「小さな影」(2007/11/14 (水) 00:54:28) の最新版変更点
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*小さな影
立ち並ぶ民家を包むのは驚く程の静寂だった。
寂れた村の夜とはいえ、この静けさは異常である。
人影のいない民家。
虫の声一つしない。
夜に融けるこの世界は、まるで死んでしまったようだ。
死を孕んだ不吉な暗闇に赤コートが翻る。
現れたのは小さな影。
静寂に響くのは、小さな影にそぐわない重い足音。
それもそのはず、踏み進むその左足は鋼で出来ていた。
左足だけではない、その右腕も鋼の義肢、機械鎧(オートメイル)。
故にその少年の二つ名は――鋼の錬金術師。
史上最年少で国家錬金術師の資格を得た天才錬金術師エドワード・エルリックは、願いが叶うという神父の言葉を思い返していた。
エドワード・エルリックには叶えたい、いや、叶えねばらならない願いがある。
エドワードはかつて禁句を侵した。
最大の禁句とされる人体錬成。
それは神の領分を侵す行為。
太陽に近づきすぎた愚か者はその代償を払う事になる。
エドワードが支払った代償は左足と弟。
その結果、弟は、アルフォンスは、眠れない、泣けない、痛みも感じない体になってしまった。
いや、そんな体にしてしまったのはエドワード自身だ。
だから、その責任を取らなければならない
真理に持って行かれた、弟の体を取り戻す。
それはエドワード・エルリック最大の目的にして義務なのだ。
ならば、もし自分が最後の一人になれば、アルを――たった一人の家族の体を――元に戻すことができるのではないだろうか。
「ああッ。なにを考えてるんだオレは」
目の前に釣り下げられた餌に、一瞬でも心が揺れてしまった自分の弱さに唾を吐く。
そんな考えは二秒で却下だ。
確かにどんな事をしても元の体には戻りたい。
戻りたいが、誰かを犠牲にしてまで元の体に戻ることなど、オレもアルも望んじゃいない。
大体、神父の有無を言わせぬ迫力に丸め込まれかけたが。
冷静に考えれば、あの胡散臭い神父が約束を守るとは到底思えない。
とっとと気持ちを切り替えて、与えられたリュックの中身を確認する。
いきなり離島に放り出されたが、環境はガキん時の修行と似たようなもんだ。
むしろサバイバル道具が与えられているぶん、こっちの方がいくらかマシだろう。
出てきたのは神父の言葉通り基本的なサバイバル道具と、黄金のチャンピオンベルトだった。
「…………なんじゃこりゃ」
こんなもの、どう使えと。
……まあ、これは錬成の材料にでもしよう。
あとは参加者名簿か、ひとまずそれに目を通してみる。
その中で見知った名は、大佐に、ウィンリィだと!?
「クソッ、やられた!」
大佐はどうでもいいが。
あのクソ神父、ウィンリィまで巻き込みやがるだなんて。
アイツに戦う力なんてない。
すぐに探し出さないと取り返しのつかないことになる。
それはわかってる。
だが、なんの手がかりもなしに闇雲に探してもだめだ。
島一つ走り回って偶然会えるだなんて奇跡はあり得ない。
冷静に、錬金術師として現状を見極めろエドワード・エルリック。
まず、この参加者名簿だが、どうしても解せない点が一つある。
「……なんでウィンリィなんだ?」
その疑問は感情的な所からいっているのではない。
人選がオレとアルと大佐なら、まだ解る。
この三人は人造人間達が「人柱」候補と呼ぶ錬金術師だ。
人選がこの三人ならばヤツ等裏で糸を引く悪巧みだと推測できる。
だが、そうではない。
では、なぜウィンリィなのか?
オレに対する脅しか?
いや、人質の安全を確保しなければ人質としての意味がない。
同じ舞台に突っ込んでる時点でそれはないだろう。
――――そもそも。この離島に集められた参加者は、いったいなにを基準に選ばれたのか?
これ程の大掛かりな事態だ。
何か目的があるに決まってる。
そして、この人選はその目的に沿ったモノであるはずだ。
その目的はなんだ。
この儀式めいた、殺し合いの目的は?
