「ちょっとぉ、ちゃんと聞いてるのぉ?」
「え?ああ、ちゃんと聞いてるよ」
どんなにスムーズに話している時でも彼が何か考えながら時々見せる表情、それが私を不安にさせる。
きっと昔のことを思い出しているのだろう。あの子と私を重ねて見ているのかもしれない。
無意識なのがかえって怖い。
あの子のことが彼に罪悪感を抱かせるのだろうか。
「ほんとに馬鹿ねぇ・・・」
「いきなりなんだよ・・・ったく」
そんなヘタな正義感、今更誰が喜ぶというの?
彼との関係が変わってから私は思っていることが口に出せなくなった。
彼の真っ直ぐでそつのない、そんな優しさにゆっくりと首をしめられていく感じにただ耐えてきた。
何の理由で私を選んだのか。
付き合いはじめるまであった根拠の無い自信はあっという間に崩れさった。
追憶にしろ忘却にしろ、寂しい時にだけ利用されてるのだとしたらたまったもんじゃない。
もう恋愛感情はないとあなたは言う。
そんなこと言って本当はノスタルジックにおもわれる彼女のほうがいいんじゃないの?
そう考えてしまう自分が憎たらしい。
彼の本当の気持ちを知りたい気持ち、そんなこと考えたくもないという気持ち。
ふたつに板挟みにされてイライラしてくる。
あの子のことなんて全部忘れてほしい。ただ私のことだけを考えて強く抱きしめてほしいだけ。
そう願うことは贅沢なことなの?
イミテーションのような優しさで包まれるのはもうたくさん。
「なあ」
「・・・なによぉ」
「・・・手」
それだけ言うと彼は私の手を握った。少し冷たい。
(・・・本当に馬鹿なのは私ねぇ。今時中学生でもこのぐらいで満足しないわよぉ?)
そんなことをされただけで不安な気持ちがやわらいでいく。
顔が熱い。赤くなっていくのが自分でもわかる。
(情けないわねぇ・・・JUM以外にはとても見せられたもんじゃないわぁ)
あれこれ考えてみてもそんなことどうでもいいくらい、
彼に惚れているゆるぎない事実。
それが私の弱みなのだ。
「ねえJUM」
「ん?」
「・・・あなたが好きよぉ」
fin