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『Jack Lantern』」を以下のとおり復元します。
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皆様今晩は。<br>
今宵はハロウィンで御座います。<br>
所でハロウィンにはつきもの南瓜の飾り、ジャックランタン。<br>
アレにはどのような意味が在るか御存知でしょうか?<br>
おや、知らないのですか?<br>
御用心、御用心。<br>
全ての物に意味は存在するのですから。<br>
では参りましょう。<br>
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「全く。あのジャックランタンって奴は薄気味悪いです!」<br>
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学校の帰り道、今日のハロウィンパーティーで話が盛り上がっている最中、翠星石が突然そんな事を言い出した。<br>
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「あれが怖いのぉ?」<br>
「あら、お化けが苦手なんですの?」<br>
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水銀燈と雪華綺晶が返すが、突然で何の事なんだかわからずにいると真紅が溜め息をついた。<br>
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「ジュン、ハロウィンで飾るカボチャのお化けの事よ。」<br>
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…なる程。<br>
あれはジャックランタンっていうのか。<br>
気味が悪いと言えばそうかも知れないが…<br>
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「大体、あんなの商店街の入り口に置くなんて訳わかんねぇですよ!」<br>
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ああ、あれの事か。<br>
今年は商店街が『ハロウィンセール』とかいって、目玉にとんでもなくデカいカボチャで作ったのが入り口に鎮座している。<br>
夜になると中の灯りのせいでかなり不気味な気はするけど。<br>
そうこうしているうちに巨大カボチャが見えてきた。<br>
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「気味悪いと言われれば…確かにそうかもねぇ。」<br>
「不細工なのだわ。もっとまともに作れなかったのかしら。」<br>
「食べれないカボチャなど興味ありませんわ。」<br>
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みんな散々な言いようだ。<br>
これはこれで悪くはないと思うんだけどな。<br>
僕の呟きを聞いた翠星石が何故だか激昂してカボチャを蹴飛ばした。<br>
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「これが良いなんて趣味悪すぎですぅ!」 <br>
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おいおい…<br>
翠星石の蹴飛ばした所が砕けて穴が開いてしまった…<br>
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「やべぇです!こんな下らないもんのせいで説教なんざ受けたかねぇです!」<br>
「同感だわぁ。とっとと行きましょう。」<br>
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逃げ足早いなぁ…<br>
このままにしておく訳にもいかないし、欠片を集め組み合わせて穴にはめ込んでおくことにした。<br>
カボチャの顔が妙に恨めしそうに見えたので一応謝っておく。<br>
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「悪かったな、穴開けちゃって。」<br>
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む…<br>
僕は何やってるんだ?<br>
カボチャに謝るだなんて、変だな。<br>
苦笑いをするとさっさと逃げ出したあいつらを追っかけて走り出した。<br>
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さて、そろそろかな。<br>
きらきーの家に着くと、早速衣装部屋に押し込まれる。<br>
ラプラスさんが見立ててくれたんだけど…<br>
リビングに行くと既にみんなが集まっていた。<br>
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「…うわ。もしかして…」<br>
「もしかしなくてもあれねぇ…」<br>
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やっぱり不評か…<br>
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「背の低いフランケンは酷いもんですねぇ…」<br>
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しみじみ言うな翠星石。<br>
自分でもどうかと思ってるんだから。<br>
ちなみに水銀燈は羽根に尻尾の小悪魔風。<br>
真紅は赤いドレスにとんがり帽子って…まあ魔女って事だろう。<br>
翠星石は黒ずくめにフードで大鎌…死神だな。<br>
一番奇抜なのが雪華綺晶で包帯グルグル巻きのミイラ男ならぬミイラ女だ。<br>
そのまま盛り上がりあっという間に時間は過ぎていった。<br>
