(18)542 『銀翼の言霊使い-The spiritual-message master-』

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&br() なっちはただ、この時間さえ邪魔されなければ何もしないのに。 好きな歌を好きなように歌う、大切なこの一時。 それを邪魔するなら―――気は向かないけど、戦うよ。 『銀翼の言霊使い-The spiritual-message master-』 色とりどりのネオン、家の窓から零れる柔らかい淡黄色の光。 あたしはいつものように、その光達を空の上から見下ろしていた。 星なんて殆ど見えない都会の夜空、だけどこうして空から下を見下ろせば―――ほら、星空のような街が見える。 白銀色の三日月がとても綺麗な夜だった。 昼の暖かな日差しの下を散歩するのも好きだけど、夜の空をこうして飛び回るのも大好き。 自然と、あたしの口からは歌がこぼれ落ちる。 伴奏も何もない、あたしの声だけが静かに夜空に溶けていく。 ここは地上から数百メートル上空、幾ら大声を上げて歌っても誰にも咎められることはない。 いい気分。 観客はいないけれど、誰のことも気にせずに思うがままに自分の好きな曲を歌えるのは心地よい。 歌いながら、あたしは夜空を飛び回る。 素敵な時間、“能力”が使える人間にだけ許される特別な過ごし方。 一曲歌い終わって、さぁ次は何を歌おうかと考えていたその時だった。 「お前か、最近うちの組織の仲間を次々に倒している能力者は?」 低い声と共に、あたしの目の前に現れた金髪の女性。 夜空に溶け込むような深い漆黒の服に身を包んだ女性は、あたしの方を冷たい目で見つめている。 あたしは即座に“結界”を展開し、女性の様子を窺う。 綺麗な人だった。 あたしは背も低いし童顔だから、目の前の女性が素直に羨ましいと思う。 女性を見つめながら、あたしは溜息混じりに返答した。 「好きで倒してるわけじゃないべさ。 喧嘩を売ってくるから、仕方なく買ってるだけ。 そっちが喧嘩売ってこなければ、あたしの方からは何もしないよ」 あたしの返答に、女性はすぐに返事を返さない。 どうやら、女性はあたしの強さを測っているようだった。 数十秒ほどの間、あたしも女性も無言のまま。 どうしようか結論が出たのだろう、女性はゆっくりと口を開いた。 「どうやら、お前はかなりの手練れのようだな。 うちの組織に入るなら、今までのことは全て水に流そう。 うちは実力主義の組織だから、お前なら最初からそれなりの地位に就けるぞ」 そう言って女性はニヤリと微笑む。 普通の能力者なら、喜んで飛びつくに違いない条件であることはあたしでも想像がついた。 今までの“罪”を許し、女性のいる組織がどの程度の規模かはともかくとして、それなりの地位を保証される。 能力者は、この世界においては闇の中でひっそり生きるしかない存在だった。 能力を持っていることを知れただけで、迫害され傷つけられる。 あたしのようにどこの組織にも属さずに一人ひっそりと生きる能力者の方が大半だけど、 能力者の中には女性達のように組織を作り上げ活動する者も少数ながらいることは知っていた。 そうした組織は、“表の世界”で解決するわけにはいかないような事態を秘密裏に処理している。 そうした事態を解決することで潤沢な資金を得て、一般人では想像しがたい程の贅を尽くした生活をしているのだ。 能力者からしたら魅力的なことなのだ、組織に誘われるということは。 能力者は今までなら能力さえ使わなければ普通に生活できていた能力者達は、“能力者判定装置-ジャッジメント・デバイス-”が開発されたおかげで、 今までのようにひっそりと生きていくことすら許されなくなってきている。 異端の存在には―――死を。 そうした世界の中で、組織という場所は能力者にとっては安住の地とも言える。 組織に属すれば、そうしたものに怯えることなく生きていくことが出来るのだから。 鮮やかな微笑みを向ける女性に、あたしは溜息を一つ付いてから口を開く。 「魅力的な提案だけど、ごめんね。 