複数短編135
<p align="left">「くすくす…いかがなされたの黒薔薇さま?」<br /> 「ふん…」<br /> 「ほら、こちらですわ。こちらの手をお取りになってくださいな」<br /> 「見くびるんじゃないわ白いばら。その指先の棘に気づかない私ではないのよ」<br /> 「けれど勝ちたいのでしょう?私は貴女にチャンスをあげることができる…そうして全て終わった後に私に微笑んでいただければお代はそれで結構よ」<br /> 「冗談じゃないわね。私の選択は全て私が決める。指図なんか受けるもんですか」<br /> 「………」<br /> スッ…<br /><br /> 銀「いやぁー!?またジョーカーがぁー!!」<br /> 雪「では、私はこれであがりです。黒薔薇さま弱すぎですわ。せっかくババをお教えしましたのに…」<br /> 銀「ううぅ…もう一度!もう一回よこの真っ白け!末妹のくせに大人ぶってぇええ…」<br /> 雪「ほら黒薔薇さま、こちらで涙をお拭きになってくださいな」<br /> 銀「むきぃー!!」</p> <p align="left"> </p> <p align="left"></p> <hr /><br /> ある日のこと<br /> 「あらぁ、雛苺何の絵を描いてるのぉ?」<br /> 「おとうさまの絵なのよ」<br /> 雛苺が見せてきた画用紙には、黒い線がぐるぐる、黄色い線がぐるぐる。幼稚園児の描く絵は意味が分からないけれど、本人がお父様というならこの絵はお父様なのだろう。<br /> 「ふぅーん。あらぁこっちは?」<br /> お父様の近くに描かれた灰色、緑、茶色、茶色、黄色、黄色、桃色、紫の丸。<br /> 「それはおねえちゃんたちなの。これとこれはきらきーとばらしーなの」<br /> 「へぇ……上手ねぇ」<br /> つまりこの絵にはお父様と私たち姉妹が描かれている。<br /> 「これで、完成?」<br /> 「そうなの! おとうさまに見せてくるのよ」<br /> 「あぁ、ちょって待ってぇ」<br /> 聞く必要はないのだけれど、でも<br /> 「お母様は描かないの?」<br /> 「おかあさま?」<br /> 不思議そうに聞き返す妹を前に、私はなんでもないように一つ、問い掛ける。<br /><br /><br /> 「なんでもないのよ、ねぇ雛苺、お父様のこと、好き?」<br /> 「好きー! すいぎんとーも好きでしょ?」<br /> えぇ好き。とっても好き。お父様の書斎へ向かう小さな妹の背に私はそう思った。<br /> 私だって昔はお父様が大好きだったし、今でも大好き。でも私たち姉妹の母親が全員ちがうことを知ってから、お父様への気持ちが少しだけ変わった。どろどろして醜い、美しくない感情への変質。<br /> 思春期にありがちな一過性のものと思いたいけれど、私の妹達がこんな感情を抱かなければいいと思う。<br /> お父様の書斎から聞こえる、お父様と雛苺の楽しそうな笑い声を聞くと私はそう思わずにはいられない。<br /> お父様をずっとずっと、一途に好きでいられたら、きっと私たちはお父様の幸せな娘でいられるのだから。