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「ほぉら、大人しくいたずらされなさぁい。」<br>
「ジュン紅茶を淹れて。」<br>
「長生きしたかったらもっとかまうです。」<br>
「実は包帯の下には何も…」<br>
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何時もとあんまり変わらない上に、ラプラスさんのワインのせいでより酷くなってるよ…<br>
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ゴーン、ゴーン、ゴーン…<br>
何時の間にやらもう11時過ぎか…<br>
ラプラスさんも戸締まりした後、離れに行って寝てしまった。<br>
そろそろお開きかな、そう思った時だった。<br>
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「…あら?」<br>
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窓辺で風に当たり酔いを覚ましていた真紅が急に声を上げた。<br>
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「妙ね。街灯が段々消えていくわ…」<br>
「真紅ったらまだ酔ってるのぉ?……あら?本当ねぇ…」<br>
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雪華綺晶のお屋敷は住宅街の奥まった所にあり、他の家と少し距離をとった袋小路の突き当たりだ。<br>
街灯は暗闇がこの屋敷を目指すかのように消えていく。<br>
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「きっと故障です。」<br>
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そう言い切る翠星石の顔も心なしか引きつっている。<br>
やがて屋敷の前の街灯も消えて真っ暗闇になってしまった。<br>
暗闇に目を凝らそうとした時、何の前触れも無く部屋の灯りが消えた。<br>
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「ひゃっ!」「きゃあ!」<br>
「うわぁ!」「いやぁ!」<br>
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4人とも急に灯り消えたので思わず悲鳴を上げたが落ち着いた雪華綺晶の声で我を取り戻した。<br>
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「すみません、どうやら停電のようですわ。さっきの街灯からすると、工事か何かで順次止めていったのでしょう。」<br>
「そうみたいねぇ。今夜は帰るのも面倒だし、このまま泊めてもら…」<br>
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話していた水銀燈が急に窓の方を見て黙り込んだ。<br>
釣られてそっちに目をやると、屋敷に続く道路のずっと向こうに灯りが見える。<br>
よく目を凝らして見ると灯りは徐々に大きくなってくる。<br>
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「な…何ですの…アレ…?」<br>
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包帯と眼帯で左目以外覆われいるので表情はわからないが、雪華綺晶は明らかに怯えている。<br>
一体何が見え……見えた。<br>
暗闇の中を『顔』がこっちに向かってきている。 <br>
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すっかり酔いは覚めた。<br>
間違いない、あれは商店街にあったジャックランタンだ。<br>
だけどそんなバカな事があってたまるか、あれはただの飾りだったはずだ!<br>
ただの飾りが何で動いてるんだよ!?<br>
みんなそれぞれに何か口走りながらも、縛り付けられたように窓から離れる事が出来ない。<br>
そうこうしている内に、ジャックランタンは屋敷の玄関前にまで来てしまった。<br>
玄関前で止まったカボチャは暫く動かなかったが、突然跳ね上がるように僕達の方に顔を向けた。<br>
まるで中に激しい炎を燃やしているように真っ赤な光が真っ直ぐに僕達を見つめてくる。<br>
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「う、うわぁああぁあああ!」<br>
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思わず上げた悲鳴で金縛りのように動けなかった体が動き、弾かれるようにして窓から離れる。<br>
次の瞬間、窓が明るくなった。<br>
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ガシャァァァァン!<br>
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激しい音を立てて窓自体が吹き飛ぶと巨大カボチャが部屋の中に飛び込んで来る。<br>
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「嫌ぁぁぁぁぁ!」<br>
「ああぁぁああ!」<br>
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勝手に喉が叫び続け、体がガクガク震える。<br>
薄暗い中を扉に向かって走り開けようとするが鍵がかかったようにびくともしない。<br>
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「きゃあぁぁぁあ!?」<br>
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振り向くと雪華綺晶の手足に何本ものロープのようなモノが絡み付いていた。<br>
