今日は良い天気だ。
風も気持ち良い。
こんな日は気分も良くなって、歌だって歌っちゃうんだ。
「あーめんぼ赤いーなーあいうえお~♪」
こんな日はやる気も出て、特訓だってできちゃうんだ。
「かーめいは風のー子ーかきくけこ~♪」
特訓前にリゾナントに挨拶しに行こうかな。
みんな、絵里がちゃんと外で特訓するようになった!ってびっくりするかな。
それとも、絵里がいなくて寂しがるかな。
そこの角を曲がれば、リゾナントはもう目の前だ。
なんにせよ、わざわざ挨拶しに行くなんて、絵里ってちゃいこーだよね。
扉の棒をしっかり握り、思いきりドアを開けた。
挨拶と…笑顔の準備も忘れずに。
―カランカラン
「いらっし「行ってきまーす!」」
これでもかってぐらい大きな声と、とびっきりの笑顔で挨拶。
みんな褒めてくれるはず…ってあれ?
なんかみんなポカーンとしてる。
「え、エヘッ」
とりあえず笑ってみた。
何となく絵里が自慢のギャグで滑った時と同じ空気を感じたからだ。
さすが絵里!
空気読めるぅ~!
自分のKY(空気読める方)っぷりに感動していたら、ガキさんが咳ばらいしている姿が見えた。
「カメ?」
「はい?」
「どこか行くの?」
「特訓してきますっ」
「あぁ~そうなんだ。そっかそっかぁ。それはいいことだねぇ」
うんうん、なんて頷きながら、ガキさんが絵里の肩をポンポンと叩いた。
「もぉ~絵里がいきなり行ってきますとか言うから、びっくりしたやろぉ?」
さっきまで止まっていたれいなが、机の上の食器を片付けながら言った。
「ごめんごめん」
あぁ、みんなびっくりしてたからポカーンとしてたのか。
理解理解。
「今日は天気がいいので、外で特訓してきます!」
「お、それはいいことだねー」
愛ちゃんが食器を洗う手を止めて、絵里の方を見た。
「でも、絶対に無理はあかんよ?」
「わかってますってぇ~」
「あと、暗くなる前に帰ってくること」
いいね?と言って、愛ちゃんが首を傾けた。
「アイアイサー!」
絵里が敬礼してみせたら、ガキさんに「本当に大丈夫なの~?」と眉をひそめられた。
もぉ~ガキさんは心配性なんだから~。
「だぁいじょうぶですって!最近強くなってきたんですから!」
そう言って左胸をポンッと叩いたら、やれやれという顔をされた。
本当にガキさんは心配性だなぁ・・・。
あ。絵里がいないと寂しいから行かせたくないのかな。
「なーんだ。それならそうと言ってくれれば良いのにー」
「はぃ?」
「絵里がいないと寂しいって」
「いや、わけわかんないから。思ってないから」
「またまたぁ~」
あ、ガキさんがため息ついた。
本気で怒られる前に退散退散・・・っと。
「じゃあ、行ってきまーす!」
みんなの行ってらっしゃいという声を受けながら、リゾナントを出た。
うーん、やっぱり良い天気っ。
「さゆと食べたい、バイキング~♪」
上機嫌で歌を歌っていたら、絵里の目にある物が止まった。
「なんだろ・・・鳥?」
木の下に黄色いフサフサとした丸いものが落ちていた。
しゃがみ込んで、持ち上げてみる。
「・・・おぉ、鳥だ」
くちばしと足が確認できた。
なんでこんなところに・・・。
辺りをキョロキョロと見回してみると、木の上に巣があるのが見えた。
「落ちちゃったの?」
両手の手のひらに乗せて、いろんな角度から観察してみると、羽根をケガしているのが見えた。
「ケガしてるのかー、おまえー」
そう言いながら鳥と目線を合わせたら、ちょっとだけ足を動かされた。
手に刺さってビミョーに痛いけど、我慢。
「よしよし、ちょっと待ってろよー」
鳥の羽に手をかざして、意識を高めた。
傷を自分の腕にもらうイメージ・・・。
鳥の羽に光が宿った次の瞬間、絵里の腕に擦り傷ができた。
「ってて・・・。こんなケガでよく我慢してたねぇ」
人間にとってはちっぽけな擦り傷でも、鳥にとっては大きな傷に違いない。
リゾナントに帰ったら、さゆに治してもらおっと。
「もう巣に戻っていいんだよ」
地面に降ろしてやっても、その鳥はなかなか動こうとしない。
まだ飛べないのかな。
「もー、仕方ないなぁ」
絵里はその場に立ち上がって、さっきよりも意識を集中させた。
ゆっくりと風を作り上げる。
ゆるやかで力強い風。
自然の風も味方にして、大きく大きくしていく。
「よしっ、いくよ!」
今出せる渾身の力で、その鳥を風に乗せる。
「むーっ・・・!」
巣は落としちゃいけない。
もちろん鳥も落とすわけにはいかない。
あともうちょっとなのに!
