princess-ss @ ウィキ内検索 / 「双蜜月(ハネムーン)の夜」で検索した結果

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  • 双蜜月(ハネムーン)の夜
    昔々の話です。ある国に、それは信じられないほど可愛らしいお姫様がいました。 真っ直ぐな髪の毛が黒曜石みたく輝き、同じく黒目がちの大きな瞳はまるで星を宿す夜空のようです。 そしてそれらをひときわ際立たせるのが、一度も陽の光に当たったことがないかに思える、抜けるように真っ白な 肌でした。 お姫様の名はリリィ姫と言いましたが、人々はまさしく白百合の高貴と清廉を表す名前とは思いつつも、 もっぱら美しい肌を称して白雪姫、と呼んでいました。 そんな白雪姫には同じほど抜きん出た容姿を持つお母様がおりました。といっても、実の母親ではなく、 父王様が一年前に娶(めと)いになったのです。 この方はシェラ王女と言い、年のころは不明ですが二十代前半にも見えるようなきめの細かい肌や 清純な風貌で、白雪姫と比べて全く劣らない、思わず目を疑うほどの美しさをお持ちになっているのでした。 また、外見の他にも大変すばらしい方...
  • お姫様SSリスト
    ...3-237     双蜜月(ハネムーン)の夜  [陵辱]  [母娘丼] ◆13-255     欲望の城  [和姦] [強姦] [アナル] ◆13-286     姫鬼畜  [輪姦] [クスリ] [NTR] ◆13-303     幼姫のキノコ狩り ◆13-325     シンデレラ ◆13-472     秘密の勉強会 ◆13-484     ネフェティア陵辱(前編)  [陵辱] ◆14-003 ネフェティア陵辱(後編)  [陵辱] 姫君と見習い魔術師 ◆07-060 10.7kb 姫君と見習い魔術師その5 ◆07-110 14.8kb 姫君と見習い魔術師その6 [未完] エルドとセシリア ◆06-413 17.7kb 白いリボン ◆07-013 23.8kb 緋色の勲章(又はただの赤い血) ◆07-044 16.5kb 緑...
  • 国王と王妃
    「そなたらが泣いて頼むから娶ったのだぞ。それを今更あれこれ口を挟むな」  うんざりした顔でユージーンは口を開いた。 「確かに。あちらの姫君を娶ること、進言いたしましたのは我ら。ですが、陛下。もうじきに二年が経つというのに未だに懐妊の兆しが見えぬばかりか、聞くところによりますと寝所に渡られても小一時間で自室へ戻られるそうではありませぬか」 「余は嫌いではないのだが、妃が好まぬのだから仕方がなかろう。話をするだけで嬉しいと言われてはな、それでもよいかと思ってしまう。余も妃も若いのだからそう急がずとも良かろう」  玉座の肘掛けに肘をついて頬を当て、ユージーンはうんざりとして臣下を見た。まだまだ食いついてきそうな剣幕で鼻息荒いユージーンを見ている。 「それとも何か、ベンジャミン。そなたは余に嫌がる妃を無理矢理褥に押し倒せと申すか。そのような野蛮な行為を余に行えと?」  切れ長の瞳に怒りがこもる。ユ...
  • リュシル03
    正気に戻ると、リュシルは魔王城に設けられた居室のベッドに身を投げ出し、枕に頭を埋めてのたうち回った。 「し、死にたい……」 リュシルは紛れもなく一級の夜魔の血を引いている。身体に刻まれた淫蕩さは事実である。 それは、上位魔族ばかりが集う玉座の間で殆ど全ての魔族がリュシルの淫気に当てられて失神し、 今も人事不省の状態が続いていることからも明らかである。 だが、それとは別にリュシルのパーソナリティは夜魔の流儀に慣れていない。 リュシルは夜魔なら当然あってしかるべき男性経験もなく、また気高くありたいと言う望みも持っている。 ゆえに、衆人環視の下で自分の体液を啜るという行為を思い出して、死にたくなったのも当然というものであった。 「どうせ立身出世もできないし……」 「いや、そう悲観したものでもないぞ」 その時、ノックもなしに扉が開かれ、美しいながら...
  • ユゥとメイリン4
    「ユゥ…今宵の…夜伽を……命じる。」 「はい、姫様、仰せのままに。」 四方に薄い紗を垂らした褥の中に、メイリンの鈴を鳴らすような声が響く。僕はその前に引き入れ られていた。いつも通りの言葉なのに、この言葉を言うときのメイリンは、いつだってうっすらと 頬を染めて恥ずかしそうにする。 僕がこの邸に来てから、三月(みつき)が経とうとしており、季節は厳しい冬へと向かっていた。 森で暮らすには、これからが最も厳しい季節だ。 僕の故郷の人たちは、この冬をどう乗り越えるのか気がかりで仕方なかったが、そのことは誰にも 訊けずにいた。訊こうとすると、頭の中にあの戦のときの光景が広がって、喉が詰まってしまう。 彼らは、猛々しいシン国の兵士たちと比べたら頭一つ分も小さく弱々しい僕等の兵の首を薙ぎ払うのに、 一瞬の躊躇もなかった。 もし、残った者たちが反抗したら──それが、女子供ばかりでも──迷うことなく、粛清さ...
  • 天網の澱
    山の端に赤々とした太陽が触れんばかりに接近し、とりどりに差し交わされた数多の花々を琥珀に染め上げている。目指す女神の館まであと僅かの距離だった。 その館を照らす茜の輝きの放つ眩さと神々しさに思わず目を細めつつ、二人の男神は彼女にどう切り出すべきかと顔を見合わせていた。 リュータ神国の至宝、天輪の鏡が略奪された今、この地を守る術は皆無に等しい。 相手の条件を受諾せねば、あっけなく責め滅ぼされるであろう。 「言わずもがなのことですが、妹はおそろしく気位が高い女性です。 いや、気性が荒いというか、女の顔を備えた戦将とでも言うべきかもしれませんね。 ―――いくら君が願い出たとて、聴く耳は持たぬでしょう」 すっきりとした銀髪を肩に流した男は、柔和な面差しを歪めて親友の顔を眺めた。 「お前が『うん』と言ってくれれば、俺だってこんな真似はしないさ。だが」 「失態を演じたのは、ロレンツォ、君ですよ。自分の...