賢者の石の精製か?
違う。
生きた人間、その魂を材料とする賢者の石の精製と、複数の人間を殺し合わせるなどと言う行為は似て非なる物だ。
それどころか、その実、まるで正反対の儀式だ。
殺し合いなど、精製の観点から行けば、わざわざ集めた材料を破棄する行為だろう。
なにか、ヒントになるような材料はないか。
少ないヒントを手繰り寄せるように神父の言葉を思いだす。
『……ふむ。こちらにも事情といものがあるのでな。
すまないが、殺し合いは会場まで我慢してもらうほかない』
そうだ、そういえばこんな事を言っていた。
事情ってのは目的のため必要なことだろう。
殺し合いはここで行って意味があるってことか?
いや、この場所自体に意味があるのか?
そもそも、ここはどこだ?
あの時、移動させられるときの感覚は真理の扉を開いた時の感覚に似ている気がした。
いや、むしろグラトニーの時に近いか?
ならここはオレがいた場所とは違う世界、か?
「あぁ、クソ……ッ!」
考えがまとまらず頭を掻き毟る。
駄目だ。
これ以上は、目的を推測するにも情報が足りなさすぎる。
ウィンリィを探すにも情報収集は必要な行為だろう。
まずは行うべきは情報収集だ。
行うべき事は決まった。
だが、動き出す前に確認しておくべきことがある。
大きく息を吸い、鋼の腕と生身の腕を合わせる。
腕はパンと音を立て円を描く。
その両腕で地面に触れる。
雷と火花が舞い散り、出来上がったのは小さな象。
「…………よし」
確かな変性反応だった。
ホーエンハイムに似た「お父様」と対峙した時と同じく、発動しない可能性も考えたが、この場でも錬金術は発動する。
だが、小骨が詰まったような小さな違和感を感じる。
何かが違う。
法則はあってる。
なにが違うというんだ?
「――――誰かいるのか?」
唐突に背後から声が響いた。
虚をつかれたものの、瞬時に声の方向に振り向き、戦闘の構えを取る。
現れたのは小さな影。
暗闇に緑の法服が風に揺れる。
それは自衛のためか、それとも、やる気満々なのか。
その手には月明かりを返し怪しく輝く幾多の刃があった。
「…………ちぃ」
思わず舌を打つ。
今の変性反応を発見されたか。
焦りすぎた。
確認のためとはいえ迂闊に錬金術を使ったのは失態だった。
「こっちはやり合うきはねぇんだが、その剣を収めてみる気はねぇか?」
たいした希望を込めず、とりあえず告げてみる。
本命は時間稼ぎ。
その隙に右腕の機械鎧を刃に錬成しようと、腕を合わせようとして。
「ああ、そうだな。こっちも、争う気はない」
その前に、少年は気の抜けるほどあっさりと刃を収めた。
というか、煙のように刃が消えて残ったのは柄だけだった。
錬金術か? いやそれにしては変性反応がなかったが。
「人を探してるんだ、何か知ってることがあったら教えてくれ」
少年の口から出たのはそんな言葉。
若干、肩透かしをくらったが、なかなか話は悪くない方向に進んでいるようだ。
一先ず警戒を解き、こちらも敵意がない事をアピールする。
「だったらよ。情報交換と行こうぜ」
ニヤリと笑いそう告げた。
「――――――聞けば聞くほど別物だな……」
その後、オレと少年、李小狼は適当な民家に身を移し情報交換を行うことにした。
まず小狼と交換した情報は自分達がどこから連れてこられたかと言うこと。
それを尋ねた理由は、参加者選出の規則性を知るためと言うのが一つ。
そして、別の場所から集められたのではないかという仮説の裏付けをとるためと言うのも一つ。
更に、まだ開始して間もないこの段階で、この舞台での話をしてもあまり得られるモノはないという推測から。
そして、その小狼の話から知りえた情報は魔術という概念。
単語としては知っているが、それが実在する世界があると言うのはにわかに信じがたい。
錬金術と言うのは、あくまで科学の領域だ。
魔法だの魔術だのとは全くの別物である。
だが、先入観は目を曇らせる。
非常識なものは先ほど十分見たばかりだ。
そんな物はないという決めつけは捨てよう。
「じゃあ、オレと小狼は違う場所から、その魔法で召還されたのか?」
「恐らく。
高位の術者ともなれば、異世界への移動も可能と聞く。
