「煮え切らない」(2009/06/09 (火) 15:23:02) の最新版変更点
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**煮え切らない ◆2Y1mqYSsQ.
素子が発電所という施設を始めてみたときは、古めかしい建物だという印象を抱いた。
発電機を守る頑丈な作りが、施設である冷たい印象をより強める。所々汚れており、コロニー内で作られた建物にしては年季を感じさせた。
入り口に当たる自動ドアの周りにトラップが仕掛けられていないか、注意深く観察する。爆発物や警報機の類が仕掛けられている様子はない。
素子がドアへと近づくと、センサーが反応してドアが開く。すんなり内部に入り込めたが警戒は緩めない。
内部に侵入してすぐの部屋は受付カウンターに待合用椅子と、発電所というよりは病院のロビーが近い印象だった。
受付所を超え、奥の発電装置へとつながる廊下を進んでいく。素子が先へと進む途中、ドアが開いたままの部屋を発見する。
刹那の間、素子は思考した。支給された道具に銃はない。使えそうな銃があったのなら、危険人物と遭遇した時に取り出している。
武器もなしに入るのは危険でないか? 警戒するが明かりが僅かに漏れている部屋は興味をそそった。
確実性はない。それでも素子は部屋へと進む。
なぜ進んだのか? と問われるのなら、素子はこう答えたであろう。
ゴーストが囁いたのだ、と。
□
万能道具存在。
あらゆる戦況や状況において、道具自身が判断しながら形状を操作。その特性と自我ゆえに万能となりえる道具である。
道具の使用者が襲撃された時に丸腰であるのなら、銃へと変身【ターン】して武器となる。
衣類の調達が必要になったとき、使用者の肢体を包む服へともなる。手袋となり、相手の感情を臭いで嗅ぎ取り、使用者に助言を繰り出すこともできる。
人工衛星四基分の予算を投入されて作られた結果だ。高度な知性で使用者を補助し、武器として敵を殺し、自我をもって議論をする。
兵器として似つかわしくない特性ではあった。たとえ、彼自身が二人のパートナーの心のより所であったとしても。
金色のふさふさの毛を持つネズミの形をした兵器。
彼の名を、ウフコックといった。
□
「ここは門の制御室のようね。随分とアナクロな……監視映像かしら? 電子端子の型が、三、四十年は古い……」
つい独り言を呟き、素子は薄暗い部屋の中で目の前の監視モニターを睨みつけていた。
監視カメラの数は十程度。門、及び扉が開いているかどうか監視するためのものだろう。素子は壁へと背中を預ける。
背中に伝わる壁の冷たさが心地よい。禁止エリアに指定されているのは、H-8エリア。
この施設はG-7、H-7、G-8、H-8にまたがって置かれている。すなわち、発電所の四分の一は禁止エリアだ。
施設を丸ごと禁止エリアに指定しない理由も、四つのエリアにまたがって発電所を設置した理由も分からない。
とはいえ、発電所に来たのは一時間ほど前。現時点で全てが理解できるほど、現状は甘くないと認識している。
席を離れようとした時、素子の視界にインスタントコーヒーが入った。PDAに登録されている水を確認した後、近くの給湯室へと向かった。
給湯室に備え付けられたヤカンに水を入れて、コンロに火をつける。お湯が沸くまでの間、確認した支給品の中で興味があるものを取り出した。
封魔の瓶――『万能道具存在・金の卵』とやらが封印されているらしい。ふたを開けるだけで、人工衛星四基分の予算をかけた万能道具存在とやらが出てくる。
罠と考えるのが自然だ。本当に中から金色の卵とやらが出るとすれば、仮想現実の世界だけ。
金の卵が何かの隠喩だとするなら、この支給品はシグマがいかなるタイプの犯罪者か探る手がかりへとなりえる。
こちらに有利になるような……武器や解析用道具であるのなら、愉快犯タイプ。
もしくは周到に介入の余地を潰している知能犯。さらに言えば、電子テロの可能性も含める。
(結論は、こいつをあけてからにするか)
素子は素早く結論を下し、ふたを開ける。ビンより飛び出た金色の影を視線だけで追いかけた。
ふさふさの体毛を震わせて、つぶらな黒い瞳で周囲を見渡す。自慢の尻尾を振りながら、自分の相棒の少女がいないことを認識。
代わりに目の前にいるのはグラマーな女性だ。怜悧な瞳が鋭く自分を見つめる。
ウフコックの鼻から感じ取れる女性の匂いには警戒が含まれていた。逆に嫌悪はない。
ウフコックの姿を目にした女性の反応としては珍しい。ネズミにいい印象を持つ女性は少ないと、経験で知っているからだ。
もっとも、ウフコックの出会った女性の中には彼に動じない人間も、徐々に打ち解けていった人間もいたのだが。
バロットが一人でいるかもしれないという心配もあって、ウフコックは目の前の女性へと声をかけることを決めた。
「こんにちは。自己紹介させてもらうと、俺の名前はウフコックという。よろしく」
「挨拶は不要だ。私の名は草薙素子。早速で悪いが、もう少しあなたの事を話してもらう」
「分かった。俺のほうも現状の説明を頼みたい」
初対面の印象としてはそれほど悪くなかったようだ。ウフコックは安堵する。
相手の女性の表情は変わらなかったが、感情は匂いである程度察知できた。