  • ユウとメイリン5
    薄明かりの中に、淡く浮かび上がる寝顔を見詰めていた。 僕の隣で規則正しい寝息を立てる可愛い女の子、メイリン。 ──このまま、朝が来なければいいのに。 何度そう思ったか分からない。 このまま、何もかもを眠らせた、静かな時がいつまでも続けばいいのに。 メイリンが僕の隣にいて、僕だけがメイリンの隣にいて。 囲われた狭い世界の中で、二人だけで生きられたらいいのに。 メイリンの艶のある黒髪をそっと撫でる。絹糸よりも滑らかな髪が、うねるように緩く 編まれていて、その流れにそっと指を沿わせるように撫でる。彼女を起こしたりしないように。 メイリンが、好きだ。 一度自覚してしまえば、その感情はひどく僕の内側を焦がした。 僕らの『クニ』を滅ぼした国の偉い人の娘で、すっごいお姫様で、僕とは生まれも育ちも まるっきり違う女の子。 でも、優しくしてくれた。...
  • 覇王の孫娘03
    「あれ、キルシェさんも来てたの」 宿の一階に下りるとカウンター越しに見慣れた顔の少女がこちらを見て声を上げた。 リューティルと同年代の少女で名前をエッジというワーキャットの少女だ。 ただその肌は褐色に日焼けしており、いかにも海の男ならぬ女の子。 ワーキャットのトレードマークである耳をピンッと立てて腕を組んだ。 「母ちゃんからは聞いてなかったけどなぁ?おーい、リーチェ、名簿」 少女がカウンターの奥に声を掛けると、名簿を抱えた女の子がやってきた。 こちらはエッジの妹のリーチェルだ。 「めいぼ、めいぼ、はい、エッジ姉ちゃん」 「よーし、んでキルシェさんは宿泊する?つーか、するよね? こんな時間だし。朝御飯付きにしとく?リュティと合わせて4名にしとけば割引で安くなるし。 リュティ達の宿泊期間はあと2日になってるけど、合わせるとさらに安くなってお得だよ?」...
  • 桃色の鞠(後編)
    とうとう大好きな親友がフォレストから帰ってきた。 二か月ぶりの再会だ。 後宮の客間にて、二人はかたく抱きしめ合った。 『お帰りなさい。マリアンヌ。あなたがいなくて、とても寂しかったわ』 『私もよ。またあなたに会えてとても嬉しいわ』 本当に寂しいと思っていたのかしら、とセシリアは考える。 避暑地から届く手紙には、いつも友人の名前がずらりと並び、 毎日が楽しいことの連続のように書かれていた。 まあ、いいわ、とセシリアは邪心を打ち消す。 大事なのは、マリアンヌが帰って来たこと、ここにいることだ。 気を取り直して、長椅子の上に置いてあった桃色の鞠を拾い上げた。 『あら、鞠投げするつもり?』 そんなの子供っぽいわ、とマリアンヌは気取って首を振った。 『……そうかしら?』 セシリアは手中の鞠を見下ろす。 親友の言葉を聞いた途端、 あんなに鮮やかだった桃色のそれは、急に色褪せてやぼったく見えた。 『そう...
  • 副長の日々3.5(前編)
    女同士メイン、しかしレズとも百合とも言い難い何か。今回のエロに直接副長や男は絡みません。 今回の投下分と直接的に時系列で繋がっている二年前の前回投下分は、保管庫に個別の形では収録されておりません。 http //vs8.f-t-s.com/~pinkprincess/female_soldier/05-2.html の314から入っておりますので、よろしければこちらを参照してご確認ください。 ○1 「旗印が見えたぞ!」 物見櫓に立つ歩哨の叫びが、砦の空気をわっと沸かせた。たちまち手すきの兵士たちが戦友の無事をこの目で確かめんと、一斉に城壁へ駆け上がる。 出撃した守備隊主力不在時の留守を預かる副長、ユアン・ランパートもその人の流れの中にいた。さっとに手をかざすと、木々の合間の地平線から現れてくる友軍の姿を確認する。 威風堂々と凱旋してくるその兵士らの隊列に欠けがないこ...
  • 姫07-392
    「またお前か」  これが年頃の娘なら褥に侍らせてやるものを尻も胸もあったもんじゃない子どもでは話にならない。はだけた夜着を正しもせず、ユベールは不機嫌に愚痴を漏らす。 「お前だなんて失礼だわ。訂正なさい。わたくしの名はライラです。お前などではありません」  扉の前で仁王立ちになり、少女は僅かに頬を染めた。肌の色が白いから少し興奮しただけですぐ赤くなる。ひらひら飾られた薄桃色の夜着と相まってそれは愛らしく見えた。  後四年早く生まれていたら寝台に連れ込んでいたなと考え、けれどああ口やかましくては萎えるかもしれないと考え直す。黙っていれば可愛いのにとは思っても言わずにおくのが賢い手だ。 「部屋を間違ってるぞ。シャルルの部屋はこっちじゃない」 「存じていますわ。わたくしは、あなたに用があるのだもの」 「生憎だが俺はお前に用などないし、今夜は先約もある。人が訪ねてくる前に帰れ」  猫の子でも追い払...
  • アラビア風お姫様
    第1話 16歳の誕生日の夜、僕は生まれて初めてバザールに行った。 僕が住む砂漠の王国では男は、16歳になるとバザールで遊ぶ。 それがそのまま成人式だ。酒と煙草が初めて許される。 だから僕も水ギセルと蒸留酒とコーヒーで頭をくらくらさせた。 酒場から通りに出ると満月がのぼり始めていた。夜風で頭を冷やしてると、 「おーい」 と声がした。低くて、よく通る女性の声だ。 第2話 すぐ近くから聞こえたのに、姿は見えない。周りを見回していると、 「上よ。こっち」 見上げると、酒場の二階、ベランダから女の子が身を乗りだしていた。 黒髪をポニーに結い上げてて、肌の見えてるところは褐色だ。 見えてる部分というのは顔と喉と腕だ。肩の出た紫の上着を着てる。 彼女は立ち上がると、ベランダの手すりに手をかけ、足を置く。 ふっくらした白布のズボンとルビー...
