(06)836 『夢から醒めて』

「(06)836 『夢から醒めて』」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

(06)836 『夢から醒めて』」(2012/11/24 (土) 10:20:33) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

&br() 「あなたと私は、高校時代チア部だった同級生。  私は慶応大学に進学、あなたは急死した両親の喫茶店を継いだ。  そして二人は今日、偶然出会い思い出話などしている・・・。  よし、321で目を覚ませ。はい、3,2,1・・・・」 『夢から醒めて』 「いやあコンちゃん!ひっさしぶりやねえ~」 「ほんとね、2年ぶりかな・・・」 OK、完璧に暗示にかかっている。 ここはダークネス東京支部。 その中でも外部とは完全に遮断された私の研究室だ。 「なんや、大人っぽぉなったなあ」 「愛ちゃんこそ超髪切ったね、似合う~」 「アヒャヒャ~」 照れ笑いするI914。 まったく、さっきまでの殺意は何だったのだろう・・・。 914が買出しに行くところを待ち伏せて襲い、激しい戦闘の末になんとかここに運び込んだ。 目的は現在のリゾナンターの状況を聞きだすこと。 暗示はそのために掛けたものだ。 「しっかし思い出すね、三田コーチきつかったなあ」 「ははは、本当。マジヒステリーだったよね、あの人」 過去の物語も完全に彼女の脳内に叩き込んだ。 どこからボロが出るか解らないし、完璧主義が私のモットー。 ストーリーは、こうだ。 名門女子高、朝比奈学園で私達は出会った。 そして麻琴、里沙と共に学園の花形チアリーディング部『朝比奈Angel Hearts』に入部する。 高橋愛は入部直後からメキメキと頭角を現し、一躍学園中の人気者となる。 それ故に嫉妬もされ、部内は分裂し廃部の危機にまで至った。 しかし私達は結束してそれを乗り越えたのだ。 引退直前のチア大会では優勝こそ逃したものの、素晴らしい演技を成し遂げた。 そして愛は実家の喫茶店を継ぎ、私は慶応に合格。 麻琴はアメリカに留学、里沙はアパレル系の企業に就職した。 嗚呼、朝比奈Angel Hearts!! 私達の青春よ!! ・・・我ながらベタだなあ。 でもまあこの単細胞を騙すならこんなものだろう。 「でね、愛ちゃん、最近里沙ちゃんどうしてる?」 ここからが本題。 あの娘は本当に馬鹿。 スパイが敵チームのリーダーに入れ込むなんて、飛んだお笑い草だ。 私は、あんな風に自分の首を絞めるようなマネはしたくなかった。 だから、自らダークネスに志願し、彼女たちの敵となった。 あまつさえ、第一線で戦うことを願い出た。 毒を食らわば皿まで、全てを捨てなきゃ前には進めない。 「あ~ガキさん?そういやこないだ呑みいったでぇ・・・」 酔ったI914を介抱した里沙ちゃんは、そのまま彼女を自分の部屋に泊めたそうだ。 ・・・ああもう、そんなに好きか。リゾナンターが、高橋愛が。 馬鹿、里沙のバーカ!! いつだってそうだ。 私達が戦闘組織Mだった頃から、I914は注目の的だった。 高い戦闘能力、優れた直感力・・・。そして何よりメンバーを率いるカリスマ性。 他のM五期メンバーは、いつだってI914の背中を見ていたんだ。 里沙、あんたは悔しくないの!? 他のリゾナンターの情報も聞き出してみる。 あまり変化はないようだ。 亀井の体調も割りと良いようで、今は退院しているらしい。 ・・・なんだかほっとしている自分が情けなかった。 「ああそういや、あたし彼氏と別れたんよ」 おやおや。 サラッとした言い方に、私は少し驚いた。 メンバー内の風紀を正すため、リゾナンターは恋愛禁止のはずだ。 M時代からの規律ではあるが、殆どのメンバーが陰でよろしくやっていた。 今もまあそうなんだろう。 しかしあの高橋愛が規律違反ねぇ、変わったもんだ。 「・・・まあそれがしょうもない男でやあ。  方言直せとか、しゃべり方汚いとか色々うざかったんやでえ。  やから、あたしから振ったったんよお・・・」 嘘だ。 