ネズミが喋ることに疑問を持たない彼女がどういった人物なのかも気になる。
ウフコックは顔を持ち上げ、女性と目を合わせた。
目の前のネズミが喋ったことじたいは特筆することではない。
素子のいた世界は義体も多様化している。とはいえ、脳を収めるスペースがなければ義体とはなりえない。
つまり、目の前のネズミはロボットであるか、リモート義体かのいずれかだ。シグマのスパイかとも考えたが、それは会話中に探ればいい。
「そうだな……万能道具存在とは、どういう意味だ?」
「そのままの意味さ」
どこか苦笑混じりに、ウフコックが立ち上がってぐにゃり、と揺れる。
数瞬後、ハンドガンへとウフコックがターンをした。素子は明らかにオーバーテクノロジーの存在に身体を反応させ、壁から少し離れる。
ウフコックが存在していたテーブルの上に、一丁のハンドガンが存在している。素子は手に取り、その重さから本物と似た感触を感じ取った。
セーフティーを外して、壁に向ける。引き金を引くと同時に反動が素子の右腕に走った。
壁には黒い孔が一つ。素子は一つの事実に納得をした。
「なるほど。万能道具存在という意味は、このことか」
「ああ。じゃあ……あれ?」
「どうした?」
「いや……よっと」
ウフコックの反応を素子は訝しげながらも、元のネズミへと戻ったターンを見届ける。
これは兵器としてみれば、自由度が高く、応用の利く。殺し合いを行なう状況なら、当たりに類する武器であろう。
あとは、彼の信条だ。ロボットである彼に、自我の有無を確認をする。
本来ならばロボットに自我があるかどうかなど、本来は馬鹿げている思考だ。
タチコマのように自己犠牲を得るまでに成長したAIを知っている素子だからこそ、ウフコックが持つ独特の雰囲気に気づいた。
彼女の世界ではネズミから拳銃へと変形させるでたらめな金属はない。
ウフコックはなにものなのか? 疑問を持つが、シグマへと迫る手がかりとはズレる。
ウフコックの正体は後回しにして、彼がいかなる信念を持って行動しているか確かめることにした。
コミュニケーションが取れる相手であるのなら、情報を得る。素子が常に行なっていた行動だ。
「現状を知りたい、ということなら、あなたがどこまで事情を知っているのか教えてくれないかしら?」
「俺の記憶はバロット……俺の相棒と隠れ家へと戻る途中で途切れている」
素子が柔らかく尋ねると、ウフコックがすまなそうな様子で返してきた。
これは一から説明が必要のようだ。これが嘘だとしても、こちらにたいした不利益はない。
「そう、なら話しましょう。ここでなにが行なわれているか……ね」
素子がため息をついて、ウフコックに切れ目がちな瞳を向ける。
ネズミの表情を読み取ることなど、素子にはできないが、心なしかウフコックの表情が引き締まったように見えた。
「壊し合い……そして殺し合いだと?」
「ええ、ロボット、そして私のようなサイボーグを集めて、シグマが殺し合いを行なわせる意図は不明。
そしてロボットであるあなたが参加者でなく、支給品として存在する理由もね」
ロボットと言われてウフコックは苦笑した。ネズミの形をして、言葉を操るものが生命体ではない、とのことだろう。
ロボットと思われても、特に問題はないためウフコックはそのことは黙っておく。
自分たちの有用性を証明するために尽力していた、ウフコックの心情としては複雑であったが。
嫌悪を抱いてもらえないだけ、ありがたい。そう考えて、彼女の感情の匂いから事件は深刻な物だと判断する。
「はは……俺が支給品か。面白くない冗談だ」
「そこにシグマの目的を探る手がかりがあるかもしれない」
「悪い……草薙さん。俺は……いや、俺たちは自分の有用性を証明するために戦ってきた。道具だ、支給品だと笑われるのは、俺への侮辱だ」
ウフコックは、マルドゥック・スクランブル-09――かつての自分の有用性を証明する独立機関にて、仲間たちと共に戦っていた。
その法令も、今は姿と形を変えている。しかし、ウフコックはそのときの仲間たちと共に戦い続けた、自分の有用性の証明を忘れない。
形を変えたとはいえ、自分は委任事件担当捜査官として自分の有用性を証明し続けている。
ゆえに、自分を道具として、支給品として扱ったシグマに腹が立つ。ウフコックが珍しく怒りにかられた。
「ごめんなさい、そういうつもりではなかったの」
「……いや、草薙さんに対して言ったわけじゃないんだ」
素子が始めて微笑みも浮かべていた。感情を嗅覚で探ると、ウフコックに幾分か警戒を解いている様子なのが分かった。
少し大人気なかったか。ウフコックは自分に恥じる。バロットであれば、ウフコック自身の様子に戸惑っただろう。
素子の柔和な微笑みに助けられた。ポリポリと自分の頭をかいて、素子に向き直る。
薄暗い部屋の中、モニターの明かりだけが素子の顔を照らしていた。白い肌に切れ目の瞳。改めてみると美人だと思う。
女性特有の柔らかい表情だと、なおさら魅力的だ。とはいえ、あくまでウフコックの基準である。
人間の男性が持つ印象も、ネズミが持つ印象も知り得ない。
「話を中断させてすまなかった。殺し合いに巻き込まれたというのなら、ルーン=バロットという少女も巻き込まれているか確認したい」