  • 女たち
    「もとはと言えばな、そなたら毒姫は人に害を成すドラゴンを屠る為に考え出されたのよ」 朱天幕の床に胡坐をかき、ネリィに髪を梳らせながらティラナは語る。 人目の無いこの場所では、腰巻さえ履かない気楽な姿だ。 その後ろに坐って、ネリィは丁寧に櫛を入れる。 衣服を着るのは大嫌いなティラナも、毛繕いだけは欠かさない。 こうして身軽な格好で髪を梳かせるのは、ティラナにとって大のお気に入りの時間だった。 「太古の頃は、今よりもずっと竜種は世にのさばっておった。  ようやく殖え始めた人間族にとっては、奴らは逆立ちしても敵わぬ敵じゃった。  ゆえに人間どもは、奴らにしばしば生贄を差し出し、暴れる竜を宥めておったのよ。  生贄に供されるのは決まって、選び抜かれたうら若い生娘じゃった……  まあ、そちらは人間の美意識の話で、実際はドラゴンどもに生娘と経産婦の味さえ区別が付くと思えんがね」 「そんなに味が違うもの...
  • 覇王の孫娘 学園編 後編
    「おかえり、キルシェ」 「はい、ただいま戻りま――姫様!なぜ私の部屋に!?」 キルシェはリューティルが自分の私室にいることに驚いた。 侍女に見られては非常にまずい。 しかしリューティルは気にもかけず言った。 「キルシェ……股を開いてそこに座りなさい」 メガネをくいっと上げて皇女は言った。 「な、何を言っておられるのですか!?」 「座れ」 「は……は…はい」 リューティルの眼力に萎縮し、哀れな従者は力なく座った。 「足が疲れちゃったわ……揉んでくれる?」 「何を仰っておられるのですか!姫様の御足に触れるなど―――」 「昨日の夜は私の足にねっとり絡ませていたクセに」 「あ…あ…あぅ」 昨夜の情事のことを指摘され、キルシェはしぶしぶリューティルの 右足を手に取った。 「あ……んっ…そこ、もうちょっと強く」 「は、はい」 ...
  • リュシル02
    魔王城。その名の示す通り、そこは魔界の長たる魔王の居城。 それは魔界で最も高い山の頂にあり、幾重もの堀と城壁に土塁、無数の砦によって囲まれ、 周囲には百を超える支城。道路などというものは存在せず、荒れ果てた大地に異常な数の関所が設けられ、 相互に監視し、さらに数多の警戒竜と対空砲が空を、砲台塔が地面を見つめる。 そこは世界の最北端に存在し、四季にかかわりなく気温は零下40度を超えることはない極寒の地。 更にさらに防御は続き…… 「って、立地条件も縄張りも明らかにおかしいですってばぁ!」 寒さに震えながらリュシルは叫ぶ。夜魔用の服は体に密着した薄手のもので、露出過剰である。 防寒の役には絶対に立たない。魔量で周囲の気温を上げるのをやめれば、直ちに凍死するだろう。 中位以下の魔族であれば一刻と持たず魔力を消費しきってしまう程の悪条件。上位の更に上位に位置...
  • シンデレラ
    昔々、とある地方にシンデレラという名前のそれはそれは魅力的な伯爵令嬢がいました。 人々は「あれは神の御業に違いない。男神が美貌を与え、それに嫉妬した女神が彼女から思慮を奪ってしまった のだ」と噂しました。 そう、シンデレラは至って無邪気に色香を撒き散らすタイプの娘だったのです。 彼女が13歳になる頃には既に屋敷には夜這いが列を作るような有り様でした。 最初にシンデレラの蜜壺を開いたのは彼女の父親でした。 親子の午睡が恋人たちの抱擁になったのは彼女がわずかに12歳の時のこと。 シンデレラの母君がそれに気づいた時には既に彼女は肉の快楽の虜となっていました。 母君はそれを深く嘆き、父君をシンデレラから遠ざけると、彼女をそれは厳しく躾けようとなさったのです。 「もう!お母様ったらアレもだめコレもだめって!」 シンデレラは母君の部屋から出た途端にぶつぶつと文句を言い始めました。 それに相槌を打つのは...
  • ユゥとメイリン7
    翌朝のメイリンは、うって変わって静かだった。 朝食は、珍しく──というか、僕がこの邸に来てから初めて──メイリンの房室で、一緒に摂った。 けれど、メイリンはじっとあらぬ一点を見詰めたままで、箸も一向に進まない。 寝惚けているのか、旅の疲れが抜けないのか、それとも僕が何か粗々でもしたのか。ひどく気に なったが、メイリンは「ユゥは食べて」と言ったきり動かない箸を持ち続けていた。 主人格であるメイリンが食べ終われば、僕も終わらざるを得ない。メイリンが、僕の食べ終わるのを 待ってくれているのは明白だった。 メイリンと初めて共にした朝食は、少し慌ただしく終わった。 「済まない、今朝はもう、食べられない。」 そう言って、硬い表情で皿を下げさせたメイリンは、長椅子へと移り、卓を挟んだ向かいの椅子に 僕を掛けさせた。 「今日は、話があると言った。──まずはよい...
  • 戦国もの
    「…そなたと話しておると、時が経つのを忘れまする」 侍女のお雪に若桜(わかさ)御前が語りかけた。この日、若桜は中秋の夜長の 無聊を慰めるべく、話相手としてお雪を自身の寝所に召していた。 お雪は若桜が今の夫・右馬頭直照(うまのかみ なおてる)のもとへ 嫁ぐまえから付き従っていた侍女で、互いに気心が知れており、一国を 統べる大名の奥方となった今でも、こうして側近くで仕えているのだった。 若桜は当年24歳。顔かたちは大変美しく、輿入れの際に直照は「三国一の 大果報者」といわれたものだ。白桃のごとき美しい肌に、すっきりとした目元、 そしてよく実った豊かな肢体。女として、これ以上のものは無いと言っても 過言でないほどの姿であった。当然直照もぞっこん、惚れ込んでいる。 しかし、夫は夏ごろから隣国へ出陣しており、戻ってこられるのは師走ごろとの ことだった。当然のことながら、若桜の体には誰も触れることは無...
  • 昼休み
    「──なんですって?! メイファお姉さまがあの男と結婚?!」 その噂が彼女にもたらされたのは、夏の休暇に入る少し前の、昼休みのことだった。 「許せない…あの男。のらりくらりと胡散臭くていかがわしくて、ぜんっぜん、 お姉さまに相応しくないわ! 在学中は歯牙にもかけられていなかったくせに… 一体どんな汚い手を…っ!」 「普通に政略結婚だろ」 この春に卒院した、一級上の異国の姫君、ラン メイファ女史と、その前の年に 卒院したこの国の皇族男性の結婚話。客観的には順当な話に怒りまくっているのは 俺の同期生、裏の通称は『黙ってりゃ可愛い』の榎二娘[チァ アルニァン]である。 彼女と俺、直胡風[チ ホゥフォン]は同郷のよしみで──同郷と言っても、王都の この学院に来てから知り合った、ただ同じ州の出身というだけだが──よく話す仲 だった。ただ通称の通り、『黙っ...
