<p> 人が笑っている。<br> 目の前で、低い声を上げて。<br> 笑われる事は慣れているものの、やはり気持ち良いものではない。<br> 況してや、押し殺すような声なら尚更だ。<br> 苛立つ心を抑え、目の前の人に話しかける。</p> <br> <p>J「要は何を俺に求めてるんだ?」<br> 人「簡単です、あのお方にプログラミングされた事を、実行する事です」<br> J「内容は?と聞いているんだが」<br> 人「そういう事なら、御心配なく」<br> 人「私を杖の状態にし、ジュン様の体内に取り入れる事です」</p> <br> <p> 体を全体的に改変し、脳内のデータ化や、体の収縮拡張を繰り返したこの身でも。<br> 人に体を弄られるのは、やはり厭というもので。<br> 寧ろ、前の事が有るから、トラウマになりそうな所であるが。<br> コレも仕事のうちだ、と割り切り。<br> 自分も随分、楽観的思考になったと思い。<br> ため息をつく。</p> <br> <p>J「それで、具体的には?」<br> 人「私を杖の常態にし、貴方の体の何処かに刺すのです」</p> <br> <p> ついに、ローゼンとか言う奴は、凶行に出たか。<br> いくら俺が、数回死にそうになったからって。<br> 俺の体に、外部的調教を施しに出るとは。<br> 全く、何て時代になったもんだ。</p> <br> <p>J「痛い?」<br> 人「大丈夫ですよ、死にはしません」<br> J「痛いんだな? 其れは。」<br> 人「大丈夫ですよ、臓器が数十秒間、使い物に為らなくなるだけで」<br> J「其れは・・・勘弁して欲しいんだが」<br> 人「大丈夫ですよ、死にはしません」</p> <br> <p> こんな押し問答を、数十秒繰り返し。<br> エンドレスで、この会話が続く事に気が付き。<br> さっさと、覚悟を決める事にした。<br> 何処が良いかと考えたが、やはり此処はオードソックスに、腹の胃の所をやってもらう事にした。<br> 此処なら多分、余り痛くは・・・無い。</p> <br> <p>J「それじゃあ、腹を頼む。」<br> 人「判りました。」</p> <br> <p> そう言うと、人は形状を解き。<br> 杖となり、宙に浮く。<br> 久しぶりに見た其れは。<br> 其れなりに大きくなって、尚且つ肥大化して見えた。<br> 目の錯覚だと、思いたかった。<br> しかし、杖が目の前に来て。<br> 其れが目の錯覚ではない事に、多少の絶望と焦燥感を感じた。</p> <br> <p>杖「それでは、入りますので・・・」<br> J「・・・フグッ!アッカハッ!!アッ!・・・」</p> <br> <p> ドスッ!という鈍い音と共に、地下に絶叫が響いた。<br> せめて、こんなステータスの上げ方をするなら。<br> 神経を切ってくれればと、薄れ行く意識の中で考えていた。<br> 杖が何か言ってる様な気がしたが、どうでもいい気がして意識が途切れた。<br> 頭の中で、涙の数だけ、強くなれるの~♪がエコーした。<br> 気がした。</p> <br> <p> その頃上の階では、あの8人が食事を食堂でとっていた。<br> ジュンが何処かに行ってしまったが、飯を取らなくてはまともに活動が出来ない。<br> 此処で皆有る事に気がつく、最近飯を食べる量が急増した気がしてきた。<br> しかし、体はどんなに食べても太らない、否、太れないのかもしれない。<br> 体の中で常に何かが変化し、変化させられているのが判るが。<br> 如何なっているのかが、サッパリ判らない。<br> 判りそうで判らない、もどかしいと彼女等は思った。<br> 此処最近、血を怖がらなくなって来ている。<br> 其れが、良い事なのか悪い事なのかは、判らない。<br> しかし、其れを判別するのを、遮るものがある。<br> 生への渇望、死への恐怖、そして何より。<br> 本能の強大な、生に対する美意識。<br> しかし、殺すという事に対する、罪悪感もある。<br> 結局は、如何しようも無いのだけど・・・<br> 数名が、心の中でため息をつき。<br> 数名が自己険悪に陥った。</p> <br> <p>数名(不毛・・・だよねぇ・・・)<br> 数名(はぁ・・・)</p> <br> <p> そんな方法でしか、解決できないのも。<br> 仕方が無いといったら、仕方が無いのだが・・・</p> <br> <p> その頃ジュンは、所々破けた服を見て。<br> 変な気を起こした奴だと、間違えられるか如何か検討をしていた。