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水銀燈短編31 - (2009/06/29 (月) 16:06:44) の編集履歴(バックアップ)


ガラガラ…!
慌ただしい車輪の音が廊下に響く。それと共に、人の走る足音も重なってゆく。
「めぐ!めぐ!」
私は叫ぶ。叫びながら走る。それだけしか出来ないから、ただそれを繰り返す。
「すみません!ここからは付き添いは禁止されてます!」
「めぐぅー!!」
しかし、それすら拒絶され、私は冷たい廊下にへたり込んだ。
同時に灯る、『手術中』のランプ。その緑色の光が、何故かとても不吉な予感を煽る。

―止められなかった。

―私なら出来たはずなのに。

―私のせいだ。

私は泣きながらそんな事を繰り返し繰り返し考た。だが所詮それはただの自虐であり、後悔したところで時は戻らない。その虚しさにまた涙が出た。

『水銀燈。私…いつか鳥になりたい』

めぐがそう言った時、なんで私はもっと真剣に答えてあげなかったんだろう。もっと私が相談に乗ってあげれば…彼女だってこんなバカな事…
「付き添い人の方はあちらの控え室でお願いします」
看護師の言葉に反応する事も出来ず、殆ど引きずられながら控え室に移動する。
薄暗い部屋の中、私は両手で顔を覆い、嗚咽を漏らしながら抑えきれない言葉を呟く他なかった…


「トリ餅は食べ物じゃないのよぉ…めぐぅ…」


【餅が…】【喉に…】

 

 



水銀鐙の日曜日

11:00 起床
11:30 朝食(ヤクルト二本)
12:00 DVD鑑賞(くんくん映画豪華三本立て)
18:30 夕食(ヤクルト二本)
19:00 風呂
21:00 ゲーム(「ファミスタ」チームは言わずもがな)
23:30 夜食(ヤクルト一本)
00:00 就寝


ジ「折角の休日がこんなで、空しくならないのか?」
水「べ、別にぃ!」

 

 



銀「はぁ~い☆ジュンこんばんわぁ~」
ジ「………」
銀「やあねぇ、会っていきなり嫌な顔しないでよぉ」
ジ「…こんばんわ。んじゃ」
銀「やだ待ってよぉ。私今すご~く大変だからアナタを訪ねてきたのにィ」
ジ「…用件は?」
銀「お金貸して☆」
ジ「金に困ってる割には見慣れないコートだな」
銀「これは防寒対策よ~仕方ないでしょう?直輸入品だけど…ウフフ、あったかぁい」
ジ「そのブーツも新品だな」
銀「前のがダメになっちゃったんだものぉ。これも仕方ないでしょお?」
ジ「そんなに買ってまだ欲しいものがあると?」
銀「そう、スッゴく欲しいんだけどお金が足りないの。ねえジュン助けてぇ~」
ジ「単なる知的好奇心から何が欲しいのかを聞いてやる。それによっては可能な限り消極的に協力しよう」
銀「あのね、私が欲しいのはねぇ~」


銀「…お米」
ジ「…はい?」
銀「お米が…欲しいの…給料日まだまだ先なのに…昨日無くなっちゃって…」
ジ「…手持ちの残金は」
銀「………」フルフル
ジ「今日、何か食ったか?」
銀「………」フルフル
ジ「…とりあえず、うちで話そう。夕飯食いながらでいいからさ」
銀「うん…ありがとう」

 

 



銀ちゃんは挑戦者のようです


 私は水銀燈……。有栖学園高等部の三年生よぉ。常に何かに挑戦している事から、私の事を挑戦者(チャレンジャー)と呼ぶ人が多いわねぇ。
 そんな私の今日のチャレンジはぁ……まずこの網込み縄跳びを用意したわぁ。

「なっ、なにぃ~!? 網込み縄跳びと言えば、失敗してふくらはぎに当たったりするととても痛いアレじゃないか!!」
「正気なの?」

 ふふ、凡人共(JUMと真紅)が騒ぎ始めたわねぇ。まずは手始めにぃ……二重跳びよぉ。

「助走も無しに二重跳び……。やはり挑戦者水銀燈だな。」
「なかなかやるじゃない。」

 じゃあここからが本番ねぇ……。まずは三重跳びに持って行くわぁ。そしてそのまま……交差三重跳びよぉ。

「うぉぉ……このテクニックは!?」
「流石は水銀燈……私は二重跳びでダウンなのだわ。」

 そして必殺のぉ……三重隼よぉ!!