  • 覇王の娘と勇者の末裔3
    「一体、どこに行かれたというのだ!!」 本拠地である帝都の一室でダークエルフの軍師であるヘスタトールは頭を抱えた。 「確かに………書き置きには2、3日で戻るとありましたが…」 ティルフィードが残していった紙切れを見ながら、ダークエルフの妹ヘスタプリンが呟く。 「姫様はここ3日の間心労がたたって、床に伏しているという事にしているが…もう限界だぞ。 将兵の士気に関わる!プリン、もしや、姫様の行き先を知っているのではないだろうな!?」 「まさか…それならとうの昔に連れ戻していますよ」 しれっとして妹は兄の疑いから身を引いた。 「同じ女性として見当がつかんか?」 「全く見当が付きませんね」 妹からの即答にがっくりと肩を落としながら軍師は呻いた。 「姫様が幼き頃より仕えてきたこの身。 姫様の身に何かあれば亡き先王様や王妃様に申し訳がたたん!」 「…...
  • リタとマスター
    漆黒の闇が太陽によって消される前 古ぼけた屋敷に喪服のような黒のローブを纏った女の均整のとれた足音が響く やがて足音がとまり、魔法認証による解錠音とともに、扉が開く 物言わぬ闇の空間に通路の松明が灯され、彼女の淡い影が闇の方へと伸びていく 主人と二人だけの屋敷に明かりを灯すことが、彼女の最初の仕事である。 彼女の名は、リタ・フェルナンデス。 とある組織のトップに仕える女である。 席に着いたリタは、まず依頼主から届く案件の確認を行う その後、その後、分刻みで詳細な計画を立て、それを頭に叩き込む 無論、不測の事態に備えての、回避策とその優先順位も確認しておく このようなことは普通の秘書でも行うだろうが、リタの凄い所の一つとして挙げられるのは、絶大な予想能力である。 まるで不測の事態などあり得ないかと思うほどの洞察力、判断力ともに著しく優れているのだ。 もう一つ、依頼主...
  • オブザーバ
    ソロモン王の使う千里眼の魔法使いは二人と決められていて、国中から選抜されるのだった。 王は宮殿に居ながらにして、すべての事象を察知する。王の知るべき諸々のことを、 遠見の術の使い手たちは、地球の裏側から天上の世界まで、霊魂を飛ばして見に行くのだ。 王の使う千里眼の魔法使いは二人と決められている。しかしながら、 魂の旅に出るのは一度に一人。もう一人の術師はその場にあって他を補佐する。 超長距離を飛ぶ霊魂の旅には、常に失敗の危険が伴うという。 一時的に肉体を離れた魂は、いずれにしても帰るべき所に帰らねばならない。 しかし魔法の術によって遠く離れた魂は、帰るべき体を見失うことがあるといった。 そうなると、魂は帰ってこれなくなる。魂の行方は失われ、肉体は死ぬ。 そうならないために、二人。一人は儀式の場に残り、魂の帰路を守る必要があった。 王の千里眼の役には、もっとも有力な魔術師を二人、互いに対立す...
  • レンと小さなお姫様4
      ──どうして、こんなことに。 幽州行きは、とにかく最悪だった。 メイファの卒院試験が終わったら、外出許可を取ってあげて二人きりでどこかへ 遊びに行こう──そう密かに計画していたはずなのに、急に拉致同然で連行されて、 勅命ですと仕事を押し付けられた。 幽州総督府内で組織的に書類を改竄して、朝廷に上納する租税を着服していたのだから、 当然関わった部署も多岐に渡り、関わった者もかなりの人数に登っていた。 むさいおっさん達に裁定が速いとか、神懸かっているとか褒められても全然嬉しくないし、 むしろ雑音。 どのくらい汚職に関わっていたかくらい、対面して表情読んで、引っ掛ける質問の 二、三もすれば大体のところは見えるだろう?! と言ってみても無駄らしいので、 黙っておいた。逆に彼らに、何故それが出来ないのか、簡潔に説明して欲しいくらいだ。 まあ、その話はいい。終わったことだ...
  • メイファと皇子様2
    王都の学院に通う書生、リィ ルイチェンが、学友のラン メイファに「心配 事がある」と相談を持ちかけられたのは、卒院試験の終わった次の日だった。 最終学年の学生達はの間には、昨日までの緊迫した空気と打って変わって、 ゆったりした時間が流れていた。少し春めいてきた空気のなかで、最上級生 にはもう講義はなく、学生たちは武術場で手合わせしたり、図書室で本を 読んだりと、のんびり過ごしていた。 ──それにしても、あのメイファが心配事なんて珍しい。ルイチェンは、 そう思った。 彼女はこだわりのない性格で、『悩んでも仕方のないことは、悩まない。』 と言って、本当に思考から切り離してしまえる特技を持っていた。要は、 精神面が強いのだろう。十二で親元から離れて何年も異国で暮らしている というのに、しかも自由は制限され、一時帰国さえほとんど許されないと い...
  • ルナとキース
    かつて大陸を支配した王も、元を正せば大陸南部を拠点とした小国の君主であった。 軍馬に跨り、戦場を駆ける君主に常に付き従う者が二人いた。 一人は後に君主の妻となる女騎士。 もう一人は軍師として仕える、青年。 幼い頃より共に笑い、泣き、苦楽を共に過ごした親友であった。 やがて君主は大陸を平定し、強大な帝国を築く。 女騎士を正妻として迎え、軍師として仕えた青年も妻を迎えた。 帝国は益々、栄えるはずだった。しかし、君主は全ての頂点に立つ者として 『大陸に平穏を保たねばならない、再び戦乱の世に戻してはならない』という思いがあった。 いつの頃からか……誰かがこの座を奪うのではないか?…と君主は人の心を疑うようになった。 今、この座を奪われては、再び大陸は戦乱の世に戻ってしまう…と人の心を疑う思いが日に日に強くなっていった。 そして王の心が闇に閉ざされるきっかけを作ったのは皮肉にも、王の世継ぎが誕生した...