あの神父にはその力があるんだろう」
小狼はたいした迷いも無くそう断言する。
そこまで言い切るからには本当なのだろう。
「じゃあ、ここから脱出するには、その異世界を移動する力があればいいって訳か?」
「ああ、だけど世界移動なんて大魔法はオレもさくらも使えない。
参加者の中にそれだけの使い手がいるとは思えない」
「……そっか」
異世界の移動。
真理の世界を別の世界とするならば、それは自分にも不可能な話ではない。
だが、その扉を開くには対価が必要となる。
グラトニーに飲み込まれたときはクセルクセス人の魂を対価として脱出したが、今はその対価がない。
一人通るだけで肉体の一つくらいはとられるのだ。
参加者30人の通行料となればそれこそどれ程になるか。
五体満足で元の世界に戻りたいなら、別の方法が必要だろう。
「…………なあ小狼。あのド派手な金ピカ男を覚えてるか?」
その問いに小狼は無言で頷く。
まあ、今の今だ、アレほど大暴れされたんだから忘れるはずもないだろう。
「あいつ、たしか、ドラゴンに向かって山のように武器を投擲してたよな?」
「ああ」
「けどよ。アレだけの量の武器を、いったいどこに隠し持ってたんだと思う?」
こちらの問いに小狼は「……そうだな」と呟き暫し思案する。
「……あの時、あの男から僅かだが魔力の変動を感じた。
隠し持ってたんじゃなくて、あの場で武器を創りだしていたんじゃないか?」
「いや、質量保存の法則もある。何もない空間からアレだけの錬成はできないはずだ。
オレが思うに、あれは別の場所から取り出してるんだと思う」
「別の場所?」
「そう。多分アレは武器を収納した場所へ、空間を開いているんだ」
「そこから武器を射出している、か……それは確かに、あり得ない話じゃないな。
けど、それがどういう……」
小狼の言葉を遮るように、ピンと指を立てる。
「で、だ。魔力だとかそう言う話は専門外だから聞きたいんだが。
あの能力はアイツ自身のモノなのか、それともなにか道具によるものなのか。どっちだかわかるか?」
本題はここだった。
期待と不安を込めて小狼の回答を待つ。
この回答如何では脱出もなんとかなるかもしれない。
小狼はしばらく思案した後、顔を上げた。
「……たぶん道具、だと思う。
直感的な事しか言えないが、アイツは魔力こそ感じたものの、術者って感じじゃなかった」
その小狼の回答に思わず口が歪む。
確証は薄いモノの、その答えはこちらの求めていたモノだった。
「なら、そのアイテムで人を移動させる事はできないだろうか?」
「は?」
言葉の意図が掴みきれないのか小狼は首を傾げる。
「恐らくそのアイテムは、宝を収めた宝物庫と違う世界との空間を繋げる鍵みたいなモノだと思う。
だから、それを使って一度宝物庫内に参加者全員を移動させて、そこからさらに元いた世界の門を開く。
こうすれば、元の世界に戻れるんじゃないか? どう思う?」
こちらの提案に小狼が目を見開く。
だが、すぐにその顔は曇っていった。
恐らく、その過程に存在する最大にして最悪の障害を思い浮かべいるのだろう。
「方法としてはいいと思う。
だけど――――アレに勝てるとは思えない」
そう、それはつまりあの黄金の騎士からアイテムを奪い取るということ。
その為にはアイツとの戦いは避けされないだろう。
「……そこなんだよなぁ。少なくともオレ一人じゃ無理だろうな。
だからさ、小狼。オレと一緒に行動しないか。人探すにしてもそっちのほうが効率いいと思うんだが」
そう言って小狼に鋼の右手を差し出す。
小狼はあっさりとこちらの差し出した手を取った。
契約成立。
早い段階で協力者が出来たのはいい流れだ。
「けど……正直、二人でも厳しいぞ」
小狼は不安げな顔でそう告げる。
その苦言は尤もだろう。
「だろうな。もっと仲間を集めなきゃ駄目だ。
だから、これからオレ達が行う事は、ウィンリィとさくらって子を探しながら情報収集を行いつつも仲間を集めて、あの金ピカ野郎をボコボコにしてアイテムを奪い取って、そのアイテムを使ってこんな悪趣味な舞台からおさらばする事だ!」
立ち上がり、力を込めて一気にまくしたて宣言する。
