(03)056 『少女はその日、他人の肌が温かいことを知る』

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&br() 高橋愛に生きる力を分け与えられた愛佳がリゾナンダーのメンバーを紹介されたのは あの日、愛が店長だと教えられた喫茶店だった。 入り口にはクローズの札がかかっているが中に誰かの気配はある。 アンティークな模様がかたどられたノブを恐る恐るゆっくり押すとそれはあっさりと道を開いた。 レトロな鐘がカランカランと控えめな音で来訪者を店内に知らせると 奥からばたばたと笑顔の愛が走ってくるのが見える。 「あ、みっつぃーいらっしゃい!さ、こっち来て座って座って」 「は、はい」 「お腹空いてるでしょ?すぐ何か用意するてのー」 「くぉら愛ちゃん!その前にすることがあるでしょう!」 「ほぇ?」 「あぁもう・・・いいからコーヒーでも持ってきて!」 里沙が愛を厨房へ押しやる。 なんやのー という声はあっさりと無視された。 「ごめんね気の効かない人で・・・アレでも一応リーダーなんだけどね」 「高橋さん、リーダーさんなんですか?」 「そうよ、聞いてなかった?そして私、新垣里沙はサブリーダーね。  全く、初対面なんだからまず紹介してくれるものだと思ってたのに」 何が「お腹すいた?」よっ。 毒づく里沙の前にコーヒーカップが置かれる。 「おまたせー みっつぃーもコーヒーで良かった?」 「あ、はい」 「こんな人だけど、コーヒー淹れる腕はいいの。保証するわ」 「ガキさん今日手厳しいがし」 「誰のせいだと思ってんの!」 ミルクと砂糖を入れて一口。 なるほど、確かに美味しい気がする。 愛佳にとっては愛が自分のために淹れたコーヒーだというのが大きな要素だったりもするが 「さて、本題に入りましょうか。ガキさん宜しく」 里沙の隣に座ると愛の顔がすっと真剣な表情になる。 愛の言葉を受け、里沙がひとつ咳払いをした後、口を開く。 「愛ちゃんからあなたのことは聞いているわ」 あのチカラのことだ。 愛佳にとって不要なものでしかなかったチカラ。 「愛佳ちゃんのそのチカラ、能力。未来予知という個性のこと」 まっすぐに愛佳の瞳を見つめながらゆっくりと。 更に里沙が続ける。 「制御が出来ていないせいで傷ついてきたんでしょう。 ・・・でもね、私ならその能力を正しく使う方法を指導することができる」 「・・・本当ですか?」 「えぇ。実際は愛佳ちゃん自体が頑張らなくちゃならないんだけれど、そのサポートを出来る能力が私にはあるの」 精神干渉。誰かの意思を乗っ取り、操る里沙の能力。 これを使い、愛佳を二度と誤った方向へ進ませないための策を立てる。 だから愛はまず、里沙と愛佳を引き合わせたのだ。 「ね、今日これからここで起こることが視える?」 「・・・やってみます」 愛佳は瞳を閉じて精神を集中させる。 今までこの能力が発動するのは本当にランダムで、自分の視たいことだけ視る、というのはできなかった。 だからこそ実の両親にですら恐れられてきたのだ。 「・・・無理です、視えない・・・何か薄い壁みたいなのがあるような・・・」 「初めてだもの、しょうがないわ。そこで私の出番よ」 里沙が愛佳の手を取った。 「リラックスして・・・目を閉じて・・・」 「は、はい」 言われるがまま、身を任せる。 「・・・わかる?今、あなたの中に私が居ること。  正確にはあなたの体と精神を30%くらい私が動かしているの」 「不思議な感じ、です」 「能力を自分の使いたいように使うには、その壁を突き破るコツを掴めばいいの。  さぁ、私が手伝ってあげる。もう一度視てみましょう」 それは瞼の裏に光の道となって現れた。 里沙が導いた道筋はゴール地点までまっすぐ続いていて 愛佳の深層意識は導かれるまま辿っていく。 