  • 覇王の孫娘02
    「海だー!海だよ!うみィ!いい風~最高だよ♪」 絵に描いたような青空の下に広がる青い海に少女は歓声を上げた。 白い砂浜に見える人々は何百人といるだろうが、それでも十分な間隔が開いている。 それだけこの砂浜が長大なのだろう。少女は麦わら帽子を被り、水着の上に白いシャツを着て 砂浜を駆けていった。海に入る直前、帽子とシャツをセイヴィアに向かって投げた。 『持っていてね』と叫び、そのまま波に向かってに突進していった。 「リュティ様、お一人では…」 後から付いてきた少年は肩に掛けたクーラボックスを置き、はぁ~とため息をついた。 「……大丈夫かな…」 「セイヴィアもキルシェさんの心配性が伝染したか?」 「そんな事はないよ――――――」 顔を赤くしながらセイヴィアはリーフェイから目をそらした。 「どうしてリーフェイも水着を着ているの?」 セイヴィアの...
  • Princess of Dark Snake 4
    百官が居並ぶパルティア王宮の大広間に、異国の一団が跪いている。 彼らは東のシンド国からやってきた大使たちだ。 『全ての王たちの王』を自称するアルダシールは昨年、東国へ使者を送った。 その返礼のために訪れたのが彼らだ。 ただし、国と国との威信を賭けた外交戦は、時に詰まらぬ意地の張り合いの様を呈することもある。 「さて繰り返しますが、シンド王よりの貢物は、  『おぞましく、人に害毒をもたらす物、  されどその中にあるは、大陸に二つと無き虹の果実』にございまする。  叡智の誉れ高きパルティアの賢者がたには、遠慮なさらず中身をお当て下されよ」 「うぬぬ……」 持ち込んだ献上品をダシに、大使は謎掛けを仕掛けてきた。 こういった座興は珍しくない。 先年アルダシールがシンドに使者を送った時も、彼らを試す意味で謎掛けを付けて贈った。 贈ったものは、『王侯から貧民まで、誰にも無くてはならぬ物。 そして罪人の...
  • 桃色の鞠(中編)
    記念祭三日目。 セシリアは、エルドに会うため、早々に王宮入りを果たしていた。 一晩あれこれと悩んだ結果、彼に全てを打ち明けることが最適のように思えたのだ。 何しろ、エルドはこちらの厄介な婚約の事情について知っている。 ついでに、わからなかった言葉の意味も質問してみよう、とセシリアは考えていた。 侍従長から、第三王子が厩舎に居ることをさりげなく聞きつけると、 セシリアは、勇み足で目的地に向かった。 中庭を横切ろうとしたときだった。 突然、彼女の視界の端に桃色の物体が飛び込んできた。 ――鞠だ。 セシリアは、反射的に手を伸ばし、それを受け止めた。 一人の少年が、息を切らしながら、駆け寄ってくる。 「セシリア!」 「あら、ロビン」 それは、ユーリ陛下の末息子にして第四王子のロビンだった。 彼の後ろから、二人の従者も走ってくる。 「ありがとう」 ロビンはそう言って、両手を差し出した。 「これは……...
  • Princess of Dark Snake 7
    生暖かい風の吹く夜であった。 こんな晩は、シャーシュタールに住む者は、貴きも貧しきも窓を開けて寝る。 物騒だが仕方が無い。 締め切ったままでは、寝苦しくて仕方が無いのだ。 王宮では噴水や打ち水で気温を下げるため数々の工夫が凝らされているが、 それにしても生暖かい夜だった。 「……ん、」 可愛らしい寝顔を浮かべ、王太子妃コリーナは眠っていた。 ファルハードは、新妻を起こさぬようにそっと寝台を降り、ガウンを羽織る。 静かに寝室を後にした彼は、ついて来ようとする宦官兵を制して一人夜の王太子宮を歩き出した。 人の気配もなく、深夜の宮殿はひっそりと静まり返っている。 聞こえてくるのは庭園の茂みに住む虫の鳴き声と、 篝火の松明が燃え、パチパチと爆ぜる音ぐらいだった。 彼が警邏の兵が立つ廊下を通ると、王太子のいきなりの出現に驚き、兵士達は即座に威儀を正した。 すわ、宮の主人自らが衛士の勤務状況を査察に来...
  • 魔王とクォン
    森の辺に立ち並ぶ数え切れないほどの天幕。 夥しい数の幟がはためき、風を得た隼が大空を飛ぶ。 これほどの数の亜人、獣人、蛮人たちが大きな諍いも無く一箇所に長期集結するとは、古今にも例が無い。 二十万以上に上る闇の軍勢を収容する集結地は、いまや混沌とした都市の様を呈していた。 行軍中であれば、ここまでの陣地を設けることも無いし、 そもそも吹きさらしの風雨にも耐える亜人族は、陣屋など必要としない。 だが、攻撃目標はエルフ族の篭る「古く深き森」である。 長期戦になることを知った戦士たちは、少しでも己が寝起きの環境をマシにするべく 自発的にねぐらを作り始めた。 都合の良いことに、資材はすぐ傍に無尽蔵にある。 雑然とした街並が、駐屯を始めてから十日もかからぬうちに形作られた。 それは地上に収まり切らず、地底生活を好む種族が掘り始めた隧道によって地下にさえ広がっている。 攻撃開始から二ヶ月以上たった今、...
  • Zephyr(後編)
    10.  柔らかな月の光に包まれて、2人は静かに抱き合っていた。ラティは既に泣き止んでおり、その 顔をアッシュの胸に埋めている。  離れるのが惜しかった。ずっとこの温もりを感じていたかった。  だがいつまでもこうしているわけにもいかない。まだまだ話し足りないこともあるし、何よりパーティー を抜け出して抱き合っているなどと知られでもしたら、ラティフィアにとってあまりよろしくない事態を招 きかねない。 「姫さま」  抱きしめる腕をほどき、ラティの肩を掴んで引き離そうとする。肩に触れられた瞬間ラティの肩が大 きく跳ねたが、離そうとしていることに気付くと、アッシュの背中に回した腕に力をいれ、アッシュの胸 板に一層強く鼻先を押し付けてくる。 「10年間」  ラティがくぐもった声で呟く。 「10年間、貴方が帰ってくるのをずっと待ってたわ。晴れの日も、...
