翠星石短編33
<p>nice Suiseiseki<br> <br> 「びゃっ、びゃぁ~」<br> まだ幼さの残る少女の悲鳴。<br> ドスンと何かが倒れる音。<br> それにつられて、翠星石はベッドから体を起こし、パーマのかかった髪をくしゃくしゃと掻く。<br> 「な、なんですかねぇ」<br> そう呟いた次の瞬間。<br> 小柄な女の子が、彼女の部屋へと飛び込んできた。<br> 「すっすっ・・・翠星石ぃぃぃぃ」<br> 「なんですか雛苺ノックもしないで。マナー違反ですよ」<br> やっぱり寝起きの姿は、妹であろうとも見られたくはないものである。<br> 見るからに機嫌の悪そうな目つきで、翠星石は雛苺を睨みつける。<br> 「ひ、ヒナね、りんご食べてたの・・・」<br> 雛苺の顔は、真っ青に染まっていた。<br> 翠星石に睨まれてか、つい先程見たことのせいか、それとも両方のせいか。<br> 「そそそそそそ、そしたらね・・・」<br> 言うのもおぞましい、という風に、雛苺は顔を俯ける。<br> 「りんごの中にね、虫」<br> 「なんですとぉ!?」<br> 雛苺が、言い終わるか終わらないかのうちに、翠星石は絶叫する。<br> この家の食べ物、および調理の総責任者は翠星石である。<br> リンゴに虫が湧いているとなると、一緒にしまってあった野菜やフルーツも虫に食われてしまっているかもしれない。<br> そして、その食物の点検を翠星石はしなければならないのだ。ひどい苦労になることは想像に難くない。<br> 「・・・で、そのリンゴは今どうしてるですか?」<br> 「こわかったから・・・居間においてあるのよ」<br> 「きらきーがいるはずじゃねぇですか。きらきーに取ってもらうです」<br> 「きらきーは泡吹いてぶったおれちゃったのよ」<br> 妙なところで気の弱い妹である、と思う翠星石であった。 <br> <br> 雛苺を引きつれ、翠星石は居間への階段を駆け下りていった。<br> 「こいつがそのリンゴ・・・」<br> 翠星石は、ふところからぬるり、と、包丁を取り出す。<br> そして、えいっ! と包丁を両手で掴み、家庭科の教科書なんて知ったこっちゃないという素振りで<br> 包丁をリンゴへと振り落とす。<br> リンゴの断面。<br> 黄身がかった果実。<br> 黒い種。<br> そして・・・それはいた。<br> 緑色の・・・虫。<br> 長い胴体をくねらせている。<br> 「ど・・・どうなったの?」<br> 「来るんじゃねぇです!」<br> たずねる妹の声を遮る。<br> 「い・・・いねぇじゃねぇですか、虫なんて。あははははは。おかしな妹たちです。全然平和じゃねぇですか」<br> 翠星石は喋りまくった。<br> そうでもしないと、胸までこみ上げてきた吐き気を抑え切れそうになかったから。<br> そうでもしないと、この現実からは逃れられなかったから。<br> 「さ・・・さぁて! 念のため、万が一という言葉もあるですし! 冷蔵庫の中身も全部点検するです!」 <br> <br> ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。<br> ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。<br> ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。<br> ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。ざくり。<br> <br> 翠星石は切った。<br> ひたすらに野菜室の中のものを切り刻んだ。<br> 「あはははは! 虫なんて! 虫なんて! 虫なんて! いないじゃねぇですか!」<br> そう言ったことと、野菜たちを切り刻んだ手ごたえ。それだけは明確に覚えている。<br> それ以外のことは、部活から帰ってきた蒼星石が彼女を止めるまで、殆ど記憶にない。<br> 翠星石が正気に戻り、最初に見たものは、白菜まみれになったキッチンと、そばで呆然と立ち尽くす雛苺の姿だった。<br> 「・・・今夜のご飯、どうしましょう・・・」<br> 蒼星石に叱られ続けながらも、彼女の目下の悩みはそれだった。 </p> <p> </p> <p> </p> <hr> <p> </p> <p><br> 翠星石とジュンと炬燵と蜜柑<br> <br> 翠「冬といえばやっぱり炬燵です」<br> ジ「……なぁ翠星石」<br> 翠「炬燵といえば蜜柑も付き物ですぅ」<br> ジ「それより翠星石」<br> 翠「はぁ~こうやってぬくぬくするのが一番ですぅ」<br> ジ「足、僕とぴとってしてて狭くないのか?」<br> 翠「…………」<br> ジ「なぁ翠星せ」<br> 翠「と、特に意味はねぇですぅ!ただお前はちび人間ですから翠星石がこうして足であっためてやらねえと…」<br> ジ「なんだ、僕は別に平気だから」スッ<br> 翠「あ…………」<br> ジ「蜜柑ウマー」<br> 翠「……………/////」ピト<br> ジ「ん?だから僕は平気だぞ?」スッ<br> 翠「ちっ違うです!その…えと……おっお前の足は寂しがりですから…その…/////」<br> ジ「要するにぴとってしたいわけだ」<br> 翠「つけあがるなですぅ!誰がお前なんかとぴとってして、一緒にぬくぬくしたいだなんて…」<br> ジ「なら最初からそう言えば良いのに」ピトッ<br> 翠「だから違うって…しゃ、しゃぁねぇですね/////とっ特別に暖めさせてやるです//////」<br> ジ「はいはい(全く素直じゃないな、まぁこうやって一緒にぬくぬくできて僕も嬉しいわけだが)」<br> 翠(またジュンに一本とられたです…でもこうやってジュンを近くに感じられるのが翠星石のホントの幸せです…大好きですよジュン/////)<br> こうしていつまでもぬくぬくしながら、二人仲良く寝てしまうのでした。幸せな二人を起こさぬよう僕らはそっとしておきましょう</p>