途中、阻むように壁は確かにそこにあったが、先ほどが嘘のようにするりとすり抜けて。 終着点に辿りついた時、愛佳の閉じた瞳にはダイレクトに映像が流れ込んできた。 同い年くらいの少女が愛、里沙、愛佳の他に3人。 彼女たちは思い思いに食事を楽しんでいる。 そしてもう一人・・・喫茶店の扉を開く。 その一人を認めたとき、愛佳は驚きのあまり目をばちっと開いた。 「どうだった?」 「あ、あの・・・」 「ん?」 「視えたんですけど、でも・・・居るはずのない人が視えたというか」 「来るわよ、彼女も仲間。あなたと同じく、能力を持っているから」 何が、とは口に出さなかった。 愛はテレパシーで、里沙は精神干渉でそのことを読み取っていたのだから。 「久住小春。本名は、ね」 「私達はそう呼ぶの。理由は・・・そのうち解るわ。 それより今の感覚、わかった? 慣れてくれば1時間後、1日後だとか時間を決めた予知も出来るようになるし、 知らなくていいことまで知ってしまう、今までみたいに心を痛めることも減るはずよ。 もちろん何度でも教えてあげる。今みたいに。 覚えておいて。愛佳ちゃんはもう一人で悩まなくていいの」 ぎゅっと里沙の手を握る力が強くなる。 まるで体温を分け与えるかのように。 その暖かさで凍りついた心を溶かしてゆく。 発された言葉は真っ直ぐに愛佳の心に染みこんでいく。 まるでからからに乾いたスポンジが水をぐんぐん吸い込むように。 この能力のせいで心がずたずたに折れ、自殺まで考えた。 だが、愛に救われ、里沙に救われた。 こんな私でも、誰かを救えますか? かつて愛はその問いにイエスと答えた。迷うことなく。 この人たちの力になりたい。 この感謝を伝えたい。 ただ流されるだけの人生を送ってきた愛佳が自分自身で選択した。 少女の瞳に強さが戻った日だった。 それから。 愛佳の予知したとおり、続々と訪れる少女達。 さゆみと絵里、そしてれいな。 この全員がなにかしらの能力者なのだと自己紹介によって知った。 愛佳にとっては誰とも喋ることのない生活が常だったが、 初めて会った気がしない少女達により、だんだんと打ち解けていく。 愛佳の本質は愛嬌があり、周囲を和ませることのできる少女だったのだ。 ただ、笑い方を忘れてしまっただけで。 笑い合える相手が居なかっただけで。 予知どおり、最後に現れたのが愛佳が居るはずがないと戸惑った「月島きらり」だった。 雑踏の中でも見失ったりしない絶対的な存在感。 見るもの全てを魅了する、その立ち昇るオーラのようなものに愛佳は圧倒された。 里沙が、小春の傍に寄っていく。 「小春、この子は新しく入った光井愛佳ちゃん。小春と同じ年だよ」 「あ、あの・・・」 何と声を掛けていいのか。 しょうがない。相手は正しく雲の上の人だったから。 小春は愛佳を上から下まで視線を巡らせ、開口一番こう言ってのけた。 「あなた・・・クラスにいたら苛められるタイプでしょ」 「っ!!」 「あれ、図星?苛められるのは自業自得なのよ」 「小春!やめなさい!」 愛佳は正直、戸惑うしかなかった。 そこには自らが予知したとはいえ、本当に月島きらりが居たからだ。 雑誌で、テレビで満面の笑みを讃えて歌い踊る彼女。 羨ましかった。その強さ。明るさ。 人気者で、いつも笑っていて。 自分と全てが正反対の彼女に言われたことは、正しかった。 だが、ここに居るのは外見こそ同じだがまるで別人で。 無気力にも見える生気を失った瞳。 直感だが、本心からの言葉ではないように感じた。 根拠などないが、ただの悪口ではない気がしたのだ。 まるで何かの闇を抱えているかのような、希望を見失ってしまったような瞳。 他人の顔色を伺って生きてきた愛佳だから気付いた事だったのかもしれない。 「あたし、今日は帰る。いいよね?リーダー」 静まり返った店内。 全員が小春の行動に注目している。 