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    『それでは御本人の降臨です!』
 
 
   ―― バックストーリー『面倒対抗手段』 ――
 
「あー、もういいわ。疲れた」
 野山は緑、空は青。穏やかな風が白い雲をゆっくりと運んでくる。
 そんな平和な春の日に、私は蔵の掃除をしていた。
 たった今、終わりにしちゃったけどね。
「こーいう日はね、縁側でお茶って決まってんのよ」
 外に出されたモノの数々を、適当に蔵へ再格納していく。
 ふと、大きな箱が目に付いた。いつぞやのロケット騒ぎで使った修行用の小物が仕舞われている箱だ。思わず顔をしかめる。
「もう使わない事といいんだけどね」
 私、博麗霊夢は修行が嫌いである。
 理由は明快、面倒くさいからだ。
 神降ろしといい仙人といい、修行が増えているのは誠に遺憾だ。
「お姉さんも大概ナマケモノだねぇ」
 蔵に鍵をかけ母屋に向かうと、縁側の上に猫が一匹。地底の火車、お燐だ。
 こいつ朝から居たのに、掃除のひとつも手伝いやしない。
 もっとも、掃除の手伝いだなんて殊勝な事を、ここにくる連中がするはずも無いのだけど。
「心を読むな。飼い主が無個性になるわよ」
「やや、それは困るねぇ。自重するよ」
 再三言うが、私は修行が嫌いだ。
 いまさらな話だけど、あの修行でもう少し得るものがあってもよかったと思う。
 あれだけ苦労させといて、見返りが月旅行だけじゃ割に合わないもの。ねえ?
 そんな事を考えつつ、湯飲みに茶を注ぐ。
 その横で猫が欠伸をしながら、ぐいっ、と背伸びをした。
「帰るんなら、お賽銭入れてきなさいよね」
「帰るってよく解ったね。もしかしてお姉さんも、『第三の目』みたいなのをお持ちで?」
「持ってるわよ。金目とか」
「……お空のノーテンとドッコイでしょおに」
「あんたの第三は、痛い目かしらね」
「遠慮しとくよぉ。じゃあ、またね」
 縁側から飛び降りて、軽やかに掛けていく猫。
 あ、あいつ賽銭入れてかなかったな。まあどうせ、お金なんて持ってないだろうけど。
 ええと、何だっけ。そう、神降しか。
 まあ何しろ神様を降ろす術なので、何でも便利に使えるという訳では無い。 
 仙人の修行のせいかは判らないが、分霊を降ろす速度だけは以前より格段に高速化している。でも使いようが無いんじゃ意味も無い。
「……考えるだけ無駄っぽいわね」
 博麗霊夢は面倒が嫌いである。これ以上考えるのも面倒くさい。
 境内の掃除は終わっている。お茶を入れたら昼寝でもしよう。
 結局のところ、いつも通りの一日になりそうだ。
 
