(17)907 『臨時開店、先着1名様』

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&br() 「…あれ」 今日はリゾナントも定休日だというのに、なぜかこんな時間に目が覚めた。 枕元の時計は、朝の5時。 「…うー…」 寝返りを打ってうつぶせになって、枕に顔を押しつけながらもう一度目を閉じる。 朝が苦手、というほどでもないけれど、寝る時間がある時くらいはゆっくり寝ていたい。 だいたい5時といえば、普段だってまだ寝ている時間だった。 どうしてこんな日に限ってこんな時間にと、ゴロゴロ寝返りを打ってみては恨めしく思う。 「…眠れんし」 しかも目覚めが良すぎる。 幸せな二度寝の時間は、今日のあーしにはやってこないみたいだ。 仕方なく、今度は仰向けになって天井を眺めてみる。 耳を澄ましてみても、居候の気配はない。 今朝も早くからロードワーク中なのだろう、まったく、頭が下がる。 外はおそらくまだ人通りもまばらで、足音もほとんど聞こえない。 少し起きる時間が違うだけでこんなにも空気が違うのかと思う。 「早起きは三文の、何とやらってゆーし」 なんか得するかもしれん。 あーしはベッドを抜け出してみることにした。 カーテンを開けると、空はようやく白み始めた頃だった。 昼の青空も見慣れているし、夜の闇にも慣れてはいるけれど、 その中間を創るこの時間の空は、こんなにじっくりと見ることなんてあんまりなかった。 窓を開けて、そのままの格好でベランダに出てみる。 強すぎない優しい風が髪の毛とパジャマを揺らした。 少しだけ肌寒いけど、わずかに残っていたらしい眠気を洗い流すようで気持ちいい。 ベランダは2階だし、ここは高台にあるわけでもないから、 ここから外を覗いてみたって特別に景色がいいというわけでもない。 でも、いつも同じように生きてきたこの街の、ちょっと違う姿がそこにはあった。 どうでもいいといえばどうでもいいことだけど、 朝になって街の街灯が消える瞬間なんて気にもしたことがなかった。 だから、ぼんやり眺めていた明かりが一瞬で消えたことに驚いたし、なぜか感動もした。 いつもは開店準備中に店の前を通るおじさんが、いつもと逆の方向に歩いていく姿を見つけたり。 毎朝、この時間に散歩に行くんだなぁと、これも早起きしたから知ったことだ。 空の色がだんだん青くなってきた。 東の空はよりいっそう明るさを増してきた。 きっと、もうすぐ日の出の時間。 あーしはケータイを取り出して、なんとなく写メの準備をしていた。 「うっわ、めっちゃキレーやなぁ…」 広がるあったかい光。 カシャリと大きく響いたシャッター音。 生まれた村の夜明けも大好きだけど、今を過ごすこの街の夜明けも、捨てたもんじゃない。 さぁ、きっとそろそろ居候が戻ってくる頃だろう。 あーしは手早く普段着に着替えて、厨房へと降りていった。 食器棚から取り出したのは二つのティーカップ。 一つは自分用に。もう一つは、その居候のために。 ダージリンの茶葉を蒸らして、準備はほぼ完了。 喫茶店の中にいい香りが広がってくる頃、パタパタとせわしない足音がドアの向こうから聞こえてきた。 「愛ちゃん!? 何でもう起きとーと!?」 案の定驚いているれいなの疑問には答えず、手招きをしてカウンターに座らせる。 パーカーを着たままのれいなの顔は、ランニング帰りで少し赤らんでいた。 「本日は、喫茶『リゾナント』の定休日ではありますが―――」 あーしはわざとらしく気取って言う。れいなは、唖然としたままだ。 「マスターの気まぐれで、臨時開店とします」 カウンター越しに、ティーカップを並べた。 「ただし、先着1名様限定です。  あなたが記念すべき、本日最初で最後のお客様です。さぁ、ご注文をどうぞ」 あーしは伝票を手にするフリをしながら、お客様へと問いかける。 れいなもそろそろこのお遊びに気づいてきたのだろう、満面の笑みでこたえてくれた。 「ミルクティーで!!!!」 掲げたティーカップ。その色は、もちろんレモン色。 ---- ---- ----

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