「うわぁぁぁぁ!!!! もうやめてくれっ! 怖くて見てられないっ!」

 あはははは。凡人共は平伏すがいいわ!! 私こそが真の挑戦者・水銀燈なのよ!! って……いったぁぁぁい!! 網込み縄跳びがふくらはぎに当たっちゃったじゃなぁい。もぅ、これじゃあやってらんないわっ。




ある日の放課後

翠「あら・・・?あれは水銀燈ですね・・・気分でも悪いですかね?」
銀「うぅ・・・ぐすっ・・・」
翠「どうしたです水銀燈?自販機の前にうずくまって・・・」
銀「!良かった・・・翠星石ぃ、助けてぇ」
翠「?」
銀「この自販機でヤクルト買ったんだけどぉ、取ろうとしたら防犯用の
  内蓋に手が引っ掛かっちゃってぇ・・・抜けないのぉ」
翠「・・・水銀燈、ヤクルトを手放してから手を抜いてみるです」
銀「ええ・・・」
スポッ
翠「・・・。」
銀「・・・///」
翠「・・・ぷっ・・はははは!!昔話のサルに伍する間抜けがこの21世紀
 に、こんな身近に存在するとは夢にも思わなかったです!!」
銀「だって・・・ヤクルトを手放すなんてぇ・・・」
翠「あーーっはっは!!明日真紅達に教えてやらなきゃですぅ!
  ばーかばーか!!」
銀「!! お願いよぉ、真紅にだけは言わないでよぉ」
翠「この翠星石に忠誠を誓うなら、考えてもいいですよぉ」
銀「うぅ・・・」 
【ばーか】【ばーか】





水銀燈が舞い上がっています


「あれ、ご機嫌みたいだね。何か良いことでもあったのかい?」
「あらぁ~蒼星石、聞いて聞いてぇ♪遂に私が望んでいた物が発売されるの♪『ヤクルト カロリーハーフ』、カロリーと甘さを半分に抑えた画期的な商品なのよぉ♪それなのに乳酸菌の量はなんと据え置き!」
「なるほど、最近は低カロリー食品が増えてきてるからね」
「これでたっくさん飲めるわぁ~♪」

「…あれ?幾ら低カロリーだからって沢山飲んだら同じじゃ…?」
「シッ、黙ってるです蒼星石!せめて体重計に乗るまでは夢をみさせてあげとくのが姉妹の優しさってヤツです!」
「そ、そうかなあ…?」


「うふふ、早く発売されますように…♪」





ジ「女装しようと思うんだが」
銀「除草?ありがたいわぁ。お願いするわねぇ」」
ジ「ありがたい?まあいいや。で、初めてだから手ほどきを頼む」
銀「初めてですってぇ?今までやったことないのぉ?まったく…引きこもりは常識的なことも知らないのねぇ」
ジ「引きこもりでネットばっかりやってたからこそだ」
銀「まあいいわぁ。単純よぉ。引っこ抜けばいいんだからぁ」
ジ「引っこ抜く?切るんじゃないのか」
銀「根っこが残っちゃうと駄目でしょぉ」
ジ「そっそうか…これもジュン補完計画のためだ…で、次は?」
銀「せっかくだから見栄えのするのでも植えたらぁ?」
ジ「せっかくって…まあいいや、今通販でウィッグ(かつら)を注文してるからな」
銀「ふーん、何か用意してるんならいいわぁ。それ位ね」
ジ「おっおいそれだけか?もっと助言が欲しいんだが」
銀「他にやる事なんてないでしょぉ。私も除草なんて今まで翠星石と一緒に
  無限にやってきたんだからぁ、それ以外にやることなんてないわよぉ」
ジ「えwwちょwwお前ら…」
銀「?何よぉ」
ジ「翠星石と女装って…お前ら…実wはw男wだっwたwのwかwよw」
銀「なっなんですってぇ!?ジュン、あなた言っていい事と悪い事があるわよぉ!?」
ジ「だってお前今自分で女装ww…そっか…それにしても見事な女装だな…しかし残念だな、惚
れてたんだが…」
銀「…私の中を色々な感情が駆け巡ってるけど、その最も足るものがあなたを斃せと雄たけびを
あげてるわぁ…」
ジ「うはwこれは大ニュースww」
銀「貴方が星になるのは間違いなくニュースにしてあげるわよぉ!銀ナックル!!」
ジ「プゲラ」


