(03)679 『モーニング戦隊リゾナンター 悲しみの少女』

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&br() ある日の夜、高橋は街を巡回していた。 規模の大小に関わらず、犯罪は増加する一方だった。 悪の組織ダークネスの存在が犯罪を助長させているのだ。 一説ではダークネスが犯罪者に能力を与え、その行動を影から操っているという話もあった。 突如、甲高い女性の悲鳴が聞こえる。 高橋は精神を集中する。空間移動。 (ダークネスめ。あんた達の悪事も、ここまでやよ。) 高橋は声の聞こえた場所へ移動した。 そこで高橋が見たものは意外な光景だった。 そこには、3人の人間がいた。 血を流し倒れたまま動かない男。 犯人と同じ部位から血を流す、帽子を被った少女。 その近くに、長い黒髪に白い肌が印象的なもう一人の少女。 そしてその少女が使う、治癒の力。 (これは・・・) 高橋はその場にいる3人の精神を読み取り、瞬時に何が起こったかを頭の中で組み立てた。 夜の道を寄り添うようにして歩く二人の少女。 後ろから近づく、男。手にはナイフが握られている。 狙いは、黒髪の少女か。男は駆け出した。 二人が異変に気付き、男の方へ振り向く。 帽子の少女がかばうように男と少女の間に割って入った。 黒髪の少女が悲鳴をあげる。私が聞いた声だ。 その場に倒れる帽子の少女。だが。 同時に倒れる、男。 その男は、少女と全く同じ場所に、同じ傷が出来ていた。 「あなた達、大丈夫?怪我は・・・もう治ったみたいだけど」 「う、うん・・・あの、あなたいつからそこに?」 「私も、あなた達と同じように、不思議なチカラがあるの」 少女達二人は目を見合わせた。 「この男の狙いは道重さゆみさん、あなたのほうかしら」 黒髪の少女は、自分の名前を知らない女に呼ばれたことに少し驚く。 「そうそう、絵里、わたしをかばってくれたんだよね。ありがとう絵里」 「うへへ、さゆが治してくれると思ったよ」 そうだ、と道重さゆみは言った。 「この人も治してあげないと」 「えっ、ちょっとさゆ!?その男、さゆを殺そうとしたんだよ!私だってお腹刺されて、超痛かったんだから」 「うん、わかってる。絵里を傷つけたのはむかつくし絶対に許せない。だけど、このまま放っておいたら死んじゃうよ」 「もうさゆ!信じらんない!」 ごめんね絵里。道重さゆみはそう言いながら手のひらをかざすと、男の傷はすぐに塞がった。 高橋はその様子を、ただじっと見つめていた。 次の日、繁華街から少し離れた小さな喫茶店。 高橋は帽子を目深にかぶり、優雅に足を組みながら、食後のコーヒーを楽しんでいた。 先ほど駅の売店で購入してきた新聞に目を通す。 殺人未遂事件、現行犯逮捕。十数余の余罪判明。 あの夜の後、男は駆けつけた警察官にすぐに身柄を拘束された。 あの2人の少女。能力者。 昨日の事件にダークネスは関与していたのだろうか。 だとすればダークネスはまたあの子達を狙うだろうか。 いっそのこと、れいなのようにリゾナンターにスカウトするべきだったかもしれない。 道重さゆみという少女は、自分の命を狙った男の傷をためらうことなく治した。 そんな彼女なら、ダークネスと戦う私たちに力を貸してくれるかもしれない。 しかし高橋が彼女をスカウト出来なかった理由は、帽子を被った女の子のほうにあった。 彼女は心臓の病気を患っている。 それに。高橋は考えた。 絵里と呼ばれた少女には、道重さゆみの存在が必要だ。 どちらが欠けても、あの2人は生きていけないだろう。 そんな2人がリゾナンターとして、ダークネスと戦うにはリスクが大きすぎる。 永遠にどちらかを欠くことになるのかもしれないのだから。 しばらくはこのまま、ダークネスの動向を見るしかない。 後手に回ることしか出来ない自分の力の無さが、少し悔しかった。 「愛ちゃん、ウチら、いつまでここにいると?」 高橋は目の前の少女に話しかけられ、思考を中断した。 派手な服装に、ごてごてとしたアクセサリー。 一見悪趣味に思われそうなセンスだが、その少女にはそれがよく似合っていた。 斜めに被った帽子から、猫のような目が覗く。 「んー、そうやねぇ」 昨日の夜のことは、れいなに言うべきだろうか。れいなの力を信じていないわけではないが、 できるだけれいなを危険に巻き込みたく無い。 「愛ちゃん。れいな今日ちょっと行くとこあるけん、ダークネス出てきたら電話して」 「ん、わかった。気をつけてな」 れいなは店を出て行った。足取りがいつもより軽い。どこへ行くのだろう。 高橋は、必要時意外はチカラは使わない。 やはり、一人でなんとかしよう。 高橋はコーヒーを飲んでから、小さくつぶやく。 「こういう喫茶店がいいやな」 れいなは、高橋と別れ、ある病院へ向かっていた。 数年前、れいなはその病院に入院していたことがあった。 そこでれいなは、2人の少女達と出会った。 一人は、心臓の病気で入院中の少女。そんな彼女を毎日見舞いにくる、少女。 当時のれいなは、そんな2人と会話をするのが楽しみだった。 別れ際に2人に言われたことを思い出す。 れいなの強さは、人を傷つけるためのものじゃない、人を守るためのものだよ、と。 彼女達とは、連絡先を教えずに別れてしまった。だから向こうから連絡がくることはない。 れいながここに立ち寄らない限り。来ようと思えば、いつでも来ることは出来た。 