もう少しで巣に辿り着くのに、これ以上の風が出せない。
「くっそぉぉぉ・・・!」
もう・・・限界っ・・・!
―ビュゥッ!
「っ・・・!」
その時、絵里の後ろから大きな風が吹いた。
その風は、絵里が起こした風を後押しするように、上へ上へと吹き上げる。
「お願い!力を貸して!!」
絵里の声に反応するかのように、風は力を増していく。
そして、鳥が巣の上まで持ち上がった。
「よしっ!」
徐々に力を緩めて、鳥を巣に戻し終えると、さっきの風も収まっていた。
「はぁっ・・・疲れたー!」
絵里はそのまま地面に座り込み、後ろに手をついた。
思いきり首を後ろに倒すと、一面の青空が視界に広がる。
太陽がまぶしい。
「ははっ、あっちぃ~」
絵里が笑ってそう呟くと、涼しい風が絵里の髪をなびかせた。
「助けてくれて、ありがとね」
目を瞑って、風だけを感じる。
右腕の擦り傷のことなんて、すっかり忘れていた。
すると、頭上からチュンと鳴く声が聞こえた。
見上げると、鳥が覗いている。
さっき助けた鳥か、違う鳥かはわからないけど・・・
「お礼なんていらないよー」
巣に向かって手を振って、絵里は立ち上がった。
「よし、帰ろっ」
お尻についた砂をパンパンと振り落とし、もう一度巣を見上げる。
「もう落ちちゃダメだよ!」
また見に来てあげよう、なんて考えながら、リゾナントへ向かった。
「ただいまー!!」
さっきと同じように、入ると同時に挨拶。
今度はみんなもポカーンとせずに、おかえりと言ってくれた。
「おかえりー。早かったね」
「いや、早すぎでしょーが!」
愛ちゃんの言葉に、ガキさんがすかさずツッコミを入れた。
「だって、ガキさんが寂しいかなーと思って」
「はぁぁぁ?」
ガキさんに思いっきり顔をしかめられた。
さすがの絵里もへこみますよ?
「何か良いことでもあった?」
「うへへへ、わかります?」
ニヤニヤと笑いながら、愛ちゃんの方に振り返る。
「どうせ絵里のことだから、またスカートめくりでもしてたんでしょ」
「はぁ?絵里最悪っちゃね」
「ちょ、しないから!絵里そんなことしないから!」
相変わらずさゆはキツイんだから・・・。
「前さゆみのスカートめくったのは誰だっけー?」
「え、え、だ、誰だろぉー・・・?」
「絵里が変態なんは前からやけど、そこまでやとは思っとらんかった」
「いや、だかられーな違うってば!」
「ちょぉ、近づかんでって!」
ガーン!!
そろそろ絵里もへこむよ?マジで。
しょぼしょぼとカウンター席に座ったら、愛ちゃんがオレンジジュースを出してくれた。
「特訓の成果はあったみたいだね」
お礼を言おうとしたら、そう言ってニコニコ笑っている愛ちゃんと目が合った。
「みっつぃーが言ってたからさ。亀井さんがめっちゃ良い顔してるのが視えたって」
「あぁ・・・」
そういえば、そんなことを言われた気がする。
「だから今日、絵里が特訓から帰ってくるの楽しみにしてた」
「絵里、良い顔してます?」
「かなりね」
「へへ」
思い出すと、自然と笑顔になる。
絵里のチカラで助けることができたんだ。
「さゆっ、絵里が一人で笑っとる!」
「どうせ絵里のことだから、スカートめくりのこと思い出してるんでしょ」
「ちーがーうってばぁー!!」
そう叫びながら、腕を振り上げて追いかけるフリをすると、
二人もキャーと言って逃げ出した。
「コーラー!お店の中で走り回らないの!」
すると、すかさずガキさんに怒られた。
さすが、ガキさん。恐るべし。
「あれ?カメ、腕ケガしてるじゃん」
「あぁ、これはですね・・・」
気付きましたぁ?
さっすが、ガキさん!
「どうせ絵里のことだk(ry」
「もーっ、さゆ治してよー!」
「やーだー!絵里の自業自得でしょ!」
だから、違うって言ってるのに!
「もうこれは、絵里からの説明じゃ無理そうだね」
愛ちゃんが苦笑しながら言った。
「そんなぁ~」
でも・・・まぁいっか。
このケガは記念だもん。
名誉の負傷ってやつ?
絵里、カッコイイー!
またこのケガが治ったら、鳥さんに会いに行こう。
もう大丈夫だから心配しないでって伝えに・・・ね。