「そやね。帰り」 「・・・おやすみなさい」 そのまま後味の悪さを残し、解散となった。 外に出て数歩、後ろから愛佳を呼び止める声が一つ。 振り向くと、神妙な表情の里沙が立っていた。 「新垣さん、今日は有難うございました」 「愛佳ちゃん・・・」 「誰かとお喋りするのって楽しいんだ、って初めて解った気がします」 「小春はね、不器用な子なの。あんな事言ったのもきっと本心じゃないはず・・・ 嫌わないであげて、というのは勝手なお願いだって解ってる」 「気にしてませんから、大丈夫です。 それに・・・きらりちゃん・・・いえ久住さん、なんだか悲しい目をしてた」 あの瞬間を思い出すように、愛佳が俯く。 確かに酷いことを言われたが、恨む気になれない、その理由を。 「・・・」 「それに、苛められっこは本当ですし」 えへへ、と苦笑が漏れた。 「私のチカラ・・・新垣さんのお陰で好きになれそうなんです。 では、今日は失礼しますね」 くるりと背を向けて駅へ向かう。 その背中に里沙は声を掛けることはできなかった。 数時間後。 帰宅した里沙はドアを施鍵すると部屋の明かりも付けず、携帯を取り出し慣れた手つきで一件の番号を呼び出す。 「定期連絡です。光井愛佳という少女がリゾナンターに加入しました。 詳細はまた後日・・・。 えぇ・・・まだ能力の応用もできない、生まれたての赤子のようなもの。 警戒度は最低レベルでもいいでしょう」 淀みなく業務をこなしていく。 「・・・相手は人の温もりを知らない子供です。 手を握り、優しい言葉をかけてやれば信用させるのなんて簡単でしたよ・・・。 一度強烈に助けておいて刷り込ませた信頼を二度疑うことは人間、あまりありませんから・・・。 はい、それでは・・・」 月の光も届かない暗闇の中に、携帯のディスプレイだけが唯一の光源となる。 頼りなくゆらぐ青白い光に照らされた里沙の表情を知り得る者は居ない。 ---- ---- ----
&br() 高橋愛に生きる力を分け与えられた愛佳がリゾナンダーのメンバーを紹介されたのは あの日、愛が店長だと教えられた喫茶店だった。 入り口にはクローズの札がかかっているが中に誰かの気配はある。 アンティークな模様がかたどられたノブを恐る恐るゆっくり押すとそれはあっさりと道を開いた。 レトロな鐘がカランカランと控えめな音で来訪者を店内に知らせると 奥からばたばたと笑顔の愛が走ってくるのが見える。 「あ、みっつぃーいらっしゃい!さ、こっち来て座って座って」 「は、はい」 「お腹空いてるでしょ?すぐ何か用意するてのー」 「くぉら愛ちゃん!その前にすることがあるでしょう!」 「ほぇ?」 「あぁもう・・・いいからコーヒーでも持ってきて!」 里沙が愛を厨房へ押しやる。 なんやのー という声はあっさりと無視された。 「ごめんね気の効かない人で・・・アレでも一応リーダーなんだけどね」 「高橋さん、リーダーさんなんですか?」 「そうよ、聞いてなかった?そして私、新垣里沙はサブリーダーね。  全く、初対面なんだからまず紹介してくれるものだと思ってたのに」 何が「お腹すいた?」よっ。 毒づく里沙の前にコーヒーカップが置かれる。 「おまたせー みっつぃーもコーヒーで良かった?」 「あ、はい」 「こんな人だけど、コーヒー淹れる腕はいいの。保証するわ」 「ガキさん今日手厳しいがし」 「誰のせいだと思ってんの!」 ミルクと砂糖を入れて一口。 なるほど、確かに美味しい気がする。 愛佳にとっては愛が自分のために淹れたコーヒーだというのが大きな要素だったりもするが 「さて、本題に入りましょうか。ガキさん宜しく」 里沙の隣に座ると愛の顔がすっと真剣な表情になる。 愛の言葉を受け、里沙がひとつ咳払いをした後、口を開く。 「愛ちゃんからあなたのことは聞いているわ」 あのチカラのことだ。 