「ルーン=バロットね。……いるみたい」
「そうか……」
ウフコックの胸に鉛のような重石が乗っかる錯覚が起きる。あの少女が殺し合いに巻き込まれているのだ。
なのに、自分は傍にいけない。成長をした彼女なら、自分がいなくてもうまくやっていける。
そう信じてはいるのだが、胸騒ぎが収まらない。過保護だろうか、と自嘲する。
素子が他に知り合いがいるのか確認してほしいと、PDAの画面をウフコックへと向けた。
ウフコックが画面に視線を向けて、見つけてはならない名前を発見する。
「ボイルド……馬鹿な! こいつは死んだはずだ!?」
「死んだはず? 詳しく聞かせてもらえるかしら」
「ああ……ボイルドは委任事件担当捜査官として活動していた俺とバロット……いや、俺を狙っていた。
バロットの協力もあって……俺がどうにか殺したはずなんだ。もっとも、殺すことはバロットの本心ではなかった。……俺の勝手なエゴだ」
それどころか、バロットはボイルドすら救おうとしてくれた。続きの言葉を飲み込んで、ウフコックはPDAの画面に食い入る。
バロットがボイルドを救おうとした感情を、素子と共有するのは難しいだろう。もっとも、引き金を引いたのはボイルド自身なのだが。
一先ず感傷を置き、ボイルドが死んでいたはずだという情報を伝えた素子の意見を待つ。
「同姓同名……って線は? もしくは、貴方たちをかく乱するためのシグマの偽情報とか」
「だとしたらありがたい。あいつが何らかの方法で生きていたとすれば……そうとう手ごわい相手になる」
素子の言っている可能性であるように、縋る気持ちでウフコックは告げる。
沸いたコーヒーカップの中の黒い液体を、ネズミの身体にあわせた小さいカップに注いでもらう。
このカップは自分でターンして作った物だ。
「そうね、ウフコック。それを飲んだら、ここの探索に付き合ってくれないかしら?」
「反対する理由はないな」
「ありがとう。お互いのことも、そのときに話しましょうか」
「了解」
どうやらコーヒーの香りを堪能している暇もないらしい。ウフコックはコーヒーを流し込んだ。
□
薄汚れた灰色の通路を、ウフコックを肩に乗せながら素子は進んでいく。
最小限の電力は生きているらしいが、普通人の目をもってしては五メートル先を見るのがやっとの薄暗さだ。
もっとも、義体率の高い素子の目を持ってすれば、昼間の如く闊歩できる。
「ウフコック……あなたの身の回りで疑問がある」
「どんなことだ?」
「委任事件担当捜査官という役職に心当たりがない。何かしらの役職の隠喩かしら?」
「委任事件担当捜査官ってのは、俺たちマルドゥック市で事件の捜査、解決を行い報酬をブロイラーハウスから受け取る連中さ。
俺とバロットは、委任事件担当捜査官としてコンビを組んでいる。もっとも、元々は成り行きだったんだが」
「マルドゥック市……それはどこの国の都市? 私の知る世界で、その名を持つ市は存在しない」
「はは、草薙さんは冗談キツイな。でなければ、俺やバロットはどこに存在していたって言うんだ?」
「冗談言っているように見えるかしら?」
「…………残念ながら、俺の鼻は嘘や冗談の匂いを感知していない」
嘘発見器としての能力もあるのだと頭の片隅に置き、奇妙な話だと素子は思う。
嘘を感知できる能力に関しては、説明する暇がなかったのだろう、と結論をつけた。隠したいのなら、今告げる理由が分からない。
いずれ話すつもりだったからこそ、素子に嘘を感知できる能力をさりげなく伝えたのだろう。
「あなたの変身能力、そしてマルドゥック市、委任事件担当捜査官という公的業務を民営化したシステム……確かに、国境が違えば常識は変わる。
国によってはそういう制度もあって、私が知らないという事態は想定できなくもない。
けれど、人工衛星四基分を兵器に費やすことの出来る大国の主要都市を私が知らない、ということはありえない」
「……なら、草薙さんはどこの国にいたんだ?」
「日本の首都圏を中心に活動しているわ」
「俺はその国の名を知らない……」
ウフコックの言葉を聞き、素子は左手を顎に当てて考える。素子はマルドゥック市を知らない。ウフコックは日本を知らない。
そして、素子には主要都市の情報を持っており、ウフコックが日本を知らないほど世間知らずとは思えない。
「ウフコック、私たちの情報の食い違いに三つ可能性があるわ」
「聞かせて欲しい」
「一つは、あなたか私の記憶がシグマによっていじられていること」
「そんなことが可能なのか?」
「……不可能ではないけど、それには高いゴーストハックの能力が必須。そのうえ、常識も巻き込んで丸ごと記憶改竄するには莫大な時間と手間がかかるわ。
それこそ、人の寿命が尽きるくらいには」
「なるほど。事実上不可能というわけか」
とはいえ、ロボットであるウフコックならば短時間で済む可能性があるのだが。
そのことには黙っておく。タチコマ以上に自我の発達をしているウフコックの機嫌を損ねる話題なのは、先ほどのやり取りで承知しているからだ。
ウフコックの記憶に関しては、彼の知り合いに会えば真相に近づけるだろう。今貴重なパートナーを手放すわけにはいかなかった。
「二つ目はここが仮想世界である可能性」
「仮想世界?」