あたしはそういうところに属さなくても大丈夫だから」 断られると思っていなかったのだろう。 女性は一瞬、呆気に取られたような表情を浮かべた後、あたしを鋭く睨み付けてきた。 向こうからすれば、折角の話を断られたのだ、怒るのも無理はない。 「そうか、じゃあ、当初の予定通り―――お前を殺すしかないな」 女性はそう言って、その華奢な体から深い闇色のオーラを解き放った。 今まで対峙してきた能力者の中では、間違いなく一番強い。 だけど、あたしにとっては―――取るに足らない程度の能力者でしかなかった。 あたしは息を大きく吸い込んで、力を解放する。 銀色の光を解き放ち、あたしは女性に向かって“宣言”した。 『―――キミはどうやってもあたしに傷一つつけることは出来ない』 「そう言う余裕がいつまで続くか、見物だな」 女性はそう言って、あたし目がけて闇色のエネルギー弾を撃ち出してくる。 普通の能力者であれば、この攻撃をまともに食らったら行動不能になりかねない、それだけのエネルギーが 凝縮された攻撃が次々にあたしへと襲いかかる。 だけど、そのエネルギー弾があたしにダメージを与えることはなかった。 エネルギー弾は、あたしへ着弾するよりも先に、“虚空”へと消えていく。 一歩、一歩。 あたしはその攻撃を避けることなく、女性の方へと歩み寄っていく。 まだ女性は気付いていない。 女性の攻撃を相殺しているのではなく、女性の攻撃を完全に“ない”ものとしているということに。 女性が“異変”に気付いた時には、あたしは既に女性との距離を大分縮めていた。 得体の知れない能力者を相手にしているという事実に、女性の顔が恐怖に歪む。 狂ったようにエネルギー弾を撃ち出してくる女性は、何処までも滑稽だった。 幾らやっても無駄、最初にあたしが“宣言”した時点で、何をやってもあたしに傷をつけることは誰であっても出来ないのだから。 「金輪際、あたしに関わらないなら助けてあげてもいいよ」 あたしの言葉はもう、女性には届いていないようだった。 返事することなく、ただひたすらエネルギー弾を撃ち続けるだけの“機械”と化してしまった女性にあたしは止めを刺すことにする。 銀色の光を放ちながら、あたしは彼女を見据えて最後の“言霊”を紡いだ。 『返事出来ないみたいだし、そろそろ終わりにするね。 キミは、体をバラバラに切り刻まれて―――死ぬ』 一瞬だけ銀色の光が強く瞬いた後―――女性の体は四肢と首を切断された。 切り離された箇所から飛び散った鮮血が、あたしの服に赤い沁みを作っていく。 あたしは切り刻まれて絶命した女性を見つめながら、再び“言霊”を紡いで服を元通りの状態へと戻すと同時に、 地面へと落下していく女性のヌケガラを虚空へとかき消した。 「…喧嘩を売った相手が悪かったね。 あたしは言霊使い―――口に出した言葉そのものの事象、現象を具現化することの出来る能力者。 最初の“宣言”の時点で、キミには勝ち目なんてこれっぽっちもなかったんだよ」 あたしの呟きは夜空へと溶けていく。 結界を解いて、あたしは女性が現れる前と同じように歌を歌い、夜空を飛び回った。 口にした言葉通りの事象、現象を具現化できるあたしにとって、組織は何の魅力もない存在だった。 その気になれば、この世界のあり方を根本的に変えてしまうことすら可能としてしまう能力―――“言霊-スピリチュアル・メッセージ-”。 自分の意に沿わないようなことでもこの能力があれば自分の思うがまま。 普通の能力者のように、組織という存在に守られる必要など何処にもないのだ。 いずれ、また女性のような存在がこの素敵な時間を邪魔しに現れるのだろう。 あたしはただ、この素敵な時間を楽しみたいだけなのに。 たったそれだけのことをいちいち邪魔しにくるのなら、気は向かないけれど―――この力で撃墜するだけのこと。 銀色の光を翼のように纏いながら、あたしは何事もなかったかのように再び歌を歌い始めた。 ---- ---- ----

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