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巴さん - (2006/07/09 (日) 23:07:31) の1つ前との変更点

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「ジュン、あーん」<br> 「あーん。うん、美味いよ」<br> 「えへへ。そういってくれると嬉しいのー」<br> 「僕だって嬉しいよ。だって、僕のために料理を頑張ってくれたんだろ?」<br> 「うん、そうなのよ。ヒナ、ジュンのために頑張ったのー」<br>  昼休みの教室、私の目の前でさわやかに繰り広げられる甘ったるいやり取り。幸せに浸るのはいいことだけどこの二人に危機察知能力はないのだろうか。<br>  すぐ横では真紅がシャドーボクシングをはじめ、水銀燈がヤクルトの容器を握りつぶし、翠星石はうつむいてなにやらぶつぶつ言っているし、蒼星石はうつろな目で園芸用のはさみを取り出し何もないはずの空中を切っている。<br>  金糸雀は不協和音を奏でるつもりなのだろうか、バイオリンのケースを開けているし薔薇水晶と雪華綺晶は顔をつき合わせて「帰りに……」「監禁……」とか不穏な単語のやり取りをしている。<br>  かく言う私も心中穏やかではない。それでも雛苺のためと思いアクションは起こさずにいるが、つい二人の箸、その先を凝視してしまう。そしてこの二人はその中でもお互いに食べさせあうのだ。<br> 「ん? どうしたんだ、柏葉。そんなに見つめて。お前も雛苺の料理を食べたいのか?」<br>  そう言って桜田君が私に箸に卵焼きを挟んで差し出す。<br> 「トモエも食べてー。ヒナ、お料理上手くなったのよー」<br>  とりあえず雛苺の許可は出たようなので、彼の箸から雛苺の作ったというおかずを食べさせてもらう。うん、おいしい。ありがとうね、雛苺。<br> 「どういたしまして、なのよ」<br>  漂ってくる不穏な空気が濃くなったような気がするが、ただの思い過ごしだろう。<br>  こうして私たちは三人でおしゃべりをしながら和やかな時間を過ごした。<br> 「ヒナ、ジュンもトモエもだーいすき!」<br>  ありがとう、雛苺。私も桜田君とあなたのこと、大好きよ。<br> <br>  ……あら、あなたたちどうしたの? 早く食べないと昼休み終わっちゃうわよ。<br> <br> <br> <br> <br> <hr> <br> <br> <br> <br> 「ううん……」<br>  閉じた世界に篭り、七人の乙女に粛清された愚か者が眠る地。時折声を上げる彼が見る夢は姫との蜜月か、あるいは引き裂かれた瞬間の慟哭か。<br> 「ジュンー、目を覚ましてー」<br>  彼と共に閉じられた空間を構築していた少女は王子の目覚めを待つ。<br>  ……なんてかっこつけてみたところで、実際には嫉妬に狂った(主に赤・黒・青の)鬼にボコられた桜田君が保健室でうなされているだけである。ああ、そんなに心配しなくても大丈夫よ、雛苺。<br> 「うゆ?」<br>  なんだかんだ言っても彼女たちはちゃんと急所は避けて殴っていたわ。これくらいなら後には引かないわよ。<br> 「そうなの?」<br>  そうよ。それに、桜田君があなたを残して逝くわけがないじゃない。<br> 「えへへー、それもそうなの」<br>  雛苺は無邪気に笑う。ああかわいい。彼女たちは別に深く考えていたわけではなく、何も考えず感情のおもむくままに殴っていただけだったであろうということは黙っておこう。<br> 「それにしてもちょっとひどいの。ジュンをいじめるなんてゆるせないの!」<br>  そんなに怒らないの。真紅たちは寂しかっただけよ。<br> 「うゆ? そうなの?」<br>  そう。雛苺や桜田君が自分たちにかまってくれないから、ついつい意地悪をしちゃったの。だからね、たまにはあの子達と遊ばなきゃダメよ。友達はたいせつにしなきゃ、ね?<br> 「うん、そうするのー!」<br>  いい子ね。雛苺が彼女たちといる間、彼が一人になるだろうなどという打算は全く無い。あったとしても言わない。<br> 「ん……、ここは?」<br> 「あ、ジュンーー!!」<br> 「おわ、雛苺?」