でも自分のせいで、2人に迷惑をかけてしまったし、合わせる顔が無かった。 しかし今はリゾナンターとして、人を守るために戦っている。 そのことを2人に伝えたくて、れいなは再び病院を訪ねた。 「あれ、れいな!?」 院内に入り、絵里の病室はどこか確認していると、突然後ろから声を掛けられた。 「おう、さゆ!久しぶり!」 「超久しぶりじゃない!?元気だった?」 「当たり前っちゃ!連絡先、聞かずに別れてしまったけん、少し寂しかったとよ」 「さゆみも、れいなに会えなくてすごい寂しかったよー」 「さゆ、棒読みやけん!ひどいなぁ。そういえば、絵里は?元気にしてると?」 「うん、それがね・・・」 先ほどまで明るかったさゆの表情が、急に暗くなった。 「なん、喧嘩でもしたとかいな?」 「絵里、死のうとしたの」 「!?死のうとって・・・絵里が?嘘やろ?」 「いいえ、本当なの。理由は、話してくれなかったけど・・・」 「それで、絵里は大丈夫とかいな」 「うん・・・傷は私が治したの。そうそう、私、簡単なケガなら治せるの。れいなには言ってなかったけど。 でもそのときの傷が、絵里の妹にも移っちゃって。ああ、移るっていうか、絵里にも不思議なチカラがあって」 さゆみは自分と絵里の能力のことを簡単に説明した。 「傷の共有。自分の妹に、か。それでさらに沈んでるとかいな」 「そうなの。でも、わたしが治してあげられるのは体の傷だけ。絵里の妹は、自分がお姉ちゃんにひどいことを言っちゃったせいだって。 でも、あの絵里が自殺だなんて。絵里とずっと一緒にいたのに、何1つ気付いてあげられなかった」 絵里は、生まれつき重度の心臓病だった。 両親は、彼女を憐れみ、彼女の前で何度も涙を流した。 私達のせいで。絵里、ごめんなさい。と。 そんな両親を見て、絵里は一層悲しくなった。 大丈夫。絵里は大丈夫だから。 幼いながら、両親にそう声をかけた。 そんな絵里の姿を見て、両親は、また涙を流すのだった。 私のせいで、両親を苦しませている。私が、生まれたせいで。私が、生きているせいで。 そんな気持ちが、いつも絵里の心を蝕んでいた。 そんな絵里に、やがて妹ができた。両親が喜ぶ姿を見て、絵里はとても嬉しかった。 しかし同時に、両親の心が自分から離れていくのを感じていた。両親の期待は、妹に注がれていったのだ。 今日、妹が一人で病室に来た。 妹のことは羨ましかったが、決して嫌いにはなれなかった。むしろこの可愛い妹をもつ姉として、少し誇らしかった。 でも、今日はなぜか些細なことで喧嘩をしてしまった。どちらともなく、互いに対して攻撃的になっていた。 お姉ちゃんなんか、いなくなってしまえばいいのに。妹は、確かにそう言った。 入院を続け、家計は厳しくなっていた。 妹は希望していた私立の学校への進学を諦めたと聞いていた。 両親は妹に、ずっと我慢をさせていたのだろう。妹の気持ちもわかる。 入院を続ける私が居るせいで好きな服も、お菓子も玩具も、買ってもらえなかったのだから。 絵里が死んでしまえば、家族三人で幸せに暮らしていける。 絵里は、近くにあった果物ナイフで手首を切った。 本当に死ぬつもりだったのか、よく分からない。 目を覚ますと、両親から妹も入院したことを聞かされた。 絵里と同じ、手首の傷によって。 その日の夜、高橋は病院の屋上にいた。ダークネスの狙いが彼女達であるならば、必ず姿を現す。 高橋はそう考えていた。だが・・・ 屋上のドアが開く音がした。扉から出てきたのは、昨晩出会った少女、絵里だった。 高橋はそちらを見ることもなく、理解する。 その少女は誰もいるはずの無い屋上に人がいたことに驚いていた。カギは今開けたのだから、と。 だが絵里は高橋の姿を見て、合点がいったようだった。 「あなたも不思議なチカラがあるって、そう言っていましたね。昨日と同じように、そのチカラでここへ?」」 そう話しかけられ、高橋は後ろを振り返る。 「そう。でもそれだけじゃない。私は、人の心が読める。もちろん、あなたの心も」 心を読める。私の心を。じゃあもう、分かっているんですね。絵里はそう言った。 「わたしはもう、生きる価値がないんです。いいえ、初めからそうでした。親にも、妹にも、 みんなに迷惑を掛けて。さゆだって、本当は私なんかいなければ、もっと好きなことができるんだから」 「だから死ぬというの?妹にまた怪我を負わせることになっても?」 「妹のことは大丈夫、さゆに近くにいてもらっています。あなたも、離れたほうがいいですよ。私のチカラ、どこまで及ぶか 分からないですから」 「私は死なないわ。ダークネスを討つまでは。あなたも死なない。あなたのお友達が、助けに来てくれる」 友達。彼女の心に、道重さゆみの姿が浮かぶ。 「あなたの大好きな、道重さゆみ。あなたが死んだら、彼女は・・・」 高橋の言葉を遮るように、絵里は言った。 「わかりません。わたしは、心を読んだりできませんから」 絵里はそう言って鞄からカミソリを取り出した。 高橋の心に、絵里の深い悲しみが流れ込む。同時に、絵里が手首を切るイメージも。 手荒い真似はしたくなかったが、仕方ない。 高橋はすぐに絵里の背後をとり、後ろから腕を掴む。 だが突然口内に痛みが広がる。 舌をかんだのか。絵里にとっても咄嗟の行動だったのだろう。 高橋は彼女がそうすることを読み切れず、予想外の痛みに手を離してしまった。 絵里は距離をとった。再び手首にカミソリをあてがい、目を瞑る。 高橋は痛みを堪えながら、思考する。 