「電子テロによる、ここに連れてこられた人間に仮想世界での殺し合いをさせて、現実に帰還することを不可能とする。
あなたはその仮想世界のキャラクター、ということよ」
「ちょっと待ってくれ。だから俺は……」
「ただ、この可能性も低いと思うわ」
なぜ、とウフコックが尋ねてくる。ここに飛ばされた当初、素子は仮想現実の可能性を考え否定した。
再び候補に上げているが、最初はゴーストの囁きによって否定した。そして今、否定する理由をウフコックへと告げる。
「私に気づかれずここまで大規模な電子テロを行なえるかというと、厳しいところよ。
それに仮想現実にしては、私しか知りえない義体の能力を余りなく再現している。政府機関以外に配備や使用箇所を限定される、最新式の光学迷彩さえね」
もっとも、光学迷彩についてはいつもと違う点がある。性能をそのままに、使用時間が限定されているのだ。
旧式の光学迷彩に、使用時間が限定され冷却時間が三時間かかるような型はない。純粋に自分が装備している光学迷彩の使用を限定されているのだ。
ネットの世界というには、この舞台はどこかおかしいのだ。何度ももぐっていた仮想現実の世界と比べると違和感が強い。
もっとも、その感覚は素子の勘に頼る部分が大きいのだが。
「最後の一つの可能性は?」
「これが一番ありえなくて、ロマンがある仮説よ」
「ほう」
ウフコックの瞳が期待に満ちる。なんとなくだが、金色ネズミの表情を見分けることが出来る気がした。
結構可愛い仕草だ、と場違いな感想抱いて素子は彼に言う。
「パラレルワールドのさまざまな人間、人種、ロボットが集められている、って仮説よ。ロマンチックでしょう?」
素子が悪戯を思いついた子供のように瞳を輝かせて、ウフコックに視線を送る。
ウフコックは僅かに沈黙した後、吹き出したような声色で素子に声をかける。
「ああ、夢の溢れる仮説だ。一番支持したいくらいだよ」
でしょ、と同意を求める言葉を告げて、ウフコックの緊張を解きほぐした。
階段を前に、ウフコックへこの話題を中断する旨を伝える。情報が少ない。もう少し、人と出会わなければならないだろう。
その前に自分が持てる情報は出来るだけ得る。最初はここの探索だ。発電所は広い。
今唯一の相棒を乗せて、素子は目の前にある階段を昇っていった。
(意外と冗談も言える人だ)
ウフコックはそう思考して、自分の変身能力の不調について考える。
銃にターンした時、素子を丸腰にするのもどうかと考え、銃の部分を切り離そうとした。
しかし、銃へとターンした部分は切り離すことが出来ず、仕方なくネズミの姿へと再びターンしたのだ。
なぜターンの能力が不調をきたしているのか、また素子との常識や世界観への食い違いはなんなのか、気になることはある。
だからといって、いつまでも拘るほどウフコックは未熟ではない。
今やるべきことは素子をサポートし、いずれバロットと合流すること。
そして、ボイルドの生死の確認。不安と安心、ない交ぜにしてウフコックは素子の肩で揺れる。
万能道具存在である以外に、自分が自分である有用性を証明するために。
【H-7 発電所内部/一日目・昼】
【草薙素子@攻殻機動隊】
[状態]:健康、光学迷彩使用可能
[装備]:ロジャー・スミスの腕時計@THEビッグオー、ウフコック@マルドゥックシリーズ
ブルースシールド@ロックマン、
[道具]:支給品一式×2、不明支給品(本人確認済み、武器ではない)、PDA×2(草薙素子、ドラ・ザ・キッド)
ジローのギター@人造人間キカイダー
[思考・状況]
基本思考:脱出およびシグマの拘束、もしくは破壊
1:内部を調査。参加者がいた場合接触、情報交換をする。
2:シグマに関する情報を持った参加者と接触する(当面はエックス、ゼロが目標)。
3:その他の参加者にも、可能であれば協力を要請する(含タチコマ)。
4:他の参加者と行動を共に出来たならドラ・ザ・キッドの遺体を修理工場へ運び、解析する。
5:機会があれば、PDAを解析したい。
6:ウフコックと協力。
7:ウフコックとの常識の差異の真相を知る(優先順位は低い)
※ S.A.C. 2nd GIG序盤からの参戦です。
※ 光学迷彩の使用の制限は、連続使用は二時間まで。二時間使用すると、三時間使用できなくなります。
もうしばらくすると使用可能に戻ります。
※「ロジャー・スミスの腕時計」でビッグオーを呼び出すことはできません。
※『黒い服の男』に警戒心を抱きました。
※発電所内でかなり大きな問題が生じていると考えています。
※また、かなり低い可能性ですがC-2の湖底にも秘密の施設があると考えています。
※確認済みの不明支給品ではドラ・ザ・キッドの遺体を運ぶことはできません。
※ドラ・ザ・キッドの遺体がH-5に放置されています。
※ウフコックをロボットだと思っています。
※ウフコックは、ターンした物を切り離すことが出来なくなっています。
ターンできるのは、一度に一つのものだけです。
※ウフコックの参戦時期は、ボイルド死亡後です。
*時系列順で読む
Back:[[往く先は風に訊け]] Next:[[ココロの在処]]
*投下順で読む
Back:[[往く先は風に訊け]] Next:[[ココロの在処]]
