141: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/21(火) 16:52:42
そして三谷部が「一応警察にこのことを話すべき…」とまで言いかけた途端、東雲は両手を広げて「いや、それは止めておこう」と口を挟んだ。「だって、直接 (サツにチクったらどうなるかわかってるよな?)みたいなこと言われてないにしても、そいつ等は絶対チクらないか気にしてる。
気にして、またその情報提供者にお前かその身近な人間を監視させれば、お前が警察に話したかどうかすぐわかるんじゃないか? 結局、殊子ちゃんが狙われかねない」「そうか。糞ッ、どうすればいいんだ」「まあ、無理かも知れないが、とりあえずお前は休め。怪我も完治したわけじゃない。」「ああ、そうだな」
142: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/21(火) 17:22:58
三谷部は、この時は東雲が友達で居てくれたことに感謝した。東雲は頭の回転が早い。(もし、東雲がいなければ、俺は警察に話し、殊子を危険にさらしていただろう)と、三谷部は、内心では何だかほっとしていた。
しばらくして、三谷部は退院し、いつもとおり登校した。「馴、退院おめでとう」下駄箱前で殊子はやや俯きながらそう言った。何だか元気がないように見える。 「ああ、ありがとう。でも、なんかあんま元気ないな。何かあった?」「馴のことが心配だったに決まってんじゃん」
そう言って涙目になりながら、殊子は三谷部に飛びついた。「ごめんな、心配させ…ウグッ」ドン、と誰かに肩を叩かれ、振り向くと東雲がいた。「おっはよ! 良かったな殊子ちゃん。馴、殊子ちゃんいつもお前がいない間、ずっと元気なかったんだぞ?」
今日も何か元気なさそうだけど、と言おうとしたが、ここは空気を読んで言わないことにした。
143: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/22(水) 22:47:09
たったの1週間病院にいただけなのに、学校での生活がやけに懐かしく感じた。そんな懐かしい学校での1日を終え、帰宅して学校のバッグを自分の部屋の机に投げ捨て、制服は椅子の下に脱ぎ捨てて、ベッドでパンツ一丁で寝転がり溜息をついた時だった。
携帯から音楽が鳴り響き、画面を見てみると、一通のメールが。
monkey-shindou.d#4649***
知らないアドレスだった。「迷惑メールか?」メールの文章は「お前の彼女いただき♪」と記されていた。添付された画像を見てみると、それは長い金髪の男と黒髪で長髪の女がベッドで裸で性行為をしている写真だった。黒髪の女はベッドに寝転がり、男に右足を持ち上げられていて、見えてはいけない部分が露わになっている。
とても柔軟な体なのだろう。持ち上げられた右足の膝が胸についていて、とてもつらそうな、しかしどこか気持ちよさそうにも見える表情をしていた。男は女の股間に顔を突っ込んでいて、顔が見えない。片方の腕で女の色白な脚を持ち上げながら、もう片方の腕で女の左の胸を鷲掴みにしていた。
その画像に吐き気がしたのか、三谷部は咄嗟に携帯を閉じた。胃袋から何かがこみ上げて来るような感覚に襲われ、トイレの便器に顔を突っ込んで、それを吐き出した。性行為に吐き気がしたのではなかった。三谷部が吐き気を覚えたのは、写真の女性だった。
その女性の顔は、間違いなく殊子だったからだ。よくアダルトサイトにあるような、例えばある女優の顔と女性の裸体をくっつけて合成し作られたアイコラのようなものだと、最初は思った。きっと、誰か殊子と仲の悪い誰かが誤解を生じさせようと下らないイタズラをしたのだと思った。
しかしそれにしては、よく出来過ぎている。普通、アダルトサイトにあるようなアイコラは下手な素人が作った故、暗い場所なのに顔だけがはっきり映っていたり、明らかにそれだとわかる。
しかし、この写真にはそんな不自然さが全く感じられないのだ。顔も他の風景も、高画質のカメラで撮ったのだろう、等しく鮮明なのだ。思い出せば思い出すほどに吐き気がこみ上げて来る。
これでもかと言う程吐いて吐いて、やっと収まり、口の中がまずかったので冷蔵庫にあったクリアウォーターで口の中を潤し、再び自分の部屋に戻ると今度は涙が出てきた。
144: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/23(木) 03:47:42
次の日。昼食を終えた三谷部は、昨日メールで届いた写真のことで殊子と屋上で待ち合わせていた。時計は12時45分を示している。寝転がって三谷部は時計を眺めながら、殊子を待った。
「遅ェな。何やってんだアイツ」