この少女は気付いていない。 親の、妹の、道重さゆみの、そして自分の、本当の気持ちに。 不安なのだ、孤独になることが。孤独から逃れるために、死を選ぼうとしている。 教えてあげたい。あなたは、孤独ではないよ。 でもそれを今の彼女に教えられるのは、私ではない。 この世界でただ一人。道重さゆみだけだ。 高橋は再び、絵里に向かって飛びついた。 絵里は目を開けた。体中が鮮血で染まっている。そりゃそうだ、と思いながら。 自分で、切り刻んだのだ。手首だけではない。自分の腕を、顔を、体を。 目の前にいる女の体も、同じだった。 その女は地面に倒れたまま、動かなくなっていた。 絵里は、悲鳴をあげた。 目の前にいる女の人、自分はこの人に恨みがあるわけでもない。決して殺したいわけじゃない。 自分が死にたいだけだ。自分を殺したいのだ。 妹の時だってそうだ。妹を恨んでたわけじゃない。 こんな自分にも、あんなに可愛い妹がいる。妹を殺したいなんて思うものか。 恨んでいたわけじゃない。妹を。この世界を。 それを証明するために、ここへ来た。 誰も傷つけることなく、死ぬ。 それがこの世界を恨んでいないことの証明になる。 だが自分の気持ちとは関係なく、目の前の女にも傷が移っていく。 違う。私は誰も恨んでなんかいない。 絵里は首筋にカミソリをあてた。 道重さゆみは、病院の屋上を目指し、階段を駆け上がった。 絵里から受け取ったメールを思い出す。 『さゆ、今までありがとう。妹をよろしくね』 屋上への扉をあけると、すぐ目に入ったのは、以前私達に会いにきた女の人。 高橋愛という能力者。れいながそう言っていた。 絵里を止めるつもりだったのか。だが絵里のチカラに巻き込まれたのだろう。 そこから少し離れた位置に、絵里の姿があった。 「絵里!」 さゆみはすぐに絵里の下へ駆け寄った。体中に痛々しいほどの傷ができていた。 口には血が溜まり、端からそれを流している。首には大きな傷があった。 さゆみは自分の心臓をえぐられたような感覚を覚えた。 「絵里!しっかりして!」 だが当然、返事が返ってくることはない。 さゆみは絵里の傷口に手をかざす。治癒能力。だが、何も起こらない。 「そんな・・・どうして!何で治せないの!絵里を助けたいのに!」 何度試しても同じことだった。 能力が足りていないわけではない。 能力自体が湧き上がってこないのだ。何かに、抑え付けられているように。 「お困りのようですね」 さゆみが気付かない間に、屋上に一人、女がきていた。白衣に身を包み、眼鏡をかけている。その姿は一瞬医者のようだが。 騒ぎを聞きつけたのか、それにしては、何か見下しているような、勝ち誇ったような表情を浮かべている。 勘のいいさゆみには、わかった。この女がれいなの言っていたダークネスの仲間なのだと。 「この病院周囲一帯での能力の使用を制限しました。道重さゆみさん、 あなたの能力の解析はすでに終わっています。能力の仕組みがわかれば、簡単なことです。 昨晩殺せていれば、それすら必要なかったんですけどね。 しかしいいデータがとれました。あとはその女を回収するだけです」 ゆっくりと歩きながら、女は話し始めた。 「それにしても亀井絵里。他者と傷を共有する能力。厄介です。だって、殺したら自分も死んでしまうんですから。 でもすばらしい能力です。実験適合成体、i914を道連れにするなんて。 ああ失礼しました、今は高橋愛という名前でしたね」 高橋は、薄れていく意識の中で、女の話を聞いていた。 姿を現した女。彼女もまた、かつての仲間だ。 高橋と同時期にアサ=ヤンに入った。彼女は戦闘に関しての能力は持っていなく、のんびり屋で、 おおよそどこにでもいるような普通の少女だった。少なくとも高橋は始めそんな印象を持っていた。 だが、彼女は努力家で、人一倍頭がいい。能力に対する理解と知識は、後にも先にも並ぶ者がいない。 しかし彼女は裏切り、ダークネスの研究機関に所属したと聞いた。そんな彼女がここに現れるとは。 裏切り。裏切りか。 ふと、もう一人、同期の新垣のことを思い出した。 彼女はアサ=ヤンの存在を誰よりも愛していた。彼女がアサ=ヤンを裏切ることは絶対にないだろう。 彼女は今なにをしているのだろう。あの戦いに生き残れたのだろうか。 自分がリゾナンターとして、再びダークネスと戦うと聞いたら、力を貸してくれるだろうか。 ああ、そうだ。れいなに電話しないと。ダークネス、出てきたし。でももう手が動かんわ。ごめん、れいな。 女はそう言うと、屋上に次々と、この病院の患者達が現れた。 よく病院に来るさゆみには、知っている顔もあった。だが目に意識が宿っていない。この女に操られているのか。 「この病院の患者さん達です。この人たちはもう、助からない。死ぬことが決まっている人たち。 そんな人たちに最後くらいいい思いをさせてあげても、罰は当たらないでしょう」 人を殺す、快感をね。そう言い放ち、はじめてその女が下卑た表情を浮かべた。これが、この女の本性か。 道重さゆみは、女の話を黙って聞いていた。 悔しさと怒りが体中から湧き上がっていたが、その心に支配されることのない、冷静な自分がいた。 冷静に、状況を判断する。絵里も高橋愛という女の人も、もう助からない。 血を流しすぎている。流れた血までは治せない。 さゆみは、近づいてくる男達に目を向けた。10人ほどか。手にはそれぞれ武器を持っている。 自分ももう、助からない。 それに絵里のいない世界なんて耐えられない。