  • 十日物語
    「あれに、ルース公の息女を娶わせようと思うのだが」 アランは恭しく視線を上げて父王を仰ぎ見た。 赤みがかった金髪と褐色の瞳は父方から継いだものながら、亡き王妃に生き写しのその瓏たけた面立ちには、 平素の理知的な冷淡さとはうらはらに非難と不服と困惑の色がかわるがわる浮かんでいく。 国王は王太子のそんな反応を見越していたかのように、淡々と、しかしやや弱気な調子でつづけた。 「実は昨年以来、先方から内々に打診があってのう。  国交を樹立したばかりではあるし、気候風俗も我等とはずいぶん異なる国柄ゆえ、 朕も当初は躊躇したのだが、先だって内務大臣のユペール卿より強く勧められてな。  近日中にルース公使に承諾の意を伝えるつもりなのだが、アラン、そなたはどう考える」 「畏れながら、父上」 アランは静かに口を開いた。 「わたくしは賛同いたしかねます。  申し上げるまでもないことですが、ルース公国は北辺の地...
  • 漆黒の騎士(又は黒い狼)
    リヴァー王国第四王女、「社交界の女王」として名高いマリアンヌ姫の応接室は、 王女たちが住まう秋の宮の中でも、ひときわ華やかだと評判だった。 ベルベット張りの柔らかい長椅子に、ふわふわの毛織の絨毯。 磨きこまれた樫の卓上には、旬の果物に焼き菓子に香りのよい紅茶。 そして彩りを添えるのは、淑女たちの引きもきらないお喋りだ。 本日の話題の中心は、来るべきユーリ二世の生誕記念祝賀祭について、 ―――さらに正確にいうと、その期間に王宮で催される舞踏会についてだった。 「どんなドレスにしたらいいのか、まだ決めていないのよ。  絹にするか、それとも光沢を考えて、繻子でもいいし―――、ああ迷いどころだわ」 マリアンヌ王女が悩ましげなため息をつくと、 ブリューム侯爵家の双子姉妹キャロルとルイーゼは熱心に相槌を打った。 「色も重要よ。私たちは、赤毛だから、どうしても似合う色が限られてしまうのよね」 「何しろ、...
  • Princess of Dark Snake 5
    「兄上、先日の一件が謹慎で済んだ事、まずは祝着……」 はなから弟に皮肉を浴びせられたバハラームは、心中の憤怒を何とか抑えた。 実際は祝着どころではない。 自分は何者かに陥れられて、後宮の女と密通したという濡れ衣を着せられたのだ。 下手をすれば廃嫡追放もありえたのだから、これは軽い処分とも言える。 だが、それも他聞をはばかる事件を隠蔽しようという意向の為であり、 無実が認められた訳では無い。 「あれは誰かに嵌められたのだ! 誰かにな」 ギロリと、その大きな目で睨みつけたバハラームであった。 その瞳は『お前の様な輩がやりそうな事だ』と言っているが、弟も一筋縄でいく人物ではない。 優越感を隠そうともせず、笑いながら切り返す。 「ひょっとしてこの私もお疑いで? まさかまさか!  敬愛する兄上をお嵌めするなど、天地がひっくり返ってもありえませんよ」 「ふんっ!」 バハラームは心中、『天地という代物は...
  • Princess of Dark Snake 6 後半
    婚儀の誓いを済ませ、コリーナ皇女は第三王子宮に入っていた。 南国の赤い太陽は沈み、涼しい風が窓から入り込んで来る。 だが、この国はルームの地とは空気まで違う。 人も、建物も、植物も、全てが生まれ育った土地とは違う。 それでも彼女は嫁いできた。 彼女は今、自分を悪魔のような巨竜から救い出してくれた愛しい殿方を待っている。 一目で恋に落ちた、絵物語に語られる勇者のように精悍で凛々しいあの若き騎士を、 妻になるなら彼以外に無いと、心に定めた貴公子を待っている。 待つうちに、かすかに肌が震えた。 それは風の冷たさの所為ではなく、新床の儀を迎えようとする乙女の不安のためであった。 「コリーナ姫」 不意に、部屋の中から己を呼ぶ声が聞こえた。 その声は忘れもしない、あの山で自分を救い出してくれたあの騎士の物だった。 「ファルハード様?」 「取次ぎも通さずに、驚かせてしまったかな?」 「いえ、そんな事は…...
  • 落花春宵
    晩春の夕刻はいつも緩やかに訪れる。 書物から顔を上げて、クレメンテはふと窓の外を見遣った。 朱と紺が少しずつ滲みあい重なりあった境目が、そろそろ休息の時を告げるかのようだ。 宵闇迫る吹き抜けの廊下に足を運び、やわらかい春風に包まれながらの散策など、気分転換には最適である。 だが彼は部屋を出たくなかった。 今日予定していた分の学習はまだ八割方しか消化できていない。 最近はずっとそうだ。最初のころはもっと余裕をもって取り組むことができた。 それは何も章の進行とともに内容が高度になったためではない。 すべては集中力の問題だった。 今日のような非番の日にこそ心おきなく勉学に励むべきだというのに、 誰とも会わず部屋に閉じこもっていると、思考は自然と同じところに停滞してしまう。 我ながら不可解だと思った。 第二王女レオノールがまもなく隣国の王室に嫁ぐ。 婚約自体は幼少時に成立していたものだが、 先日婚...
  • 花影幻燈(前篇)
    一瞬、幻を見ているような錯覚に襲われた。 書斎へ向かう途中に通りかかった吹き抜けの渡り廊下からは、中庭がよく見渡せる。 中庭の入り口付近には小さいが精巧な仕掛けの噴水があり、 その正面に置かれた長椅子にはふたつの人影が寄り添うように座っていた。 噴水のしぶきが宙に生み出す虹を愛でているのだろうか、ときどきかろやかな歓声が上がっている。 緑陰にて夏の朝の清涼を楽しむふたりの貴婦人。それは宮中ではありふれた風景である。 だが、ふたりの顔かたちが鏡に映したように同じであるということだけが尋常ではなかった。 頭上に広がるポプラの枝葉から零れ落ちる陽光を散りばめた黒髪と、ときおりまぶしそうに細められる漆黒の瞳。 余人が彼女たちを目にしたら、その寸分違わぬ精緻な美しさに、 地上に降りた一対の守護天使のようだと評する者もいるかもしれない。 だがアランを襲ったのは何か軽い眩暈のようなものだった。 しかし一...