|088:[[密林考察にうってつけの時]]|草薙素子|116:[[涙の証明]]|
**煮え切らない ◆2Y1mqYSsQ.
素子が発電所という施設を始めてみたときは、古めかしい建物だという印象を抱いた。
発電機を守る頑丈な作りが、施設である冷たい印象をより強める。所々汚れており、コロニー内で作られた建物にしては年季を感じさせた。
入り口に当たる自動ドアの周りにトラップが仕掛けられていないか、注意深く観察する。爆発物や警報機の類が仕掛けられている様子はない。
素子がドアへと近づくと、センサーが反応してドアが開く。すんなり内部に入り込めたが警戒は緩めない。
内部に侵入してすぐの部屋は受付カウンターに待合用椅子と、発電所というよりは病院のロビーが近い印象だった。
受付所を超え、奥の発電装置へとつながる廊下を進んでいく。素子が先へと進む途中、ドアが開いたままの部屋を発見する。
刹那の間、素子は思考した。支給された道具に銃はない。使えそうな銃があったのなら、危険人物と遭遇した時に取り出している。
武器もなしに入るのは危険でないか? 警戒するが明かりが僅かに漏れている部屋は興味をそそった。
確実性はない。それでも素子は部屋へと進む。
なぜ進んだのか? と問われるのなら、素子はこう答えたであろう。
ゴーストが囁いたのだ、と。
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万能道具存在。
あらゆる戦況や状況において、道具自身が判断しながら形状を操作。その特性と自我ゆえに万能となりえる道具である。
道具の使用者が襲撃された時に丸腰であるのなら、銃へと変身【ターン】して武器となる。
衣類の調達が必要になったとき、使用者の肢体を包む服へともなる。手袋となり、相手の感情を臭いで嗅ぎ取り、使用者に助言を繰り出すこともできる。
人工衛星四基分の予算を投入されて作られた結果だ。高度な知性で使用者を補助し、武器として敵を殺し、自我をもって議論をする。
兵器として似つかわしくない特性ではあった。たとえ、彼自身が二人のパートナーの心のより所であったとしても。
金色のふさふさの毛を持つネズミの形をした兵器。
彼の名を、ウフコックといった。
□
「ここは門の制御室のようね。随分とアナクロな……監視映像かしら? 電子端子の型が、三、四十年は古い……」
つい独り言を呟き、素子は薄暗い部屋の中で目の前の監視モニターを睨みつけていた。
監視カメラの数は十程度。門、及び扉が開いているかどうか監視するためのものだろう。素子は壁へと背中を預ける。
背中に伝わる壁の冷たさが心地よい。禁止エリアに指定されているのは、H-8エリア。
この施設はG-7、H-7、G-8、H-8にまたがって置かれている。すなわち、発電所の四分の一は禁止エリアだ。
施設を丸ごと禁止エリアに指定しない理由も、四つのエリアにまたがって発電所を設置した理由も分からない。
とはいえ、発電所に来たのは一時間ほど前。現時点で全てが理解できるほど、現状は甘くないと認識している。
席を離れようとした時、素子の視界にインスタントコーヒーが入った。PDAに登録されている水を確認した後、近くの給湯室へと向かった。
給湯室に備え付けられたヤカンに水を入れて、コンロに火をつける。お湯が沸くまでの間、確認した支給品の中で興味があるものを取り出した。
封魔の瓶――『万能道具存在・金の卵』とやらが封印されているらしい。ふたを開けるだけで、人工衛星四基分の予算をかけた万能道具存在とやらが出てくる。
罠と考えるのが自然だ。本当に中から金色の卵とやらが出るとすれば、仮想現実の世界だけ。
金の卵が何かの隠喩だとするなら、この支給品はシグマがいかなるタイプの犯罪者か探る手がかりへとなりえる。
こちらに有利になるような……武器や解析用道具であるのなら、愉快犯タイプ。
もしくは周到に介入の余地を潰している知能犯。さらに言えば、電子テロの可能性も含める。
(結論は、こいつをあけてからにするか)
素子は素早く結論を下し、ふたを開ける。ビンより飛び出た金色の影を視線だけで追いかけた。
ふさふさの体毛を震わせて、つぶらな黒い瞳で周囲を見渡す。自慢の尻尾を振りながら、自分の相棒の少女がいないことを認識。
代わりに目の前にいるのはグラマーな女性だ。怜悧な瞳が鋭く自分を見つめる。
ウフコックの鼻から感じ取れる女性の匂いには警戒が含まれていた。逆に嫌悪はない。
ウフコックの姿を目にした女性の反応としては珍しい。ネズミにいい印象を持つ女性は少ないと、経験で知っているからだ。
もっとも、ウフコックの出会った女性の中には彼に動じない人間も、徐々に打ち解けていった人間もいたのだが。
バロットが一人でいるかもしれないという心配もあって、ウフコックは目の前の女性へと声をかけることを決めた。
「こんにちは。自己紹介させてもらうと、俺の名前はウフコックという。よろしく」
「挨拶は不要だ。私の名は草薙素子。早速で悪いが、もう少しあなたの事を話してもらう」
「分かった。俺のほうも現状の説明を頼みたい」
初対面の印象としてはそれほど悪くなかったようだ。ウフコックは安堵する。