ここで、死のう。 さゆみが死を受け入れようとした瞬間、ふとれいなの顔が浮かんだ。 彼女なら、こんな風に諦めない。こんなとき、最後まであがくだろう。 絵里はまだ死んでない。なんとかして絵里を助けなきゃ。 自分の命を懸けてでも。 さゆみは、立ち上がる。さゆみが、絵里を守る。 さゆみは、男達の群れに突進した。 だが非力なさゆみの力では、どうすることもできず、すぐに抑え付けられた。 ああ、体育の授業を真面目にやっておけばよかった。 そんなことを思いながら、血だらけになった絵里を見る。 ごめんね、絵里、助けてあげられなかった。 ずっと近くにいたのに、絵里の感じていた孤独に気付いてあげられなかった。 絵里、最後まで、一緒だよ。 そのとき、操られた男達の動きが止まった。 彼らの視線が、鉄柵の上に立つ少女に注がれていることに気付く。 「れいな!」 「さゆを離せ!」 そこには、れいながいた。 れいなは素早く、さゆみのいるほうへ走り寄り、男達のみぞおちへ的確に打撃を 入れた。男達はすべて、その場で意識を失った。 れいなは、血まみれになった高橋と絵里の姿を見る。 「よくも、れいなの大切な仲間を!」 「くっ、この女!」 白衣を着た女は明らかに動揺した。 なぜ田中れいながここに?高橋愛と手を組んだのか? いずれにせよ、この女の能力の解析はまだ、終わっていない。ヘケートが、しくじったせいだ。 私の作戦は完璧だったのに。このままでは、まずい。 「あんたがダークネスの科学者っちゃね!もう絶対許さんと!」 「ち、違います!私はダークネスのドクターマルシェなんかじゃありませんよ!」 そう言って女は、地面に煙幕を投げつけた。 あの女が去ってから、さゆみの力は戻っていた。 さゆみは、高橋と絵里に、治癒を続けた。傷はすでに塞がっている。 だが、二人とも意識が戻らない。 「絵里!お願い、目を覚まして!」 一緒にケーキ屋さん、やろうねって言ってたじゃない。さゆみはそう呟いた。 れいなは、そんなさゆを見つめた。 自分の力じゃ、誰も助けられないのか。 愛ちゃんが、自分を戦わせようとしていないことは分かっていた。 自分の力が足りないせいだ。 「さゆ、頑張れ!」 れいなは、さゆみの手にそっと触れた。愛ちゃんは、れいなにも力があると言っていた。 そのせいで、ダークネスに狙われているのだと。 自分では全く分からないが、そんな力があるのなら。愛ちゃんと、絵里を助けたい。 その力を、さゆに託した。 さゆみとれいなの、二人を助けたいと云う想いが、共鳴する。 やがて治癒の光は、病院全体を包んでいった。 絵里は目を覚ました。そこはいつもと変わらない、病室だった。 体中に出来たはずの傷は、全て消えていた。私は死んだのではないのか。 かすかに、昨夜のことを思い出す。 そっか。さゆが、助けてくれたんだ。 病室のドアが開いた。 「絵里!気がついた!?」 「あっ、さゆ・・・」 さゆみは絵里に抱きついた。少し涙目になっていた。その腕は温かい。 「ごめん、さゆ。・・・さゆが、また助けてくれたんだね」 「もう、絵里!心配ばかりかけて!絵里が死んじゃったら、私は・・・」 そういってさゆみは泣き出した。そんな姿を見て、絵里はもう一度、ごめん、と言った。 死ななくて良かった。さゆにまた会えて本当にうれしい。 「おーい!絵里ー!」 またドアが開いた。今度は勢いよく。 「あれ、まさかれいな!?いつから来てたの!?」 「もう。れいなのことは覚えとらんのかいな。さゆはすぐ敵に捕まってしまったけん、れいなが助けたとよ」 「そうなの。れいなすごいかっこよかった。さゆみも、いくつか試したい技があったんだけど」 「それって、アニメのやろ?実際通用しないって、そんなの。まあ傷を治したのはさゆやけどね。気合入れすぎて 入院してた人全員治してしまったとよ」 「すごいなぁ、さゆは」 「絵里の心臓は治らんかったけどねぇ」 2人が来て病室が急に騒がしくなった。またドアが開く。高橋愛。 れいなと一緒に、悪の組織ダークネスと戦っていることを聞いた。 「あ!高橋さん!あの・・・昨日は本当にごめんなさい!」 絵里は深々と頭を下げた。 高橋はそんな絵里の様子を見て、微笑んだ。 「もう絶対あんなことしたら駄目だよ。絵里には、さゆとれいながいるんだから」 あなたは孤独じゃない。そう言いかけて、高橋は口をつぐんだ。もう言われなくても、分かっているだろう。 絵里はすっかり元気を取り戻していた。 「あの。高橋さん。れいなから話は聞きました。悪の組織ダークネスと、高橋さん達リゾナンターのこと。 高橋さんには迷惑をかけちゃったし。れいなも戦っていると聞いて。私も一緒に戦わせてください」 「ちょっと、絵里!?絵里の体じゃ・・・」 「大丈夫だって。あぶなくなったら、さゆがまた助けてくれればいいじゃん」 絵里がそう言ってくれたことは嬉しかった。高橋は今までずっと一人で戦ってきたのだから。 しかし、2人が最前線で戦うにはやはりリスクが大きすぎる。だがダークネスが絵里とれいなの力を狙っていることは明らかだ。 「わかった。2人とも今日からリゾナンターよ。それじゃ早速任務を与えるわね。れいなも、聞いて」 高橋は、考えていたことを言うことにした。 この2人を戦闘に参加させたくはない。もちろん、れいなも。しかしまたダークネスは命を狙ってくるだろう。 みんなが、戦うことを目的とせずに、集まれるような場所。それが結果的にみんなを守ることになる。 