その言葉に答えるように、小狼は力強く頷いた。
「よし、そうと決まれば早く行こう」
そう言って小狼も立ち上がる。
だがその前にどうでもいいことだが、どうでもよくなかったりする事があった。
とりあえず気になったので聞いて見ることにする。
「…………ところでさ。小狼って、いくつ?」
「いくつって、もうすぐ10才になるが」
「じゅ…………!?」
立ち上がっている小狼の真横に近づき身長を比べてみた。
こちとら齢15。
年齢の差程度しかない身長差に泣けてきた。
「ど、どうしたエドワード?」
「な、なんでもねぇよチクショウ! いいから行くぞ」
月だけが見下ろす誰もいない村。
その民家から出てきたのは、赤と緑の小さな影二つ。
少年が進む。
誰かを探して。
少年が進む。
希望を求めて。
その先に待つのは光か闇か、それとも…………。
【B-4 鎌石村民家内/一日目・黎明】
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 荷物一式、黄金のチャンピオンベルト@グラップラー刃牙
[思考] 1:情報収集をしながら仲間を集める(ウィンリィを優先)。
2:黄金の騎士(ギルガメッシュ)からアイテム(王の財宝)を奪う
3:このゲームから脱出する。
【李小狼@カードキャプターさくら】
[状態] 健康
[装備] 黒鍵×100@Fate/stay night
[道具] 荷物一式
[思考] 1:情報収集をしながら仲間を集める(さくらを優先)。
2:黄金の騎士(ギルガメッシュ)からアイテム(王の財宝)を奪う
3:このゲームから脱出する。
*小さな影
立ち並ぶ民家を包むのは驚く程の静寂だった。
寂れた村の夜とはいえ、この静けさは異常である。
人影のいない民家。
虫の声一つしない。
夜に融けるこの世界は、まるで死んでしまったようだ。
死を孕んだ不吉な暗闇に赤コートが翻る。
現れたのは小さな影。
静寂に響くのは、小さな影にそぐわない重い足音。
それもそのはず、踏み進むその左足は鋼で出来ていた。
左足だけではない、その右腕も鋼の義肢、機械鎧(オートメイル)。
故にその少年の二つ名は――鋼の錬金術師。
史上最年少で国家錬金術師の資格を得た天才錬金術師エドワード・エルリックは、願いが叶うという神父の言葉を思い返していた。
エドワード・エルリックには叶えたい、いや、叶えねばらならない願いがある。
エドワードはかつて禁句を侵した。
最大の禁句とされる人体錬成。
それは神の領分を侵す行為。
太陽に近づきすぎた愚か者はその代償を払う事になる。
エドワードが支払った代償は左足と弟。
その結果、弟は、アルフォンスは、眠れない、泣けない、痛みも感じない体になってしまった。
いや、そんな体にしてしまったのはエドワード自身だ。
だから、その責任を取らなければならない
真理に持って行かれた、弟の体を取り戻す。
それはエドワード・エルリック最大の目的にして義務なのだ。
ならば、もし自分が最後の一人になれば、アルを――たった一人の家族の体を――元に戻すことができるのではないだろうか。
「ああッ。なにを考えてるんだオレは」
目の前に釣り下げられた餌に、一瞬でも心が揺れてしまった自分の弱さに唾を吐く。
そんな考えは二秒で却下だ。
確かにどんな事をしても元の体には戻りたい。
戻りたいが、誰かを犠牲にしてまで元の体に戻ることなど、オレもアルも望んじゃいない。
大体、神父の有無を言わせぬ迫力に丸め込まれかけたが。
冷静に考えれば、あの胡散臭い神父が約束を守るとは到底思えない。
とっとと気持ちを切り替えて、与えられたリュックの中身を確認する。
いきなり離島に放り出されたが、環境はガキん時の修行と似たようなもんだ。
むしろサバイバル道具が与えられているぶん、こっちの方がいくらかマシだろう。
出てきたのは神父の言葉通り基本的なサバイバル道具と、黄金のチャンピオンベルトだった。
「…………なんじゃこりゃ」
こんなもの、どう使えと。
……まあ、これは錬成の材料にでもしよう。
あとは参加者名簿か、ひとまずそれに目を通してみる。
その中で見知った名は、大佐に、ウィンリィだと!?
