「おはよう、水銀燈」
窓の先には、満面の笑顔を浮かべるめぐが。
…要するに、私がここから入ってくることを予想していた、というわけ?
「風邪ひいてるんだからぁ、ちゃぁんと寝ないとだめよぉ?」
「だって、こうしないと水銀燈が入ってこれないじゃない」
……めぐは、卑怯だ。そんなこと言われたら、注意する気なんてなくなってしまうに決まってる。
「それじゃあ、おかゆ作ってくるわぁ。体力つけないと、治るものもなおらないしぃ」
「…おなか減ってないから、いらない」
やせ我慢じゃないのは見て取れたし、お腹が空いていないならわざわざ食べる必要もないだろう。
「……それより、水銀燈」
「なぁにぃ?」
「――――そばに、いて。 歌、歌って」
…その声が、とても淋しそうだったから、
「めぐは甘えんぼうさんねぇ…」
つよく、つよく抱きしめた。
私の胸に、めぐの温もりが伝わってくる。
少し、いつもより熱っぽい。
…だけどそれが、暖かくて、いとおしくて。
……なんとなく、甘やかしてる自分がいる、というのはわかってたけど。
――――――――うん、やっぱり。
「めぐには、勝てないわぁ……」
ただ純粋に、そう思った。
/おしまい
日曜日。今日も今日とていつものごとく、めぐの家に窓から侵入。
…ちょっとしたおふざけでやってたことが、いつの間にか定番になってしまった。
そのせいか、めぐが家にいる時はいつも窓が開いている。
不用心なので、閉めさせるためにも私は毎日めぐの家に行かなくてはいけないのだ。
―――――それが建前だっていうのは、自分でもわかってるけど。
「ふぁぁ……おはよう、水銀燈」
めぐは、テレビもラジオも寝ていた。…相変わらず不用心だ。
「おはよぉ、めぐ」
ちなみに、時計の針は昼の1時。この子の二度寝癖にはもう慣れた。
……去年の修学旅行の時なんて、何度起こしたことか。
まるで何処かのメガネ君の様な寝つきのよさを持っている、とその時学習した。
どこの局だかわからないけど、こんな時間に天気予報をやっている。
『明日はお日柄もよく、最高の天気です』との事。めぐが、ため息をこぼした。
「最高の天気、だって。 何もしたくなくなるわね」
「めぐぅ……それ、だめにんげんの発想よぉ…?」
最近、『早く世界滅ばないかなー』という、多分めぐからの電波をよく受信する。
…このままだと全身だめにんげん色に染まりそうで、少し怖い。
聞きもしないラジオを付けて、つまんないテレビを見る。
…最近の番組の、全体的な質の低下は否めない。
「つまんなぁい……ゲームとか、ないのぉ?」
「スペランカーがこの家で一番新しいゲームだけど、それでもやる?」
…先生が相手じゃあ、どうしようもない。他には、『いっき』やら、『たけしの挑戦状』やら、『ビーストウォーズ』やら。
全部クソゲーっていうのは、どういうこと?それより、インベーダーゲームの筐体なんて、いったい何処で?…正直、普通の家で見れるとは思ってなかった。
この家で、めぐがどうやっていつも暇を潰しているのか、少し知りたい。
「そのうち、この空間にも慣れるわよ」
「ぜぇったい、慣れたくないわぁ…」
というかそれは、人としての死を意味するんじゃなかろうか。
死ぬ時は、私はせめて人としての尊厳を保ったまま死にたい。
「…でもね、水銀燈? わたし、時々思うの」
めぐの思ったことというと、大抵がろくでもない。
「だらーっとした時間を過ごすのって、素敵なことだと思わない?」
…今回も、やっぱりそうだったらしい。
「……あなたって、ほんとぉにだめなにんげんねぇ…」
もう、今回ばかりはほんとに、呆れた。
……うん、だから。
「私が、そばにいてあげるわぁ…」
そうでもしないと、危なっかしくてしょうがないもの。
――――――それが建前だっていうのは、多分、めぐにもわかってる。
め「ふぅー。」
銀「どうしたのぉ?ため息なんかついて。」
め「あっ水銀燈、あなたに謝らなければならないことがあるの。」
銀「なにそれ、なんかしたの?」
め「しつこく天使だなんていってごめんなさい。」
銀「ああ、ようやくわかってくれたのねぇ。私は普通の(ry」
め「天使じゃなくて神様だったの。」
銀「へ?」
め「あなたは魂を刈り取る神様、病魔と戦う私の魂を取りに来たの。」
銀「めぐ?」
め「そして私の魂は神の神殿に導かれ宴会にあけくれるの。」
銀「めぐ、あなた、酸素欠(ry」
め「嗚呼、ようやく私の戦いの日々が認められたのよ。」
銀「・・・・・・。」
め「召されるまでもてなしてくれるんでしょ?
さ、こっちにいらして、採魂の女神様。」
銀「ちょ、待って、だから違うってば、アーッ。」
一緒に潜った布団の中で。
め 「水銀燈?起きてる?」
水 「…めぐぅ?そろそろ寝かせてくれてもいいじゃなぁい。」
め 「駄目。私が寝るまで待って。」
水 「もう夜中の3時よぉ?」
め 「…でも、眠れないものは眠れないの。」
水 「…あれだけお昼寝してれば当然よぉ。」
め 「…だって。」
水 「はぁ…もう寝るわよ。おやすみぃ…」
め 「∑あ、待って!話し相手がいなくちゃ寂しい…」
水 「すー…すー…」
め 「…本当に寝ちゃった。」
水 「すー…すー…」
め 「…寝ちゃった…」
水 「すー…」
め 「…くすん」
水 「∑………すー…」
め 「ひっく…一人ぼっち…うぇ…」
水 「∑わかったわよぉ!私が悪かったからぁ!」
め 「…やっぱり狸寝入り。」
水 「∑嘘泣き?図ったわね、めぐ…」
め 「水銀燈、私が泣いたら黙ってられないもんね。」
水 「…憎らしい子。いいわよ、本当に寝ちゃうんだからぁ…」
め 「…本当は寝たりしないでしょ?水銀燈優しいもの。」
水 「…やれやれ、ね。適わないわぁ。本当に。」
こんな風に私を振り回すけれど、やっぱり私が近くに居なきゃ、と思う。
それは私が優しいんじゃなくて、貴女のことが大切だから。
伝えられない気持ち。やっと寝息を立て始めた彼女の目尻に残る涙を、そっと小指で拭い取った。