いつまで経っても来ない殊子に苛々しながら眺める空は灰色だった。古いメロドラマとかだったら、「私の気持ちは今、この空のように曇っていますわ」なんて言うのだろう。
そんなことを考えていたら、一滴の雫が空から降ってきて、それは三谷部の頬を伝い、下へ落ちた。「そういや、朝の天気予報じゃ午後から雨が降るとか何とか言ってたなぁ」しかし三谷部は、「雨が降ってきたから教室に戻ろう」
なんて行動はとらない。その後も雨は勢いを増すが、寝転がったまま動かない。普通ならばとてもそんな場所で落ち着いてはいられないだろう。しかし三谷部は、寝た。
どんな場所でもいい。休む場所が欲しかった。教室では、もう授業は始まっているだろう。
そこで寝たら、教師に叩き起こされる。それが嫌だった。
145: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/23(木) 13:07:37
結局、殊子は屋上には来ず、「委員会の仕事で忙しいからまた明日」というメールがきた。
家に帰ると、また携帯がなった。おそるおそる携帯をを開くが、東雲からのメールだった。「50000000円用意した。今すぐお前んちに行くから、待ってろ」
そのメールが来てから数分後、家のインターホンが鳴った。ドアを開けてみると、確かに東雲がいた。片手にPUMAのマークが入ったバッグを持っている。
「これ。例のバイクの持ち主に渡すんだ。1ヶ月後、いや、3週間後に」PUMAのバッグを差し出しながら言う東雲に、三谷部はいくつか疑問を抱き、素直にそれらを聞いた。「聞きたいことがあるんだけど、一回中に入ってくれるか」「ああ、入れてくれるのか」
そして三谷部は東雲を自分の部屋に招き入れると、早速質問を始めた。「まず聞きたいこと一つ目。そんな大金どこから出てきた? 二つ目。何故払う必要がある?」東雲は一度視線を天井へそらすと、質問に答えた。
「今まで隠してたんだが、俺、東雲コーポレーションって会社の社長の息子なんだ。学校じゃ社長の息子とか、そういう目で見られるのは嫌だから馬鹿なキャラやってたけど。ここだけの秘密な。」
「で、二つ目は?」
「確かにお前はやってない。俺という証人もいる。納得出来ないだろう。でも警察にも言えない状況だ。ここは悔しいがグッとこらえて、奴らに渡そう」
151: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/25(土) 07:09:06
そしてとうとう、約束の日が来た。三谷部は1ヶ月前の日と同じように、塾からの帰り道を歩いていた。50000000円と言う、大金を塾のバッグにつめながら。しばらく歩いて、バイクを見つけた場所までたどり着いた。「カネは持って来たんだろうな?」
157: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/27(月) 06:35:19
「ああ、この中にある」
三谷部がバッグを差し出すと、持ち主であろう男は見られたくないものを見られ、慌てて取り返すように乱暴にバッグを取り上げた。
「うわっ、マジだよ、50000000!」
その場にいた5人は揃ってバッグの中に夢中だ。
「それでもう、この件は水に流してくれよ」
言うと、その横にいた男が三谷部につっかかる。チンピラはドイツもコイツもこんな輩ばかりなのか? そんなことを考えながら三谷部はその男を睨み返す。持ち主であろう男はそれを片手いっぱいに制す。
「止めろ。余計な傷はつけるなと言ってたろ」
「誰が言ってたんだ?」
三谷部は咄嗟に聞いた。
「情報提供者の他に、今回のことを指示した奴がいるのか」
「テメェには関係ねぇ。悪いが、答えかねるな」
それだけ言い残すと、5人はダルそうな足取りで去って行った。
158: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/27(月) 06:54:30
翌日の昼放課。三谷部はまた、屋上で寝ていた。すると、上から降って来たのは雨じゃなく、石ころ。顔面に乗っていた、日光を視界に入れない為の教科書をどかし、上を見上げると、殊子がいた。
「ごめんね。こないだはホントに委員会が忙しかったんだ、ホントごめん」
「どうでもいいよ、別に」
「あ、そう。で、話って? ホラ、前に言ってたじゃん」
「馴れ馴れしく話してんじゃねえよ。二股かけてるクセに」
三谷部は前触れもなく、本題に入った。以前まではどれだけ殊子が輝かしかっただろうか。しかし今三谷部にとって、殊子はタラシでしかない。
「え……? 何のこと? あたしは……」
「黙れ!! だったら何だよこれ」
それを見た殊子は酷く動揺していた。それすら、三谷部にとっては胡散臭い演技以外の何物でもなかった。
「これ……………」
