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『夢の渡り人』その1」を以下のとおり復元します。
<p>夢の中で貴方に会った。<br>
貴方に出会って私は貴方のことを好きになった。<br>
毎日毎夜、貴方に会いに貴方の夢の中へ踏み込む。<br>
私は夢の中でしか素直になれないから。<br>
夢で会えるだけでよかった。なのに私は貴方と出会ってしまった。<br>

優しい揺り篭の中の夢ではない現実で―――<br></p>
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私の名は水銀燈、何処にでもいるような普通の女の子だ。<br>

低血圧ながら朝はちゃんと置きて学校にも通っている。<br>
今の時期は花粉に少々てこずっているがすこぶる体調はいい。<br>

放課後になれば友達と遊びに行ったりバイトに勤しんだりもする。<br>

ただ夜のときだけは普通の女の子と公言するには不適切だろう。<br>

何故なら私は他人の夢の中に入り込むことが出来るからだ。<br>

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 (今日はどんな人の夢の中に入ろうかなぁ…)<br>
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私のこの力(と言っていいものか?)は人の夢を共有するだけではない。<br>

その夢の持ち主の姿や性格などもわかってしまう。<br>
そんなことが私には楽しみで仕方なかったのだ。<br>
人の意外な一面を見る、それは似たことのない優越感を私にもたらす。<br>

優越感は自信となり私はいつも健やかに日常を送ることが出来た。<br>

いつも私は日常生活では自信満々だった。<br>
人の秘密を知る私に勝てる人なんて誰もいない。そう今夜あの人の夢に入るまでは…。<br>
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まるでふわふわの綿の上にいるような安定しない浮遊感に揺られて私はある夢にたどり着く。<br>

誰かの夢にたどり着くまでにはこの雲のようなややピンク混じりの白乳色の空間を辿って行かなければならない。<br>

私はこれを『海』と呼んでいる。そして夢は『島』のようなものだった。<br>

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 「これは…男の子の夢みたいねぇ。」<br>
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舗装されたアスファルトの道路にその左右には乱雑に積み上げられた不安定なガラクタがある。<br>

頭上には雲がたなびいておりその隙間から神々しいような光が差し込んでくる。<br>

道路には幾つもの車がありそのどれも一つ一つが違っていた。<br>

次に私が確認したのはこの夢の持ち主の姿だった。<br>
ボサボサの黒髪の毛に眼鏡の同い年ぐらいの男の子だった。彼もまた私の存在に気付く。<br>

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 「……お、お前は誰だ?」<br>
 「私は水銀燈よぉ。貴方は誰?」<br>
 「ゆ、夢なのか…?僕はジュン、桜田ジュンだ…」<br>
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突然の夢の来訪者で彼は動揺しているようだった。<br>
彼には来訪者とは思ってはいないだろうが見知らぬ人間がいきなり夢に現れたら当惑するかもしれない。<br>

とにかく私は彼と話しをした。自分のことやら日々の鬱憤など余り話せないようなことも。<br>

何気に彼は聞き上手だったので私一人で白熱しているようなものだった。<br>

時間はあっという間に過ぎてしまいそろそろ夢から覚める時間だった。<br>

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 「それじゃあさようなら。」<br>
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風景は突如テーブルクロスを引かれたように彼方へと吸い込まれ黒い夢のあとだけが残った。<br>

私ももう起きなければならないので『海』を渡って自分の場所へと帰る。<br>

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目が覚めた私は寝ぼけ眼で時計を見る。<br>
時間にはまだ余裕があったので顔を洗いに洗面台に向かった。<br>

寝起きの自分の顔を鏡で見て酷い顔だと思いながら歯を磨く。<br>

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 (………なかなか聞き上手な人だったわねぇ。)<br>
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夢の中で出会った彼のことをぼんやりと考えていた。<br>
あまりぱっとしない見た目をしていたが第一印象は悪くない。<br>

自分から愚痴を言うことは滅多にない私のそれを引き出してくれた。<br>

どこか自分とは波長が合うのかもしれない。<br>
夢の中だけでなくこの現実の世界でも知り合えたらいいな、などと都合のいいことを考えた。<br>

着替えを済ませて家を出て学校へ向かう。<br>
学校には遅刻ギリギリで何とか辿り着いた。やっぱり朝は苦手だった。<br>

それから何事もなく時間は過ぎて昼休みになる。<br>
いつも私は友人と一緒に学食へと食べに行くので今日もそうした。<br>

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 「銀ちゃん今日もヤクルト?」<br>
 「そういう貴女こそ今日もシューマイなのぉ?」<br>
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友人と他愛ない会話をしながら食べる昼食は楽しかった。<br>

不意に私の視線は学食を買いに並んでいる列に向けられる。なんとそこには夢で出会った少年がいたのだ。<br>

夢で出会った人と現実で出会うことなんて初めてだった。<br>

暫くの間、私は彼を凝視していた。ボサボサの黒髪に眼鏡…やっぱり夢の中の彼だった。<br>

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 「どうかしたの?」<br>
 「別にぃ…何でもないわぁ。」<br>
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余りに珍しい出来事なので私は彼のことが気になってしょうがなかった。逸る気持ちを飲み込むように私はヤクルトを一気飲みする。<br>

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放課後になり私と友達の薔薇水晶は一緒に何をするでもなく校内をうろついていた。<br>

色々な部活が活動を始める時間なので人の数はそこまで減ってはいない。<br>

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 「ねぇ銀ちゃん、何時もはゲーセンとかなのにどうして今日は学校巡りなの?」<br>

 「ちょっとこの学校がどんな部活をやってるのか気になってね…」<br>

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そんなのは嘘だった。彼の話だと手芸部に所属していると言っていた。<br>

なのでひょっとしたらまだ残っているのかもしれない。<br>
手芸部だったら恐らく家庭科室にでもいるだろうと思い私たちは別棟に移動する。<br>

やや広い家庭科室を私はドアのガラス越しに少し覗いてみる。するとそこに彼はいた。<br>

何かパッチワークのものを作っているようだった。その手際は遠目から見ても良いと思えるほど素晴らしいものだった。<br>

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 「銀ちゃん…ひょっとして彼にホの字?」<br>
 「ち、違うわよ!ただちょっと気になるだけで…」<br>
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と口走ってしまったがこれでは好きだと言っているようなものだと気付く。<br>

実際に私は彼が気になるだけだったのだが薔薇水晶には誤解されてしまったらしい。<br>

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 「大丈夫、誰にも言わない……私もそれなりに彼のこと調べてみる。」<br>

 「調べるってどうやって調べる気よぉ…まぁ期待しないで待ってるわぁ。」<br>

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行き成り会って話をするのも何だし私たちはさっさと退散してそのままいつも通りゲーセンへと寄って行った。<br>

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