「2人の夢って、2人でケーキ屋さんを開くことでしょ。まあケーキ屋さんじゃないんだけど、似たようなものっていうか。 まあそのこととは、あんまり関係ないんだけど。私、カフェをこの近くにオープンしたの。 誰でも気軽に入れて、辛いことや悲しいことがあったときにも、そのときだけは忘れてくつろげるような、そんな空間にしたいの。 でも人手が足りなくて。3人とも、たまにでいいから、来て手伝ってほしいんだけど」 一ヵ月後、喫茶リゾナントはオープンした。 まるで客の心を読んでいるかのような細かい気配り。 加えて美人店長、店員と、絵里の作るチーズケーキが受け、上々の滑り出しだった。 だが。そんな喫茶リゾナントに忍び寄る、1つの影。 「はい、これから目標に接触、潜入します。・・・分かっています。我が主、ダークネス様に栄光を」 ---- ---- <<back>> &bold(){[[(02)539 『モーニング戦隊リゾナンター 希望の少女』]]} ---- ---- <next>> &bold(){[[]]} ---- ---- ----
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次の日、繁華街から少し離れた小さな喫茶店。 高橋は帽子を目深にかぶり、優雅に足を組みながら、食後のコーヒーを楽しんでいた。 先ほど駅の売店で購入してきた新聞に目を通す。 殺人未遂事件、現行犯逮捕。十数余の余罪判明。 あの夜の後、男は駆けつけた警察官にすぐに身柄を拘束された。 あの2人の少女。能力者。 昨日の事件にダークネスは関与していたのだろうか。 だとすればダークネスはまたあの子達を狙うだろうか。 いっそのこと、れいなのようにリゾナンターにスカウトするべきだったかもしれない。 道重さゆみという少女は、自分の命を狙った男の傷をためらうことなく治した。 そんな彼女なら、ダークネスと戦う私たちに力を貸してくれるかもしれない。 しかし高橋が彼女をスカウト出来なかった理由は、帽子を被った女の子のほうにあった。 彼女は心臓の病気を患っている。 それに。高橋は考えた。 絵里と呼ばれた少女には、道重さゆみの存在が必要だ。 どちらが欠けても、あの2人は生きていけないだろう。 そんな2人がリゾナンターとして、ダークネスと戦うにはリスクが大きすぎる。 永遠にどちらかを欠くことになるのかもしれないのだから。 しばらくはこのまま、ダークネスの動向を見るしかない。 後手に回ることしか出来ない自分の力の無さが、少し悔しかった。 「愛ちゃん、ウチら、いつまでここにいると?」 高橋は目の前の少女に話しかけられ、思考を中断した。 派手な服装に、ごてごてとしたアクセサリー。 一見悪趣味に思われそうなセンスだが、その少女にはそれがよく似合っていた。 斜めに被った帽子から、猫のような目が覗く。 「んー、そうやねぇ」 昨日の夜のことは、れいなに言うべきだろうか。れいなの力を信じていないわけではないが、 できるだけれいなを危険に巻き込みたく無い。 「愛ちゃん。れいな今日ちょっと行くとこあるけん、ダークネス出てきたら電話して」 「ん、わかった。気をつけてな」 れいなは店を出て行った。足取りがいつもより軽い。どこへ行くのだろう。 高橋は、必要時意外はチカラは使わない。 やはり、一人でなんとかしよう。 高橋はコーヒーを飲んでから、小さくつぶやく。 「こういう喫茶店がいいやな」 れいなは、高橋と別れ、ある病院へ向かっていた。 数年前、れいなはその病院に入院していたことがあった。 そこでれいなは、2人の少女達と出会った。 一人は、心臓の病気で入院中の少女。そんな彼女を毎日見舞いにくる、少女。 当時のれいなは、そんな2人と会話をするのが楽しみだった。 別れ際に2人に言われたことを思い出す。 れいなの強さは、人を傷つけるためのものじゃない、人を守るためのものだよ、と。 彼女達とは、連絡先を教えずに別れてしまった。だから向こうから連絡がくることはない。 れいながここに立ち寄らない限り。来ようと思えば、いつでも来ることは出来た。 でも自分のせいで、2人に迷惑をかけてしまったし、合わせる顔が無かった。 しかし今はリゾナンターとして、人を守るために戦っている。 そのことを2人に伝えたくて、れいなは再び病院を訪ねた。 「あれ、れいな!?」 院内に入り、絵里の病室はどこか確認していると、突然後ろから声を掛けられた。 「おう、さゆ!久しぶり!」 「超久しぶりじゃない!?元気だった?」 「当たり前っちゃ!連絡先、聞かずに別れてしまったけん、少し寂しかったとよ」 「さゆみも、れいなに会えなくてすごい寂しかったよー」 「さゆ、棒読みやけん!ひどいなぁ。そういえば、絵里は?元気にしてると?」 「うん、それがね・・・」 先ほどまで明るかったさゆの表情が、急に暗くなった。 「なん、喧嘩でもしたとかいな?」 「絵里、死のうとしたの」 「!?死のうとって・・・絵里が?嘘やろ?」 「いいえ、本当なの。理由は、話してくれなかったけど・・・」 「それで、絵里は大丈夫とかいな」 「うん・・・傷は私が治したの。そうそう、私、簡単なケガなら治せるの。れいなには言ってなかったけど。 でもそのときの傷が、絵里の妹にも移っちゃって。ああ、移るっていうか、絵里にも不思議なチカラがあって」 さゆみは自分と絵里の能力のことを簡単に説明した。 「傷の共有。自分の妹に、か。