「クソッ、やられた!」
大佐はどうでもいいが。
あのクソ神父、ウィンリィまで巻き込みやがるだなんて。
アイツに戦う力なんてない。
すぐに探し出さないと取り返しのつかないことになる。
それはわかってる。
だが、なんの手がかりもなしに闇雲に探してもだめだ。
島一つ走り回って偶然会えるだなんて奇跡はあり得ない。
冷静に、錬金術師として現状を見極めろエドワード・エルリック。
まず、この参加者名簿だが、どうしても解せない点が一つある。
「……なんでウィンリィなんだ?」
その疑問は感情的な所からいっているのではない。
人選がオレとアルと大佐なら、まだ解る。
この三人は人造人間達が「人柱」候補と呼ぶ錬金術師だ。
人選がこの三人ならばヤツ等が裏で糸を引く悪巧みだと推測できる。
だが、そうではない。
では、なぜウィンリィなのか?
オレに対する脅しか?
いや、人質の安全を確保しなければ人質としての意味がない。
同じ舞台に突っ込んでる時点でそれはないだろう。
――――そもそも。この離島に集められた参加者は、いったいなにを基準に選ばれたのか?
これ程の大掛かりな事態だ。
何か目的があるに決まってる。
そして、この人選はその目的に沿ったモノであるはずだ。
その目的はなんだ。
この儀式めいた、殺し合いの目的は?
賢者の石の精製か?
違う。
生きた人間、その魂を材料とする賢者の石の精製と、複数の人間を殺し合わせるなどと言う行為は似て非なる物だ。
それどころか、その実、まるで正反対の儀式だ。
殺し合いなど、精製の観点から行けば、わざわざ集めた材料を破棄する行為だろう。
なにか、ヒントになるような材料はないか。
少ないヒントを手繰り寄せるように神父の言葉を思いだす。
『……ふむ。こちらにも事情といものがあるのでな。
すまないが、殺し合いは会場まで我慢してもらうほかない』
そうだ、そういえばこんな事を言っていた。
事情ってのは目的のため必要なことだろう。
殺し合いはここで行って意味があるってことか?
いや、この場所自体に意味があるのか?
そもそも、ここはどこだ?
あの時、移動させられるときの感覚は真理の扉を開いた時の感覚に似ている気がした。
いや、むしろグラトニーの時に近いか?
ならここはオレがいた場所とは違う世界、か?
「あぁ、クソ……ッ!」
考えがまとまらず頭を掻き毟る。
駄目だ。
これ以上は、目的を推測するにも情報が足りなさすぎる。
ウィンリィを探すにも情報収集は必要な行為だろう。
まずは行うべきは情報収集だ。
行うべき事は決まった。
だが、動き出す前に確認しておくべきことがある。
大きく息を吸い、鋼の腕と生身の腕を合わせる。
腕はパンと音を立て円を描く。
その両腕で地面に触れる。
雷と火花が舞い散り、出来上がったのは小さな象。
「…………よし」
確かな変性反応だった。
ホーエンハイムに似た「お父様」と対峙した時と同じく、発動しない可能性も考えたが、この場でも錬金術は発動する。
だが、小骨が詰まったような小さな違和感を感じる。
何かが違う。
法則はあってる。
なにが違うというんだ?
