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記憶の物語・きっかけ - (2007/01/07 (日) 19:56:05) の1つ前との変更点

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<p> きっかけ、なんて大層なものが世の中に存在するとは思えない。大きな変化っていうのは日常の中でさりげなく徐々に起こりそれに気づいた時人は始めて「変化した」と感じるものだ。<br> なんて……世の中とはそういうものだと思っていたが、例外も存在するらしく僕と金糸雀の場合は少し違った。<br> 唐突に起こる変化。<br> 何の前触れもないプロローグ。<br> 人生って言うのはいつも何が起こるかわからない。<br> これは僕と金糸雀が出会った時の話。<br> きっかけ<br> <br> カチカチカチカチ……<br> 寂寥とした高校の教室に時計の音だけが響いている。<br> 鉛筆の音もこだまするほどの静けさの中で、ぼくはただひたすらペンを走らせていた。<br> 普段なら邪魔で仕方がないあらゆる騒音に、気をとられていたのも最初の三十分だけで<br> 五時間も継続してテキストと格闘していれば流石に気にならなくなっていた。<br> 「ふぅ……」<br> 僕はため息をつく。<br> ただそれは酷く疲れたときのため息でもあり、同時に深い達成感も含む「いい意味」での<br> ため息だ。<br> テストはあと3日後に控えていた僕はいまさら死に物狂いで勉強していた。まだ宿題すら<br> 処理していない僕はいつの間にかこれくらいの時間までがんばらないと駄目な状況に追い<br> 込まれていた。<br> テスト勉強を四時ごろから始めてもう五時間近く。四時には夏なだけあって全力で紫外線<br> を放っていた太陽も、今では地球の影で面影すらない。時刻はもう九時。<br> 窓から外を覗くとひたすら闇、その中でぽつぽつと小さな光ががんばっている。<br> 時間が過ぎていくのを実感して、僕は少し充実感を得る。<br> がんばった感じがする。<br> むしろがんばりすぎた気もするが……。<br></p> <br> <p>まぁ何度も言うようだが僕は今ピンチだ。<br> それはもう背水の陣と四面楚歌を足してそれを二で掛けたような大ピンチで昨日も夜遅く<br> まで勉強して結局寝たのは五時半。<br> それでも朝はやってきて起きたのは七時。<br> 結局1時間三十分しか寝てないという快挙を成し遂げて、学校の方針にめらめらと殺意を<br> 感じたが着替えて家を出る頃には自業自得と気づき寝不足の頭と焦点の会わない目を全力<br> で駆使して今日も眠いだけの学校生活を満喫したのだ。<br> 「ふわ……」<br> そんな不規則な生活をしていれば、あくびが出るのも理解してほしい。<br> 心なしか体も重たいのもきっとそのせいだろう。<br> 先ほどのあくびで溜まった涙をふき取りながら窓を閉め、教室の鍵を閉めた。<br> 廊下に出るとやはり闇。とても心細い。<br> この時刻は四階の廊下は真っ暗だ。足元に気を付けないと危ないな。<br> 僕は三階へと急いだ。<br> 高校二年生の僕は、普段なら三階で勉強しているが今回は少し事情が違った。しばらく勉<br> 強していると下の階で定時制の生徒がぎゃあぎゃあ騒ぎ始め、それに耐え切れなくなった<br> 僕はすぐに職員室にいき、特別に四階の教室を貸してもらったのだ。時計の音すら気にな<br> ってしまう僕は、定時制の声なんて旅客機が頭上を通過するほどの音量に聞こえてしまう。<br> 几帳面と呼ぶのか繊細と呼ぶのかは勝手にしてくれ。<br> まぁそんなこんなで僕は四階に居る。<br> 静かな場所を選んで勉強を始めていたのだから当然だが……今この階は非常に静かだ。<br> シューズが地面をはじく音だけが、廊下に響く。<br> やはり足元は真っ暗で、さっきまで蛍光灯の下に居た僕の目は、外から差し込む月光だけ<br> では少し頼りない。<br> 「うわ」<br> そうすると、何かにひっかかってもおかしくはないわけで……。<br> 僕は放置してあったバケツに足を突っ込み勢い良く、転んでしまった。<br> 「いったー……。ちゃんと片付けろよ!」<br> とは言っても、今バケツはもともとこの位置においておくものだが。<br> </p> <br> <p>むなしいな……<br> わかってても八つ当たりしてしまう自分がたまらなく虚しい。<br> 神様は、僕がこんなにがんばっているのにこんな仕打ちしかできないのか。<br> いや、自分の不注意だけどさ。<br> 制服についたほこりを払いながら立ち上がろうとしたその時、弱い風が僕のほほをなでる。