愛佳にとって不要なものでしかなかったチカラ。 「愛佳ちゃんのそのチカラ、能力。未来予知という個性のこと」 まっすぐに愛佳の瞳を見つめながらゆっくりと。 更に里沙が続ける。 「制御が出来ていないせいで傷ついてきたんでしょう。 ・・・でもね、私ならその能力を正しく使う方法を指導することができる」 「・・・本当ですか?」 「えぇ。実際は愛佳ちゃん自体が頑張らなくちゃならないんだけれど、そのサポートを出来る能力が私にはあるの」 精神干渉。誰かの意思を乗っ取り、操る里沙の能力。 これを使い、愛佳を二度と誤った方向へ進ませないための策を立てる。 だから愛はまず、里沙と愛佳を引き合わせたのだ。 「ね、今日これからここで起こることが視える?」 「・・・やってみます」 愛佳は瞳を閉じて精神を集中させる。 今までこの能力が発動するのは本当にランダムで、自分の視たいことだけ視る、というのはできなかった。 だからこそ実の両親にですら恐れられてきたのだ。 「・・・無理です、視えない・・・何か薄い壁みたいなのがあるような・・・」 「初めてだもの、しょうがないわ。そこで私の出番よ」 里沙が愛佳の手を取った。 「リラックスして・・・目を閉じて・・・」 「は、はい」 言われるがまま、身を任せる。 「・・・わかる?今、あなたの中に私が居ること。  正確にはあなたの体と精神を30%くらい私が動かしているの」 「不思議な感じ、です」 「能力を自分の使いたいように使うには、その壁を突き破るコツを掴めばいいの。  さぁ、私が手伝ってあげる。もう一度視てみましょう」 それは瞼の裏に光の道となって現れた。 里沙が導いた道筋はゴール地点までまっすぐ続いていて 愛佳の深層意識は導かれるまま辿っていく。 途中、阻むように壁は確かにそこにあったが、先ほどが嘘のようにするりとすり抜けて。 終着点に辿りついた時、愛佳の閉じた瞳にはダイレクトに映像が流れ込んできた。 同い年くらいの少女が愛、里沙、愛佳の他に3人。 彼女たちは思い思いに食事を楽しんでいる。 そしてもう一人・・・喫茶店の扉を開く。 その一人を認めたとき、愛佳は驚きのあまり目をばちっと開いた。 「どうだった?」 「あ、あの・・・」 「ん?」 「視えたんですけど、でも・・・居るはずのない人が視えたというか」 「来るわよ、彼女も仲間。あなたと同じく、能力を持っているから」 何が、とは口に出さなかった。 愛はテレパシーで、里沙は精神干渉でそのことを読み取っていたのだから。 「久住小春。本名は、ね」 「私達はそう呼ぶの。理由は・・・そのうち解るわ。 それより今の感覚、わかった? 慣れてくれば1時間後、1日後だとか時間を決めた予知も出来るようになるし、 知らなくていいことまで知ってしまう、今までみたいに心を痛めることも減るはずよ。 もちろん何度でも教えてあげる。今みたいに。 覚えておいて。愛佳ちゃんはもう一人で悩まなくていいの」 ぎゅっと里沙の手を握る力が強くなる。 まるで体温を分け与えるかのように。 その暖かさで凍りついた心を溶かしてゆく。 発された言葉は真っ直ぐに愛佳の心に染みこんでいく。 まるでからからに乾いたスポンジが水をぐんぐん吸い込むように。 この能力のせいで心がずたずたに折れ、自殺まで考えた。 だが、愛に救われ、里沙に救われた。 こんな私でも、誰かを救えますか? かつて愛はその問いにイエスと答えた。迷うことなく。 この人たちの力になりたい。 この感謝を伝えたい。 ただ流されるだけの人生を送ってきた愛佳が自分自身で選択した。 少女の瞳に強さが戻った日だった。 それから。 愛佳の予知したとおり、続々と訪れる少女達。 さゆみと絵里、そしてれいな。 この全員がなにかしらの能力者なのだと自己紹介によって知った。 愛佳にとっては誰とも喋ることのない生活が常だったが、 初めて会った気がしない少女達により、だんだんと打ち解けていく。 