「――――誰かいるのか?」
唐突に背後から声が響いた。
虚をつかれたものの、瞬時に声の方向に振り向き、戦闘の構えを取る。
現れたのは小さな影。
暗闇に緑の法服が風に揺れる。
それは自衛のためか、それとも、やる気満々なのか。
その手には月明かりを返し怪しく輝く幾多の刃があった。
「…………ちぃ」
思わず舌を打つ。
今の変性反応を発見されたか。
焦りすぎた。
確認のためとはいえ迂闊に錬金術を使ったのは失態だった。
「こっちはやり合うきはねぇんだが、その剣を収めてみる気はねぇか?」
たいした希望を込めず、とりあえず告げてみる。
本命は時間稼ぎ。
その隙に右腕の機械鎧を刃に錬成しようと、腕を合わせようとして。
「ああ、そうだな。こっちも、争う気はない」
その前に、少年は気の抜けるほどあっさりと刃を収めた。
というか、煙のように刃が消えて残ったのは柄だけだった。
錬金術か? いやそれにしては変性反応がなかったが。
「人を探してるんだ、何か知ってることがあったら教えてくれ」
少年の口から出たのはそんな言葉。
若干、肩透かしをくらったが、なかなか話は悪くない方向に進んでいるようだ。
一先ず警戒を解き、こちらも敵意がない事をアピールする。
「だったらよ。情報交換と行こうぜ」
ニヤリと笑いそう告げた。
「――――――聞けば聞くほど別物だな……」
その後、オレと少年、李小狼は適当な民家に身を移し情報交換を行うことにした。
まず小狼と交換した情報は自分達がどこから連れてこられたかと言うこと。
それを尋ねた理由は、参加者選出の規則性を知るためと言うのが一つ。
そして、別の場所から集められたのではないかという仮説の裏付けをとるためと言うのも一つ。
更に、まだ開始して間もないこの段階で、この舞台での話をしてもあまり得られるモノはないという推測から。
そして、その小狼の話から知りえた情報は魔術という概念。
単語としては知っているが、それが実在する世界があると言うのはにわかに信じがたい。
錬金術と言うのは、あくまで科学の領域だ。
魔法だの魔術だのとは全くの別物である。
だが、先入観は目を曇らせる。
非常識なものは先ほど十分見たばかりだ。
そんな物はないという決めつけは捨てよう。
「じゃあ、オレと小狼は違う場所から、その魔法で召還されたのか?」
「恐らく。
高位の術者ともなれば、異世界への移動も可能と聞く。
あの神父にはその力があるんだろう」
小狼はたいした迷いも無くそう断言する。
そこまで言い切るからには本当なのだろう。
「じゃあ、ここから脱出するには、その異世界を移動する力があればいいって訳か?」
「ああ、だけど世界移動なんて大魔法はオレもさくらも使えない。
参加者の中にそれだけの使い手がいるとは思えない」
「……そっか」
異世界の移動。
真理の世界を別の世界とするならば、それは自分にも不可能な話ではない。
だが、その扉を開くには対価が必要となる。
グラトニーに飲み込まれたときはクセルクセス人の魂を対価として脱出したが、今はその対価がない。
一人通るだけで肉体の一つくらいはとられるのだ。
参加者30人の通行料となればそれこそどれ程になるか。
五体満足で元の世界に戻りたいなら、別の方法が必要だろう。
「…………なあ小狼。あのド派手な金ピカ男を覚えてるか?」
その問いに小狼は無言で頷く。
まあ、今の今だ、アレほど大暴れされたんだから忘れるはずもないだろう。
「あいつ、たしか、ドラゴンに向かって山のように武器を投擲してたよな?」
「ああ」
「けどよ。アレだけの量の武器を、いったいどこに隠し持ってたんだと思う?」
こちらの問いに小狼は「……そうだな」と呟き暫し思案する。
「……あの時、あの男から僅かだが魔力の変動を感じた。
隠し持ってたんじゃなくて、あの場で武器を創りだしていたんじゃないか?」
「いや、質量保存の法則もある。何もない空間からアレだけの錬成はできないはずだ。
オレが思うに、あれは別の場所から取り出してるんだと思う」
「別の場所?」
「そう。多分アレは武器を収納した場所へ、空間を開いているんだ」
「そこから武器を射出している、か……それは確かに、あり得ない話じゃないな。