銀「んー、最近なんか平和ねぇ…まったりしてるし、どうしてかしらねぇ…ああ、あの三人があまりまとわりついて来なくなったからか」

銀「前は金魚のフンどころか背後霊並みにくっついて来たのに…ふふっ、大人になった、って事かしらね」

銀「あれだけ迷惑してうざったかったけど…いざ居なくなってみると…存外、心もとないものね…」

銀「あの子達はいい人見つけて宜しくやってるのかしら。あーあ…私もそろそろオトコでも作ろうかしら…」
ズバッ
薔「ち、畜生!」
ズバッ
雪「何でオトコなんですの!?」
ズバッ
め「オンナでいいじゃない!私達がいるじゃない!!」
銀「何でいるのよ」







雨が降る。傘を叩く。喧しい。
雨が降る。地面に弾ける。煩わしい。
「もう少し、旋律を考えて欲しいわねぇ」
だが、家までもう少し。
それまでの、些細な辛抱。
「ゲッゲッ!」
「かしらー!」
「………」
「ゲッゲッゲッ!」
「かしらー!」
「…何をしているの?金糸雀」
「あ、水銀燈!今カナはコイツと喧嘩してるかしら!邪魔しないでほしいかしら!」
「ゲッゲッ!」
「…そう。じゃあ、続き頑張って」
「かしらー!!」
「ゲッゲーッ!」

雨が降る。傘を叩く。喧しい。
雨が降る。地面に弾ける。煩わしい。
「もう少し、品があるといいのにねぇ」
だが、家まであとちょっと。
それまでの、些細な辛抱。
「なのなのよ~♪」
「ゲロゲロゲロゲロ」
「………」
「よ、よ、よ♪」
「グワッグワッグワ」
「…何をしているの?雛苺」
「あ、水銀燈。ヒナね、今このカエルさんとお喋りしてるのよ。とっても楽しいわ。水銀燈もどう?」
「ゲロ」
「…遠慮するわ。じゃあね」
「はいなの。でね、ののの~の♪」
「ゲロッパ」

雨が降る。傘を叩く。喧しい。
雨が降る。地面に弾ける。煩わしい。
「もう少し、気分くらい晴れる音ならねぇ」
だが、ようやく家の前。
辛抱は、もうしなくていい。
「こんばんは、お姉様」
「………」
「いい天気ですわ。畜生のレクイエムにはぴったりですもの」
「…何をする気なの?雪華綺晶」
「これで、カエルでも取ろう…いえ、採ろうかと。あれはあれで、なかなかの美味ですから」
「…こっちにはあまりカエルは居なかったわ。あっちの田んぼなんかいいんじゃない?」
「まあ、ありがとうございます。大漁の暁には是非お裾分けに伺いますので」
「やめて。やめなさい。絶対にやめなさい」
「それは残念。ではまた」 

雨が降る。傘を叩く。
雨が降る。地面に弾ける。
「ゲコ」
「あら?」
すでに家には着いている。
その玄関先には、一匹のカエル。
「ゲコ」
「…ふん」
まったく邪魔だ。
雨にしろ、このカエルにしろ。
でも、
誰かは怒り、誰かは笑い、誰かはきっと、恐怖に叫ぶ。
「じゃあアナタは…どんな風に歌うのかしらね?」
雨が降る。傘を叩く。
雨が降る。地面に弾ける。
雨が降る。
雨が歌う。
「ゲコ」
「あら、意外と悪くないじゃなぁい」


【雨の】【歌声】