<br>  やっと起きたのね。そろそろ帰るわよ。暗くなってきたし、ちゃんと家まで送ってね。<br> <br>  ……ところで、そこのドアの陰に隠れてる人たちはまだ帰らないの?<br> <br> <br> <br> <br> <br> <hr> <br> <br> <br> <br> <br> ちゃっかりした黒巴が読めるのはスレだけ! 図書館だろうとどこだろうと、このバカップルはとどまるところを知らない。<br> <br> <br> 「ジュンジュンー」<br> 「ヒナヒナー」<br>  普通に呼び合えばいいだろうに、頭の悪いあだ名を付け合っていちゃついている。それはかまわないのだがTPOは考えるべきだ。せめて、私以外の人がいる場所でするのはやめたほうがいい。<br>  ……バキっ……。<br>  ほら、誰かがペンをへし折ったような音が聞こえた。吐き気のするような空気は公共の場で発生させるようなものではない。<br>  私たちは宿題をしにここへきたはずなのに気付けば手を動かしているのは私ひとりだ。<br>  ほらほら二人とも、ラブラブハリケーンを振りまくのはいいけど手も動かしなさい。<br> 「やだなぁ、ラブラブだなんて」<br> 「そうよー、いつもどおりなのよー」<br>  あなたたちはそのいつも通りがラブラブなのよ。さびしい独身女には厳しいものがあるわ。……私? 私は大丈夫よ。あなたたち二人といられれば、それだけで幸せだから。<br>  それはともかくとして、今は宿題をやっちゃいましょう。それでこれが終わったら喫茶店でもいっておやつの時間にしましょう。そこでキスでもあーんでも、一つのグラスから二本のストローでもいっぱいすればいいじゃない。<br>  ……ガコビキバキィッ……!<br> 「わかったの。じゃあ、三人で頑張るのー」<br> 「うん、そうだな。そうするか」<br>  ええ、早く終わらせちゃいましょう。<br> 「離……だわ、水……! あ…つら、こ…でぶ……ろ…て……………!」<br> 「落……きなさ…、…紅! ここで……たら出……禁止…………ゃう…よぉ!」<br>  三人で頑張れば、宿題なんかはすぐに終わる。こと学業に関しては三人とも優秀なのだ。<br> 「トモトモもジュンジュンも、早くいくのー」<br>  そんなにあわてなくても喫茶店は逃げないわよ。<br> 「楽しい時間は逃げていくぞ。僕たちも急ごう、トモトモ」<br>  そうね、じゃあ急いでヒナヒナを追いかけて三人で一つのジュースを飲みましょう、ジュンジュン。<br> <br>  ……あら、水銀燈に真紅じゃない。なにしてるの? ダメよ、公共の机を壊しちゃ。<br> <br> <br> <br> <br> <hr> <br> <br> <br> <br>  ちゅっちゅっ。いちゃいちゃ。<br>  今日も今日とてラブラブな二人。こいつらの辞書に自重という言葉が載ってるわけが無い。仮に載っていたとしても、意味は改竄されているに決まっている。まあここは桜田君の部屋だし、いちゃつくのを控える必要なんてものは全くないんだけど。<br>  ぎゅっぎゅっ。べたべた。<br>  それにしても暑いわね。心なしかジュースの氷が解けるのがやけに早い気がするわ。<br>  べたべた。ぴちゃぴちゃ。<br>  擬音がだんだんヤバくなってきたわね。本当、竹刀を家においてきたことが悔やまれる。手元にあればこの朴念仁を滅多打ちに出来るのに。<br>  ……ほらほら、いつまでもいちゃついてないで、さっさと採寸しちゃいなさい。新しく服を作ってくれるんでしょう? あ、桜田君。雛苺の採寸している間、パソコン借りるわね。<br> 「いいけど、使い方わかるのか?」<br>  大丈夫よ。ちょっと調べ物したいだけだから。こっちは気にしないで、早く雛苺の採寸をしてあげなさい。服をぬいで待ってるわよ。<br> 「そうだな。じゃ、ちょっと待っててくれ」<br>  ごゆっくりどうぞ。<br>  そういって私はパソコンの電源を入れ、インターネットを始める。<br>  キーワードを入力して検索……と、結果が出た。……二重国籍論? よくわからないわね。クリックして読み進めていると採寸を終えた桜田君から声がかかる。<br> 「お待たせ。