それでさらに沈んでるとかいな」 「そうなの。でも、わたしが治してあげられるのは体の傷だけ。絵里の妹は、自分がお姉ちゃんにひどいことを言っちゃったせいだって。 でも、あの絵里が自殺だなんて。絵里とずっと一緒にいたのに、何1つ気付いてあげられなかった」 絵里は、生まれつき重度の心臓病だった。 両親は、彼女を憐れみ、彼女の前で何度も涙を流した。 私達のせいで。絵里、ごめんなさい。と。 そんな両親を見て、絵里は一層悲しくなった。 大丈夫。絵里は大丈夫だから。 幼いながら、両親にそう声をかけた。 そんな絵里の姿を見て、両親は、また涙を流すのだった。 私のせいで、両親を苦しませている。私が、生まれたせいで。私が、生きているせいで。 そんな気持ちが、いつも絵里の心を蝕んでいた。 そんな絵里に、やがて妹ができた。両親が喜ぶ姿を見て、絵里はとても嬉しかった。 しかし同時に、両親の心が自分から離れていくのを感じていた。両親の期待は、妹に注がれていったのだ。 今日、妹が一人で病室に来た。 妹のことは羨ましかったが、決して嫌いにはなれなかった。むしろこの可愛い妹をもつ姉として、少し誇らしかった。 でも、今日はなぜか些細なことで喧嘩をしてしまった。どちらともなく、互いに対して攻撃的になっていた。 お姉ちゃんなんか、いなくなってしまえばいいのに。妹は、確かにそう言った。 入院を続け、家計は厳しくなっていた。 妹は希望していた私立の学校への進学を諦めたと聞いていた。 両親は妹に、ずっと我慢をさせていたのだろう。妹の気持ちもわかる。 入院を続ける私が居るせいで好きな服も、お菓子も玩具も、買ってもらえなかったのだから。 絵里が死んでしまえば、家族三人で幸せに暮らしていける。 絵里は、近くにあった果物ナイフで手首を切った。 本当に死ぬつもりだったのか、よく分からない。 目を覚ますと、両親から妹も入院したことを聞かされた。 絵里と同じ、手首の傷によって。 その日の夜、高橋は病院の屋上にいた。ダークネスの狙いが彼女達であるならば、必ず姿を現す。 高橋はそう考えていた。だが・・・ 屋上のドアが開く音がした。扉から出てきたのは、昨晩出会った少女、絵里だった。 高橋はそちらを見ることもなく、理解する。 その少女は誰もいるはずの無い屋上に人がいたことに驚いていた。カギは今開けたのだから、と。 だが絵里は高橋の姿を見て、合点がいったようだった。 「あなたも不思議なチカラがあるって、そう言っていましたね。昨日と同じように、そのチカラでここへ?」」 そう話しかけられ、高橋は後ろを振り返る。 「そう。でもそれだけじゃない。私は、人の心が読める。もちろん、あなたの心も」 心を読める。私の心を。じゃあもう、分かっているんですね。絵里はそう言った。 「わたしはもう、生きる価値がないんです。いいえ、初めからそうでした。親にも、妹にも、 みんなに迷惑を掛けて。さゆだって、本当は私なんかいなければ、もっと好きなことができるんだから」 「だから死ぬというの?妹にまた怪我を負わせることになっても?」 「妹のことは大丈夫、さゆに近くにいてもらっています。あなたも、離れたほうがいいですよ。私のチカラ、どこまで及ぶか 分からないですから」 「私は死なないわ。ダークネスを討つまでは。あなたも死なない。あなたのお友達が、助けに来てくれる」 友達。彼女の心に、道重さゆみの姿が浮かぶ。 「あなたの大好きな、道重さゆみ。あなたが死んだら、彼女は・・・」 高橋の言葉を遮るように、絵里は言った。 「わかりません。わたしは、心を読んだりできませんから」 絵里はそう言って鞄からカミソリを取り出した。 高橋の心に、絵里の深い悲しみが流れ込む。同時に、絵里が手首を切るイメージも。 手荒い真似はしたくなかったが、仕方ない。 高橋はすぐに絵里の背後をとり、後ろから腕を掴む。 だが突然口内に痛みが広がる。 舌をかんだのか。絵里にとっても咄嗟の行動だったのだろう。 高橋は彼女がそうすることを読み切れず、予想外の痛みに手を離してしまった。 絵里は距離をとった。再び手首にカミソリをあてがい、目を瞑る。 高橋は痛みを堪えながら、思考する。 この少女は気付いていない。 親の、妹の、道重さゆみの、そして自分の、本当の気持ちに。 不安なのだ、孤独になることが。孤独から逃れるために、死を選ぼうとしている。 教えてあげたい。あなたは、孤独ではないよ。 でもそれを今の彼女に教えられるのは、私ではない。 この世界でただ一人。道重さゆみだけだ。 高橋は再び、絵里に向かって飛びついた。 絵里は目を開けた。体中が鮮血で染まっている。そりゃそうだ、と思いながら。 自分で、切り刻んだのだ。手首だけではない。自分の腕を、顔を、体を。 目の前にいる女の体も、同じだった。 その女は地面に倒れたまま、動かなくなっていた。 絵里は、悲鳴をあげた。 目の前にいる女の人、自分はこの人に恨みがあるわけでもない。決して殺したいわけじゃない。 自分が死にたいだけだ。自分を殺したいのだ。 妹の時だってそうだ。妹を恨んでたわけじゃない。 こんな自分にも、あんなに可愛い妹がいる。妹を殺したいなんて思うものか。 恨んでいたわけじゃない。妹を。この世界を。 それを証明するために、ここへ来た。 誰も傷つけることなく、死ぬ。 それがこの世界を恨んでいないことの証明になる。 だが自分の気持ちとは関係なく、目の前の女にも傷が移っていく。 違う。私は誰も恨んでなんかいない。 