けど、それがどういう……」
小狼の言葉を遮るように、ピンと指を立てる。
「で、だ。魔力だとかそう言う話は専門外だから聞きたいんだが。
あの能力はアイツ自身のモノなのか、それともなにか道具によるものなのか。どっちだかわかるか?」
本題はここだった。
期待と不安を込めて小狼の回答を待つ。
この回答如何では脱出もなんとかなるかもしれない。
小狼はしばらく思案した後、顔を上げた。
「……たぶん道具、だと思う。
直感的な事しか言えないが、アイツは魔力こそ感じたものの、術者って感じじゃなかった」
その小狼の回答に思わず口が歪む。
確証は薄いモノの、その答えはこちらの求めていたモノだった。
「なら、そのアイテムで人を移動させる事はできないだろうか?」
「は?」
言葉の意図が掴みきれないのか小狼は首を傾げる。
「恐らくそのアイテムは、宝を収めた宝物庫と違う世界との空間を繋げる鍵みたいなモノだと思う。
だから、それを使って一度宝物庫内に参加者全員を移動させて、そこからさらに元いた世界の門を開く。
こうすれば、元の世界に戻れるんじゃないか? どう思う?」
こちらの提案に小狼が目を見開く。
だが、すぐにその顔は曇っていった。
恐らく、その過程に存在する最大にして最悪の障害を思い浮かべいるのだろう。
「方法としてはいいと思う。
だけど――――アレに勝てるとは思えない」
そう、それはつまりあの黄金の騎士からアイテムを奪い取るということ。
その為にはアイツとの戦いは避けされないだろう。
「……そこなんだよなぁ。少なくともオレ一人じゃ無理だろうな。
だからさ、小狼。オレと一緒に行動しないか。人探すにしてもそっちのほうが効率いいと思うんだが」
そう言って小狼に鋼の右手を差し出す。
小狼はあっさりとこちらの差し出した手を取った。
契約成立。
早い段階で協力者が出来たのはいい流れだ。
「けど……正直、二人でも厳しいぞ」
小狼は不安げな顔でそう告げる。
その苦言は尤もだろう。
「だろうな。もっと仲間を集めなきゃ駄目だ。
だから、これからオレ達が行う事は、ウィンリィとさくらって子を探しながら情報収集を行いつつも仲間を集めて、あの金ピカ野郎をボコボコにしてアイテムを奪い取って、そのアイテムを使ってこんな悪趣味な舞台からおさらばする事だ!」
立ち上がり、力を込めて一気にまくしたて宣言する。
その言葉に答えるように、小狼は力強く頷いた。
「よし、そうと決まれば早く行こう」
そう言って小狼も立ち上がる。
だがその前にどうでもいいことだが、どうでもよくなかったりする事があった。
とりあえず気になったので聞いて見ることにする。
「…………ところでさ。小狼って、いくつ?」
「いくつって、もうすぐ10才になるが」
「じゅ…………!?」
立ち上がっている小狼の真横に近づき身長を比べてみた。
こちとら齢15。
年齢の差程度しかない身長差に泣けてきた。
「ど、どうしたエドワード?」
「な、なんでもねぇよチクショウ! いいから行くぞ」
月だけが見下ろす誰もいない村。
その民家から出てきたのは、赤と緑の小さな影二つ。
少年が進む。
誰かを探して。
少年が進む。
希望を求めて。
その先に待つのは光か闇か、それとも…………。
【B-4 鎌石村民家内/一日目・黎明】
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 荷物一式、黄金のチャンピオンベルト@グラップラー刃牙
[思考] 1:情報収集をしながら仲間を集める(ウィンリィを優先)。
2:黄金の騎士(ギルガメッシュ)からアイテム(王の財宝)を奪う
3:このゲームから脱出する。
【李小狼@カードキャプターさくら】
[状態] 健康
[装備] 黒鍵×100@Fate/stay night
[道具] 荷物一式
[思考] 1:情報収集をしながら仲間を集める(さくらを優先)。
2:黄金の騎士(ギルガメッシュ)からアイテム(王の財宝)を奪う
3:このゲームから脱出する。
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