相手の女性の表情は変わらなかったが、感情は匂いである程度察知できた。
ネズミが喋ることに疑問を持たない彼女がどういった人物なのかも気になる。
ウフコックは顔を持ち上げ、女性と目を合わせた。
目の前のネズミが喋ったことじたいは特筆することではない。
素子のいた世界は義体も多様化している。とはいえ、脳を収めるスペースがなければ義体とはなりえない。
つまり、目の前のネズミはロボットであるか、リモート義体かのいずれかだ。シグマのスパイかとも考えたが、それは会話中に探ればいい。
「そうだな……万能道具存在とは、どういう意味だ?」
「そのままの意味さ」
どこか苦笑混じりに、ウフコックが立ち上がってぐにゃり、と揺れる。
数瞬後、ハンドガンへとウフコックがターンをした。素子は明らかにオーバーテクノロジーの存在に身体を反応させ、壁から少し離れる。
ウフコックが存在していたテーブルの上に、一丁のハンドガンが存在している。素子は手に取り、その重さから本物と似た感触を感じ取った。
セーフティーを外して、壁に向ける。引き金を引くと同時に反動が素子の右腕に走った。
壁には黒い孔が一つ。素子は一つの事実に納得をした。
「なるほど。万能道具存在という意味は、このことか」
「ああ。じゃあ……あれ?」
「どうした?」
「いや……よっと」
ウフコックの反応を素子は訝しげながらも、元のネズミへと戻ったターンを見届ける。
これは兵器としてみれば、自由度が高く、応用の利く。殺し合いを行なう状況なら、当たりに類する武器であろう。
あとは、彼の信条だ。ロボットである彼に、自我の有無を確認をする。
本来ならばロボットに自我があるかどうかなど、馬鹿げている思考だ。
タチコマのように自己犠牲を得るまでに成長したAIを知っている素子だからこそ、ウフコックが持つ独特の雰囲気に気づいた。
彼女の世界ではネズミから拳銃へと変形させるでたらめな金属はない。
ウフコックはなにものなのか? 疑問を持つが、シグマへと迫る手がかりとはズレる。
ウフコックの正体は後回しにして、彼がいかなる信念を持って行動しているか確かめることにした。
コミュニケーションが取れる相手であるのなら、情報を得る。素子が常に行なっていた行動だ。
「現状を知りたい、ということなら、あなたがどこまで事情を知っているのか教えてくれないかしら?」
「俺の記憶はバロット……俺の相棒と隠れ家へと戻る途中で途切れている」
素子が柔らかく尋ねると、ウフコックがすまなそうな様子で返してきた。
これは一から説明が必要のようだ。これが嘘だとしても、こちらにたいした不利益はない。
「そう、なら話しましょう。ここでなにが行なわれているか……ね」
素子がため息をついて、ウフコックに切れ目がちな瞳を向ける。
ネズミの表情を読み取ることなど、素子にはできないが、心なしかウフコックの表情が引き締まったように見えた。
「壊し合い……そして殺し合いだと?」
「ええ、ロボット、そして私のようなサイボーグを集めて、シグマが殺し合いを行なわせる意図は不明。
そしてロボットであるあなたが参加者でなく、支給品として存在する理由もね」
ロボットと言われてウフコックは苦笑した。ネズミの形をして、言葉を操るものが生命体ではない、とのことだろう。
ロボットと思われても、特に問題はないためウフコックはそのことは黙っておく。
自分たちの有用性を証明するために尽力していた、ウフコックの心情としては複雑であったが。
嫌悪を抱いてもらえないだけ、ありがたい。そう考えて、彼女の感情の匂いから事件は深刻な物だと判断する。
「はは……俺が支給品か。面白くない冗談だ」
「そこにシグマの目的を探る手がかりがあるかもしれない」
「悪い……草薙さん。俺は……いや、俺たちは自分の有用性を証明するために戦ってきた。道具だ、支給品だと笑われるのは、俺への侮辱だ」
ウフコックは、マルドゥック・スクランブル-09――かつての自分の有用性を証明する独立機関にて、仲間たちと共に戦っていた。
その法令も、今は姿と形を変えている。しかし、ウフコックはそのときの仲間たちと共に戦い続けた、自分の有用性の証明を忘れない。
形を変えたとはいえ、自分は委任事件担当捜査官として自分の有用性を証明し続けている。
ゆえに、自分を道具として、支給品として扱ったシグマに腹が立つ。ウフコックが珍しく怒りにかられた。
「ごめんなさい、そういうつもりではなかったの」
「……いや、草薙さんに対して言ったわけじゃないんだ」
素子が始めて微笑みも浮かべていた。感情を嗅覚で探ると、ウフコックに幾分か警戒を解いている様子なのが分かった。
少し大人気なかったか。ウフコックは自分に恥じる。バロットであれば、ウフコック自身の様子に戸惑っただろう。
素子の柔和な微笑みに助けられた。ポリポリと自分の頭をかいて、素子に向き直る。
薄暗い部屋の中、モニターの明かりだけが素子の顔を照らしていた。白い肌に切れ目の瞳。改めてみると美人だと思う。
女性特有の柔らかい表情だと、なおさら魅力的だ。とはいえ、あくまでウフコックの基準である。
人間の男性が持つ印象も、ネズミが持つ印象も知り得ない。
「話を中断させてすまなかった。殺し合いに巻き込まれたというのなら、ルーン=バロットという少女も巻き込まれているか確認したい」