 
   ―― Stage1『神は何ゆえ巫女に呑まるる』――
 
「フフフ、今回はどうやら私の勝ちのようですね」
「勝ってから言いなさいよ、勝ってから」
 博麗神社境内。髪も乱れる風の中、私は早苗と対峙している。
 きっかけは……まあ下らない理由。『霊夢さんカレー作りましょうカレー!』とか早苗が言い出して、一緒に作っていた訳。
 おかしいでしょ、カレーに白身魚って。シーフードってそういう意味じゃないから。普通エビとかイカとかだからね。あんたのそれは明らかに余りモノ処理の類よ。
「いえ、私の勝ちです! 坤神招来、乾神招来!」
「出番だね。いくぞ博麗の巫女」
「ご指名どうもでーす」
 現れたのは神奈子と諏訪子。神奈子は風、諏訪子は鉄輪を携えて不敵な笑みを浮かべている。
「二柱同時って、システム無視すんな! 黄昏に謝れ!」
「私織り成す事象の全てが、基本システムとなるのですよ!」
 トンでもないコト言いやがる。神様かお前は……いや神様か。
 早苗の叫びをトリガーに、神奈子と諏訪子が突撃してくる。
 紫といい豪族といい、自分以外を呼ぶの反則でしょ。
 石畳を蹴り後方へ跳躍。後退しつつ拡散結界の準備を始める。
 特殊な護符に霊気を詰め込んでいた所、ふと、先日の思い付きを思い出す。神降し。
 今この場でこいつらの分霊を私に宿して、自分同士対決でもさせてやるのも面白そうね。ちょっと試してみよう。
「――――」
「神降ろし? こんな状況で何を呼ぶ気……?」
「チャンスです二人とも! 一気に……どうしたんですか?」
「おおお。ナニコレ、足が勝手に」
「おいおい。どうなってるのよ、これは」
 ふらふらと私に向かって歩み寄る神奈子と諏訪子。
 なんか怖い。ゾンビかお前ら。
「ちょ、ちょっと。霊夢さん何したんですか!?
「いや、こいつらの分霊を呼ぼうとしたんだけど……」
「ねえこれ、まさか、私達本体を『降ろして』いるのか……?」
「ん? あーあー成る程。神奈子にしちゃあ冴えてるネ」
 なにそれ意味わかんない。
 分霊を宿す術が、なんで本体を呼び寄せちゃってんのよ。
 手順は間違えてない。余計な事もしていない。一体全体どうなっているのかしら。
「うぬぬ……そ、そうだ、早苗! もう一度私達を呼ぶんだ!」
「よ、よく解らないけど解りました! 乾神招来、坤神招来!」
 コールと同時、二柱の歩みが止まる。
 そして私と早苗の丁度中間の地点を、行ったり来たりし始めた。
「これは……どういうこと?」
「うーん、霊夢さんと私の力が拮抗しているようですねぇ」
 なぜか胸を張る早苗。ええい張るな。見せつけてるのか。
 しかしまあ、何も無いところでウロウロする神様ってのもマヌケなもんねぇ。原因の半分は私だけど。
「ふん、ならば私達の意思が勝負。そう、早苗への愛が!」
「いやん神奈子様ったら」
 頬に手を当てくねくねする早苗。きもちわるい。
 とはいえ、神の方が私を拒否しては分が悪い。一手打つか。
「さあ諏訪子! 私達の想いの強さを見せ――」
「おーい祟り神。おやつ食べる? 超おいしい洋菓子」
 取り出したるは、可愛らしいリボンで口を封した袋。
 中には綺麗な円形のシルエット。
 チョコレートをビスケットで挟んだ最高にデリシャスな一品だ。
「ああっ、足が突然知性を! ミステリだわ!」
「子供ですか諏訪子様!」
「おっ、お前……お菓子で裏切る祟り神があるか!」
「愛? 何それ? 食えんの?」
 笑顔のち租借、ところにより舌なめずり。愛する風祝を僅かな小麦とカカオで売り飛ばした裏切り者は、頬に手を当てて幸せそうに甘味を堪能している。楽しそうな選択肢を選んだだけなのか、それとも素でちょろいのか、まあどっちでもいいや。
「いやあ持っといて正解だったわ。早苗が作ってくれたヤツ」
「まさかの自爆ッッ!」
 ありがとう早苗。あんたいい子だわ。
「ていうか霊夢さんあれから三ヶ月は経ってますよ!?
「さんか!?
 ぶぅー、と噴出す祟り神。しかしもう飲み込んでしまったらしく、唾しか出ていない。きたねぇ。
「早苗のお菓子は美味しいから、期限切れなんて誤差の範疇よ」
「え、あの、嬉しいですがお早めに」
「あの……食べちゃったンだけど……期限てどんぐらい……?」
「えっと、一週間くらいです……」
「ぐおおおお……お腹が……お腹で祟りが蠢いて……」
「裏切りの代償だな」
 結局、腹を下した諏訪子を看病すべく早苗たちは撤収。勝負はお預けとなった。
 神様ってのは胃腸が弱いのね。袋に残った最後の一個を頬張る。
 さくさく、あまあま。バターとチョコレートが混ざり合い、濃厚な風味が口の中を満たしていく。 
 とても美味しいのだけど、和菓子よりも味が濃いせいか、あんまし頻繁に食べると飽きてしまうのが玉に瑕。なので食べる期間がどうしても開いてしまうのだ。
 別段、貧乏根性がある訳ではない。無いったら無い。
 しかしどういうわけか神降ろしの術が『分霊を降ろす』のではなく『本体を呼び寄せる』に変わってしまっているらしい。
 紫を問い詰めたいが、あいつ呼んでもこないしなぁ。
 とりあえず、そうね。ちょっと色々試して見ましょうか。
 もしかしたら自然と治るかもしれないし、そうでなくても原因が分かるかもしれない。
 神の本体を呼ぶって言うのはかなり危険な香りがするけど、まあ幻想郷の中の神に限定すれば大丈夫だろう。
 そう考えると、体のいい暇つぶしを見つけたような気がする。
 果たして、どうなるかしら。