よく見るとそれは蔓で、あの化け物カボチャから何本も伸びている。<br>
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「雪華綺晶!」<br>
「嫌ぁぁぁぁぁ!た、助け、助けてぇぇぇ!」<br>
「くそっ、離せ!雪華綺晶から離れろぉぉ!」<br>
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ズルズルとカボチャの方へ引きずられていく雪華綺晶を4人がかりて引っ張るが力が違いすぎる。<br>
次第に蔓が絡みついた部分が黒ずみ、辺りに鉄臭い匂いがし出した。<br>
雪華綺晶を引っ張る手がヌルヌルして滑っていく。<br>
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唐突に雪華綺晶を掴んでいた手が抜けてバランスを失い、後ろに倒れ込んでしまった。<br>
慌てて体を起こすと雪華綺晶がカボチャの方に引きずられて行くのが見える。<br>
目をこれ以上無い位に開き、必死に何かにしがみつこうとするが空しく空を掴むばかりだ。<br>
その間も言葉にならない悲鳴が上がり続け、自分が上げているのか彼女が上げているのかわからなくなっていた。<br>
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手足をバタつかせる雪華綺晶がカボチャの前に引きずり出された。<br>
有り得ない事にカボチャで出来た作り物の顔が笑みを浮かべている。<br>
次の瞬間カボチャはギザギザの口を大きく開くと雪華綺晶の足に喰らいついた。<br>
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液体が飛び散る音。<br>
鈍い何かが砕ける音。<br>
部屋に響く千切れる音。<br>
そして誰かわからない悲鳴。<br>
目を背けたいのに出来ない。<br>
僕の目の前で雪華綺晶が喰われていく。<br>
既に下腹部までカボチャの口の中に入ってしまった。<br>
必死に手でカボチャを押して体を抜こうとしているが、どんどん押し込まれて行く。<br>
急に後ろから引っ張られ、振り向くといつの間にか扉が開いていて、真紅が僕を部屋の外へ出そうとしていた。<br>
部屋から逃げ出す前にもう一度だけ、振り返ると雪華綺晶と目が合う。<br>
大きく見開いた目は僕を見ていたが、僕は彼女を見捨てて逃げ出した。<br>
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階段まで全力で走る。<br>
涙でぼやけて辺りがよく見えない。<br>
みんなに追いついた所で振り向くが何も追ってこない。<br>
月明かりに照らされた顔はどれも恐怖に歪み、泣いていた。<br>
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「兎に角、外に出よう。」<br>
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3人は黙ったまま頷いて、足早に階段を降り始める。<br>
踊場にさしかかった時、目の前を歩いていた水銀燈が突然消えた。<br>
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ビシャ<br>
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上から生暖かい液体が僕と真紅に降り注ぐ。<br>
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「なによ…これ…?」<br>
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鉄臭くてむせかえるような匂い。<br>
見上げるとあの化け物が水銀燈だったモノをくわえていた。<br>
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「真の恐怖とは恐怖すら感じられない事だ」<br>
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昔どこかで読んだ格言が頭の端をかすめる。<br>
カボチャは一息で水銀燈を呑み込むと、真紅の真上に落ちてきた。<br>
熟れた柿を叩きつけたような音。<br>
目の前にはあのカボチャ。<br>
燃えるような視線に体の力が抜けてへたりこんでしまう。<br>
もうだめだ。<br>
だが、カボチャは蔓で僕の後ろにいた翠星石を絡めとり持ち上げる。<br>
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『直してくれてありがとよ』<br>
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聞き取り辛いが、カボチャは僕に向かって確かにそう言った。<br>
そのまま向きを変えるともがく翠星石を喰い千切りながら、カボチャは出て行った。<br>
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『次のニュースです。昨日…市で殺人事件がありまし…』<br>
『現場は規制され中の様子は…』<br>
『生存者の少年はショック状態で…』<br>
『大型の獣の仕業と推測され…』<br>
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いやはや、無知とは恐ろしい物です。<br>
ジャックランタン…あれは悪魔を騙し地獄に落ちない契約をしましたが、天国にも行けない農夫の霊などと言われております。<br>
そしてもう一つ…ジャックランタンは善霊を呼び、悪霊を遠ざける魔除けでもあるのです。<br>
魔除けを足蹴とは…いやはや。<br>
そも、恐怖とは理不尽な物。<br>
触らぬ神に祟り無しとはよくいったものです。<br>
御用心、御用心。<br>
<br>
では御機嫌よう。<br>
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復元してよろしいですか?