  • レンと小さなお姫様2
      メイファは朝貢国から差し出された、人質の姫だった。 ほとんどの朝貢国は恭順の証として、王族の子を人質に差し出す事を義務付け られていた。 万が一、戦ともなれば惨殺したその首を前線に掲げ、敵の戦意を削ぐためのもの であるから、人質は王の血族の女子供、つまり戦に巻き込むにはむご過ぎると 相手国、及びその国民が判断するような、ごく弱い立場の者に限られた。まあ、 中華の国たるこの国の、底意地の悪さの垣間見える制度だ。 近年はひどく平和で、朝貢までしていながらわざわざ強大なシン国と事を 構えようとする国もなく、人質が命まで取られるほどの事態は起こっていないが、 小さな揉め事にも人質は有効だ。 それゆえ、『留学』という名目でシン国の王都に集められた各国の王族の子供達は、 外出は出来ても常にシン国側が居場所を把握できるようにしておかねばならなかったし、 はかりごとを防ぐために...
  • メイファと皇子様4
    六年ぶりに祖国へ足を踏み入れるメイファは、まずその道の細さに息を呑んだ。 ──こんなに、細い道だっただろうか。 山岳国であるハリ国は、一方が切り立った岩場、もう一方が崖という道も 珍しくない。その地形からあまり道も広くは出来ないのだが、今通っている道も、 さほど大きくない荷馬車が一台、通れる程度の幅しかなかった。行き違いには 広くなっているところまでどちらかが道を戻らねばならないほどだ。 従者の一人が、姫様がこの道をお通りになったのは十二のときが最後ですから、 思っていたより道を細く感じるのも無理はありません、と言った。 それもあるが、それだけでもない。 シン国の王都では、この道幅よりもはるかに大きな荷台で大きな荷物を、あるいは 大量の荷物を、運んでいることも珍しくはなかった。シン国ではそれだけの大きさが、 必要であり普通なのだ。王都に通じ...
  • ユゥとメイリン3
    その年の秋、僕らの『クニ』は滅んだ。 新たな領地の領有を主張して大国シン国と衝突し、開戦した。 戦いが始まってしまえば、力の差は歴然としていた。圧倒的な兵力の差に、僕らはなすすべもなく踏み潰されるしかなかった。 静かな山地である桂花山で、ひっそりと焼畑による農業を営む僕たちが、どうして大国シン国と戦を構えなければならなかったのかと言えば──ただ、飢えていたのだ。 はじまりは、旱魃による不作だった。暑く、雨の降らない夏があり、井戸は枯れ、川は干上がり、 作物は収穫を待たずして枯れた。 その年は、まだ良かった。僅かながら蓄えもあったし、森の恵みはまだ充分にあり、食べられる 木の実や野草、それに森の獣や鳥を狩って凌ぐことができた。 だが、次の年は、寒い夏だった。 作物はまたしても実らず、森の木の実も多くは青いままだった。 僕らのクニにあった蓄えは、そこで尽きた。次の年まで食いつなぐには、野草や木...
  • 桃色の鞠(前編)
    鞠が弾んだ。 セシリアは、縦横無尽に跳ねるそれを夢中で追いかけた。 力いっぱい壁に投げつければ、鞠は弾んで、思いもよらないところへ飛んでいく。 追いかけて捕まえて、また投げる。 その繰り返しだけで、日が暮れてしまいそうだった。 桃色の鞠を撫でながら、セシリアは考える。 マリアンヌが帰ってくる日は、いつだろう。 一人っ子の彼女にとって、一人遊びは得意とするところだ。 それでも、壁に向かって鞠を投げるより、 投げたらちゃんと返してくれる遊び相手が恋しかった。 セシリアは、額にかかった髪の毛を払うと、また鞠を放り投げた。 桃色の鞠は弾んで、彼方まで飛んでいった。      *** 記念祭二日目に催された園遊会では、 宮廷管弦楽団による野外音楽鑑賞会が行われていた。 集まった人々は、軽やかな演奏に聞き惚れ、 拍手の合間に批評家を気取り、各々の感想を口に乗せる。 けれども、中には不真面目な聴衆もいて...
  • ユゥとメイリン6
    目が覚めて初めに見たのは、見慣れぬ天井だった。 喉がからからに渇いていて、頭がぼうっとする。節々の痛む体を動かして周りを見廻すと、埃の積もった箱、 掃除道具、梯子やそのほかのよく分からない道具類が棚に置かれていた。多分、物置部屋だ。 開いた場所に俄か作りの寝台が設えてあって、そこに寝かされている。 どうして、こんなところに寝ているんだっけ? 考えようとしても、頭が朦朧として考えが上手く纏まらない。 水だ、とにかく、水。 ひどく喉が渇いていて、水が欲しいのに、体が重くて動くこともままならない。 漸く体を起こしたと思ったら、眩暈がして、大きな音を立てて床に倒れこんでしまった。 それでやっと気がついたけど、どうやら熱があるみたいだ。床の高さから見上げる天井が、ゆっくりと 回転して見える。 仕方なく寝台に戻ってから暫くして、大きな足音がしたかと思うと...
  • メイファと皇子様1
    勝気な中華姫に萌えたくて書いてみました。 国名はベタにシン国ですが、秦でも新でも晋でも清でもない架空の国。 ここはシン国の王都。 肌を刺すような夕刻の冷気の中、一人の少女が、二人の従者を伴って石畳の大通りを 足早に通り過ぎていた。陽は既に翳り、行商人の姿もまばらで、通りにいるのは ほとんどが家路を急ぐ者達だった。 「──メイファ。」 ふと呼び止められて、足を止める。その声は、大通りに面した茶館の方から聞こえて きた。深い藍色の袍(ほう)を纏った青年が、茶館の軒下に出してある卓についている。 シン国の袍は袖口も裾もゆったりと幅広で、袖口と襟、裾は飾り織りの布で彩られて いた。茶館のほうは、夜には酒を出すのだろう、奥からは明かりが洩れている。 「またおまえか。レン。」 メイファはその青年を、強い意志を宿した瞳で睨みつける。レンと呼...
  • Princess of Dark Snake 9
    「王太子殿下、コリーナさまが産気付かれました」 「そうか…… 産湯を沸かすための水は足りているか?」 「は、なんとか」 「足りなければ、我の飲み水を使え」 「やっ、それは」 「よい。事ここに至った上で、今更水を惜しんで何になる?」 「殿下……」 「せめて生まれたばかりの我が子には、産湯くらい存分に使わせてやりたい」 頭を下げたまま、侍従はファルハードの前から去った。 寂寥に翳る主君の顔を見るのが、彼としても憚られたからだ。 ここはパルティア東部に建てられた小さな山塞である。 本来ならば、王家の人間が出産を行うような場所ではない。 ファルハードは、自分の初めての子の出産を、このような僻地で迎えようとしていた。 第二王子アタセルクスの弑逆により、パルティアは再び内戦状態に陥った。 アタセルクスの手にかかったのは、父王アルダシールと第一王子バハラームだけに留まらなかった。 父王の側室たちが生んだ...