話の端々から、いかにその男に惚れ込んでいたのかが伝わってくる。 あの頃から、あんたはそうだったね。 馬鹿で、乱暴で、空気読めなくて、強がりで・・・。 「嘘やよー・・・」 突然泣き出したI914。 「あーし、アホやし乱暴やから、振られてもうたんよ。  アハハ・・あっかんなぁ、ええ人やったんやでぇ・・・」 ほらやっぱり。 嘘が下手なのも、そのまま。 おおかた悪い男に本気になって、捨てられたんだろう。 昔からMのメンバーには碌でもない男ばかりが寄り付いた。 まあそんな風だからこそ、女同士でやっていけるのかもしれない。   「しっかりしなよ、愛ちゃんならすぐ良い人見つかるって!!」 「そっかなあ・・・あーしな、あの人まだ好きなんよぉ。  あの人よりええ人なんておるかなぁ・・・」 「もう、愛ちゃんは学校中のアイドルだったんだよ。  大丈夫。ほら、鼻かみな」 「うぇええ、コンちゃあん・・・大好きやよ~!!」 私はしがみついてくるI914をどうしようも無く抱きしめた。 そして、こんな事を考えていた。 もしかしたら、私達は本当は普通の人間で、夢を見ているだけなんじゃないか。 この催眠術のための虚構の思い出こそが真実で、大学生の私が奇妙な夢を見ているのかもしれない・・・。 まぁ、どちらにしても同じ事。 私はこの女を憎んでいる。 愛している。 尊敬し、畏怖しながら軽蔑している。 ねぇマコ、マコはこの子と私、どっちが好きだった・・・? はい、遊びはお終い。 私はI914の耳に囁きかけた。 「今から小一時間ほど眠りなさい。  今日私と話したことは全て忘れるように・・・いいわね。  3,2,1」 とたんに、泣き叫んでいたI914が、スッと黙りこんだ。 よし、実験は成功。 あとは部下にリゾナントの近所にでも送らせよう。 じゃあね、『愛ちゃん』。 研究室のドアを開けると、雨が降っていた。 ちょうどいい、散歩でもしよう。 今日の私はどうかしている。 この雨がやむ頃には、この下らない涙も枯れているだろう・・・。 「いらっしゃいませーっ、て愛ちゃんどげんしたとー!?」 「アッヒャー、遅おなってごめん。  八百屋で稲葉さんとこの奥さんに捕まってもうて、離してくれんかったんよー」 「びしょ濡れやん!!ええけんシャワー浴びてきー」 「そうするわ、れいなごめん!!」 「まあ雨でお客さんもおらんけん、ゆっくり浴びてきぃよ」 ふぅー・・・。 思いきり熱いシャワーを、あたしは頭からかぶる。 「元気そうやったな、コンちゃん・・・」 敵の暗示にまんまと引っかかる程このリゾナントイエロー、甘くない。 あたしは敵状視察のために、気絶するふりをした。 そして、計算どおりにコンちゃんの研究室に入り込んだのだ。 もちろん、話した内容も嘘。 5年近くもいっしょにいたのだ。 心なんて読まなくても大体コンちゃんの考えは想像がつく。 でも、一つだけ、あたしは彼女に本当の事を話した。 付き合ってた彼に振られたこと。 規律をやぶって恋愛してたなんて、絶対にメンバーには言えない。 それに、そんな事を話せる友達もいない。 あたしは誰かに、この事を言いたかったんだ。 嘘でも良いから、優しい言葉が欲しかった。 「チキショウ・・・」 我ながら情けなくて涙が出てくる。 シャワーの水温をぐっと上げる。 あの頃・・・何年か前まではみんなで、同じ未来や希望をみとったはずやのになぁ。 過去に戻れるなら、時を越えてゆきたい。 でも、いつのどこへ? あの人との別れ・・・ゆっくりと悪化してゆく絵里の心臓・・・崩壊寸前のガキさんの心・・・ 藤本さんやコンちゃんが行ってしまう前・・・ 考えれば切りがない。 でも、もうどうしようもない。 あたしはシャワーを止める。 どんなに辛くとも、新しい朝を迎えるしかない。 そして、立ち向かって行こう・・・己の生に!! 从;` ロ´)愛ちゃーん、団体様20名ご来店じゃーーー!! 川*’∀’)アッヒャー!すぐ行くやよー!!                                                 終 ---- ---- ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: