(13)337 『蒼の共鳴-別れの刻限-』

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&br() いつだって日は昇り、朝が来る。 そして、もう、どれだけ戻りたいと思ったとしても昨日には戻れない。 朝が来なければいいと、どれだけ願ったことか。 自分の視た未来が当たらなければいいと、どれだけ祈ったことか。 祈りは届かず、願いは叶わず。 朝になったことを告げる燦々とした日差しが差し込む喫茶リゾナント。 一睡することすら出来なかった。 胸を締め付ける悲しみが、ずっと心の中に木霊する。 誰も口を開かない。 否、開けるわけがなかった。 いつか、予知夢で視た未来。 当たって欲しくないとどれだけ思っても、ついにこの時を迎えてしまった。 もう、時計の針は進むことがあっても元に戻ることはない。 ため息すらつけない空気と、胸を締め付ける悲しみが辛くて。 愛佳の頬をまた、新たな涙が伝う。 そして、それは他の皆も同じだった。 この沈黙を打ち破るように最初に口を開いたのは、れいな。 「…どうしたらいいと。 ガキさんがスパイだったなんて…」 「どうするも何も…もう一緒にはいられないよ」 吐き捨てるように言ったのは、怒りながら涙を流す絵里。 その怒りの強さは、里沙を信じ切っていたからこそ。 それが痛いほど分かるから、誰も次の言葉を発することが出来ない。 しばらく、誰も言葉を発することが出来なかった。 絵里の言った言葉は、正論でしかなかったから。 スパイである里沙とこれからも行動を共にする理由は、もう何処にもない。 おそらく、もう既に充分すぎるくらいのリゾナンターの情報がダークネスには渡っている。 里沙がいなくなっても、もう手の内は全て知られていると考えてもいい。 一緒にいられないのは、感情的なものでしかなかった。 皆を欺き、ダークネスにとって有益な情報を流し続けた里沙。 ―――裏切り者と一緒にいられるような神経は、誰も持ち合わせてはいない。 次に口を開いたのは、泣きすぎて目が真っ赤になっているさゆみだった。 「…一緒にいられないって言うけど、じゃあ、どうするの? ガキさんを追い出すの?」 その言葉に、愛佳の胸に新たな悲しみが広がる。 昨日まで確かに仲間であった里沙に対して、もうそういう風な言い方をするのか。 胸に氷を押し込められたように、心臓が冷えていくような感覚が愛佳の中に生まれる。 少しずつかもしれないけれど、確かに築き上げてきた絆は。 ―――もう、見る影もない。 どんなに信じても、未来は変わらないのか。 やはり、この未来が視えた時に何かをするべきだったのだろうか。 そんな疑問が悲しみと共に、愛佳の心を駆け巡る。 「追い出す間デもなイ、新垣サンはもウここにハ帰っテこないヨ」 感情のこもらない声をあげたのは、ジュンジュンだった。 だが、その声とは裏腹に頬を伝う涙が痛々しい。 里沙のことを慕っていたジュンジュンにとっても、この現実は大きすぎた。 いつも皆のことをよく見ていて、優しく時に厳しく接していた里沙。 それも、全て自分達を信用させ安心させて自分の任務が遂行できるようにという、偽りの優しさだった。 そう思うからこそ、ジュンジュンの頬を伝う涙は止まらない。 ジュンジュンの言う通り、里沙は自らリゾナンターに戻ることはもうありえないだろう。 リゾナンターは、共鳴という感覚によって繋がれた仲間達。 そして、里沙は…ダークネスのスパイでありながら、何故か共鳴することが出来るという事実。 里沙はもう既に、自分の居場所はなくなったことを誰に聞くまでもなく知っているだろう。 知っていて皆の前に顔を出せるような人ではない、そのくらいは過ごした時間が短い愛佳でも分かることだった。 「リンリン、スパイがいルかもシれなイこト、知っテましタ。 知っテたけド、言エなカっタ。 まだ、そノ時は皆を信じテいたかッたかラ言わナかっタだけだけド。 そレに、たトえ、スパイがいタとしても、心の声が聞コえていルのなラ、きっト気持ち変わルっテ信じテたから」 いつもより若干拙い感じで、言葉を紡ぐリンリン。 リンリンは愛佳を除いては、一番最初にリゾナンターに裏切り者がいる可能性を知ったメンバー。 その悲しみは、愛佳とはまた違った意味で深く重い。 一度は愛佳の言葉に、いるかもしれない裏切り者が心を変えてくれると信じたというのに。 深く傷ついて、それでも再び信じた分だけ。 リンリンの悲しみはより強く、自分のみならず他の皆の心をかき乱す。 「…そのことで、あーし、れいな達に謝らなんといけないことがある。 あーし、れいな達が知るよりも先に、里沙ちゃんがスパイやって気付いてた」 その言葉に、皆一斉に愛の方を向く。 誰も口を開くことが出来ないまま、少しの沈黙が続いて。 愛は再び口を開く。 「れいなに、里沙ちゃんに鍵渡してきてって頼んだ夜。 そん時に聞こえてきた、里沙ちゃんの凄く怒った心の声が。 何であそこまでジュンジュンとリンリンを傷つける必要があるんだって、 そこまでしなくても能力確認の仕事は充分出来るでしょって」 「気付いてたなら、何で言ってくれんかったと!」 「…言えるわけないじゃん。 それに、あーし、信じたかった。 普通に考えたら、怒った声なんかあげる必要がない。 むしろ、ダークネスのスパイなんやから怒るどころかよくやってくれたって言うところやよ。 それなのに、伝わってきた声は凄く怒ってた、あれは、演技なんかじゃない本当の心の声。 ああいう声をあげるってことは、里沙ちゃんの中で何かが変わってきてるのかもしれないって。 完全なスパイだった里沙ちゃんの中で、リゾナンターっていう存在が監視対象から大切な仲間へと 変わってきてるのかもしれない、そう思ったから言わなかった。 責めてくれてええよ、知ってて黙ってたあーしは里沙ちゃんの共犯みたいなもんやし」 涙を流しながらも、淡々と言葉を紡いだ愛に。 誰もまた、何も言えずに時間が過ぎる。 誰にも言うことはないが、愛佳もまた知っていながらその事実を伏せていたという点では愛と同じ。 言えるわけがない、その気持ちが痛すぎるくらい分かるから。 皆の動揺を考えたら、そして、皆に知れてしまったら居場所を失うことになる里沙の気持ちを考えたら。 何も言えるわけがなかった、それは、知っていた側の一人である愛佳も同じ過ぎるくらい、同じ想いだった。 重苦しい沈黙を切り裂くように、れいな、絵里、さゆみが叫ぶ。 「信じたかったって、そんなの無駄だって何で分からんかったと!」 「ガキさんはダークネスのスパイだったんです、敵だと知らなかった時はともかく、 敵と知ってからも信じたいとかそれこそ信じらんない!」 「信じたいからって、そんな理由で黙ってるとかありえない。 それに、ガキさんが心変わりしてリゾナンターの方に味方するって言っても、 さゆみはもう、ガキさんを信用することなんて出来ない。 共鳴することが出来るのにずっとさゆみ達を裏切り続けていたガキさんのこと、 今更どうやって信じればいいっていうんですか!」 言葉の鋭さは、それだけ里沙に対する想いが深いから。 その言葉達を、まるで自分が里沙であるかのように黙って聞いている愛。 愛の心は、泣いているというのにどこまでも静かだった。 何かを決意したかのように、愛の瞳は強く澄んでいる。 「…れいな達の気持ちはよく分かった。 里沙ちゃんともう一緒におれん、そう言うのなら。 あーしは、里沙ちゃんと一緒にリゾナンターを出ていく。 敵を信じたいなんていうリーダーなんかに付いていこうなんて、今更皆も思わんやろ?」 愛の言葉に、皆の間に新たな動揺が広がる。 皆の動揺を受けても尚、愛の目の光はどこまでも強く澄んで、そこに迷いのようなものは一切浮かんでいなかった。 その瞳に、愛が本気で言っているのだということが嫌になるくらい分かる。 誰かが発言するよりも早く、愛は再び口を開いた。 「…あーしは今でも、里沙ちゃんのこと信じてる。 この声が届いているなら、きっと里沙ちゃんはリゾナンターに戻ってきてくれるって。 でも、皆はもう里沙ちゃんが帰ってきても受け入れんのやろ? 里沙ちゃんのいないリゾナンターは、もう、あーしの大事なリゾナンターじゃない。 あの日里沙ちゃんと出会わんかったら、今のリゾナンターは存在せんかった。」 愛の言葉は、皆の心に深く深く染みこんでいく。 愛と出会った時には、既に愛の隣にいた里沙。 里沙がいなければ、今頃皆それぞれ何をしていただろうか。 里沙がいなくとも、いずれは愛と出会っていたのかもしれない。 だけど、今のように上手くやることが出来たのだろうかと思うと。 否、だろう。 今でこそ頼りがいのあるリーダーになった愛は、出会った頃は口下手で。 喧嘩の仲裁が上手に出来ない愛を見かねて、いつも里沙が間に入ってくれた。 一生懸命説明してくれようとする愛の言葉が分かりにくくて困っていた時、 愛の目を盗んでこっそりと、愛のフォローをしてまわっていた里沙。 「里沙ちゃんと出会って、里沙ちゃんが仲間を探そうって言ってくれたから今がある。 誰が何と言おうと、里沙ちゃんは立派なリゾナンターなんや。 そして、リゾナンターは里沙ちゃんを含めた9人でないとあーしは嫌や。 里沙ちゃんを皆が拒むのなら、あーしはもうここにはおれん」 そう言って、リゾナントの出入り口のドアへと足を向ける愛。 このまま―――皆バラバラになってしまうのか。 誰も何も言えずにいる状況を打ち破ったのは、それまでずっと黙っていた小春だった。 「待ってください、高橋さん。 あたしも一緒にいきます」 小春の言葉に、再び皆に動揺が走る。 出ていこうとしていた愛も、驚いた表情で小春の方に視線を向けた。 小春は軽く息をついてから、服の袖で涙を拭う。 この瞳を、愛佳はリゾナンターの誰よりも知っている。 いつも愛佳を救ってくれた、凛とした光を放つ瞳。 動揺がある程度落ち着いたのを見計らったかのように、小春は口を開く。 「皆、何も分かってないよ。 新垣さんは確かに、ダークネスのスパイだった。 だけど、そのことは重要なことでも何でもないよ。 皆、新垣さんが変わったみたいな言い方するけど。 変わったのは、スパイであるという事実を知った皆の目線だけで。 新垣さん自身は前と何一つだって変わってなんかいない。」 芸能人の顔を持つ小春だからこそ、言える言葉。 ちょっとでもイメージと変わったことをすると、それだけでファンや世間に色々と言われる職業に就いている小春。 身を持って体感してることだからこそ、小春の言葉は重みがあった。 スパイであることが皆に知られていなかっただけで。 里沙自身は出会った頃から何一つ変わらない、途中からスパイになったのではなく最初からスパイであったのだから。 その優しさも、その厳しさも、その温もりも。 見る側の視点が変わっただけで、それ自体は何も変わらない。 里沙が皆に向けてきたものの本質は、何一つとして変わらないものなのだ。 「新垣さんはあたしに共鳴って何なのか教えてくれました。 強くなりたいのなら、皆のことをもっと大事にしなさいって言ってくれました。 敵であるあたしに、そんなことを教える必要なんて何処にもないのに。 だから、あたしは新垣さんのことを信じたいって思います。 スパイだとかそういうことを抜きにして、ただの新垣さん自身の心を、 あたしに向けてくれた想いを信じたいって思うから、あたしは高橋さんと一緒に新垣さんのところに行きたい」 あぁ、この人はいとも簡単に皆の悲しみを撃ち抜く。 出会った頃の冷たさを微塵も感じさせない、温かく真っ直ぐな言葉。 事実の重さを知ってなお、こんな風に信じたいと言える小春。 悲しみを乗り越えて、強くなっていこうと思ったその時から。 小春はもう、愛佳が思うよりもずっと先を歩いていたのだ。 