まるでパソコンがフリーズした時のように固まる殊子を横目に、三谷部は屋上から四階を繋ぐ階段への扉へと歩き出す。それでただ去るのでは物足りないらしく、こう吐き捨てた。
「残念だよ。始業式の時にした約束がもう破られて」
159: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/27(月) 06:58:08
殊子に例の写真を突きつけ、何だかスッキリしていた。
それから何日も経つが、殊子は三谷部に話しかけないどころか、クラスの友達とさえ話さなくなった。
161: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/27(月) 17:26:50
もうこのまま、殊子とは何もないまま終わるんだろう。残っていたのは、何だかわからないような心のモヤ。「もう恋なんてしない」なんて風に割り切れるなら、今頃こんなに気持ちが重くは無いだろう。
ヨリを戻したいわけじゃない。けど、三谷部は何だか、真実から目を背けてるような感じがした。
162: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/28(火) 17:54:56
いつも通り、三谷部は屋上で寝ていた。屋上に来るのが頻繁になったのは、きっと殊子の影響だろう、なんてことを考える度、首を左右に振った。
やはり未練があるんだろう。認めたくはないが、確かに未練があった。いきなりあんな写真を見せられたからって、簡単に忘れられる筈はない。そんな風に感傷に浸っていると、もうとっくに消した筈のアドレスからメールが来た。
『今から屋上に行く。あたし、死ぬから。良かったら来て。さようなら』
冗談にしてはつまらな過ぎる。しかし、殊子はこんな状況で冗談を言う程馬鹿じゃない。本当なら、おかしすぎる。
恋愛関係が崩れて、死のうと思う人間などいるのか。
「俺は、死ぬ程愛されていたのか」
とりあえず、屋上で待つことにした。
3分程経過しただろうか。屋上の扉のドアノブがガチャリ、と音を立てた。前髪は少し眉毛にかかっていて、制服の袖は肘までまくられている。スカートは短く、少し風が吹いただけでパンツが露わになってしまいそうだ。
風が吹く度、スカートを両手で押さえているのを何度見ただろう。「もうちょい長くすれば?」なんて言ったが、何故か一度も長くしたことはない。三谷部と並べば顎くらいの身長だ。
そんな小柄な殊子を、三谷部は愛していた。しかしもうその小柄な体は、写真に写っていた金髪の男に乗っ取られたのだ。
163: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/29(水) 16:55:24
その小柄な殊子は、三谷部に悲しげな目を向ける。しかし、そんな殊子と目が合っても、三谷部は一向に動じない。むしろ、睨み返している。それが嘘の表情だとわかっているからだろう。
殊子はそんな三谷部を余所目に、フェンスへと歩き、手前でピタリと止まった。
「本当にあたしのこと、もう嫌い?」
「あの男といて、随分楽しいんだな」
「え…?」
殊子は驚いて見せた。三谷部は殊子が益々憎かった。この期に及んでまだそんなふざけた芝居をするのか。
「そんな気ないクセに。俺のことなんて本当どうでも良かったんだな。自殺なんて、そんなつまらないギャグ」
「アイツだけじゃないんだ」
「は?」
「色んな男と遊んで、楽しかった。sexもいっぱいしたよ。楽しかった」
最早三谷部は、言葉を失った。そこまで堂々と言われたら、最早怒りも湧いてこない。
「じゃあもう逝くね。未練ないから」
そう言って殊子はフェンスをよじ登り始めた。
「…オイ!! 何やってんだ…」
殊子を止めようと、殊子の脚にしがみつくが、もう片方の脚で顔面を蹴られ、床に突っ伏した。
「アンタはもう、何言っても聞いてくんないじゃん」
殊子の顔面は涙と汗でぐしゃぐしゃだ。
164: 名前:(㍊゚д゚㌫)@J(ジェイ)J (HackerOF.g)☆09/29(水) 17:29:04
三谷部は唖然とした。この涙を見ても尚、演技だと言い切れるのか? 三谷部は言葉を失って、自問した。殊子は振り返ることもせずフェンスの一番上の場所まで行くと、そのまま一端下に降りることもせずに飛び降りた。
三谷部がハッとして下を見下ろした時には、もう遅かった。 グレーの砂で埋め尽くされている筈のグラウンドを、血が紅く染めた。もう何が何だかわからず、頭を抱えていると、下から悲鳴が聞こえてきた。
「何なんだよ」
その後、殊子は病院へ運ばれたが、手遅れだった。悲しめばいいのか、どんな感情を抱けばいいのかわからなかった。ただ、病院のベッドにある殊子の白い顔を見つめた。
最終更新:2010年10月12日 20:02