終わったぞ」<br>  お疲れ様。<br> 「そっちはどうだったんだ?」<br>  残念ながらよくわからなかったわ。<br> 「何調べてたのー?」<br>  私たち三人の幸せな未来よ。道のりは長いけどまだ時間はあるわ。ゆっくり探していきましょう。<br> 「うん!」<br>  いい子ね。大好きよ、雛苺。<br>  ……あ、桜田君。私の採寸もお願いね。ああ、あなたになら下着姿を見られても別に構わないわよ。何ならその下も見てみる?<br> <br> <br> <br> <br> <hr> <br> <br> <br> <br> <br> 間違った方向に引っ込み思案を治した巴さんと、スレで握手!<br> <br> <br> 「雨ねぇ……」<br>  教室の窓から外を眺めながら、水銀燈がつぶやく。その気だるげな姿は絵画のよう。目尻に刻まれた微かな小皺が彼女の苦悩を演出する。<br> 「憂鬱だわ……」<br>  目を閉じ、うつむいた真紅は物憂げに言葉を漏らす。ブロンドのお姫様の表情は曇り、起伏の無い胸元は彼女の悲哀を伝えている。<br> 「雨はきらいじゃねーですけど……」<br> 「……こういう日、というか体育のある日には降らないで欲しいかな」<br>  翠と蒼、育まれる命を表す色をその名に持つ双子は一つの台詞を二人で分け合う。この涙ぐましい仲のよさも、湿気以外の要因で重すぎる空気の前では慰めにはならない。<br>  彼女たちはある方向にちらりと目をやり、ため息をつく。予想はついていると思うが、その方向には今にもキングスライムになりそうなほどくっついている万年発情期ども。<br> 「今日の体育楽しみねー、ジュン」<br> 「そうだな、僕もすごい楽しみだよ」<br>  そう、雨の日は体育は男女合同。そうなればこのバカップルが引っ付かないわけが無い。<br>  本来ならば合同といったって授業自体は別々に行われる。しかしこの二人はそんなことお構いなしと言わんばかりにいちゃつき、先週ついに教師が根負けしてしまったのだ。(ちなみにこの事件は『苺JUMの変』と呼ばれ、校内のほとんどのカップルの支持を得た)<br>  ふと気付くと真紅たちが何か言いたげに私を見ている。確かにここはビシッと言わねばなるまい。私はもう引っ込み思案なあの頃とは違う。あの元ヒキコモリが社会復帰を果たしたように、私もまた成長しているのだ。<br> 「うゆ? トモエ、どうしたのー?」<br> 「柏葉?」<br>  二人とも、そろそろ着替えないと遅刻するわ。だから行きましょう。<br>  頷いて駆け出す雛苺を見送り、桜田君も腰を上げる。あ、ちょっと待って。<br> 「どうしたんだ?」<br>  今日は私も混ぜて、三人でくっつきましょう。一人だと寂しいの。<br> 「ああ、わかった。一緒にやろう」<br>  ありがとう。大好きよ、桜田君。<br> <br>  あら、あなたたち机に突っ伏したりしてどうしたの? 早く着替えないと授業<br> <br> <br> <br> <hr> <br> <br> <br> <br> 担任を病院送りにしちゃうお茶目な巴さん<br> <br> <br> 「いくらなんでも目に余るわぁ……」<br> 「時々……というか、目に付くとすぐにでもぶっ殺してやりたくなるのだわ」<br>  机を壊さんとばかりに殴りつける真紅の過激な発言に水銀燈は眉をしかめる。が、すでに諦めているのか咎めるような事は言わない。<br>  それにしてもヤクルト中毒の老け顔や貧乳のうえすぐに手が出る乱暴者が好かれるとでも思っているのだろうか。だとしたら相当おめでたい頭をしている。<br> 「翠星石のツンデレに萌えねーなんて、あいつはロリペドやろーにきまってますぅ……」<br> 「僕っ子は結構萌えだと思ってたんだけどなぁ」<br>  暗い顔でぼやく翠星石に、ピントのずれたことを言い出す蒼星石。ツンデレなんて相手に包容力が無ければうざったいだけよ。アプローチの一つも出来ない地味な子が何を言ったところでインパクトは薄いわ。過去の栄光にすがる姿はみっともなく、実に滑稽だ。<br> 「楽してズルしていただこうとしたらすでに手遅れだったのかしら……」<br> 「……まだ、勝負はついてない」<br> 「そう、これからですわ。