(03)802 『リゾナンダーの休日』



多くの人手でにぎわうゴールデンウィーク
愛は珍しく喫茶リゾナントを閉めて、里沙と久しぶりの休日を楽しんでいた

「里沙ちゃん、あーしお腹空いたがし」
「そうだね、愛ちゃん何食べたい?」
「・・・・・・」

いつもならここで自分の食べたいものを勢い良く列挙していく愛だったが返事はない
愛は何故か黙り込んで、大通りを挟んで向こう側にある建物の上層階を見上げていた

「愛ちゃん、どうしたの?あそこのデパートに行きたいの?」
「違うがし・・・あのデパートの屋上から・・・里沙ちゃんは感じんか?」
「・・・・・・・・・」

里沙も愛と同じように見上げてスッと精神を統一させる
確かに、かすかにではあるが感じる
ダークネスの手の者が現われる直前に感じる重く黒いものではない
しかし、いつもいっしょにいる仲間達から感じる柔らかいものでもない
里沙は胸騒ぎを感じた
それは愛も同じだったようで、ふたりは目で頷き合った後一目散に駆け出した

エレベーターを待っている程の余裕も時間もない
ふたりは込み合うエスカレータを一気に駆け上がった
重たいガラスの扉に全身をぶつけるようにしてふたりは屋上に飛び出した



しかし、そこには休日の平和な風景が広がるのみ

楽しそうに駆け回ったり、小さな遊具で遊ぶ子供達
できたてのソフトクリームを嬉しそうに頬張る親子

「あれ?」
「愛ちゃん・・・油断しちゃだめ・・・さっきよりも強くなってる」

確かに強まっている
ふたりが目標に近づいたからではない
明らかに目標から発せられるものが強く濃くなっている

「しかも・・・複数いるみたいね」

そしてそれは数種類感じられた

「こんな所で誰が・・・何をするつもりなんやろか・・・」

得体の知れない目標と計り知れないその目的に愛は戸惑いの色を隠せない
最悪の場合、ここに居る幼い子供たちまで巻き添えに遭うのだから

「愛ちゃん・・・ちょっと、あそこ・・・すごい人だかりなんだけど・・・」

里沙が指を差す方向には確かに大人数の人だかり
親子連れだけでなく、カップル、制服姿の学生、ちょっとヲタク風な男性
さまざまな年齢層の男女が屋上の片隅に設けられた簡易ステージに向いて集まっていた


「なんやろ?なんかショーでも始まんの?」
「なんだろ・・・でも何があるとかは書いていないっぽいけど・・・」

ふたりは警戒しながらもその人だかりに近づいていく
ステージのバックに掲げられた看板には“ゴールデンウィーク!ちびっこひろば”としか書かれていない

集まっている者達は皆、これから始まるであろう何かに期待の色でいっぱいの笑顔だった

ドワァァァァアアアン!!!

「おわっ!」
「何?何の音?!」

愛と里沙がその人だかりの最後列にたどり着いた時、ステージ横に設置されたスピーカーから大きな音が放たれた

「ドラの音?」

続いて流れてきたのは軽快な中華風の音楽
そして割れんばかりの拍手と歓声

『ハーーーーーイ!皆サーン、バッチリですカーーーーー!!』
「「「 バッチリでーす!! 」」」

「里沙ちゃん・・・この声・・・」
「・・・・・・うん」


人だかりの隙間から見えた、声の主は・・・紛れもなくリンリンだった
ステージに上がっているリンリンはミニのチャイナドレスにおだんごヘアー
見事なまでの中華娘ないでたちに、愛と里沙はあんぐりと口を開けて見つめるしかなかった

「あーし、リンリンのあーいう格好、初めて見たがし・・・」
「うん、あたしも・・・」

いつもテンション高めのリンリンだが、この時はさらにテンション↑↑でステージを進行している
集まったギャラリーもヒートアップしているようで、子供達ははしゃいで立ち上がっている
男性達はリンリンの名を連呼すしている
リンリンはステージ上から手を振りながら笑顔で応えている

『皆サン、元気イイですネー!じゃ、サッソク始めマスだー!』

さらに歓声は大きくなる

『本物のパンダとイッショに仲ヨク、写真サツエイ会ぃぃぃーーーーっ!!』

「パンダ・・・パンダ言うたで、あの子・・・」
「うん・・・言ったね・・・パンダって言ったね・・・」

『カワイイパンダのジュンジュン、カモォォォーーーンッ!!』
『バウ!』






ステージ袖から現われたのは・・・紛れもなくパンダ(中の人はジュンジュン)だった



「キャーーーー!!かわいいーーーーっ!!」
「ママー!ママー!パンダだよっ!!」

大きな歓声に迎えられたパンダ(中の人はジュンジュン)はいつものようにボードを掲げる
【 今日は来てくれて謝謝 】

「ジュンジュン萌ええええええーーーーっ!!」

「ちょっ・・・愛ちゃん!これ・・・」
「里沙ちゃん・・・あーし、頭痛くなってきたがし・・・」

「はーい、じゃあジュンジュンと一緒に写真を撮りたいお友達はこっちに並んでねーーー」

「ちょっ、愛ちゃん!この声!?」
「・・・・・・れいなやん・・・」

ステージ脇にはいつの間に現われたのか、れいながニヤニヤしながら手を上げていた
そしてその横には休日にも関わらず、制服姿の愛佳









「一回の撮影につき1000円いただきまーす」

「現場仕切りのオネエさんエロォォォォォォーーーー!!」








「一回につき2人まで一緒に撮影できますよー」

「お会計係のJKキャワァァァァァァーーーーっ!!」

自分達に向けられた歓声を気にする様子もなく、手際よく長蛇の列を捌いていくれいな
そして、こちらも手際よくお金のやり取りをしている愛佳


「愛ちゃん・・・あの子達・・・」
「うん・・・なんや、こ慣れとるな・・・」
「あ、ちょっとぉ・・・愛ちゃん?」

愛は里沙の呼びかけにも応えず、人だかりを掻き分けてずんずんと進んでいく
そして、れいなの背後へ・・・

「はーい、じゃぁ次のお友だ・・・」

振り返ったれいなは思いもよらないお友達の出現に絶句した
隣にいた愛佳も同じく、お客からもらった1000円札を握り締めたまま固まっていた

「ぁ・・・愛ちゃん・・・」

愛は無言でれいなの首根っこを鷲づかんだ


     こっち来るやざ
   ノハヽヽ8∈
  (’Д ’#从ノノハヽo∈   
  (   っ从;` ロ´)<・・・・・
  (_, ヽJ `ヾu_0_0 ....
               ズリズリ


「あのー・・・」
「ハッ!あっ!すんませ~ん、はい、次どうぞ!」

その場に取り残された愛佳は動揺を隠し切れない引きつった笑顔のまま健気に撮影会を続けた

その日の晩、れいな、愛佳、ジュンジュン、リンリンは愛からこっぴどく叱られたのは言うまでもない




















最終更新:2012年11月23日 20:54