絵里は首筋にカミソリをあてた。 道重さゆみは、病院の屋上を目指し、階段を駆け上がった。 絵里から受け取ったメールを思い出す。 『さゆ、今までありがとう。妹をよろしくね』 屋上への扉をあけると、すぐ目に入ったのは、以前私達に会いにきた女の人。 高橋愛という能力者。れいながそう言っていた。 絵里を止めるつもりだったのか。だが絵里のチカラに巻き込まれたのだろう。 そこから少し離れた位置に、絵里の姿があった。 「絵里!」 さゆみはすぐに絵里の下へ駆け寄った。体中に痛々しいほどの傷ができていた。 口には血が溜まり、端からそれを流している。首には大きな傷があった。 さゆみは自分の心臓をえぐられたような感覚を覚えた。 「絵里!しっかりして!」 だが当然、返事が返ってくることはない。 さゆみは絵里の傷口に手をかざす。治癒能力。だが、何も起こらない。 「そんな・・・どうして!何で治せないの!絵里を助けたいのに!」 何度試しても同じことだった。 能力が足りていないわけではない。 能力自体が湧き上がってこないのだ。何かに、抑え付けられているように。 「お困りのようですね」 さゆみが気付かない間に、屋上に一人、女がきていた。白衣に身を包み、眼鏡をかけている。その姿は一瞬医者のようだが。 騒ぎを聞きつけたのか、それにしては、何か見下しているような、勝ち誇ったような表情を浮かべている。 勘のいいさゆみには、わかった。この女がれいなの言っていたダークネスの仲間なのだと。 「この病院周囲一帯での能力の使用を制限しました。道重さゆみさん、 あなたの能力の解析はすでに終わっています。能力の仕組みがわかれば、簡単なことです。 昨晩殺せていれば、それすら必要なかったんですけどね。 しかしいいデータがとれました。あとはその女を回収するだけです」 ゆっくりと歩きながら、女は話し始めた。 「それにしても亀井絵里。他者と傷を共有する能力。厄介です。だって、殺したら自分も死んでしまうんですから。 でもすばらしい能力です。実験適合成体、i914を道連れにするなんて。 ああ失礼しました、今は高橋愛という名前でしたね」 高橋は、薄れていく意識の中で、女の話を聞いていた。 姿を現した女。彼女もまた、かつての仲間だ。 高橋と同時期にアサ=ヤンに入った。彼女は戦闘に関しての能力は持っていなく、のんびり屋で、 おおよそどこにでもいるような普通の少女だった。少なくとも高橋は始めそんな印象を持っていた。 だが、彼女は努力家で、人一倍頭がいい。能力に対する理解と知識は、後にも先にも並ぶ者がいない。 しかし彼女は裏切り、ダークネスの研究機関に所属したと聞いた。そんな彼女がここに現れるとは。 裏切り。裏切りか。 ふと、もう一人、同期の新垣のことを思い出した。 彼女はアサ=ヤンの存在を誰よりも愛していた。彼女がアサ=ヤンを裏切ることは絶対にないだろう。 彼女は今なにをしているのだろう。あの戦いに生き残れたのだろうか。 自分がリゾナンターとして、再びダークネスと戦うと聞いたら、力を貸してくれるだろうか。 ああ、そうだ。れいなに電話しないと。ダークネス、出てきたし。でももう手が動かんわ。ごめん、れいな。 女はそう言うと、屋上に次々と、この病院の患者達が現れた。 よく病院に来るさゆみには、知っている顔もあった。だが目に意識が宿っていない。この女に操られているのか。 「この病院の患者さん達です。この人たちはもう、助からない。死ぬことが決まっている人たち。 そんな人たちに最後くらいいい思いをさせてあげても、罰は当たらないでしょう」 人を殺す、快感をね。そう言い放ち、はじめてその女が下卑た表情を浮かべた。これが、この女の本性か。 道重さゆみは、女の話を黙って聞いていた。 悔しさと怒りが体中から湧き上がっていたが、その心に支配されることのない、冷静な自分がいた。 冷静に、状況を判断する。絵里も高橋愛という女の人も、もう助からない。 血を流しすぎている。流れた血までは治せない。 さゆみは、近づいてくる男達に目を向けた。10人ほどか。手にはそれぞれ武器を持っている。 自分ももう、助からない。 それに絵里のいない世界なんて耐えられない。ここで、死のう。 さゆみが死を受け入れようとした瞬間、ふとれいなの顔が浮かんだ。 彼女なら、こんな風に諦めない。こんなとき、最後まであがくだろう。 絵里はまだ死んでない。なんとかして絵里を助けなきゃ。 自分の命を懸けてでも。 さゆみは、立ち上がる。さゆみが、絵里を守る。 さゆみは、男達の群れに突進した。 だが非力なさゆみの力では、どうすることもできず、すぐに抑え付けられた。 ああ、体育の授業を真面目にやっておけばよかった。 そんなことを思いながら、血だらけになった絵里を見る。 ごめんね、絵里、助けてあげられなかった。 ずっと近くにいたのに、絵里の感じていた孤独に気付いてあげられなかった。 絵里、最後まで、一緒だよ。 そのとき、操られた男達の動きが止まった。 彼らの視線が、鉄柵の上に立つ少女に注がれていることに気付く。 「れいな!」 「さゆを離せ!」 そこには、れいながいた。 れいなは素早く、さゆみのいるほうへ走り寄り、男達のみぞおちへ的確に打撃を 入れた。男達はすべて、その場で意識を失った。 れいなは、血まみれになった高橋と絵里の姿を見る。 「よくも、れいなの大切な仲間を!」 「くっ、この女!」 白衣を着た女は明らかに動揺した。 なぜ田中れいながここに?