これから……」<br>  金糸雀、そんな考えじゃこれからも成長は無いわよ。馬鹿……じゃなかった、薔薇水晶に雪華綺晶、諦めなさい。とっくの昔にあなたたちの出番は終わってるのよ。<br> 「それより、なんでおめーがここにいるですか!?」<br>  つれないわね、桜田君を好きになった人の集いでしょう? それに……惨めな負け犬を眺めてみたくて。<br>  その言葉に、にわかに殺気立つ七人。翠星石はご自慢の達者な口でまくし立ててくる。<br> 「おめーみてーな腹黒貧乳に言われたくねーです! とっとと消えろ、ですぅ!」<br>  言ってくれるじゃない。大体ツンデレなんて時代遅れなのよ。今は、そう。「ちょっぴり黒くてクールな美人」略して「クロール」の時代よ。<br> 「センス無いわぁ」<br>  そこ、うるさい。黙れ。<br> 「誰が時代遅れですかぁ! ……ちょうどいいです。おめーの最近の行動には色々溜まってたですぅ」<br>  その言葉に他の面々も深く頷き、ある者は素手で、ある者は鋏等思い思いの武器を持って構えをとる。それを見た私は愛刀「かしわもち」(鉄芯入り木刀)を手に取って一振り。<br>  これを使うのも久しぶりね。中学時代引っ込み思案だった私が、桜田家に家庭訪問に向かおうとする梅岡先生に闇討ちを繰り返して憂さ晴らししていた頃以来だわ。<br> <br>  あらどうしたの? 教室の隅でがたがた震えだしたりして。うふふ、今宵のかしわもちは血に飢えているわ……。<br> <br> <br> <br> <br> <hr> <br> <br> <br> <br> <br> <br> 惨劇に挑む気が無い巴さん<br> <br> <br>  この蒸し暑い日にもノンストップでいちゃつく人間暖房共。どうせなら寒い冬に発熱……してたわね、そういえば。<br>  しかしそれはどちらでもいいことだ。今問題なのはこのジメジメする日にその暖房機能を遺憾なく発揮する引っ付き虫共。<br>  最近とみに短気になってきた真紅が拳を硬く握り締めて震わせてる。それを見た水銀燈は、彼女を押さえつけることで増えてきた筋肉や目じりの皺を気にしているのかそっとため息をついた。<br>  学校でも可愛いと評判の双子は二人を気にしないようにしている。が、姉の方は時折体が大きく震え妹の方はこめかみに手をやっているあたりあまり成功はしていないようだ。<br>  あ、どうやら我慢しきれなくなったらしい薔薇水晶が二人の元へ向かった。<br> 「……人前でいちゃいちゃするの、良くない」<br> 「え? どうしてだ?」<br> 「…………うらやましいから」<br>  ああ、だからあなたは馬鹿水晶なのよ。顔を赤らめて言ったところであの鈍感が気付くわけが無い。ほら、どうせあのウスラトンカチは彼女の気持ちに気付かず……<br> 「……? あ!お前まさか……」<br>  !!! まさか気付いた!?<br> 「雛苺のこと狙ってたのか? だめだぞ、こいつは僕の彼女なんだからな!」<br>  こちらの予想を超えた寝言をほざいた。さらに「そういえばあいつらもたまに僕のこと睨んでくるけど、雛苺のこと狙ってるのかな……」などと暴言を重ねる。<br>  その発言はさすがに腹に据えかねた乙女たちが、考え込んでいる愚鈍の征伐へと立ち上がる。あ、水銀燈がいつの間にか「ジュンったら大胆なのー」とクネクネしてる雛苺を保護してこちらへと歩いてきてる。<br> 「あれ、止めないのぉ?」<br>  さすがにあの発言を容認する気にはならないわ。あれくらいはいい薬ね。あなたこそ参加しないの?<br> 「予想の範疇よぉ……。それにあれくらいで気付くようならとっくの昔に色々終わってるわぁ」<br>  心配性のお姫様を優しくあやす彼女はロリレズ疑惑くらいでは怒らないらしい。心が広いのかそれだけ苦労しているのか。……やがて惨劇は幕を下ろし、ボロ雑巾と化した虫けらが横たわるのみとなった。<br> <br>  ほら、死ぬならベッドで死になさい。大丈夫よ、手取り足取り腰取り看護してあげるから。<br> 「ヒナもー!」<br>  そう、二人掛かりでね……。<br>

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