「ルーン=バロットね。……いるみたい」
「そうか……」
ウフコックの胸に鉛のような重石が乗っかる錯覚が起きる。あの少女が殺し合いに巻き込まれているのだ。
なのに、自分は傍にいけない。成長をした彼女なら、自分がいなくてもうまくやっていける。
そう信じてはいるのだが、胸騒ぎが収まらない。過保護だろうか、と自嘲する。
素子が他に知り合いがいるのか確認してほしいと、PDAの画面をウフコックへと向けた。
ウフコックが画面に視線を向けて、見つけてはならない名前を発見する。
「ボイルド……馬鹿な! こいつは死んだはずだ!?」
「死んだはず? 詳しく聞かせてもらえるかしら」
「ああ……ボイルドは委任事件担当捜査官として活動していた俺とバロット……いや、俺を狙っていた。
バロットの協力もあって……俺がどうにか殺したはずなんだ。もっとも、殺すことはバロットの本心ではなかった。……俺の勝手なエゴだ」
それどころか、バロットはボイルドすら救おうとしてくれた。続きの言葉を飲み込んで、ウフコックはPDAの画面に食い入る。
バロットがボイルドを救おうとした感情を、素子と共有するのは難しいだろう。もっとも、引き金を引いたのはボイルド自身なのだが。
一先ず感傷を置き、ボイルドが死んでいたはずだという情報を伝えた素子の意見を待つ。
「同姓同名……って線は? もしくは、貴方たちをかく乱するためのシグマの偽情報とか」
「だとしたらありがたい。あいつが何らかの方法で生きていたとすれば……そうとう手ごわい相手になる」
素子の言っている可能性であるように、縋る気持ちでウフコックは告げる。
沸いたコーヒーカップの中の黒い液体を、ネズミの身体にあわせた小さいカップに注いでもらう。
このカップは自分でターンして作った物だ。
「そうね、ウフコック。それを飲んだら、ここの探索に付き合ってくれないかしら?」
「反対する理由はないな」
「ありがとう。お互いのことも、そのときに話しましょうか」
「了解」
どうやらコーヒーの香りを堪能している暇もないらしい。ウフコックはコーヒーを流し込んだ。
□
薄汚れた灰色の通路を、ウフコックを肩に乗せながら素子は進んでいく。
最小限の電力は生きているらしいが、普通人の目をもってしては五メートル先を見るのがやっとの薄暗さだ。
もっとも、義体率の高い素子の目を持ってすれば、昼間の如く闊歩できる。
「ウフコック……あなたの身の回りで疑問がある」
「どんなことだ?」
「委任事件担当捜査官という役職に心当たりがない。何かしらの役職の隠喩かしら?」
「委任事件担当捜査官ってのは、俺たちマルドゥック市で事件の捜査、解決を行い報酬をブロイラーハウスから受け取る連中さ。
俺とバロットは、委任事件担当捜査官としてコンビを組んでいる。もっとも、元々は成り行きだったんだが」
「マルドゥック市……それはどこの国の都市? 私の知る世界で、その名を持つ市は存在しない」
「はは、草薙さんは冗談キツイな。でなければ、俺やバロットはどこに存在していたって言うんだ?」
「冗談言っているように見えるかしら?」
「…………残念ながら、俺の鼻は嘘や冗談の匂いを感知していない」
嘘発見器としての能力もあるのだと頭の片隅に置き、奇妙な話だと素子は思う。
嘘を感知できる能力に関しては、説明する暇がなかったのだろう、と結論をつけた。隠したいのなら、今告げる理由が分からない。
いずれ話すつもりだったからこそ、素子に嘘を感知できる能力をさりげなく伝えたのだろう。
「あなたの変身能力、そしてマルドゥック市、委任事件担当捜査官という公的業務を民営化したシステム……確かに、国境が違えば常識は変わる。
国によってはそういう制度もあって、私が知らないという事態は想定できなくもない。
けれど、人工衛星四基分を兵器に費やすことの出来る大国の主要都市を私が知らない、ということはありえない」
「……なら、草薙さんはどこの国にいたんだ?」
「日本の首都圏を中心に活動しているわ」
「俺はその国の名を知らない……」
ウフコックの言葉を聞き、素子は左手を顎に当てて考える。素子はマルドゥック市を知らない。ウフコックは日本を知らない。
そして、素子には主要都市の情報を持っており、ウフコックが日本を知らないほど世間知らずとは思えない。
「ウフコック、私たちの情報の食い違いに三つ可能性があるわ」
「聞かせて欲しい」
「一つは、あなたか私の記憶がシグマによっていじられていること」
「そんなことが可能なのか?」
「……不可能ではないけど、それには高いゴーストハックの能力が必須。そのうえ、常識も巻き込んで丸ごと記憶改竄するには莫大な時間と手間がかかるわ。
それこそ、人の寿命が尽きるくらいには」
「なるほど。事実上不可能というわけか」
とはいえ、ロボットであるウフコックならば短時間で済む可能性があるのだが。
そのことには黙っておく。タチコマ以上に自我の発達をしているウフコックの機嫌を損ねる話題なのは、先ほどのやり取りで承知しているからだ。
ウフコックの記憶に関しては、彼の知り合いに会えば真相に近づけるだろう。今貴重なパートナーを手放すわけにはいかなかった。
