――彼此何年経ったのだろうか…? 
……ここは何処?周囲には薬品や血腥い臭いの空気が立ち込めていた。 
「――……?」 
…視界が暗く、何処に居るのか分からなかった。顔には目隠しの様なモノが嵌められており、視界を遮られている…。 
「…ッ。」 
ソレだけじゃなく、手足にも何か嵌められている。身動きは100%無理の状態だった。 
場所だけでも確認したい所だけど…、ソレも無理に近い。とりあえず、体勢維持するしかない…。 

……暫くして、扉の開く音が微かに聴こえた気がする。その後、閉まる音も聴こえた様な… 
ウィーン…、カシャーン…。 
…誰か来たのだろうか。一体誰が…?身震いしてしまう。 
……コツ…コツ……。 
…足音が聴こえる。ハイヒールを履いて歩く音が周囲に響く。 
音が段々、近くに聴こえてくる。こちらに接近してきているのがその音で確認出来た。 
「…?」 
…足音は至近距離に近付いた場所で途絶えた。暫くは何も聴こえなくなった…。 
「…ッ?」 
…何で急に足音が途絶え――― 

…カタカタ。バシュッ…、ビビビ…。…ピロピロ。 
何かを動かす音が間近で聴こえた。…何、今の音?変な音がする。 
……ピーーーーッ、バシュッ…、バシュッ…。カチィ…。 
「…!?」 
何かが外れた音がした。…アレ?何だか身が軽くなった気がする。 
「……ッ!?」 
…突然目隠ししていたモノが外れ、足元に落ちる。 
「…ッ!!?」 
一体何が起きているのだろう?視界が急に明るくなり、咄嗟に目を覆う。 
「…うっ。眩しいぃ…」 
…長時間、暗がりで過ごしてたら、眩しいのは当然だろう。 
まぁ、ソレは置いて置く。少し間を置いて、目を開けてみた。 

薄らと視界が見えてくる。…ソコは? 
一度は目にした事がある四角く、狭い空間が拡がっていた…。 
「…ここは?何処かしら?」 
言葉は多分、ソレしか浮かばない。 
辺りを見回してみるが、ソコには自分の腰掛ける手術台(?)とか、何かの機械とかしかない。 
「……一体ここは何処なの?何故私…、ここに居るんだろう…?」 
…ジャリッ。 
「…あ。」 
…目隠しは外れても、手は動かせるけど…、足が自由になった訳じゃなかった。 
「…う~ん。…パスコード式みた…い?」 
何でこういう系統は…?パスコード式なのだろう。 
「…って言うか。パスコードってのは何処にあるし…」 
…見た所、パスコードらしきモノなんて、見当たらないのが現実。 
「…誰よ、こんな面倒なモノを作ったのはぁ…!!?」 
…はい、ソレ系統の職人ですね。 
「…って。そんな事言ってる場合じゃない。」 

気を取り直して、辺りを隈なく探した。見落とさないぬ程度に。 
足は鎖に繋がれてるけど、部屋中は移動出来た、随分長い鎖だと思う。 
「…この鎖、意味ある訳?…無いよね、絶対。」 
部屋をウロウロしながら、色々探してみるが…?見つからない。 
「…何で無いのよぉ!?…うわぁ、もう最悪。」 
…或る意味絶望ムードに為り掛け、諦めて近くにあった何かの上に腰を掛けた。 
ビビッ…。カタカタ…、ピロロッ…。 
急に機械っぽいのが起動した。これはパーソナルコンピュータ、通称「PC」だ。 
「…ちょっ、パソコンじゃん。これは…」 

…あ、そうか。…パスコードって。コレで検索出来るかも知れない。 
「…そう言えば。さっき誰かが来て、何かしてたのって?コレだったりして?」 
予想が合っているかは気にせず、まず行動しよう。考えてる場合じゃない。 
「…一か八かよね、こういうのはさ…!」 
パソコンのキーボードに手を伸ばし、キーを打つ。 
「…えーと、どのファイルだろ?」 
…画面には色んなファイルが掲載している様子。どのファイルがそうなのだろうか。 
「…ちょっ。…ドレなのよぉ!?」 
とりあえず、一つずつクリックしてみる。 
カチィ…。 
「…何よ、コレ…!!?」 
…どう見ても、グラビアアイドルの画像集にしか見えない。誰だよ、こんな趣味者は… 
「…もう。…次のよ、次!」 
カチィ…。次のをクリックする。 
「ぶっ…、次よ、次!」 
…とにかく、クリックしてファイルを確認する。 
「……ッ。ロクなファイル無いじゃない…!誰のパソコンよぉ…!?」 
…はい。あの博士のだよ、多分… 