  • ユゥとメイリン1
    ──ふるさとの人々は、どうしているだろうか。 凍えていないだろうか、ひどい扱いを受けていないだろうか、食べ物はちゃんと、足りているだろうか。 そんなことを考えながら僕は、広いお邸の回廊から、暗い夜空を見上げていた。 この四角く切り取られた空も、故郷の空へと繋がっているのだろう。僕は、随分遠くへと、連れて こられてしまったけれど。 ふたたびあの懐かしい故郷の土を踏むことは、あるのだろうか。 いや、絶対に帰る。生きてさえいれば、願いを捨てずにいれば、いつか道は開けるはずだ。 そう思ってなければ、今にもくじけてしまいそうだった。 両手には、板状の手枷が嵌められている。 僕は、奴隷としてここへ連れてこられたのだ。 異郷の地で、誰かに所有され、踏みにじられるために。 「おい」 背の高い男が、僕を呼ぶ。 「付いて来い、おまえの主になる方に、引き会わせる。」 僕は黙って、彼の後ろを歩いた。 ──こいつ、...
  • ユリとメイリン1
    ──ふるさとの人々は、どうしているだろうか。 凍えていないだろうか、ひどい扱いを受けていないだろうか、食べ物はちゃんと、足りているだろうか。 そんなことを考えながら僕は、広いお邸の回廊から、暗い夜空を見上げていた。 この四角く切り取られた空も、故郷の空へと繋がっているのだろう。僕は、随分遠くへと、連れて こられてしまったけれど。 ふたたびあの懐かしい故郷の土を踏むことは、あるのだろうか。 いや、絶対に帰る。生きてさえいれば、願いを捨てずにいれば、いつか道は開けるはずだ。 そう思ってなければ、今にもくじけてしまいそうだった。 両手には、板状の手枷が嵌められている。 僕は、奴隷としてここへ連れてこられたのだ。 異郷の地で、誰かに所有され、踏みにじられるために。 「おい」 背の高い男が、僕を呼ぶ。 「付いて来い、おまえの主になる方に、引き会わせる。」 僕は黙って、彼の後ろを歩いた。 ──こいつ、...
  • 枕辺戯語
    「そなたに贈るものがある」 唐突に告げられて、エレノールは喜ぶというよりも不思議そうに大きな漆黒の瞳でアランを見返した。 長椅子にふたり寄り添いながら歓談を交わしているうちに夜はだいぶ更けていたが、 夫婦の寝室には大きな燭台がいくつも据えられているので 互いの姿や表情をたしかめるのに不自由はない。 すぐそこにある夫の端然とした面持ちはとくに冗談を言っているわけではなさそうだった。 「まあ、なんでしょう。  何かのお祝いの日でもありませんのに」 彼らは婚礼からようやく半年を数えたばかりで、初めての記念日を迎えるにはまだ間があり、 まして今日はエレノール自身の誕生日でも彼女の洗礼名の由来である聖女の日でもない。 だがいぶかしげな妻の表情を尻目に、アランは寝台のそばの戸棚から正方形の箱を取り出してきた。 それはちょうど膝に乗るぐらいの大きさで、絹布張りの表面には色鮮やかな芥子の花の刺繍が施されて...
  • Barbarian Prince
    「じゃ、人妻寝取りに行ってくっから!」 「……ロア様」 びしっ、と『いってきます』のポーズを決めた男に、老人は渋い顔で苦情を洩らした。 「先日申し上げましたよう、かの御仁は亡きフェリウスに手酷い虐待を受けていたとのこと。 城内の旧臣達の心象を良くする意味でも、ここはしばらくそっとしておいた方が……」 「馬ッ鹿お前、だからこそお近づきになりに行くんだろ!?」 複雑な表情で老人は主を嗜めるが、当の主は『分かってないな』とばかりに拳を固める。 「傷心の未亡人! 明るい話題で優しく近づく俺! やがて次第に深まる二人の仲! 『キャー、あんな暴力夫なんかと比べて全然カッコいいわ! ステキ! 抱いてッ!』」 「………」 気持ち悪い裏声を出す主君に対して、老人は達観したかのような目で嘆息する。 角灯の光に照らされて、元は紅かったであろう白髪と顎鬚、 そうして深い皺の刻まれた顔の、隻眼の老偉丈夫が浮かび上が...
  • 犬と笛
    なんちゃって和風ファンタジー 一応芥川の「犬と笛」を下敷きにしています エロは薄め 作中「食蜃人(しょくしんじん)」はダイダラボッチのこと 眼下に広がる景色が赤くちろちろと揺らいでいくのを、その持ち主はまるで他人事のように見つめていた。  この世に生れ落ちてからの大半を過ごしてきた社が、今にも焼け落ちようとしている。行き交う怒号や悲鳴も、 この場所からは遠く、頬を染めるほむらの照り返しも、そこに潜む熱はまだ、昼のうちに夏の日差しが残した それと区別がつかぬほどであった。  けれどもう幾許もせぬうちに、己の命も、今しがた轟音と共に崩れ落ちた舞殿への大階段と同じ末路を辿る様子が 見えているのにもかかわらず、この社の主は不気味なほどの静謐を守っている。その周りだけは平素と変わらぬ ぬばたまの闇が見えるようで、側使えの者たちは、避難を提案することを疑問にさえ...
  • 青い月
    ふと夜空を仰ぐと、青みがかった満月が妖しく輝いていた。 古来、青い月は、珍しい現象として知られ、 その稀少なる晩の神秘は、多くの吟遊詩人たちによって歌い継がれてきた。 しかし、夜会で賑わう王城において、夜祭りで騒がしい城下において、 今宵の空をじっくりと眺め、月の変化に気づけた者はどのくらいいたのだろう。 第三王子のエルドがそれに気づいたのは、春の宮に行くために外廊を渡っている最中だった。 青い月の晩には、滅多に起こらない出来事が起こるものだと伝え聞く。 なるほど、それは真実だったらしいな、とエルドは視線を横に向けた。 隣を歩いているのは、公爵令嬢セシリア=フィールドであり、 こんな時刻に、彼女と歩いているなんて、通常ならそれこそありえなかった。 セシリアに限らずとも、清廉潔白で知られる第三王子が、 夜に女性と二人きりでいるところを目撃されれば、たちどころに不名誉な噂が立つだろう。 しかし...
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