悔しいとかそんな感情は浮かばない。 ただただ、その背中に追いつきたい、隣に立てる人間でありたい。 この人と同じくらい、自分は里沙のことを信じることが出来るだろうか。 分からない、分からないけれど。 信じる、ではなくてもいいのだと小春は教えてくれた。 信じたいという気持ち一つで充分なのだと。 信じることは難しいかもしれない、だけど、信じたいと思うことなら出来る。 そして、それこそがいずれは信じると言うことに繋がって、皆を強く結ぶ絆へと変わるのだ。 バラバラになってしまったけれど。 皆の中に少しでも里沙を信じたいという気持ちがあるのなら、まだ幾らでもやり直せる。 愛佳は小春がそうしたのと同じように、袖で涙を拭うと。 スッと立ち上がって、愛佳は息を吸い込む。 「愛佳も、新垣さんのこと信じたいって思う。 せやから、愛佳も高橋さんに付いて行きます。 信じてもまた裏切られるかも分からんけど、それでも新垣さんのこと信じたいって思うから」 愛佳の言葉に、愛の頬から涙が伝う。 そして、まだ結論を出していない五人は。 ジュンジュンとリンリンは視線を合わせて、頷き合うと。 二人は立ち上がって涙を拭い、しっかりとした足取りで愛の側へと歩み寄った。 釈然としない表情を浮かべたままだったが、さゆみと絵里も涙を拭いて立ち上がる。 無言のままだったが、二人の心から伝わってくる声は大きく揺らぎながらも、信じたいという気持ちが確かに生まれていた。 れいなだけが無言のまま、動こうとはしない。 だけど、れいなの心もまたさゆみや絵里と同じように揺らいでいるのが伝わってきて。 七人は静かに、れいなの結論を待つ。 出来るならばれいなも共に来て欲しいという心の声は、耳を塞ぎたくなるくらい大きくれいなの心に届いていた。 どれだけの時間が過ぎたのか。 やがて、れいなは立ち上がって愛の方を見つめて、一つ大きく息を吸い込んだ。 「…皆うるさいと。 れーなも行く、信じるとか信じたいとか今更馬鹿らしいけど。 まだ、ガキさんのこと許せないって思うけど。 れーな、ガキさんに会ってちゃんと話をしたい。  …これじゃ、付いていく理由にならん?」 れいなの言葉に、愛は静かに首を横に振る。 憎まれ口を叩いていても、れいなの心からは里沙を信じてみたいという声が確かに聞こえるから。 少しずつ、バラバラになっていた心が寄り添い合っていく。 皆の胸から、悲しみがゆっくりと消えていき。 少しずつ、温かな想いが溢れていく。 その心の声の温かさに、皆いつの間にか、ぎこちないながらも微笑んで。 よし、じゃあ里沙ちゃんに会いに行くがし、という愛の言葉に皆一斉に頷き。 そして皆、リゾナントから出ていった。 皆の気配がリゾナントから遠ざかったことを感じながら、里沙は地面へと座り込む。 リゾナントの裏口にある、人気のない駐車場。 病院を抜け出した里沙は、この駐車場で今までの経緯を盗聴器によって全て聞いていたのだった。 使うまいと思っていた盗聴器を使ってしまったことに対する罪悪感は、それ以上に強い感情にかき消される。 最初は心が切り裂かれるような強すぎる痛みに涙を流し。 そして、全てを知りながら黙っていてくれていた愛の言葉に涙し。 最後には、盗聴器を使うことなくとも聞こえてくる皆の心の声に涙を流した。 その温かさが痛くて、嬉しくて、でもすごく悲しくて。 溢れてくる涙を止めることが出来ず、声も心の声も必死に殺しながら泣き続ける里沙。 涙を止めることが出来ぬ里沙を嘲笑うかのように、里沙の携帯に一通のメールが届いた。 鈍い動きで携帯を開いて、メールの内容をチェックした里沙は。 今まで必死に殺し続けていた泣き声をついにあげることになる。 ―――新垣里沙、リゾナンター脱退まで後15時間25分。 ---- ---- ----

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