8月のなかごろ
<div class="mes">『保守かしら』<br> 2007年8月15日 <br> <br> ヴァイオリンの稽古に行って帰ってきたら、おねえちゃんが書類とにらめっこしてた。<br> おねえちゃんはレンズの下半分だけフレームの着いた赤いめがねをして、スーツを着ててカッコよかったかしら。<br> 人形展の実施について、お姉ちゃんたち主催者と、銀行の人と、会場の会社の人と話し合ってきて帰ってきて、 もう一度書類を見てたんだって。<br> <br> カナは紅茶とオレンジジュースを二つ入れてきて、人形展の話を色々聞いたかしら。<br> おねえちゃんが一番悩んでいるのは人形展の予算。<br> ぎりぎりちょびっと足りないんだって。<br> 「一葉の爺さんを動かせなかったのが痛いわ、この地域の文化事業ならたいてい出資するのに…」<br> おねえちゃんがこういう事を言うのは珍しいかしら。それに穏やかそうな一葉さんがこの話を蹴ったのも、なんだか 変な感じ。だからカナは聞いたの。<br> 「一葉さんは人形が嫌いなのかしら?」</div> <p><a name="104"></a></p> <div class="header"> 「ま、そんなところよ」<br> 「嫌いなら仕方ないかしら」<br> って言ったら、<br> 「貴方は本当に単純ねぇ」って笑われちゃった。<br> その後、おねえちゃんの顔がしゅっと締まったかしら。<br> 「けれど、そういうことね。いまさら後に引く気はないし。後はやるだけよ」<br> 「スーツ着て肩がこったから、着替えてくるわぁ」<br> っていいながら、おねえちゃんは自分の部屋に向かおうとしたかしら。<br> そのとき「あ、そうそう」ってお姉ちゃんが振り向いたの。<br> <br> 「1日平均観客動員が1000人わったら屋敷売るわよぉ」<br> おねえちゃん笑いながら冗談ぽく言ってたけれど、けっこう本気だったかしら。<br> だからカナは<br> 「別にかまわないかしら~」<br> って、軽くOKしておいたかしら。 <br> <br> <br> <hr></div>