愛佳の本質は愛嬌があり、周囲を和ませることのできる少女だったのだ。 ただ、笑い方を忘れてしまっただけで。 笑い合える相手が居なかっただけで。 予知どおり、最後に現れたのが愛佳が居るはずがないと戸惑った「月島きらり」だった。 雑踏の中でも見失ったりしない絶対的な存在感。 見るもの全てを魅了する、その立ち昇るオーラのようなものに愛佳は圧倒された。 里沙が、小春の傍に寄っていく。 「小春、この子は新しく入った光井愛佳ちゃん。小春と同じ年だよ」 「あ、あの・・・」 何と声を掛けていいのか。 しょうがない。相手は正しく雲の上の人だったから。 小春は愛佳を上から下まで視線を巡らせ、開口一番こう言ってのけた。 「あなた・・・クラスにいたら苛められるタイプでしょ」 「っ!!」 「あれ、図星?苛められるのは自業自得なのよ」 「小春!やめなさい!」 愛佳は正直、戸惑うしかなかった。 そこには自らが予知したとはいえ、本当に月島きらりが居たからだ。 雑誌で、テレビで満面の笑みを讃えて歌い踊る彼女。 羨ましかった。その強さ。明るさ。 人気者で、いつも笑っていて。 自分と全てが正反対の彼女に言われたことは、正しかった。 だが、ここに居るのは外見こそ同じだがまるで別人で。 無気力にも見える生気を失った瞳。 直感だが、本心からの言葉ではないように感じた。 根拠などないが、ただの悪口ではない気がしたのだ。 まるで何かの闇を抱えているかのような、希望を見失ってしまったような瞳。 他人の顔色を伺って生きてきた愛佳だから気付いた事だったのかもしれない。 「あたし、今日は帰る。いいよね?リーダー」 静まり返った店内。 全員が小春の行動に注目している。 「そやね。帰り」 「・・・おやすみなさい」 そのまま後味の悪さを残し、解散となった。 外に出て数歩、後ろから愛佳を呼び止める声が一つ。 振り向くと、神妙な表情の里沙が立っていた。 「新垣さん、今日は有難うございました」 「愛佳ちゃん・・・」 「誰かとお喋りするのって楽しいんだ、って初めて解った気がします」 「小春はね、不器用な子なの。あんな事言ったのもきっと本心じゃないはず・・・ 嫌わないであげて、というのは勝手なお願いだって解ってる」 「気にしてませんから、大丈夫です。 それに・・・きらりちゃん・・・いえ久住さん、なんだか悲しい目をしてた」 あの瞬間を思い出すように、愛佳が俯く。 確かに酷いことを言われたが、恨む気になれない、その理由を。 「・・・」 「それに、苛められっこは本当ですし」 えへへ、と苦笑が漏れた。 「私のチカラ・・・新垣さんのお陰で好きになれそうなんです。 では、今日は失礼しますね」 くるりと背を向けて駅へ向かう。 その背中に里沙は声を掛けることはできなかった。 数時間後。 帰宅した里沙はドアを施鍵すると部屋の明かりも付けず、携帯を取り出し慣れた手つきで一件の番号を呼び出す。 「定期連絡です。光井愛佳という少女がリゾナンターに加入しました。 詳細はまた後日・・・。 えぇ・・・まだ能力の応用もできない、生まれたての赤子のようなもの。 警戒度は最低レベルでもいいでしょう」 淀みなく業務をこなしていく。 「・・・相手は人の温もりを知らない子供です。 手を握り、優しい言葉をかけてやれば信用させるのなんて簡単でしたよ・・・。 一度強烈に助けておいて刷り込ませた信頼を二度疑うことは人間、あまりありませんから・・・。 はい、それでは・・・」 月の光も届かない暗闇の中に、携帯のディスプレイだけが唯一の光源となる。 頼りなくゆらぐ青白い光に照らされた里沙の表情を知り得る者は居ない。 ---- ---- ----

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