*アットルッツ戦記 101年7月。ジムリア・メーダン国境、ヒクステンの地。ここで、ある会戦が行われようとしていた… ジムリア軍8万の総大将はT.ゲリクデンハ少将、そして、参謀があのD.アットルッツ准将である。 メーダン・ブルシー連合軍7万の指揮官はB.フリントスタン中将。 敵軍は丘陵に陣取り、ジムリア軍は総攻撃の機会を伺っている。 アットルッツはこれほどの戦いに従軍するのは初めてである。 …思えば今まで表舞台で活躍することはなかった。今までずっと歯車として働いてきたのだ。 …でも今回こそは、活躍して名を上げてみせる。 この年60歳のアットルッツの胸に、若々しい情熱が甦ってきた。 北の辺境、ヒクステン。夏とはいえ涼しい風が丘から吹き降ろしてくる。 晴れた空を見上げながら、アットルッツは呟いた。 「輝ける光王セルギウスよ、今日こそ我にその輝きを分け与えたまえ」 やがて、敵軍の前衛が動いた。ゆっくりとこちらへ行進してくる。 参謀の責任は重い。軍の司令塔として、指揮官と二人三脚で軍を勝利に導かなければならないのだ。 「両翼騎馬隊、攻撃開始!」 「中央歩兵隊、行軍開始!」 次々と命令を出し、それにしたがって部隊が動く。…自分が全軍を動かしている! 「攻撃開始!」 アットルッツは自隊に命じると、敵将、Q.ケルンローニの部隊を目標として進軍を開始した。 「まだだ、あせるな!隊列を組め!」 敵は突撃を開始した。敵との距離が縮まる。 「今だ!突っ込め!」 兵士たちが喊声を上げて突撃を開始する。ほどなく両部隊はぶつかり合った。アットルッツも馬上で敵を薙ぎ倒す。 しかし、やがてアットルッツ隊は次第に押され始めた。 「死を恐れるな、名を惜しめ!」 アットルッツの激励の声も空しく響くばかりで部隊はじりじりと押されていく。 ケルンローニ隊の攻撃はますます苛烈になり、脱走兵が出始めた。 「くそっ、逃げるな!戦え!」 アットルッツの制止も効き目はなく、兵士たちは次々に逃げていく。 ケルンローニ隊はとどめの攻撃を開始した。 アットルッツ隊はもはや部隊ではなかった。ただ恐怖と混乱のみに満たされた、群衆だった。 アットルッツは観念した。 「このアットルッツ、逃げも隠れもせん!かかって来い!」 たくさんの敵兵が向かってくる。アットルッツは馬上で槍を振るう。 一突き一突きに渾身の力をこめた。今までの60年間の人生の重みが、そのそれぞれにこもっていた。 馬が矢を受けて倒れた。アットルッツは地面に叩きつけられたが、再び立ち上がり、槍を振るい続けた。 その間、なぜかアットルッツは涙を流し続けていた。 「うっ…」 背中に鈍い衝撃を感じた。敵兵の槍が深々と突き刺さっていた。 その敵兵を突き倒すと、アットルッツは再び槍を振るおうとした。しかし、体に力が入らない。 「無念、これまでか…」 悲痛な叫びとともに、アットルッツの体躯が大きく揺らいだ。そして、地に倒れた。アットルッツの命は、そこで燃え尽きた。 D.アットルッツ、ヒクステンの丘に死す。 アットルッツの人生は武将としては平凡なものだったかもしれない。 しかし、彼は人生の最後において、最も輝いていたと私は言いたい。 願わくは歴史隆々の武将たちに熱き心あらんことを。 歴史隆々に、今後も栄光あらんことを。 そして、我らの住まうこの世界に真の平和のあらんことを。 ---- ***質問・要望・感想など - アットルッツの経歴がこの戦いだけだったので「戦記」とはいいがたい気もしますが気にしないでください。 -- 作者 (2008-05-10 18:33:22) #comment()