<br> 夏には嬉しい風だ。<br> こんな風が毎日吹いててくれたらいいのになぁ。<br> <br> ……あれ?<br> この風って、どっから吹いてきたんだ?<br> この学校には多分誰もいない。<br> しかも廊下の窓なんかは、掃除の時間中にとっくに全部封鎖済みなのだ。<br> この学校って隙間風こんなに酷かったっけ?<br> 不思議に思いキョロキョロ回りを見渡す。<br> ひゅう<br> 風が僕の脇を吹きぬけた。<br> さっきより冷たく強い風だ。<br> 「……?」<br> 窓の隙間や、壁のひび割れなどに手を当ててチェックしてみる。<br> 当然そんなところからは大気の流れは感じない。<br> しだいに疑問は大きくなる。<br> なんだ?どこからだ?<br> ひやり、と背中が冷たくなるのを感じた。<br> それは冷や汗のせいなのかそれとも……<br> ひゅう<br> また来た。<br> これはちょっとやばいんじゃないか?<br> いや、別に何がやばいってワケじゃないけど。<br> もしも、もしもの話だけど………もしかしてこれは幽霊的な……?<br> </p> <br> <p> 一瞬、僕脳内で血まみれの女の子が後ろに立っている映像が掠める。<br> いやいやいやいや!!!<br> ないってそれは!!!!!<br> だってアレじゃん、そんなもん人間の恐怖心が生んだ幻じゃん幻影じゃんプラズマじゃん。<br> おまえ、そんな物信じてどうすんだよ。<br> ばかだなぁ僕って。<br> ははははははは。<br> HAHAHAHAHAHAHA.<br> がしゃん!<br> 「はぁ!!!!」<br> どこからか何かが落ちる音が響く。それに反応して思いっきり変な声を上げてしまった。<br> 警戒するのも忘れてとっさに音のした方を振り返ると、屋上の階段から月光に照らされ蒼<br> いバケツが転がってきているのが見えた。当然怖い。<br> 怖いが気になる。純然たる好奇心。僕の足はそれだけで屋上へと近づいていく。<br> 僕はさきほどの心臓に悪いバケツを迂回して、止まったのを確認してからゆっくりと屋上へと向かった。<br> シューズの音がさっきよりも大きく感じる。<br> 高鳴る鼓動。<br> 自分の息遣えさえも轟音に聞こえる。<br> それほど静かな夜の学校で俺はいったいなにをしてるんだ。<br> ほんの数メートルがやけに長い。<br> もしかしてこのままずっと屋上にたどり着けないかもと思った。むしろそうでもいいと思<br> った。が、<br> そんなものはやはり幻影ですぐに屋上の階段へとたどり着いてしまった。<br> 恐怖と好奇心の混ざった生唾をごくりと飲みこんで。<br> そして直感的に感じ取った。<br> (……屋上に何かいる)<br> 僕の第六感がそう叫んでいる。行って確かめろと騒いでる。<br> その何かはなんなのかは良くわからないが、僕にはわかった。<br> </p> <br> <p>それに屋上にいけばなんなのかわかる。<br> 僕は深呼吸をして呼吸を整える。<br> あまり効果はなかったが準備体操には十分だ。<br> そして僕は覚悟を決めるとワックスがけされた廊下をいきよいよく蹴った。<br> 始めは一段飛ばし、次第に二段飛ばしになり、あっという間に屋上の扉にたどり着く。<br> 倒れていた掃除用の箒を跳びこえ、そのままの勢いで屋上の扉を蹴破る。<br> 屋上の露骨なコンクリートが足に伝わってきた。<br> ちょっとした達成感と自分の勇気に拍手を贈りたい気分だが今はそんなことしてる暇はな<br> い。すぐに屋上を見渡した。<br> …………<br> ……………………<br> …………………………………?<br> 「あれ?」<br> 何もいない、と言うことはなかった。<br> 何かいたのは確かだが、その「何か」が予想を大きく外れていたからだ。<br> それだけならまだ冷静に対処できるが、ほかにもっと複雑な要因がある。<br> その人は、なぜか屋上の手すりの向こうに座っていた。手摺りの向こうのあまっている空<br> 間の端っこに座り、あしをぶらぶらさせている。今日は風も吹いていて非常に危険だ。<br> ふとその人が振り向く。<br> 後ろで少しカールした髪に、大きなひとみ。そしてもっとも特徴的なのは広いおでこ。<br> うちのクラスの室長。そして生徒会書記の超優等生。<br> 金糸雀がいた。<br> 何度も言うが、なぜか手すりの向こう側に。<br> 唐突な変化が訪れる。<br> <br> <br> つづく<br></p>

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