高橋愛と手を組んだのか? いずれにせよ、この女の能力の解析はまだ、終わっていない。ヘケートが、しくじったせいだ。 私の作戦は完璧だったのに。このままでは、まずい。 「あんたがダークネスの科学者っちゃね!もう絶対許さんと!」 「ち、違います!私はダークネスのドクターマルシェなんかじゃありませんよ!」 そう言って女は、地面に煙幕を投げつけた。 あの女が去ってから、さゆみの力は戻っていた。 さゆみは、高橋と絵里に、治癒を続けた。傷はすでに塞がっている。 だが、二人とも意識が戻らない。 「絵里!お願い、目を覚まして!」 一緒にケーキ屋さん、やろうねって言ってたじゃない。さゆみはそう呟いた。 れいなは、そんなさゆを見つめた。 自分の力じゃ、誰も助けられないのか。 愛ちゃんが、自分を戦わせようとしていないことは分かっていた。 自分の力が足りないせいだ。 「さゆ、頑張れ!」 れいなは、さゆみの手にそっと触れた。愛ちゃんは、れいなにも力があると言っていた。 そのせいで、ダークネスに狙われているのだと。 自分では全く分からないが、そんな力があるのなら。愛ちゃんと、絵里を助けたい。 その力を、さゆに託した。 さゆみとれいなの、二人を助けたいと云う想いが、共鳴する。 やがて治癒の光は、病院全体を包んでいった。 絵里は目を覚ました。そこはいつもと変わらない、病室だった。 体中に出来たはずの傷は、全て消えていた。私は死んだのではないのか。 かすかに、昨夜のことを思い出す。 そっか。さゆが、助けてくれたんだ。 病室のドアが開いた。 「絵里!気がついた!?」 「あっ、さゆ・・・」 さゆみは絵里に抱きついた。少し涙目になっていた。その腕は温かい。 「ごめん、さゆ。・・・さゆが、また助けてくれたんだね」 「もう、絵里!心配ばかりかけて!絵里が死んじゃったら、私は・・・」 そういってさゆみは泣き出した。そんな姿を見て、絵里はもう一度、ごめん、と言った。 死ななくて良かった。さゆにまた会えて本当にうれしい。 「おーい!絵里ー!」 またドアが開いた。今度は勢いよく。 「あれ、まさかれいな!?いつから来てたの!?」 「もう。れいなのことは覚えとらんのかいな。さゆはすぐ敵に捕まってしまったけん、れいなが助けたとよ」 「そうなの。れいなすごいかっこよかった。さゆみも、いくつか試したい技があったんだけど」 「それって、アニメのやろ?実際通用しないって、そんなの。まあ傷を治したのはさゆやけどね。気合入れすぎて 入院してた人全員治してしまったとよ」 「すごいなぁ、さゆは」 「絵里の心臓は治らんかったけどねぇ」 2人が来て病室が急に騒がしくなった。またドアが開く。高橋愛。 れいなと一緒に、悪の組織ダークネスと戦っていることを聞いた。 「あ!高橋さん!あの・・・昨日は本当にごめんなさい!」 絵里は深々と頭を下げた。 高橋はそんな絵里の様子を見て、微笑んだ。 「もう絶対あんなことしたら駄目だよ。絵里には、さゆとれいながいるんだから」 あなたは孤独じゃない。そう言いかけて、高橋は口をつぐんだ。もう言われなくても、分かっているだろう。 絵里はすっかり元気を取り戻していた。 「あの。高橋さん。れいなから話は聞きました。悪の組織ダークネスと、高橋さん達リゾナンターのこと。 高橋さんには迷惑をかけちゃったし。れいなも戦っていると聞いて。私も一緒に戦わせてください」 「ちょっと、絵里!?絵里の体じゃ・・・」 「大丈夫だって。あぶなくなったら、さゆがまた助けてくれればいいじゃん」 絵里がそう言ってくれたことは嬉しかった。高橋は今までずっと一人で戦ってきたのだから。 しかし、2人が最前線で戦うにはやはりリスクが大きすぎる。だがダークネスが絵里とれいなの力を狙っていることは明らかだ。 「わかった。2人とも今日からリゾナンターよ。それじゃ早速任務を与えるわね。れいなも、聞いて」 高橋は、考えていたことを言うことにした。 この2人を戦闘に参加させたくはない。もちろん、れいなも。しかしまたダークネスは命を狙ってくるだろう。 みんなが、戦うことを目的とせずに、集まれるような場所。それが結果的にみんなを守ることになる。 「2人の夢って、2人でケーキ屋さんを開くことでしょ。まあケーキ屋さんじゃないんだけど、似たようなものっていうか。 まあそのこととは、あんまり関係ないんだけど。私、カフェをこの近くにオープンしたの。 誰でも気軽に入れて、辛いことや悲しいことがあったときにも、そのときだけは忘れてくつろげるような、そんな空間にしたいの。 でも人手が足りなくて。3人とも、たまにでいいから、来て手伝ってほしいんだけど」 一ヵ月後、喫茶リゾナントはオープンした。 まるで客の心を読んでいるかのような細かい気配り。 加えて美人店長、店員と、絵里の作るチーズケーキが受け、上々の滑り出しだった。 だが。そんな喫茶リゾナントに忍び寄る、1つの影。 「はい、これから目標に接触、潜入します。・・・分かっています。我が主、ダークネス様に栄光を」 ---- ---- <<back>> &bold(){[[(02)539 『モーニング戦隊リゾナンター 希望の少女』]]} ---- ---- <next>> &bold(){[[(06)354 『モーニング戦隊リゾナンター 決意の少女』]]} ---- ---- ----

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