<br> 此処は地下の数階、服が無いことは無い。<br> 唯其れは、如何見ても人のタキシードです、如何も有難う御座いました。</p> <br> <p>J「何を考えているんだ? あいつは・・・」</p> <br> <p> 此処を出るには申し分ない、しかし、生理的に厭なものが有る。<br> しかも普段着慣れない服だ、何処ぞのやくざ風にも成りかねない。<br> ・・・汗は・・・かかないか、やっぱり。<br> 少し安心した。</p> <br> <p>J「人の服を着るのは・・・やっぱ厭だなぁ・・・」</p> <br> <p> そんな事を言いながら、タキシードを着る。<br> ・・・おおっ!?意外とピッタリだ・・・<br> 何かしっくり来るな・・・何だこの優越感は?<br> そんな事を考えながら、ジュンは地下の道を行く。<br> 何時もよりも少しばかり、ジュンは自分が少しばかり偉くなった気がした。<br> しかし、唯服が良くなっただけという事実に気がつき。<br> ガックリと肩を落とし、盛大にため息を吐いた。<br> あの後、杖の人格が新しい人格として、ジュンの中に入ってきた。<br> ・・・正直、入ってくる時の感覚は、厭だ。<br> 弄られる事自体好きじゃない。<br> 最も、自分で弄るのは論外だが。</p> <br> <p>J「・・・やっぱりトラウマか・・・」</p> <br> <p> ・・・まぁ、アレは生き地獄の言葉に尽きる。<br> 麻酔を全身に満たし、気絶しきれない精神で全身を弄られるのを見届ける。<br> こんな酷い地獄は、煉獄にも無いかもしれない。<br> ここで、口の中に出した、紅く染まった体液を吐く。</p> <br> <p>J「んー・・・良し」</p> <br> <p> 其れは言わば、麻薬と呼ばれそうな代物であり。<br> 暇な時は、口の中に半麻薬ような効果の体液を出し。<br> 其れを、口の温度を上昇させ、霧にして肺に入れて楽しみ。<br> 楽しんだ後は、口から血で効果を打ち消して吐く。<br> 最も、体内の細胞はコレ位では、一つたりとも死にはしない。<br> 序に、中毒症状も無い。<br> 完璧に、作用だけを楽しむものなのだ。<br> 毒素など必要ない。</p> <br> <p>J「・・・はぁ」</p> <br> <p> けれども、血で作用を打ち消すのは、精神的に厭だからだろう。<br> 例え其れが、中毒作用が無くとも。</p> <br> <p>J「如何したものかな・・・」</p> <br> <p> 其れを止められない自分も厭だが、結局暇な時はコレをしている。<br> 最も最近は、暇な時が無かったので、コレをしなかったのだが。<br> 久しぶりにしてみた其れは、結構良いものだった。</p> <br> <p>J「さて、行くか。」</p> <br> <p> 最後に力を入れて言い放ち、ジュンは其処を走り去った。<br> 最もコレを見た人は、一人も居なかった。<br> 誰一人として。</p> <br> <p> ジュンが上に向かっている頃、上から何かが落ちてくる。<br> ふと見ると其れは白い、触ってみるとフワフワしている。<br> 何かと思っていると、其れの気配は何処かへ消えて行った。</p> <br> <p>J「・・・はて・・・?」</p> <br> <p> しかし、其れを気にする前にある事に気がつく。<br> お腹すいた。<br> やはり喰える内に、喰って置くのが基本である。<br> 走って食堂まで向かった。<br> その頃、彼女等は久しぶりの風呂に歓声を上げて。<br> 風呂に数名が飛び込み、数名が丁寧に体を洗っていた。<br> 風呂には、静かにしなさいという罵声と、女子がはしゃぐ声だけが響いた。</p> <br> <p>J「さて、と」</p> <br> <p> 数分で食堂にたどり着くと、食べるものを抱えて席に座る。<br> 基本的に食べる数は、人格の人数分。<br> だが、本当に其れで良いのか分からない、判らないので。</p> <br> <p>J「頂きます」</p> <br> <p> ざっと、10人前食べる事にした。<br> 大食い?そんな事気にしない。<br> さて、この食い物は何処に消えていくのやら。<br> 6人前を食べた頃そう思った。<br> まぁ、良いかと思った。<br> そしてまた、一人分を食い漁る。<br> やっぱり、肉類は血が少し残ってる方が良い。<br> 牛の肩の肉を食べながら、ふとそう思った。<br> 骨は、少し血が残ってて、噛み具合が良いな。<br> 食堂に口の中で、骨が砕ける音が、少し響いた。</p>