クリックし捲る。指が正直疲れてきた頃に。 
「…いいかげん、疲れた。見つからないじゃない!」 
…残すは何気に怪しいアイコン(?)のファイルのみ。 
「…どう見ても、怪しいわね?このファイル…」 
開けるべきか、否か?いや、開けるしかない。この状況下では選択はソレしかなかった。 

…一息してから、マウスでファイルにカーソル合わせ、クリックする。 
「…ゴクリ。」 
カチィ…。ウィーン…、カタカタ…。 
処理音が響く…。画面が変わった。 
「…こ、これは!!?」 
ソコには…、手術台に眠る『自分』が映る映像が映し出された。 
「…う、嘘ッ!?…コレ、私!?」 
驚くのも無理は無い…。…だが、何度見ても…、ソレは「自分自身」だった。 
「…そんなぁ!?……嘘でしょ!?」 
少し硬直しそうな身体を支えながら、何かを探した始める。 
「…ううっ。…嘘よ!?」 

…探して、向かったのは『鏡』。 
そして、鏡の前に立ち、自分の姿を見た。 
「――…ッ!?」 
…言葉にならなかった。…そんな事があっていいのか? 
「…うっ、うぁあああああああああああ!!!!!」 
……思い出した。…何もかも、あの時の…事も。 
「…私、あの時…捕まって…!?」 
鏡に映る自分の姿を見ながら、呟く。 
「…私はあの博士に…『Dr.フェニックス』って博士に…!?」 
…髪は金茶色だったのに、色を失い、淡い海水色の様な色になっている。 
「……信じたくない。でも…」 
コレは変え様のない事実だった。鏡に映る姿がソレを物語っていた…。 
「…ッ」 
拳を握り締め、顔を歪ませる。…何故自分が?こんな目に遭うの?そう、頭では浮かんで離れなかった。 
「…何で、こんな目に!?…ううっ。」 
何よりも「乙女」としては信じ難い程、屈辱な額の大きな『×印の傷』が痛々しかった。 
「…ッ!!!!」 
バリィィィン…! 
…鏡に近くにあった「モノ」を投げ付けた。 

鏡は音を立てて、崩れ落ちる。 
「…見たくない!……こんな姿見たくないよ!」 

チャリ…。 
足元に何か落ち、光っていた…。 
「…ううっ。……?」 
足元で光る何かに目を向けると…、ソコには? 
「…ん?…プ、プレート?」 
小さな金属加工されたアクセサリーサイズのプレートが足元に落ちていた。 
「…コ、コレは!…『被験者番号』が書かれた奴じゃない!?」 
そう。ソレは被験者番号が書かれたプレートである。彼女が所持していた「プレート」だった。 
「…何で、コレがここに?」 
プレートには『被験者番号―010―』と書かれていた。 
「……被験者番号…―010―かぁ。」 

被験者番号―010―。…何か忘れている様な気が…。 
「……あ!!!!!」 
番号…、パスコード。 
「そうそう、パスコードを探していたのよ…!忘れてたし…」 

当たって砕けろ思考で、プレートに書かれた番号を鎖に付属の機具に入力してみる。 
「…やる価値はあるでしょ、うん。きっと…。」 

ピピピ…。カチャリ…。 
「おっ…!?」 
ポロッ…。カランカラン…。 
解除音と共に足に嵌まっていたのが外れる音がした。 
「…か、解除出来たぁあああああああああああああああああ!!!!!」 
もう縛るモノは何もない。彼女は解放されたのである。 
「…逃げよう。…コレ以上、こんな場所に居たくない!」 
逃げなければ、ずっと居たら何されるか分からない。 
「…早く逃げよう!…もう最悪な事はされたくないもんね!」 
彼女はここから逃げる事を決意する。 
「…あ、その前に。脱出ルートを探さないと…!」 
ここから彼女の「逃避行」が始まるのであった…
最終更新:2012年03月11日 00:30