが作ってくれたチャンスを無駄に出来ない!」 
残存するロボット軍団が炎に阻まれ身動きできない中、「pepper」達は炎の中を脱出に向けて進み始 
めた。 
地獄の業火のような炎の中、シールドを通しても火傷をしそうな熱気が伝わる。汗さえも瞬時に乾かして 
しまう熱風の中、「pepper」達、そして里沙の頬の涙は乾く事はなかった。 


第10話 :Sense of loss

 … 
「pepper」達が炎の中を脱出する数時間前の事…。 

月に照らされた森の中…。レイナとコハルの姿があった。 
「タナカさ~ん、話って何ですか?」森の奥から現れたコハルが問い掛ける。 
「コハルに頼みがあるけん。」リサとアイカの墓標の前に座り込んでいたレイナが答える。 
「コハル…。死んでくれると?」 
「…ハイ!良いですよ!」屈託なくコハルが答えた。 
「…いい返事しよるね…。こりゃよっぽどガキさんの教育が良かったっちゃね?」 
「いいえ、タナカさんを信じてるだけですよ…。タナカさんだってよっぽどの事がなけりゃ死ねなんて言わない 
でしょ? タナカさんが言うなら…、よっぽどの事なんだろうな、って。」 
「いいよるね…。」レイナが苦笑しながら続ける。 
「コハル、あんたの力はずば抜けとう。一人での戦闘力は文句なく一番たい。それはレイナも認めちょる。」 
「だから、その分これからはリーダーを守って欲しいんよ。…いままでガキさんが皆にしてくれてた様に…。…そして、もしリーダーとコハル、どちらかが欠けるとしたら…、死ななければならないとしたら…。」 
「…わかりました。」 

「タナカさん…。なんかリーダーっぽいですね?」コハルが悪戯っぽく言う。 
「実はレイナ、リーダーに向いとろう? リーダーはキツイ事も言えなきゃいかんとよ。 …アイちゃんは… 
優し過ぎるっちゃ。メンバーに決して死ねとは言えん…。きっと自分が死ぬのを選びよる。それは本当は 
リーダー失格たい。」 
「…でも…。」とコハルが言う。「そんなリーダーだから…。」 
「…そう、そんなリーダーだから…。」 
「タナカさんもついて行くんですよね?」 
「…ほんといいよるね…。」レイナは再び苦笑いするとクルリと背を向け、そのまま振り返りもせずにお疲れ、と手を振りながら森の奥に消えていく。 
コハルはふとリサとアイカの墓標に目を向けると、しばらく微動だにせずにじっと見つめていた。 
そんな二人の姿を、光り輝く月だけが見ていた。

 
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