「二つ目はここが仮想世界である可能性」
「仮想世界?」
「電子テロによる、ここに連れてこられた人間に仮想世界での殺し合いをさせて、現実に帰還することを不可能とする。
あなたはその仮想世界のキャラクター、ということよ」
「ちょっと待ってくれ。だから俺は……」
「ただ、この可能性も低いと思うわ」
なぜ、とウフコックが尋ねてくる。ここに飛ばされた当初、素子は仮想現実の可能性を考え否定した。
再び候補に上げているが、最初はゴーストの囁きによって否定した。そして今、否定する理由をウフコックへと告げる。
「私に気づかれずここまで大規模な電子テロを行なえるかというと、厳しいところよ。
それに仮想現実にしては、私しか知りえない義体の能力を余りなく再現している。政府機関以外に配備や使用箇所を限定される、最新式の光学迷彩さえね」
もっとも、光学迷彩についてはいつもと違う点がある。性能をそのままに、使用時間が限定されているのだ。
旧式の光学迷彩に、使用時間が限定され冷却時間が三時間かかるような型はない。純粋に自分が装備している光学迷彩の使用を限定されているのだ。
ネットの世界というには、この舞台はどこかおかしいのだ。何度ももぐっていた仮想現実の世界と比べると違和感が強い。
もっとも、その感覚は素子の勘に頼る部分が大きいのだが。
「最後の一つの可能性は?」
「これが一番ありえなくて、ロマンがある仮説よ」
「ほう」
ウフコックの瞳が期待に満ちる。なんとなくだが、金色ネズミの表情を見分けることが出来る気がした。
結構可愛い仕草だ、と場違いな感想抱いて素子は彼に言う。
「パラレルワールドのさまざまな人間、人種、ロボットが集められている、って仮説よ。ロマンチックでしょう?」
素子が悪戯を思いついた子供のように瞳を輝かせて、ウフコックに視線を送る。
ウフコックは僅かに沈黙した後、吹き出したような声色で素子に声をかける。
「ああ、夢の溢れる仮説だ。一番支持したいくらいだよ」
でしょ、と同意を求める言葉を告げて、ウフコックの緊張を解きほぐした。
階段を前に、ウフコックへこの話題を中断する旨を伝える。情報が少ない。もう少し、人と出会わなければならないだろう。
その前に自分が持てる情報は出来るだけ得る。最初はここの探索だ。発電所は広い。
今唯一の相棒を乗せて、素子は目の前にある階段を昇っていった。
(意外と冗談も言える人だ)
ウフコックはそう思考して、自分の変身能力の不調について考える。
銃にターンした時、素子を丸腰にするのもどうかと考え、銃の部分を切り離そうとした。
しかし、銃へとターンした部分は切り離すことが出来ず、仕方なくネズミの姿へと再びターンしたのだ。
なぜターンの能力が不調をきたしているのか、また素子との常識や世界観への食い違いはなんなのか、気になることはある。
だからといって、いつまでも拘るほどウフコックは未熟ではない。
今やるべきことは素子をサポートし、いずれバロットと合流すること。
そして、ボイルドの生死の確認。不安と安心、ない交ぜにしてウフコックは素子の肩で揺れる。
万能道具存在である以外に、自分が自分である有用性を証明するために。
【H-7 発電所内部/一日目・昼】
【草薙素子@攻殻機動隊】
[状態]:健康、光学迷彩使用可能
[装備]:ロジャー・スミスの腕時計@THEビッグオー、ウフコック@マルドゥックシリーズ
ブルースシールド@ロックマン、
[道具]:支給品一式×2、不明支給品(本人確認済み、武器ではない)、PDA×2(草薙素子、ドラ・ザ・キッド)
ジローのギター@人造人間キカイダー
[思考・状況]
基本思考:脱出およびシグマの拘束、もしくは破壊
1:内部を調査。参加者がいた場合接触、情報交換をする。
2:シグマに関する情報を持った参加者と接触する(当面はエックス、ゼロが目標)。
3:その他の参加者にも、可能であれば協力を要請する(含タチコマ)。
4:他の参加者と行動を共に出来たならドラ・ザ・キッドの遺体を修理工場へ運び、解析する。
5:機会があれば、PDAを解析したい。
6:ウフコックと協力。
7:ウフコックとの常識の差異の真相を知る(優先順位は低い)
※ S.A.C. 2nd GIG序盤からの参戦です。
※ 光学迷彩の使用の制限は、連続使用は二時間まで。二時間使用すると、三時間使用できなくなります。
もうしばらくすると使用可能に戻ります。
※「ロジャー・スミスの腕時計」でビッグオーを呼び出すことはできません。
※『黒い服の男』に警戒心を抱きました。
※発電所内でかなり大きな問題が生じていると考えています。
※また、かなり低い可能性ですがC-2の湖底にも秘密の施設があると考えています。
※確認済みの不明支給品ではドラ・ザ・キッドの遺体を運ぶことはできません。
※ドラ・ザ・キッドの遺体がH-5に放置されています。
※ウフコックをロボットだと思っています。
※ウフコックは、ターンした物を切り離すことが出来なくなっています。
ターンできるのは、一度に一つのものだけです。
※ウフコックの参戦時期は、ボイルド死亡後です。
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