(19)494 『野良猫の優しさ』

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&br() 「ごめんな、ばあちゃん。 急な用事のせいで遅くなってしもうて」 「難しい手術じゃないから、別に来なくても良いって、言ったじゃないか。 それにどさくさ紛れに人をばあちゃん呼ばわりするんじゃないよ」 二ヒヒと笑う気配がした。 「手術が済んで退院できたら、また犬を飼うたらよかやろ」 「もう犬はいいよ。 チビみたいに先立たれるとやっぱり辛いしね。 もっとも、今度犬を飼ったら、私のほうが先にあの世へ行くことになりそうだけど」 「冗談でもそんなこと言うたらいけん」 博多訛りの彼女は、ふとしたことから知り合った年下の友人。 見かけはちょっと不良っぽいけど、とっても純粋な子。 以前この病院で乱闘騒ぎを起こしたことがあると、年配の看護婦が言っていた。 五十人殺しとか、百人切りとか昔の剣豪じゃあるまいし。 「これお見舞いっていうか、お守りみたいなもん」  そう言うと私の右手に何か固い物を握らせた。 それは冷たかったけど、握り締めているうちに暖かいものが心の中に流れ込んできた。 手術が終わって、意識が戻ると医師が目の前にいた。 「手術は成功です。 リハビリさえ真面目にやっていただければ、社会復帰できます。 あ、それと手術中ずっとこんな物を握り締めておられましたが、何かのおまじないですか?」 医師の掌の上には歪な形の小石が載っていた。 黒い絵の具か何かで目が描かれている小石は、ちょうどお座りをしている犬のように見えた。 「チビ…」 博多訛りの野良猫は誰よりも優しい子、私の大切な友人だ。  (野良猫にホゼナント) ---- ---- ----

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